魔法仕掛けの妖精人形とそのマスター   作:勇樹のぞみ

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26 手札は何枚でも持つもの

 アルベルタの顔がわずかに引き締まる。

 

「例のやつね? ええ、三発試作してみたわ」

「試作品か?」

「一年間の保証書でも欲しいの? 真贋保障の無いグレイマーケット品とは物が違うのよ」

 

 グレイマーケットとは正規の販売ルートを通さない市場のこと。

 並行輸入品とか言われるやつのことを思い浮かべればいいだろう。

 地域ごとの品物の価格差を利用しているところは普通の商売と同じだが、金のかかる宣伝は正規ルートで販売している巨大商会にただ乗り、保証も無しのため安値で売ることができる。

 場合によっては税金逃れのための密輸(スマグリング)が行われていることでもあるし。

 

 問題なのは保証が無いことが偽物を売るにも都合が良いということで、実際かなりの量のまがい物が出回っている。

 そのため合法的な市場と、完全に非合法なブラックマーケットとの中間にあるもの、グレイマーケットと呼ばれているのだ。

 

 俺は肩をすくめた。

 

「もちろん分かってるさ、あんたは間違っても禁酒と職人のプライドを汚すような仕事(ビズ)だけはしない女だ」

 

 その俺の答えが気に入ったのか、アルベルタは整った白い歯を見せ機嫌よく笑った。

 

「一発を撃ってみたけど、なかなかの破壊力よ。もっとも、とても人間に対して撃つような代物じゃないけどね。それに……」

 

 言いよどむアルベルタに、俺は懐から金貨を差し出して見せた。

 

「どうした、金ならあるぜ」

 

 アルベルタは渋い顔をした。

 

「いや、そうじゃなくてね」

 

 アルベルタは自分の上着に手をかけると、大胆にも右肩を晒した。

 そこから覗く真っ白い肌と下着(キャミソール)に反射的に目を逸らそうとして、しかし男の本能が逆らったのか見てしまった肩口に大きな青あざがあるのに気付く。

 

「それは…… 撃った反動でできたあざか?」

 

 擲弾発射器(グレネードランチャー)を使っている俺には、すぐに分かった。

 

「ええ、弾体が重すぎるんだわ。反動が扱える限界を超えている。あんたたち人間なら、一発撃ったらしばらく肩が使い物にならなくなるんじゃない?」

 

 岩妖精は小柄なくせに人間以上の力を持つ種族で、そんな彼女が言うからにはかなりきつそうだったが、

 

「……構わんさ」

 

 俺は他人事のように言った。

 手札は何枚だって持つものだ。

 鬼札(ジョーカー)となりうるなら、なおさら。

 アルベルタは店の真ん中にでんと鎮座している鋳鉄製の機械の横を通り抜けると、部屋の奥へと向かう。

 この回転式砥石を組み込んだ金属研削加工用の足踏み機は、安く再生(リビルト)された品を手に入れたのだと聞く。

 そして作り付けの大型金庫を開けて俺の依頼に従って用意してくれたものを取り出してくる。

 

「これが注文の品よ」

 

 擲弾発射器(グレネードランチャー)の弾頭が、黒光りする木製のカウンターの上に差し出された。

 俺はそれを手に取って品を確かめると、代金を引き換えに払った。

 受け取った弾頭は肩からたすき掛けにされた布製の鞄の中に仕舞い込む。

 そしてアルベルタが言う。

 

「それと、あんたが使ってる護身銃にもいい弾ができてるわよ」

 

 俺の前に銀に光るどんぐり状の銃弾(ブレッド)が差し出される。

 

「ミスリル・チップ。威力は保証付きよ」

 

 銃弾を示してアルベルタは詳しい説明をするが、なかなか良さそうなものだった。

 

「値段次第だがいくつかもらおうか」

「そう来なくっちゃ。あんたとあたしの仲だし、特別にお友達価格(メイト・レート)ってやつで譲ってあげるわ」

 

