(スミスって人、どこまで信用できると思います?)
(さてな。俺も
俺はファルナと
スミスにはちょっと聞かせられない本音話だ。
(マクドウェル商会の代理人に確認するのが一番なんだが、スミス氏は内密で動いているようだからな。それを漏らすような真似は依頼人を裏切ることにもなりかねんし)
(その辺はこの
確かに。
それにシズカなら今現在も裏で動いているはずだ。
敵に近づいたことからファルナは腰部背面ラッチから魔導銃、サンダラーを取り出し用意した。
この大型火器は普通の魔装妖精の手には余る。
左手を悪魔型魔装妖精の大型クローアームに換装したファルナだからこそ扱えるものだ。
馬車に残っていた俺もそれに倣い、背にまわしていた細長いバッグから使い慣れた銃器を取り出した。
「それは……」
スミスが息を飲む。
俺が取り出したのは寸詰まりの奇妙な銃だった。
このカップに各種弾頭、通常は炸薬を詰めた爆弾、
「
冷たい鋼の銃が月光に冴える。
「こいつは個人が携行できる火器の中で一番強力なものなんです。その威力はそこいらに出回っているマスケット銃とは比べものにならない。ぎっしりと火薬が詰まった榴弾を込めて放てば、爆発により凶悪な鉄片をばらまきそれだけで周りのものすべてを粉砕する」
俺の声には自然と熱がこもった。
俺は銃の力に信頼を置いていた。
いや、力そのものを信頼していると言った方がいいか。
だから選んだ銃器がこの
有象無象を区別なく吹き飛ばす暴力装置。
強烈な反動が身体を痛めることも厭いはしない。
強大な威力と
それがこの
「それだけじゃない。教団や帝国軍特殊部隊が持つ呪的装備を使えば、通常の武器では傷付かない魔物すら屠ることが可能だ」
破壊僧の異名で知られる
「そんな代物を使おうとは、戦争でも始めるつもりですか?」
呆れたように言うスミスに、笑って
「簡単ですよ。なんてったって弾代は
必要経費を別に請求するのはこいつのためだ。
「このずしりとくる重さと怪物じみた反動の強さが俺の命を守ってくれる保証なんですよ」
「ふむ、それがあなたの相棒って訳ですか」
「そうですね。太くてでっかい暴れん坊をぶち込みたがるのは男の
俺は死んだ親父から戦う術を教え込まれていた。
それもきれいごとでは済まされない裏の仕事のための技術だ。
銃器の扱い、格闘や隠密行動のための技能……
ただ指示に従い、黙々と身体を鍛える。
それが昔の俺の日常だった。
今の俺は自分のためにその力を使う。
かつて親父から学んだ様々な技は生き抜くために役立ってくれていた。
鍛え上げられた
「その大砲で、いったいどれだけの人を殺したのですか?」
スミスの問いには、こう答える。
「さぁて。業務日誌をつけるような
あんたほどじゃないはずだぜ、と心の中で付け足して置く。
そんなやりとりをしている間にも、状況は進行していた。
(あれですね)
精神に響くファルナの思念。
目的の空き地が見えてきた所でファルナは停止する。
廃墟の影に身を潜め
目標を
辺りには月明かりしか無かったため、もし俺が現場に同行していたとしても空き地にうごめく人影があることぐらいしかわからなかっただろう。
小鬼は夜目が利くので明かりを必要としないのだ。
(人数は四人か?)
俺は現場から脳裏に送られてきた映像から見て取る。
それに加えファルナには、
(人影が小さいから確かに小鬼のようですね。全員が武器を持っています。うち一人が黒い鞄を持っていますわ)
ということが識別できたようだ。
「まだ先を越されてはいないようだな」
俺は同行しているスミスのために偵察結果を口に出してつぶやいた。
ファルナは素早く周囲の地形に視線を走らせる。
空き地は、元は家屋が建っていたのだろうが、それは完全に破壊され今では壁の一部や石を積んだ基礎を残すだけとなっていた。
小鬼たちはその中心に居て、周囲は見通しのいい道路に囲まれている。
(普通なら、気付かれずに近づくのはかなり難しそうだな)
(そうですわね。私の
相手はその辺まで配慮しているのだろう、襲撃のし辛い場所だった。
ファルナは更に周囲に目を向けると道路を挟んで建っている二階建ての廃屋に目を付けた。
(あそこなら気付かれずに行動できそうですね)
そしてファルナは俺に告げる。
(私が敵を分断させます。マスターはスミスさんと連携して目標の確保を)
「分かった」
そうつぶやくと、こちらをうかがっていたスミスと目が合う。
「どうしたんです。まさか失敗を?」
スミスは聞いてくるが、
「いや、襲撃はファルナが担当する。俺たちは目的の鞄を確保する手はずだ」
それでも疑わしそうにこちらを伺うスミスに、少し砕けた口調で言ってみる。
「まともにやりあうのは馬鹿だけさ。下手すれば揃って棺桶に入ることになる。銃さえ持っていれば子供だって人を殺せるご時世だしな」
そう俺は説明する。
今回の目的はあくまでも鞄の奪取だ。
派手に撃ち合う必要はない。
たかが金儲けに自分の命を軽はずみに賭けてどうする、ってことだ。
「分かりました」
スミスも納得してくれたようだ。
そして俺たちもまた現場を臨める位置へと静かに移動する。