戦車大戦-大洗華撃団、出撃せよ!-   作:遠野木悠

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気付けば、ガルパン最終章第2話と新サクラ大戦のPVが公開されましたね。
ゲームの主題歌である「檄!帝国華撃団~新章~」は個人的にかなり中毒性があって、1日1回は動画を再生してしまいます。聞いたことのない方は、この機会に是非!



次回予告&別の世界線(黒森峰編)

次 回 予 告

 

 

ようやく結成したわたしたち、大洗華撃団

 

今までいろんなことがあったけど、これでようやく前へ進める──と思いきや、肝心の戦車がないってどういうことなのせんせー!?

 

しかも、戦車を見つけたら見つけたで今度は「練習試合が決まった」なんて会長さんが言い出すし

 

大会まで時間がないとはいえ忙し過ぎだよ、もう

 

……なーんて、文句ばっかり言っていても仕方がないよね

 

まだまだ大変なことが起こるかも知れないけど、あなたの期待に添えるようわたしも頑張ってみる

 

だからさ、みんなで力を合わせてひとつずつ困難を乗り越えて行こうね、せんせー!

 

次回、戦車大戦

 

第三幕『実戦実戦、また実戦です!』

 

学園艦の明日を目指して、パンツァー・フォー!

 

「わたしたちの晴れ姿……ちゃーんと見てなくちゃダメだよ、せーんせ?」

 

 

 

 

 

おまけ「もしも大神さんが黒森峰に赴任したら」

 

 

 

瞼越しに感じた強い光に誘われるように、深く沈んでいた意識が浮上する。覚醒に伴う気怠さの中で辺りを見渡し、現在進行形で身を預ける椅子にほど近い窓から差し込む西陽がその光源であると知った。

 

昨晩は特別寝付きが悪かったためだろう。仕事の合間に仮眠を取るつもりが、そのまま3時間も寝てしまったらしい。我ながら無意義な時を刻んでしまったと自省し、机に広げた書類と再び向き直る。

 

四半刻ほどで残業も一段落し、夕飯までいかにして時間を潰そうか考え始めた頃、部屋の戸を叩く音が耳に入った。

 

「──大神教官。少しよろしいでしょうか?」

 

「その声はエリカくんだね。鍵は開いているよ」

 

俺の声に応じて扉が開き、この春からチームの副隊長を任せているエリカくんが顔を見せた。

 

朝の集会で今日は休養に充てる旨を伝えたこともあって、彼女はパステルカラーのワンピースを着ている。パンツァージャケット姿のときとは雰囲気だけでなく表情まで異なり、そこからは歳相応のかわいらしさというものが感じられる。

 

けれども、前に同じ感想を本人に伝えたときには「破廉恥です!」と叱られてしまった。素直に容姿を褒めることが正解でないとは、女心はかくも難しい。同じ轍を踏まぬよう気を付けねばならないな。

 

「さて。エリカくんの要件を聞かせて貰っても良いかな」

 

とりあえず要件を尋ねてみると、

 

「今日が休養日であることは承知していますが、明日の試合の作戦でどうしても気になるところがあって……教官や西住隊長から意見を伺いたく思い、こうして訪ねた次第です」

 

「なるほど……うむ、わかった。ちょうどこちらも手が空いたところだし、ホテルの小会議室を使わせて貰えないか頼んでみるとしよう」

 

「お時間を取らせて申し訳ありません」

 

「明日のことで落ち着いていられないのは俺も同じだからね、気にすることはないよ。……して、エリカくん。まほくんにはもう声を掛けたのかい?」

 

俺の問いに、彼女は目を伏せて首を振った。

 

「ここへ来る前に訪ねてみたのですが……同室の先輩の話だと、入れ違いになるタイミングで出掛けてしまったみたいなんです」

 

そうなると、まほくんを探すのが先決か。

 

「よし、ならば俺はロビーへ行って、そのままホテルの外周を回ってみる。エリカくんの方は、他の子がまほくんを見ていないか確認しておくれ。彼女の足取りがわかったら連絡してくれるかな」

 

 

 

 

 