 アルベルタは素早く装填するために火薬と弾がまとめて入れられた紙薬莢(ペーパーカートリッジ)を差し出した。

 歯で端を噛み切って銃口から火薬を注ぎ、包み紙ごと弾丸を銃に込めるものだ。

 代わりに俺は金貨で代金を支払う。

 さすがに値は張ったが、俺は特に値切ったりせず気前よく払うと、アルベルタに話を切り出した。

 

「ところでアルベルタ、弾を買ったサービスに少しばかり教えて欲しいことがあるんだが」

「あたしみたいな職人に何を?」

 

 カウンター越しに対応するアルベルタに、俺は尋ねる。

 

「銃身内に螺旋状の溝(ライフリング)が刻まれている岩妖精の銃を扱っているのは、帝都ではあんた以外にも居るのか?」

 

 アルベルタは考え込む。

 答えるまで少しの間があった。

 

「いや、あたしが知る限り居ないはずだけど、どうかした?」

 

 俺はスミスの似顔絵をカウンターに差し出した。

 

「尋ね人が銃身(バレル)に溝が刻まれている見事な短銃を使っているのを見てね。この男なんだが」

 

 アルベルタは似顔絵には視線を落とさず、あごに指を当てながら俺を見返した。

 端正な容貌とは裏腹に古だぬきを思わせるあざとい表情が浮かぶ。

 

「見返りは?」

 

 この先は代償次第のようだ。

 顧客の情報をおいそれとは流せないのだろう。

 

「手持ちは金しかないが、それでもいいなら」

 

 アルベルタは俺を値踏みしつつうなずいた。

 先ほどの金払いの良さが効いたのだろう。

 

「……分かったわ」

 

 そしてアルベルタはスミスの顔を描いた絵に見入ると、とたんに顔をしかめた。

 

「これって、もしかしなくても金の髪の男?」

 

 思わずといった調子で言葉を漏らす。

 どうやら当たりを引けたらしい。

 

「知っているのか?」

 

 俺は勢い込んで聞いたが、アルベルタは身体を引くと思案するように腕組みをした。

 

「ん、まぁ、教えてやってもいいけど…… いい話と悪い話があるわ。どちらから聞く?」

「いい話から」

 

 ファルナが口を挟む。

 こちらを見て笑うその表情が、かつて見た従姉さんのものと重なった。

 従姉さんも、美味しいものは先に食べる質、だったな。

 そんな俺たちにアルベルタは鼻を鳴らした。

 

「ならいい話からだけど…… 確かにこいつはうちの客よ。有名人だから名を言っても問題ないでしょ。情報料も要らないわ」

 

 そう言ってアルベルタは教えてくれる。

 

「ナイトウォーカーと呼ばれる傭兵よ」

 

 おいおい同業者かよ。なんとなくそんな気はしていたが。

 

「一部からは不死身の男と言われているわ」

 

 何とも大げさな言いようだったが、アルベルタの表情は真剣だった。

 

「単なる噂だけじゃないのよ。話によると銃弾の雨を受けても無傷で生きのびているとか」

「それは相手にしたくないですね」

 

 ファルナはもの憂げな声音でつぶやく。

 

「人狼か吸血鬼か?」

 

 俺が口にしたのは裏の世界でも噂に上がる不死身の化け物だ。

 

「そうかもね」

 

 銃が効かない相手となると最悪、その辺りを想定しなければならないか。

 なるほど、あの美しさも人外の者とすれば納得がいく。

 

 教会で使われていた銀の燭台を鋳溶かして造られるという呪的装備、銀のナイフあたりが必要かも知れない。

 銀は滅菌と浄化作用を併せ持ち、銀の武具に傷つけられた者は同時に魔力を奪われるためダメージを受けることになると聞く。

 また別の説では銀は月神の金属であるが故に夜の生き物に効くのだとも。

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