戦車大戦-大洗華撃団、出撃せよ!-   作:遠野木悠

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この辺りはもう少し掘り下げても良さそうですが、原作との兼ね合いとテンポを重視して少し駆け足気味に進めていきます。ご了承ください。

あと、長くなってしまったので分割しました。


着任の日

 

戦車道という競技の基本原則を確認しておこう。

 

まず参加可能な戦車についてだが、高校戦車道においては、終戦までに戦線で活躍または設計が完了し試作されていた車輌、及びそれらに搭載される予定だった部品を使用した装備品のみが許されている。この条件を満たせば車輌の改造は自由とされており、元の様式を逸脱しない範囲で武装の交換、強化が可能だ。設計図通りなら現在の工作精度で部品を作って良いため、競技で扱う車輌は基本的に大戦期のものより状態が良い。整備の信頼性なども段違いであるそうだ。

 

ただし、これには幾つか例外もある。たとえば競技で使用する車輌の上面や側面、底面には連盟公認の白旗判定装置を取り付けなければならない。白旗が上がった車輌はその時点で戦闘不能と判断され、以降の砲撃で敵戦車を撃破しても無効になってしまう。

 

それからもうひとつ、各車の乗員室を特殊カーボン製の装甲材で覆う義務がある。戦車道はあくまで武道、相手を傷付けるのが目的ではないため、被弾した際に搭乗員が怪我をするようなことがあってはならない。つまりは競技者の安全を確保するための規定である。以上の観点から、車輌上面の装甲がないいわゆるオープントップの戦車は基本的に使用してはならないことになっている。

 

続いて試合形式について、調べた限り殲滅戦、フラッグ戦、陣取り戦の3種類が確認できた。

 

まず殲滅戦は読んで字の如く、相手チームの全車輌を撃破、或いは戦闘不能にすれば勝利となる。続いてフラッグ戦はあらかじめ決めておいたチームの心臓部──フラッグ車を取り合い、どちらかが撃破された時点で試合終了となる。最後に陣取り戦は、戦場に定められたある地点を先に占領すれば勝ちだ。

 

ちなみに高校戦車道の全国大会では、各校の戦力差を少しでも縮めるためにフラッグ戦が採用されている。

 

安全に配慮されているとはいえ、負傷者が出ない絶対の保証はないことから、学校で戦車道の授業を行うに当たっては、必ず担当教師を選出しなければならないことになっている。彼らは戦車道経験者が望ましく、強豪校では外部から優秀な戦車乗りを雇うこともあるそうだ。公式試合で戦車に乗って一緒に戦うことこそないが、彼らは作戦立案の最終決定権を持ち、精神面でも選手のサポートをすることが求められる。

 

試合中、担当教師はそれぞれのチームに与えられた部屋で自陣の戦車に取り付けたカメラから送られてくる映像、並びに無線の内容を確認することができる。

 

戦車道は選手主体の競技であることから、どちらも基本的に受信専門となっているが、例外として公式戦では1度だけ担当教師の無線発信が認められている。不正防止のため暗号での会話は禁止されているものの、試合の最中に作戦変更を命じるも良し、選手を鼓舞してチームの士気を上げるも良しとその自由度はかなり高い。一方で、選手たちが知り得ない情報を発信するのは重大な規定違反とされ、発見され次第失格となる。

 

無線発信の権利、そしてそれによって実質的に隊長へ命令できる立場にあることから、担当教師はしばしば「司令官」と称される。どこで権利を行使するのか、どんな内容の通信をするのかは人によって異なり、それによって戦況をひっくり返すこともあるので、かつては試合を観戦する上で注目すべき点のひとつとされていたようだ。

 

とはいえ強豪校ともなれば各選手の練度が高く、教師の口出しの必要がない……むしろ隊長と違う意見を言って混乱を招きかねないと、これに関しては昨今ではすっかり形骸化してしまっている。何度か戦車道の試合映像を観たが、実際に運用された場面は1度もなかった。

 

しかしながら、大洗女子学園の戦車道チームはそのほとんどが初心者で構成されることが予想される。全国優勝が目標である以上、正当な権利であればどんなものでも使って行きたい。どこまで役に立てるかはわからないが、俺は自分にできることを全部やるつもりだ。

 

 

 

 

 

戸籍の取得と特別非常勤講師に関する茨城県教育委員会への届け出が完了した、と新之介から連絡が来たのは3日前のことである。

 

すぐさま米田学園長にその旨を伝えると、その翌日には採用試験が行われた。日頃から欠かさず勉学に励んでいたので筆記は及第点、面接官からも「これからよろしくね」とお墨付きをいただく。事前に学園長が動いてくれていたため、あとの手続きも1日で終わり、すべての書類が完成した時点で晴れて正式採用が決定した。