意図せず遠い未来の世界へ迷い込み、路頭に迷う寸前のところまで追い詰められていた俺に手を差し伸べてくれたのは、戦車道の名門──西住流の跡取り娘であるまほくんだった。

 

自分とは違うもう1人の大神一郎を知るまほくんとその母君、しほさんの力添えで危機を脱した俺は、彼女たちから受けた恩に報いるべく、西住流と繋がりが深い黒森峰女学園で働くことを志す。

 

過程を話すと長くなるので要点をまとめると、俺は前任が産休に入る関係で空席になる戦車道の教官に抜擢された。無論身に余る大役だと初めは辞退しようとしたが、他ならぬしほさんに頼まれてしまっては考えを改めざるを得ない。元より個々の練度が高い黒森峰では教官の存在意義が薄いというし、安全面での責任者が必要だからと念を押され、恐れ多くも俺はその任を拝命することに決めた。

 

教師として初めてまほくんたちと顔を合わせたあの日からかれこれ四半期が経つが、改めて振り返ってみると、教えることより学ぶことの方がずっと多かったように思う。いや、きっとそれは今この瞬間においても変わることはない。みなと肩を並べられる地点へ辿り着くためにも日々これ精進、研鑽を積んで行こうと思う。

 

「──という特徴の女の子なんですが」

 

まほくんが外へ出たならロビーの人が見ているかも知れないと考えた俺は、小会議室を押さえるついでに彼女のことを尋ねる。

 

それを受け、係の女性は「ああ!」と声を上げると、10分ほど前にホテルの外へ出たのを見たと話してくれた。事前に身分を明かしているとはいえ、いやにすんなり他人の情報を教えてくれたのは、ここが黒森峰御用達の宿泊施設だからだろう。

 

このホテルは高台に面した場所に建っており、麓へ行くためにはバス等を使う必要がある。戦車は会場の倉庫に置いてあるし、まほくんがいるとしたら敷地内のどこかに違いない。お礼を言ってロビーを出た俺は、そこから見える範囲にまほくんがいないか探すことにした。

 

予想通り、ホテルの入り口から駐車場へ向かう道の半ばにまほくんの背中を捉える。声を張れば彼女の耳にも届きそうな距離だけど、しかし俺は開きかけた口を閉じた。

 

まほくんの動きに合わせてひらひらと舞うサマードレスの裾が、彼女の心の内を暗示している気がして──水を差してはいけないと考えたのである。

 

しかし、このまま見惚れていてはあっという間に日が暮れてしまう。どうすべきか思案する最中に彼女が歩き出してしまったので、とりあえず俺はその背中について行くことにした。

 

距離が開いていることもあって、俺の存在に気付かぬまままほくんは駐車場の奥へと進む。送迎用に手配したバスに忘れ物でもしたのだろうか。そんな推測とは裏腹に彼女はその脇を抜け、車止めの向こうの茂みへと入って行くではないか。

 

あの先は確か崖になっている。その気がないにしても危険だ、と俺は慌ててその後を追った。

 

本来人が通る想定がなされていないため、道中には夏の草花が生い茂っている。みだりに踏むのは忍びないが、あいにくそんなことを言っている余裕はない。

 

足を取られぬよう気を付けながら先へ進むと、あるときふいに視界が開けた。突然のことに動揺しつつも、無我夢中で俺は声を発する。

 

「──まほくん!」

 

これにびくりと肩を震わせ、まほくんはゆっくりと振り返る。後ろにいたのが顔見知りで安心したのだろう、目が合うなり彼女はひと息ついて頬を緩めた。

 

「どうして大神さんがここに?」

 

「どうしてって、それは君がこちらへ行くのが見えたから」

 

あえて語らなかった言葉の意図を察したらしい。まほくんは困ったような、それでいてどこか嬉しそうな表情を浮かべ、

 

「ご心配をお掛けしました。それと、ありがとうございます」

 

「いや、君が無事ならそれで良いんだけど……差し支えなければ、どうしてまほくんがこの場所に来たのか教えてくれないかい?」

 

こちらの声に首肯を返し、まほくんは自らの背中側──すぐ近くで途切れた道の向こうを手で示す。促されるままに顔を上げ、視界に飛び込んできた景色に思わず俺は声を失った。

