魔法仕掛けの妖精人形とそのマスター   作:勇樹のぞみ

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09 襲撃者

 男たちは空き地に残された壁などに取りつくと、それを遮蔽に銃撃を加え始める。

 夜の闇に銃声が響き渡り、互いに銃火が交わされた。

 

 互いに……

 そう、赤ずきん(レッドキャップ)たちが携えていた斧は、柄にマスケット銃が組み込まれた仕込み銃だったのだ。

 火炎ビンの炎により照らしだされ、夜目が利くという利点を覆されて一気に不利に陥った赤ずきん(レッドキャップ)たち。

 その内の一人が倒される。

 

(マスター、どうします?)

 

 ファルナが困惑した様子で霊的経路(チャンネル)を通じて俺に相談してくる。

 

(パーティーが始まっちまったか。共倒れを狙いたいところだが、時間がかかると赤ずきん(レッドキャップ)たちに増援が来るんだったな)

 

 可能なら両者が争って数を減らしてくれた後に目的のものを奪いたかったが、状況はそれを許してくれそうになかった。

 

(そうでしたわね)

 

 仕方なくファルナは銃を構える。

 幸い敵はまだ彼女に気付いていない。

 ファルナから丸見えの位置でマスケット銃に銃口から黒色火薬(ブラックパウダー)と鉛弾を込め直している新手の襲撃者の一人に狙いを定めた。

 銃身(バレル)の手元にある照門(リアサイト)から覗いたファルナの視界には、目標の顔に重なるように銃口の上にある凸型の照星(フロントサイト)が映っている。

 

(見ていてくださいな、少し大きめの花火を上げてさしあげますわ)

 

 そして引き金(トリガー)が絞られた。

 電撃変換能力を持つサンダラーにより、雷撃(ライトニングボルト)へと変換されたファルナの精霊力は破裂音にも似た轟音を立てて白光と共に放たれた。

 超高密度に圧縮されていた力が銃口を飛び出した途端、直径がファルナの背丈ほどもある閃光へと変化。

 雷のように加速し目標を襲う。

 

 それを受けた男が声も無くのけぞった。

 雷撃(ライトニングボルト)には当たり前だが感電の追加効果がある。

 例え意識を保てたとしても筋肉が痙攣を起こし、しばらくの間、身体が自由に動かせなくなるのだ。

 だから一撃で倒れ伏し行動不能に陥る。

 

 ファルナは素早く音を立てないように見つけておいた次の狙撃地点へと移動する。

 雷撃(ライトニングボルト)は暗闇の中ではかなり目立つのだ。

 それは自分の位置を暴露することになる。

 

 やはりと言うべきか、次の瞬間にはファルナが元居た位置に銃弾が叩き込まれる。

 新たな狙撃地点から密かに見下ろすと、襲撃者の内一人がファルナの射撃に反応して空き地に残された壁を遮蔽にして銃を撃ち込んでいた。

 Cランク相当の魔力強化神経(ブーステッド・リフレックス)の呪紋を身体に刻んでいると思われる。

 しかし、

 

「反応速度は悪くありませんが、対応が教本どおりなのが今一つですわね」

 

 ファルナの言うとおり、撃ったらさっさと動かないと位置が丸わかりだ。

 上を取られているから物陰に身を寄せても隠れきれていないし、ファルナの雷撃(ライトニングボルト)なら身体のどこかに当たれば感電の効果により無力化される。

 今の状況に対して、遮蔽を頼りにその場にとどまって銃撃を続けるのは悪手というものだった。

 

 一方、残りの二人は突然の出来事に反応できていなかった。

 見たところ、この二人には魔力強化神経(ブーステッド・リフレックス)の呪紋は仕込まれていない様子だ。

 

 瞬時にそれだけを見て取ると、ファルナは再びサンダラーを構える。

 戦いに際して彼女の力は圧倒的だ。

 魔力強化神経(ブーステッド・リフレックス)の呪紋により加速された者の反射速度を更に上回るスピード。

 通常、人体に入れられる魔力強化神経(ブーステッド・リフレックス)のグレードの限界はスピードに特化したとしてもAランクまでだが、魔装妖精の素早さはそれとほぼ同じか、やや上だ。

 

 ファルナは自分からの攻撃に対応できていない襲撃者の一人を狙うと、再び引き金(トリガー)を絞った。

 銃身(バレル)に刻まれた呪化旋条(エンチャント・ライフリング)がチャンバーに装填された精霊力を加速、呪化し正確に、ためらいなく目標を撃ち抜いた。

 夜の闇には花火が良く似合う。

 

 戦いのための牙を研ぎ澄ました戦士。

 それが魔装妖精だった。

 

「鴨撃ちですわね、これは」

 

 倒れる相手を尻目に、更に次の狙撃地点に移動しサンダラーを構える。

 眼下を見渡すと形勢不利と見たのか襲撃者の内、魔力強化神経(ブーステッド・リフレックス)を刻んでいると思われる素早い一人が赤ずきん(レッドキャップ)たちの前に躍り出た。

 ファルナの妖精の視野(グラムサイト)が、その背中に一際光る呪紋の輝きを捉える。

 

「まさか……」

 

 そのまさかだった。

 飛び出した男に赤ずきん(レッドキャップ)たちからの銃撃が集中し傷を負うが、それをものともせずに戦い続ける。

 

 男が使ったのは第十二肋骨の周囲に刻まれ、副腎髄質に作用しアドレナリンを任意に分泌させる狂戦士化(アドレナリン・ブースター)の呪紋だった。

 一時的に心筋収縮力の上昇、心、肝、骨格筋の血管拡張、皮膚、粘膜の血管収縮、消化管運動低下、呼吸器系の効率上昇といった身体機能の強化、更に痛覚の遮断を起こす。

 効果時間が限られていること、使用後は反動が出ることから常用はできない。

 しかし、いざという時には有効な手段だった。

 

 そいつが囮となって赤ずきん(レッドキャップ)たちを引きつけている間に、もう一人の男が密かに回り込んで目標の鞄を狙っていた。

 

(おあつらえ向きだな。そのまま見逃してやれ)

(了解です、マスター)

 

 ファルナは銃を構えながらも、わざとそれを見送った。

 迂回していた男が鞄をひっつかみ、急いでその場から逃げ出す。

 囮となった襲撃者が頑張っているため、赤ずきん(レッドキャップ)たちはそれに気付かない。

 逃げ出した男はファルナのサンダラーの射程からは遠ざかるが、彼女が焦ることはなかった。

 

(狙いどおりですね。わざわざ見逃しておいた甲斐がありました)

 

 こうして賽は投げられた。

 これが吉と出るか凶と出るかは、ブツの確保を担当する俺たち次第だ。

 

 そしてファルナは静かにその場から離脱する。

 戦い続けている赤ずきん(レッドキャップ)たちと襲撃者からの追撃は無かった。

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