道化と紡ぐ世界   作:雪夏

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十二話です。短いです。

一言: 鍋の美味しい季節になりましたね。


十二節 また会う日まで

 

 

 

 

 

 

 

 明くる日の午後。横島たちの姿は、先日と同じく城門前にあった。ただ、先日と違うのは星と稟の二人は旅立ち、横島と風はそれを見送りに来たという点である。

 

「では、風。あなたから頂いた路銀有効に使わせて頂きますね」

 

「というよりも、使ったと言った方が正しいかな。何せ、風のお陰で馬を借りることが出来たのだからな」

 

 そう言った星の視線の先には、今朝方商家から借りた二頭の馬の姿が。洛陽についたら返却しなければならないが、それでも幾分か楽になることには変わりない。

 

「お役に立ったのなら何より。お二人ともお気を付けて」

 

「風も。必ずまた会いましょう」

「ああ、必ず再会しようではないか。その時は、お互い主が決まっているといいな」

 

 固く握手を交わし、再会を誓う三人。そんな親友たちの別れを邪魔することなく、黙って見守る横島。友情っていいなぁなどと思っていると、挨拶を終えた星と稟がこちらにやって来る。

 

「貴方も息災で。道中は風の言うことを良く聞くのですよ?」

 

「息災でな。今度こそ、心ゆくまでメンマ談義に興じようではないか」

 

 稟の子供扱いしたかのような発言も気になるが、星のメンマ談義と言う言葉に顔を引きつらせる横島。昨日は風が途中で止めてくれたが、それでも二時間に渡るメンマ談義にはくるものがあったのだから仕方ないのかもしれない。

 

「メ、メンマはもう勘弁して欲しいかなー。それよりも……ここで別れるなら、最後に!!」

 

 そう言うと、未だメンマ談義について語っている星に忍び寄る横島。星が熱く語っているのを確認すると、両腕を広げガバっと星に抱きつく。今日で最後になるのならと、ダメ元で行動に移したようである。

 

「「!?」」

 

(あ、あれ? ダメ元やったのに、成功しちゃった? それにしても、やーらけーな……あー、堪らん」

 

 驚愕する面々を無視して、感触を楽しむ横島。途中から、考えていることを口に出していることにも気づかない。

 しばらくすると、何故か星も横島の背に腕をまわす。予想外にしっかりと抱き合う体勢になったことに、横島が内心慌てていると星が口を開く。

 

「ふむ。貴殿の国ではこうやって別れの挨拶を交わすのか。中々心地よいものだな」

 

 どうやら、横島の一連の行動をただの挨拶だと思っているようである。そのことに気づいた横島は、これ幸いとそのままの体勢を維持しながら言葉を紡ぐ。

 

 

「そ、そう! 挨拶! ハグって言って……えーと、仲のいい男女が抱き合うってやつで。別に別れじゃなくてもよくて、そう、男から抱きついて、女は抵抗しちゃダメなんだ」

 

 

 誰が聞いても一発で嘘と分かる程、横島の言葉は拙いものであった。横島も、自分で無理があると自覚しているのか冷や汗をダラダラと流している。それでも、星を離そうとしないあたりは流石である。

 

「ふむ。抵抗するなと言われてもな。取り敢えず離してくれないか?」

 

「離した瞬間に槍で刺さない? こう、ブスって」

 

「別に離れずとも刺すことくらいできるが……刺して欲しいのか?」

 

 星のその言葉を聞くなり、星を解放して距離を取る横島。そのまま慌てた様子で土下座へと移行する横島。

 

 横島が繰り出した土下座は、とても見事な土下座であったことを明記しておく。

 

 

 

 

 そんな見る人が見れば、惚れ惚れするような土下座のままで横島は弁解の言葉を必死に紡ぐ。

 

「堪忍やー! 子龍さんが魅力的すぎて、辛抱出来んかったんや! にしても、柔らかかった! いや、今のナシ、ナシで!」

 

 そんな横島の姿にどうしようか悩む様子を見せる星。元々、怒ってはいないので、そのような態度を取られても困ってしまうのだ。それでも普段の星なら、何かしら思いつくのだが先程の抱擁の影響か、頭が上手く働いていないようである。

 

 その間も弁解を続けていた横島に風が言葉をかける。

 

「お兄さん」

 

「はい! 何でしょうか!?」

 

「まず落ち着いてください。風から一つ質問しますので、正直に答えてください。いいですね?」

 

「はっ! 了解であります!」

 

 風の問いかけに、敬意して答える横島。そんな横島に、風は質問をしていく。

 

「先程言っていた“はぐ”とは何ですか?」

 

