魔法仕掛けの妖精人形とそのマスター   作:勇樹のぞみ

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30 奪還の指示

 一夜明けて翌朝。

 食事を終えた俺は、ファルナと共に金の腕亭に向かう。

 朝靄と冷えた空気が朝の匂いを運んでくる中、通りには人気がほとんど無い。

 夜に属するこの街が息づき、酒場に客が溢れる時間はまだまだ先だ。

 

 開店前の店を借りて、俺は背負っていた筒状の鞄を下ろす。

 中から黒光りする擲弾発射器(グレネードランチャー)を取り出した。

 筒先のカップに納められた非殺傷のゴム(スタン)弾を抜くと、たすき掛けに身に着けていた大きめの頑丈な布製の鞄から昨晩アルベルタから入手したばかりの特殊弾頭を取り出して装填しなおした。

 護身銃の方にもミスリル・チップを込める。

 

「しかし銃じゃあ、どうやっても強化神経持ちにはかなわないな」

 

 昨晩のナイトウォーカーとの対峙を思い出し、俺は頭をかく。

 銃の速さを競うなどやらないで済むならそれに越したことはないのだが、そうも行かないのが現実だ。

 

 ナイトウォーカーの魔力強化神経(ブーステッド・リフレックス)のグレードはBランク。

 これ以上となると他を犠牲にしたスピード特化型になるし、施術にかかる費用も莫大となり現実的では無い。

 傭兵が入れられる呪紋としては最速と言って良いものだろう。

 

 俺も魔力強化神経(ブーステッド・リフレックス)の呪紋を入れられれば良かったが、若い内に肌へ呪紋を刻むと、どうしても成長と共に狂いが生じてしまう。

 呪紋は刺青と一緒で彫り直しが効かない以上、これは無視できない問題だった。

 相手の攻撃タイミングを見切り、こちらの攻撃タイミングを悟られないようにすることが可能なら速さは絶対の優位では無いともいうが。

 

「大丈夫ですわ、マスター。戦いは私に任せて頂ければ」

 

 ファルナもまた、魔導銃サンダラーの調整を終えると応えてくれた。

 

「あたたかい、マスターのぬくもりを感じられる場所。幾度となく繰り返す過去の辛さを思い起こさせる悪夢も、未来の戦いへの憂いも、マスターの隣なら恐くはない。マスターと一緒なら生きていける」

 

 それは、誓いにも似た言葉。

 

「私はマスターの魔装妖精なのですから」

 

 そう言って、花開くように笑ってくれる。

 俺は彼女が伝えてくれた言葉の意味を深く噛み締めた。

 銃に対して抱いていた、意識されない心のしこりが解けていく気がした。

 自然と笑みがこぼれる。

 

「ありがとう、ファルナ」

 

 彼女に感謝の言葉を。

 ファルナはどうかしたのかとでも聞くように小さく首を傾げるのみ。

 従姉さんと同じ微笑みを浮かべるのみだった。

 

 そして俺とファルナが金の腕亭で待機していると、フォックスが部下を引き連れて現れた。

 一夜明けて見るやつの表情は苦虫をダース単位でまとめて噛み潰したかのように不機嫌極まりないものだった。

 せっかくの美人が台無しだ。

 

「腹立たしいことだが、貴様らの推測を認めざるを得ないな。犯人はオドネル。獅子身中の虫というわけだ」

 

 フォックスは重々しく告げる。

 

「貴様らも既に知っているかもしれんが、我が商会はアボット商会とマコーリー商会の合併で成立したものだ。そのため内部は完全に結束できているとは言い難い」

 

 それはアボット・アンド・マコーリー商会成立の経緯からも予想ができたことだ。

 俺は納得の上、フォックスの言葉に耳を傾ける。

 

「オドネルはマコーリー商会出身の中堅役員で、かなり強硬なやり口で競争を勝ち抜いてきた男だ。そしてやつは常軌を逸したことに、今回の件で商会の利益を犠牲にしてまでライバルを蹴落とす算段をしているようなのだ」

 

 苦々しげにフォックスは顔を歪める。

 内部統制が効いていないとは切迫した事態だな。

 

「だが我々がそれを知った以上、思い通りにはさせん。そこで貴様らには働いてもらう」

「あ、やな予感」

 

 一方的な通告に俺は顔をしかめる。

 しかしフォックスはそれを無視して俺たちに命じた。

 

「例の鞄はオドネルが所属するマコーリー派の工房の中にあると思われる。貴様らで内部に潜入して奪われた重要機密を奪回するのだ」

 

 やはりか。

 嫌な予感ほど良く当たるものだ。

 

「簡単に言ってくれるな……」

 

 俺はため息交じりにそうぼやく。

 

 貫通(ペネトレーション)抽出(エキストラクション)

 保安の厳しい目標の商会に侵入して情報やサンプルなどを奪取するのは、手荒い手法だが商会における情報戦では良くある話だ。

 プロを使えば痕跡も残さず強奪することも可能だし、被害に遭った商会は対外的な信用を守るため「秘密情報が盗まれた」とは公表したがらない。

 結果、公安に被害届を出さないケースが多いからだ。

 目標の商会の従業員を抱き込んで情報を引き出したりするスパイ行為より手っ取り早く、場合によっては確実だ。

 

 とはいえ、

 

「そこまで分かったのなら、あんたたち自身の手で機密を取り戻したらどうだ?」

 

 うんざりとした俺の指摘に、フォックスは顔をしかめた。

 

「同じ商会内といっても各工房の警備体制はまだ統一されていない。警備に命じて我々の工作員(エージェント)を送り込むわけにはいかんのだ」

 

 そこは一枚岩ではない内部の事情が許さないらしい。

 

「それに確かな証拠があるわけでもないのだ。失敗した場合を考えれば我々が直接手を下すわけにはいかない」

 

 この辺は商会が工作員(エージェント)などを独自に抱えているにも関わらず、裏の傭兵を使う一般的な理由でもある。

 失敗しても切り捨てが可能な外部のプロを使い、ことを収めるのだ。

 

「そもそもナイトウォーカーなどという化け物を相手取るのだ。まともにやって我が商会の工作員(エージェント)を食われまくるわけにも行かん。遺族への年金支給にも限度というものがあるのだぞ」

「ぶっちゃけたな。それが本音か」

「すべて本音だ」

 

 フォックスは俺たちに告げた。

 

「ゆえに貴様らに偽装をして潜入を図ってもらう必要がある」

 

 確かに警備を味方にできないのであれば、そうするしかないだろう。

 

「それはまた厄介ですわね。あとはどれだけ事前情報と支援が受けられるかですけど」

 

 ファルナがつぶやく。

 厄介と言いつつも、他人事のように聞こえる声音がクールな彼女らしかった。

 フォックスは不本意そうに顔を歪めながらも、ファルナの言葉に答えた。

 

「こちらでも可能な限りの用意は整えたつもりだ。その代わり機密は絶対に取り戻すのだ。貴様らが賞金首になりたくなかったらな」

 

 マクドウェル商会側に寝返ろうかと内心考えつつも、俺はフォックスの話に聞き入る。

 そしてフォックスの部下が潜入の準備を説明してくれた。

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