 

絶妙な角度のお陰か、崖の先から明日の試合で使う東富士演習場、及び無人になって久しい市街地を一望に収められたのである。

 

「大神さんは、この景色をどう思いますか?」

 

「何の捻りもない感想で申し訳ないけれど……とても綺麗だね」

 

「わたしもそう思います」

 

喰い気味の返事は、どこか弾んで聞こえた。

 

「もう少し日が落ちたら会場全体が一斉に真っ赤になって、もっともっと見応えのある景色になるんですよ」

 

「ふむ、それは楽しみだ……っと」

 

あまりの絶景に、ついまほくんへの要件を忘れかけてしまった。

 

なおも言葉を紡ごうとする彼女に断りを入れ、俺は本題を伝える。

 

「明日の試合はあの子にとっても大事な試合ですからね。……わかりました。名残惜しいですが、早くホテルへ戻りましょう」

 

言って、まほくんは再度崖の先へと目を向ける。表情の大部分は死角になって窺えないものの、唇の端が強張っているのが確認できた。

 

「明日の試合に特別な想いを抱いているのは、どうやら君も同じのようだね」

 

「これでも頑張って表情を繕っているつもりだったのですが……やっぱりわたしは、大神さんに隠し事はできないみたいです」

 

その場でくるりと身を翻し、まほくんは苦笑を刻む。

 

普段は冷静な彼女がどうしてここまで緊張しているのか、曲がりなりにも黒森峰で教鞭をとっている俺にはよくわかった。

 

「明日の決勝で戦う大洗女子学園は、みほさん──まほくんの妹さんが籍を置く学校だ。君が身構えてしまうのも無理はないよ」

 

昨年の大会で妹さんが何を選択し、そしてどんな結果になったのかは話に聞いている。思うところがないといえば嘘になるものの、だからといって俺の心情をここに特筆するつもりはない。

 

聞けば大洗女子は、もう何十年も戦車道の授業をしていなかったようだ。当然隊員たちも初心者ばかりなのだろうけど、しかし彼女たちはサンダース大附属、アンツィオ、そしてプラウダを破って決勝へ上がってきた。かの大番狂わせを成し遂げた立役者が誰であるのか、戦車道に関して素人に毛が生えた程度の俺でも想像に難くない。

 

「前の大会でわたしが副隊長にみほを選んだのは、決して身内贔屓をしたからではないんです。確かに校内模擬戦の成績が優秀であるとは言えませんでしたが、それはあの子が自分に合わないことを理解した上でなお西住の教えを守ろうとしてしまうからで、本来の実力はチームの誰よりも……ひょっとしたら、わたしより上かも知れません」

 

──みほは戦車道の天才なんです。

 

悔しそうな声音とは裏腹に、まほくんの表情は誇らしげであった。

 

「あの子がついている以上、たとえ初心者ばかりのチームであっても決して油断はできません。それどころか、相手チームの経験が浅いことこそ黒森峰の脅威となり得るのではないかとわたしは思うんです」

 

「というと?」

 

「春に戦車道を始めたとして、みほたちが練習に取り組めた期間は長くて3ヶ月──普通なら、ようやく自由に戦車を動かせるようになる頃合いでしょうか。過去の試合を観る限り、他の隊員はほとんど実践的な訓練を積んでいません。よって彼女たちには、強豪校が当たり前のように有している基礎的な知識が身についていない……大洗女子には戦車道の定石が通用しない恐れがあります」

 

言い換えれば、我々にとっての〝当たり前〟が何の力も持たない可能性があるということだ。それは西住流という、ある種堅固な定石を尊ぶ黒森峰とは正反対といえる相手で、ともすれば一番苦手とする相手といえるかも知れない。下馬評とは対照的に、苦戦を強いられる公算が高いと睨んでいるのだろう。

 

「それに──」

 

まほくんは言葉を切り、天を仰いだ。その行動にどんな意味があるのか定かではないが、見上げた先に答えはあったのだろう。静かにこちらへ向き直った彼女は、

 