 

そして、今日が俺の着任日である。

 

昨晩からそれを意識していたためだろう。いつもより2時間ばかり早く目を覚ましてしまった俺は、準備と朝の走り込みを終えてから、戦車道の勉強をして気を紛らわしていたわけだ。

 

明後日の午後に行われる選択授業のオリエンテーションの中で戦車道の宣伝をすることになっている。杏たち生徒会は連日準備に追われており、今日も彼女は授業開始の1時間前には登校した。手伝おうかと申し出たところ、「あとは細かい確認をするだけだから」と断られてしまったので、俺は当初予定していた時間に家を出る。

 

何事もなく学校へ到着した俺は、米田学園長の案内で職員室へ向かい、これから一緒に働く先生方に挨拶をして回った。その際、学年主任など一部の幹部教師から哀れむような目を向けられる。

 

せっかく赴任してきたのに、今年度で廃校になるなんて気の毒だ。そんな心の声が表情に出ている。

 

──これから俺が、いや、俺たちが廃校を阻止するために頑張るんだ!

 

無責任なことしか言えないので口には出さないが、すでに諦めてしまっている人に対抗する意味合いも込め、心中で決意を表明する。

 

想いを形にする第一歩として、早速仕事をしようと自分の机を探してみたが見つからない。学園長にそれを訊いてみたら、

 

「すまんな、大神。急な採用だったもんで、まだお前さんの机が用意できていねえんだ。今月中には何とかするから、それまでは生徒会長室で仕事をしてくれ。角谷には話してあるからよ」

 

そういうことなら仕方がない。最初の最初に空回りしてしまった感が拭えないものの、贅沢を言える立場ではないので大人しく従おう。

 

他の先生方に断ってから職員室を出た俺は、その足で生徒会長室を目指した。

 

「ところで大神、初仕事は何をするか決めているのか?」

 

「そうですね。手元にある資料は概ね目を通してしまったので、過去の試合映像を観て、他校の傾向などを分析しようかと」

 

「お前さんの勤勉さが昔と変わんねえみたいで安心したよ」

 

しかしそうだな、と米田学園長はひとつ唸った。

 

「昔は付き合いでよく観たが、近頃はとんとご無沙汰だし……今の子がどんな試合をするのか興味もある。俺もその映像を観てえな」

 

「俺は構いませんが、お仕事は平気なのですか?」

 

「これから廃校を賭けた戦をするってのに、学園の総大将たる俺がその競技内容をきちんと把握していないのは頼りねえ。だからこれも仕事のうちだよ」

 

屁理屈のようにも聞こえるが、本人が大丈夫だと言っているのに止める理由もないだろう。

 

などと考えているうちに生徒会室が見えてきた。これまでは副会長の柚子くんに経由して貰わないと入りづらかったが、今日からはその助けなしに堂々と足を踏み入れられる。本当の意味で学園の一員になれたことを実感しつつ、俺はその証明として首から下げている身分証を軽く撫でた。

 

明後日のオリエンテーションで使う道具が置かれているため、生徒会長室はいつもより少しだけ散らかっている。学園長がいる手前心苦しく思うも、下手に触って問題が起きたら大変だから何もしない。

 

彼には応接用の椅子へ座っていただき、お茶などを用意してから、俺は机のパソコンを起動させた。

 

ここには桃が作った宣伝用の動画が入っている。なかなか素晴らしい出来になっており、生徒たちの反応が今から楽しみだ。

 

「さてと、今日はどの映像を観るんだ?」

 

机に積まれたケースを一瞥し、学園長は尋ねた。

 

試合映像は、後で購入することを条件にせんしゃ倶楽部の店主の私物を借りている。戦車道は1試合あたりの時間が長い上、手元にある過去5年分だけでも数十の映像があるので、ほとんど確認できていないのが現状だ。

 

これまでは古い順に観ていたのだが、今日は学園長がいらっしゃることだし、特に内容の濃い試合を選ぶ必要がある。裏表紙を頼りに吟味するうち、「黒森峰女学園は前人未到の10連覇を達成できるか!?」という謳い文句が書かれたものを発見した。

 

黒森峰といえば5年前の優勝校である。裏表紙によると西住流の流れを汲んだ学校で、主に電撃戦を得意とするらしく──おや?

