一言: 年内最後の更新。多分。
「いやー、意外と馬に乗るのって簡単なんだな。もしかして、才能ある?」
「うーん、どうですかねー。お兄さんの才能云々より、このお馬さんが頭がいいというのが大きいと風は思うのですが……」
横島の呟きに、横島に身を預け馬に揺られていた風が答える。彼らは現在、陳留への旅程の真っ最中である。彼らは全員が馬で移動しており、その編成は風を抱きかかえるようにした横島が手綱を握る黒馬と、他の三人――雛里、朱里、瑠里――が手綱を握る白馬の計四頭である。
「まぁ、コイツがいい馬だってのはオレも分かってるよ。見た目はこう……某世紀末覇者の愛馬並にごついってのに、すごく大人しいし。それに、乗ってて全然揺れないしな」
そう言いながら、馬を撫でる横島。撫でられた馬も、嬉しそうに嘶く。
「まぁ、短期間にこれだけ懐くというのは、確かに才能かもしれませんね。人に慣れている馬でも、初対面の人間に懐くのは結構時間がかかりますから」
横島たちの右側に馬を並べていた瑠里が、流石ですという言葉と共に声をかけてくる。そんな瑠里に対し、横島は照れてしまう。ここ数日、開催されていた軍師四人による特別授業でも、物覚えがいいなどと褒められ続けていた横島だったが、未だ褒められたり、好意的に見られることには慣れていないようである。
勉強嫌いとはいえ、小中と学んできた横島からすれば、この時代の算術は出来て当然であり、読み書きも文珠で解決済み。残りは、地名や礼儀を覚えるだけであった為、褒められるようなことではないと認識していたのも、未だ慣れない一因であろう。
「そういえば、この馬に名前あるの? 元々は、元直ちゃんのお母さんの馬なんでしょ?」
照れくさくなった横島が、馬の名前を尋ねることで話題を変えようとする。最も、横島本人としても気になっていたことなのだが。
「名前ですか? 母は馬一号と呼んでいましね。最も、先日母が猪を狩ってきた時に何処かの商人から買ってきたみたいなので、そもそも母は名付ける気がなかったのだと思います。この子たちも母からの貰い物ですが、特に名前はありませんし。全く、三日も帰ってこないと思ったら、何処で何をやっていたのやら……」
そのままブツブツと呟き出した瑠里。その様子に、またもや話題を変えようとする横島。何か話題がないかと、瑠里とは反対側――横島たちの左側――に馬を並べていた朱里たちに視線を向ける。
そこには、二人で何やら楽しそうに話をしている姿が。そんな彼女たちの装いは、昨日までと違う箇所が一つあった。それは、手首に巻いた紅い布。雛里は右手首に、朱里は左手首にそれぞれ巻いている。
「そういや、士元ちゃんたちのそれ。どうしたんだ? 風ちゃんも首に巻いてるけど……」
「ひゃ、ひゃい!? こ、これですか? これは……そのぉ……」
横島の指摘に驚き、慌てる雛里と朱里。その様子を疑問に思う横島だったが、その答えは風によってもたらされた。
「この紅い布はですねー。仲間の証なのですよ。元直ちゃんも、服に隠れて見えないですが左腿のあたりに巻いてますよ。嘘だと思うのなら見せて貰ったら如何です?」
「いや、別に疑ってないって……」
「そですか。お兄さんに見せられなくて残念でしたね、元直ちゃん?」
「な、何をでしゅか!?」
風の言葉に、慌てる瑠里。その顔は、横島の前で太ももまで露わにした自分を想像していたのか、少々赤く染まっていた。
風が仲間の証と横島に伝えたお揃いの紅い布。その言葉に偽りはないが、横島には意図的に隠していることがあった。
それは、何故仲間の証が紅い布なのかということ。風たちが紅い布を選んだ理由。それは、横島のトレードマークが紅いバンダナ――つまり、紅い布だから。彼女たちにとって、“横島の”仲間の証としてこれ以上のものはなかったのである。
因みに、それぞれ違う箇所に巻いている理由はそれぞれである。風が首に巻いている理由は、普段の服装では手首では隠れてしまうため。雛里は横島の右手になるという決意から、右手に巻いており、朱里は雛里が右手首に巻くなら左にという理由であった。
そんな中、一人見えない箇所に巻くことにした瑠里の理由はというと、一旦“白の御使い”の同行を探る為に別行動を取るからである。彼女は、無事に合流出来た時は、見える場所に巻きなおそうと決めているのである。一種の願掛けである。
そんなことだとは知らない横島は、さっさと次の話題へうつっていた。
「そういえば、もうすぐだよな。やたら強い人たちがいる村ってのは」
「あ、はい。聞いた話では、双剣を使う眼鏡の人に、特徴的な言葉使いで喋るノリのよい人。それと、気弾を飛ばす銀髪の人が中心になって村の自衛にあたっているそうで」
雛里の言葉を聞いた横島は、その三人の姿を想像していくが気弾を飛ばすというフレーズで頬を引きつらせる。
「へ、へー。ま、いきなり喧嘩売ってくるようなことはない……よな? な?」
引きつりながら問いかける横島。その脳裏には、バトルジャンキーという言葉と、自分に向かって霊波砲を放つ男――伊達雪之丞の姿。
一気に村へ向かう気力がなくなった横島だったが、逞しい黒馬はその足を止めることはない。
村まであと数時間。そこで一行を待っているものとは。
第十六話 登場! 三羽烏
「お兄さん、頭の上でブツブツ言うのはやめてください」
「あ、はい」
十五話です。短いです。馬については、名前を募集するかも。
ついでに、やたら強い人たちの正体もほぼほぼ判明。本格登場は次回。
因みに今年最後の更新となります。多分。今日が仕事納めで、そのまま宴会。
年末年始は帰省するので、更新は期待しないでください。環境が悪いので。ええ。
横島の馬。布。やたら強い人が守る村とその位置。
これらは拙作内設定です。
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活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。割と更新してます。