「大神さんもご存知でしょうが、去年の大会の後にわたしたちは……もっと言うと隊長のわたしは様々な方面から批判を受けました。『西住の娘が指揮していながら敗戦するとは情けない』『黒森峰の歴史に泥を塗った』──これらは然るべき反応で、裏を返せばそれだけ周りが期待していてくれていたのだと理解はしています。でも……」

 

「頭でわかっていても、心がついてこなかった?」

 

これに対して、どこか躊躇いがちな首肯が返ってくる。

 

「わたしよりも理不尽な理由で責められてしまったみほの手前、表には出せませんでしたが、これでも戦車に乗りたくないと考えてしまった時期があるくらいです。……ほんのちょっとの間だけですけど」

 

「まほくん……」

 

「西住の娘として情けない限りですが……明日また負けてしまうかも知れないって考えると、怖くて怖くて堪らないんです」

 

まほくんは力なくそう言った。

 

こんな彼女は今まで見たことない。逆に言えば、普段のように凛とした姿を繕えないくらい、その心に余裕がないのだろう。

 

まほくんのために何をしてやれるか考え、迷った末に俺は彼女の頭に手を乗せた。

 

「確かにまほくんは西住流の跡取り娘で、黒森峰でも隊長として本当によく頑張っていると思う。自分の力に慢心せず、ひたむきに努力するその姿勢は尊敬に値する……しかし立場ある人間である以前に、君は1人の女の子なんだ。時には弱音を吐きたくなっても仕方がないよ」

 

言って、その髪を梳くように撫でてやる。一瞬びくりと身を震わせるも、まほくんは特に抵抗することもなくそれを受け入れてくれた。

 

「教官とは名ばかりで、俺は戦車道に関しては君たちにほとんど何もしてあげられない。でも、こうして君の不安を共有してやることはできる。他の子の前で強い姿を演じなければいけないのなら、せめて俺と2人きりのときくらいは素の自分を表に出しても良いんじゃないかな」

 

俺の言葉を受け、まほくんは顔を上げる。そこに浮かぶのは、いつもの彼女よりもずっと幼い──どこにでもいる18の少女の表情だった。

 

「……そんなことを言ってくれたのは、大神さんが初めてです」

 

まほくんは頬を緩める。ふにゃりと締まらない笑顔は、写真で見た妹さんのそれとよく似ていると俺は感じた。

 

しばらくののち、まほくんは自らの頭に乗った俺の手に触れ、人差し指と小指をそれぞれ握る。

 

「名残惜しいところですが……ずっとこうしていたらいつまでも甘えてしまいそうなので、いったんお別れです」

 

そう言って彼女は俺の手を優しく払った。

 

「続きは明日の試合が終わってから──優勝旗を大神さんに届けたときにお願いします」

 

「その意気だよ、まほくん」

 

いつしかまほくんの顔にはいつも通りの凛々しさが戻っていた。どうやら元気を取り戻してくれたらしい。安堵したのも束の間、一度は思い出したエリカくんとの約束をまた忘れてしまったことを思い出す。

 

「これ以上待たせたらエリカが可哀想ですし、急ぎましょう」

 

まほくんはこちらに手を差し出す。俺が握り返すと、すぐに身を翻して歩き始めた。

 

顔を背けるその一瞬、彼女は先ほどと同じ笑みを浮かべているように見えた。

 

 

 




黒森峰編……というよりはまほ編といった方が正しいでしょうか。
実のところ、思うところがあって丸々1回書き直していたりします。
本来、幕間は大洗女子が戦った学校順に並べて行こうと考えていましたが、故あって黒森峰を前に持ってきました。その理由はおいおいわかるかと思います。

正直、まほの性格に関しては脚色し過ぎている感が否めませんが、本編の裏で彼女なりの苦労があったらこんな感じなのだろう……なんて妄想しながら書きました。

この話とは関係ありませんが、米田学園長のかつての呼称を「米田司令」から「米田支配人」に修正しました。
新サクラ大戦の情報が公開され、のち帝国華撃団が秘密部隊でなくなったことを知って衝撃を受けました。その辺りはおいおい修正していこうと思います。

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