「はっ! 挨拶であります! 確か、互いに抱擁することで親愛の気持ちを現していたと記憶しております」

 

「ほほぉ。それはいいことを聞きました。ああ、お兄さん。星ちゃんは別に怒っていないので、気にしないでいいですよ」

 

「へ? ホント?」

 

 風の言葉に、星の方を見る横島。てっきり、槍を構えていると思っていた星が自然体で立っていることに気づく。視線を向けられた星も怒っていないと告げたことで、ようやく緊張を解く横島。

 

 その様子を黙って見守っていた稟に対し、風が尋ねる。

 

「それで、稟ちゃんはどうしますか? お兄さんと“はぐ”しますか? 邪な気持ちがあったのは確かなようですが、挨拶なのは本当らしいのでこの際、稟ちゃんも。せっかくですし」

 

「なっ! する訳ないでしょう!」

 

 風の提案に対し、顔を羞恥か怒りによるものかはわからないが、真っ赤にして拒否する稟。その声が聞こえてきた星が、稟たちに近寄りながらからかい混じりに言葉をかける。

 

「いつ再会出来るかも定かではないのだ。やってみるのもいいのではないか? それに、たかが挨拶に尻込みしたという事実は、今後も付き纏うぞ?」

 

「そですよー、たかが挨拶の一つや二つは軽くこなせないと。これから大変ですよ」

 

 星の言葉に乗っかるように告げる風。その内容は全く根拠のないものであるが、動揺している稟には効果があったようで、腕を広げ待ち構える横島に向かってフラフラと近づいていく。

 

「そう、たかが挨拶。挨拶……ですが、男性と密着……我慢出来ずに、襲われ……」

 

 ブツブツと呟きながら歩く稟に、待ち構えていた横島の腰が引ける。短い付き合いではあるが、こういった時の稟が今後どうなるかは簡単に予想できるのである。

 

「あ、あかんパターンやと分かってるのに……あの体を抱けると思うと足が……足が動かん!」

 

「お兄さんは本当にスケベさんですねー。とは言え、せっかくの旅立ちに血を流すのはどうかと思いますので……星ちゃん、お願いします」

 

「鮮血と共に旅立つと言うのも面白いかもしれんが……稟よ、悪く思うな」

 

 風の言葉で、稟の背後に回った星は稟の首筋に手刀をいれ彼女の意識を刈り取るのであった。

 

 

 

 

 

 それからしばらく経ったあと、星が馬上から横島たちに改めて挨拶をしていた。結局、意識を失ったまま起きる気配がない稟は星が抱え込んでいる。本来、稟が乗る筈だった馬には、星の分の荷物も積まれており手綱も星が握っている。

 

「では、そろそろ我々は発つこととしよう。二人とも息災でな。再会出来ることを楽しみにしている」

 

「星ちゃんもお気を付けて。それと、稟ちゃんのことを宜しく頼むのです。ほどほどにイジってやってください。嫌がっているようで、本当は喜んでますので」

 

「それは、本当に嫌なんじゃ? 真面目そうな人だし」

 

 風の言葉に疑問の声を漏らす横島であったが、二人には聞こえなかったようで二人はそのまま会話を続けている。もしかしたら、意図的に無視しているのかもしれないが。

 

「では、二人とも……今度こそ、さよならだ。また会う日まで、息災であれ!」

 

 そう言って、二頭の馬で駆けていく星と稟。その姿が小さくなるまで、横島と風の二人は城門前で見送るのであった。

 

 

 

 

 ―おまけ:見送り後の一幕―

 

「行っちゃったなー。さて、オレたちも戻って士元ちゃんたちの所に行かないと……って、何してんの? 風ちゃん?」

 

 横島が街へと歩きだそうと、振り返ると両腕を広げた風の姿が。小柄な風がそのような体勢を取ると、抱っこを強請る子供のようだと横島が思っていると風が口を開く。

 

「見て分からないのですか? “はぐ”です。“はぐ”をしようと待っているのですよ」

 

「ハグって……あれは」

 

「挨拶なのですよね? ささっ、ここは一つ男らしくガバっと」

 

「なんだかなー」

 

 風の言葉通りにハグをする横島。一度膝の上に抱きかかえたこともあるし、星のあとなのですんなりと実行に移している。

 

「おぉー。これはこれは……中々心地よいですねー。やはり、忠夫さんの腕の中は特別なようです」

 

 小柄な風と抱き合うのに屈んでいた横島は、耳元で囁かれる風の言葉と、微かに香る甘い匂いに胸の鼓動が高鳴るのを感じるのであった。

 

 

 

 




 十二話です。短めです。次回は、雛里たちと合流してようやく荊州か舞台が移ります。多分。

 
 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。割と更新してます。

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