道化と紡ぐ世界   作:雪夏

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幕間的お話です。


二十三節 平和って素晴らしい!

 

 

 

 

 陳留に到着してから十日余り。陳留太守である曹操孟徳――華琳――の食客となった横島、風、雛里、朱里の四人は騒がしくも平穏な日々を送っていた。

 

 

 

 

「あら、仲徳だけなの? まぁ、いいわ」

 

「お兄さん……子考様はクロちゃんとこですね~。他の二人も本屋に行くとかで一緒にお出かけ中ですね~。それにしても、太守様もお一人とは珍しい。して、何用でしょうか」

 

 今日も横島たちが滞在する屋敷に、華琳が訪ねてくる。彼女は横島たちが食客となってから、度々街の視察のついでと言っては立ち寄っていた。

 

「大した用ではないわ。一度落ち着いて話がしたいと思っただけ」

 

「……だから、あの二人を連れていないのですか」

 

 華琳の言葉に呆れた顔をする風。太守が落ち着いて話がしたいという理由で、一人行動することもだが、そうしないと落ち着いて話が出来ないという事実の両方に呆れたのである。

 

「まぁ、そういうことね。でも、子考がいないのなら連れてきても大丈夫だったかしらね」

 

「かもしれませんね~」

 

 何処か苦笑気味に答える風。その脳裏には、食客となってからの騒動――主に華琳に付き従う姉妹の姉の方と横島が起こす――の数々が思い浮かんでいるのであろう。

 

「でも、あの娘は子考のこと気に入っているのよ。子考は丈夫だから」

 

「それ、訓練用具か何かと思っていませんか」

 

 風のツッコミに、あの娘なら有り得ると思った華琳だったが、主として部下をフォローすることにした。

 

「一応、人間だと思っているとは思うわよ。まぁ、全力疾走の黒風に平然と乗っている姿を見たときは、流石の私も疑問に思ったけど」

 

「ああ、あの時の……クロちゃん疾かったですよね~。絶影ちゃんもですが」

 

「私の愛馬なのだから当然よ。まぁ、疾いと思っていた絶影が私に遠慮して全速を出していなかったことや、子考に懐いた上に全速で駆けていったのは癪だけどね。あの勝負のおかげか、子考って軍部受けはいいのよ? 馬術に長けた人物だとね」

 

 風が思い出すのは、華琳(絶影)横島(黒風)の早駆け勝負の時のこと。自分たち横島配下と、華琳の臣下の中でも上位に位置する者たちのみが見学していた。

 その時、馬術に優れていると認識されたのであろう。もしかしたら、あの将軍の一撃に耐える丈夫さも受けたのかもしれない。

 

「まぁ、アレはお兄さん……子考様がと言うより、クロちゃんや絶影ちゃんが凄い気もしますが」

 

「あの二頭を乗りこなせるなら十分凄いわよ。それと、普段通りお兄さんでいいわよ」

 

「そうですか? 一応、出来る家臣としては身内のやり取りを外に見せるのはどうかと思うのですが……」

 

「その心掛けはいいとは思うけど、公式の場でもないのだし私相手には不要よ」

 

 その華琳の言葉に頷くと同時に、予想以上に華琳に気に入られているのだと風は判断する。城主の間でも楽にして良いとは言っていたが、アレはこちらを試す意図や家臣たちへのアピールの面が強かった。

 しかし、今は家臣を連れていない。つまり、華琳は風に対し気を許していることになる。無論、華琳が風を懐柔する為にわざとそう言った態度を示している可能性もある。

 

(むしろそっちの方が高いですかね~。ま、軽視されるよりは良いと考えますかね~)

 

 その後、華琳と風の二人は侍女の淹れたお茶を飲みながら、大陸情勢について意見交換をするのであった。

 

 

 

 

 

 華琳と風が殺伐とした大陸情勢を肴にお茶を楽しんでいる頃、朱里と雛里は本屋付近にある茶屋で話をしていた。

 

「もう着いたかな、瑠里ちゃん」

 

「う~ん、手紙には幽州へ向かう商隊を見つけ次第向かうって書いてあったから……順調に出発出来ていれば着いてるかも?」

 

「そっかぁ。そう言えば、瑠里ちゃんびっくりしてたよね。もう食客になったのって」

 

「そうだね。でも、私たちでも驚いちゃうよ。着いたその日に、食客になっちゃうんだもん」

 