 

「そういえば、みほくんは黒森峰から転校して来たと言っていたな」

 

西住流と聞いて、この時代へ来て最初に出会った少女の顔を思い浮かべる。

 

「みほくん? ……どこかで聞いた名前だな」

 

「西住みほ、高等部の編入生です。個人的に付き合いがある子で、前年度まではこの黒森峰女学園に通っていたと聞いています」

 

「ああ、なるほど。確かに編入関係の資料で名前を見掛けた気がするぜ」

 

言ったのち、学園は眉間に皴を刻む。

 

「黒森峰で西住っていうと、その子は流派の関係者に違えねえな?」

 

「ええ。家元の娘だと聞いています」

 

「となれば、彼女自身も西住流の戦車乗りってことだろう? うちは今年度から戦車道の授業を再開するが、その申請をしたのはつい最近だし……正直、古巣を離れる理由がないと思うんだがな」

 

「詳しい事情はわかりません。けれども、みほくんは戦車道がない学校を選んでうちへ来たと話していました」

 

「そいつはつまり、彼女は何らかの理由で自ら戦車を降りたってことか……どうする大神よ?」

 

学園長は俺の手にある映像媒体のケースに目を遣った。

 

彼の言いたいことはわかる。わかるが、返す言葉が浮かばない。

 

みほくんは高校2年生になるのを機にこの学校へやって来た。黒森峰を離れる時期が高校進学と重なっていないということは、恐らく彼女はこの1年の間に転校を決意したのだろう。そのきっかけは、極めて高い確率で戦車道だ。

 

穿(うが)った見方をすれば、昨年の黒森峰にまつわるどんな記録の中にも、みほくんが抱える心の傷が映り込んでいる可能性がある。

 

もしもみほくんの心の整理が付く前にそれを見つけてしまったら──俺は、今まで通り彼女と顔を合わせることができるだろうか。

 

「でもよ、お前さんはどうしてもそれが知りてえんだ。それが善意の押し付けであることは承知で、下手に首を突っ込んで関係が壊れちまうかも知れねえってのに……彼女の心に刻まれた傷を見て、触れて、癒す力になりてえって思っている。違うか?」

 

「……おっしゃる通りです」

 

俺にとってみほくんは恩人で、友人で、胸襟(きょうきん)を開いて接することができる数少ない相手だ。こちらの事情を知っているから無理に取り繕う必要がないし、控えめながら魅力的なその笑顔を見ているだけで元気が湧いてくる。それに、彼女の気遣いにはこれまで何度も助けられてきた。

 

今度は俺がみほくんを助けてやりたい。貸し借りの清算なんて機械的な動機ではなく、本能がただただ行動を求めているのだ。

 

しかしその一方で、理性が俺をこの場に踏みとどまらせる。彼女が話してくれるのを待つべきではなかろうか、と。

 

答えを出すことができなかった俺は、助けを求めて学園長へ視線を向ける。しかし首を振られてしまった。

 

「こいつは大神が自力で答えを出さなきゃいけねえ問題だと思う。だから俺は勧めも止めもしない。どちらが西住にとって良い結果に繋がるのか、お前なりによく考えてみるんだな」

 

その言葉で、いかに自分が愚かであったかを悟る。甘えるな、大神一郎……彼の言う通り、これは俺が答えを出さねば意味がない。難しい問題だからといって、誰かに判断を委ねるのは無責任だ。

 

とにかく自分なりに答えを探してみよう。学園長に詫びを入れ、俺が何をすべきなのかを自分の心へ問い掛けてみる。

 

長い時間を思考に充てて、ようやく言いたいことがまとまった。

 

「どちらが正しい選択なのか、未熟な俺には見当も付きません。そんな状態で何を選んでも、必ずどこかに悔いは残るでしょう……ならば、俺はやって後悔する道を選びたいです」

 

結局〝正解〟が何なのかはわからなかったので、自分なりの解を学園長に伝える。

 

「ちょっとばかし頼りねえが、大神らしい良い答えじゃねえか」

 

彼はどこか嬉しそうにそう言って、

 

「ちなみに、俺がお前なら迷わず映像を観るよ」

 

「迷わずに、ですか?」

 

「ああ、そうさ。だって考えてもみろ、戦車道の試合映像は連盟が公開しているもんだ。したがって、誰にも閲覧を止める権利はねえんだよ。……たとえそこに西住が戦車を降りた理由が映っていてもな。だから、そもそもお前さえ気にしなけりゃ何の問題もねえんだ」

 

「しかし、それは詭弁ではありませんか?」

 

「詭弁でも何でも、非難されたときに説得力のある言い訳ができりゃあ良いんだよ。まあ、ずるい大人の処世術って奴さ」

 

お前には憶えて欲しくねえけどな、と学園長は楽しそうに言った。

 

 

 




圧倒的男女比!
分割したせいで、大神さんと米田司令しか台詞がありませんでしたね。

米田司令は、人生の先輩として大神さんにいろいろアドバイスをするポジションです。

彼はサクラ大戦の中では大神さんの次に好きなキャラなので、その魅力が表現できていれば良いのですが……。こういう格好良い年長者キャラは、今の時代ではあまり見ない気がします。
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