 そう言うと笑い合う二人。その時は、予期せぬ事態に内心不安でいっぱいであったが、今となってはいい勉強になったとも思っていた。計画通りに進める困難さ、想定外の事態から最善を掴むことの困難を実際に体験できたのだから。

 

「今度は私たちで子考様の道をつけたいね」

 

「そうだね、雛里ちゃん。あの時は仲徳ちゃんが道をつけたけど、子考様の軍師としては自分の手でって思うよね」

 

「負けてられないね。仲徳ちゃんにもだけど、瑠里ちゃんにも」

 

 遠く幽州へと向かっているであろう親友のことを思う。先日届いた手紙では、推挙したい人物と洛陽にて縁故を得た人物について記されていた。

 

「司馬仲達……司馬家で最も優れたる者かぁ。この人を迎えることが出来れば助かるんだろうけど……」

 

「うん。ますます頑張らないと、私の筆頭軍師への道が……」

 

「……朱里ちゃん、一緒にとか言いながら自分が筆頭になろうと狙ってたんだ……」

 

「はわわ!? しょれは、ほ、ほら、水鏡女学園主席卒業としては、一番を目指すべきかなぁって! ……っていうか、雛里ちゃんも一番がいいって思ってるんでしょ! そ、それに知ってるんだよ! 子考様に真名を預けるときの練習してるの!」

 

「あわわ!? にゃんでしょれを! そ、それを言うなら朱里ちゃんだって……どうかご主人様って……その本をどうする気なのかな、朱里ちゃん」

 

 密かな野望を明らかにした朱里をジト目で見ていた雛里であったが、そこからお互いの秘密を暴露しだす二人。やがて、雛里に仕返しされそうになって狼狽えた朱里が、先程購入した本を振りかぶると雛里も応戦すべく本を構えるのであった。

 

 

 

 

 

 朱里と雛里の二人が本でポカポカとやっている頃、横島は一人厩で黒風の世話を行っていた。

 

「ここか、ここがええのんか? ああ、最近は何かと吹っ飛ばされてたからな~。うん、平和って素晴らしい! まぁ、あの乳との触れ合いがないのは寂しいが……」

 

「まだここに居られましたか、子考様。曹太守がお一人で屋敷にお見えです。一段落しましたら屋敷にお戻りを」

 

「ん? 伯寧さん?」

 

 横島が振り向くと、横島の屋敷に雇われている侍女の一人が立っていた。彼女は、他の侍女とは違い華琳の派遣ではなく、横島たちが直接雇い入れた侍女であった。

 

「はい。伯寧です。屋敷の主人として、また食客の身としては突然の来訪とは言え、挨拶しておいた方が良いかと。この厩も借りていることですし」

 

「まぁ、孟徳ちゃんは気にしないとは思うっすけど、伯寧さんの言うことも一理ありますね。ちょうどクロも満足したみたいだし、これが終わったらすぐ戻ります。わざわざ、すみませんっした。にしても、一人とか珍しい」

 

「子考様。私は雇われの身。敬語や遠慮は不要です」

 

 無表情に告げる侍女に、どこか怪しげな敬語で返す横島。その言葉を聞いた侍女は冷静に、敬語や遠慮は不要と告げる。

 

(伯寧さんって、出来る美人秘書って感じで、つい敬語使いたくなるんだよなー。それなのに本人は侍女意識が高いからか、上下に厳しいからか敬語はダメって言うし……何度言われても慣れんなぁ)

 

「それと、こちらを。仲徳様より子考様にと預かりました。では、私は夕飯の買い出しに向かいますので。出来るだけ早くお戻り下さい」

 

「あ、はい」

 

 紙切れを渡すと一礼して去っていく侍女を見送った横島は、手元の紙切れに目を落とす。

 

「なになに……『伯寧さんの次は風の下着とかどうですか』……アカン、バレとる」

 

 全身から汗を吹き出す横島。それは、自分の所業を見抜いていた風に対してなのか、この紙切れの内容を知っている筈なのに何も言わなかった侍女に対してであったのか、横島には分からなかった。

 

 

 

 

 




 本当、お待たせして申し訳ありません。
 今回は幕間的なお話。夏侯姉妹は追々。次話からは二章となります。原作主人公である一刀さんが出現したりと、徐々に乱世の風が吹いてきます。

 横島と会話していた侍女は恋姫には登場していないキャラです。分かる人は分かると思います。

 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。感想いただけるとモチベーションあがります。
 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。

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