「ようこそお出でくださいました。司馬建公でございます。こちらに並ぶのは娘たちです」
華琳につれられやってきた屋敷の前で、ずらっと並んだ少女の中から妙齢の女性が代表して挨拶を行う。彼女は名を司馬防建公といい、名家司馬家の当主にして司馬八達の母である。彼女はまるで今日横島たちがやってくるのが分かっていたかのようで、家族総出で出迎えていた。
華琳も驚くことなく、当然のような態度であることから事前に訪れることを通達していたのだと横島は思ったが、華琳の言葉でそうではないことを悟る。
「出迎えありがとう……と、言いたいとこだけど……この出迎えは私にではないのよね?」
「ええ。曹太守様には申し訳ありませんが、違います。私たちがお出迎えしたのは、あなた様にございます」
その視線の先には横島の姿が。視線を向けられた横島は慌てるが、隣に並ぶ風たちは落ち着いている。名家である司馬家ならば、例のアレについても情報収集も出来ているだろうと思っていたからである。
事前に司馬家の次女を勧誘したいと話をしていた風たちは、華琳だけならば問題ないと判断し、返答の言葉を返す。
「丁寧なご挨拶ありがたく。私は程仲徳。こちらにおわします横子考様――碧の御使い様の臣にございます」
「同じく諸葛孔明」「鳳士元にございます」
「お、横子考です」
横島たちの紹介が終わると、華琳は横島を面白そうなものを見つけたという目で見つめていたが、ここで問いただす気はないようで司馬防に話しかける。
「その様子だと、彼がそうだと知っていたのかしら?」
「いいえ、存じ上げません。ただ、娘が言うのです。今日、大事な来客があると」
「ほう。その娘と言うのは?」
華琳の問いに自分の口から言う気はないようで黙って微笑む司馬防。それを咎めることもせず、華琳は風たちに話を向ける。
「ここからはあなたたちの思うままになさい。ああ、後で説明はしてもらうわよ?」
そう告げると、その場を立ち去ろうとする華琳に雛里が待ったをかける。現状、どう動くか不明なままで華琳を遠ざけるのは危険だと判断したからである。
「お待ちください、太守様。ここはあなた様にも同席して頂きます。理由は話さずとも理解されていますよね?」
「分かったわ」
(ここで士元が止めるか。仲徳も孔明もこちらを向きもしない。士元なら可能と判断したか。それにしても、普段のおどおどした感じも可愛いけど、こっちもなかなか……)
華琳がそんなことを考えているとは知らない雛里は、司馬家の面々に向き直り口を開く。
「私たち……いえ、御使い様のことを予言されたのは、司馬仲達殿ですね?」
その言葉に対する反応は顕著であった。微笑をわずかに崩しただけの司馬防とは違い、その娘たちは驚きを顔に出していた。司馬防はその娘たちの態度に、一度ため息を吐くと雛里の問いに答える。
「その通りです。それにしてもよくご存知でしたね? 我が娘たちは皆優秀ですが、個人の名を知られているのは都に出ている長女くらいだと思っていましたが」
それに対する返事は朱里であった。彼女は懐から書簡を取り出すと、それを司馬防に手渡す。司馬防が受け取ったのを確認した後、朱里は口を開く。
「司馬伯達殿――あなたの長女から司馬仲達殿を我が主に推挙する書簡です。最も、彼女は主が御使い様だとまでは知りませんでしたが」
「……ふむ。確かにあの娘の字ですね。そうですか、あの娘もあなた方を……」
そう呟くと、彼女は横島たちを屋敷の中へと向かい入れるのであった。
事態に流されるままの横島が屋敷に入って目にしたのは、こちらに土下座しているおそらく少女の姿。腰くらいまであるであろう長い白髪が重力を受けて広がり顔を覆い隠している為、その表情は確認できない。
一緒に入ってきた風たちもその光景に息を飲む中、母親である司馬防は少女のそばまであるくと少女を指差し、無感情に告げる。
「これが司馬仲達。あなた様を待っていたものです」
――その頃の瑠里ちゃん その1――
瑠里は無事に幽州へと到着し、太守である公孫賛の客将となることに成功していた。
「いやー、元直が期限付きとは言え来てくれて助かったよ。客将だから、細かいことまで任せられないのが残念だが」
「ありがとうございます。それにしても、太守様は凄いですね。子龍さんが調練を引き受けているとは言え、文武両方をほぼ全て自らやられているとは」
「伯珪でいいって言ってるのに。それに、そんなに褒めなくてもいいよ。所詮、私は器用貧乏だって自覚してるからさ。頭では元直の方が上だし、趙雲の武の足元にも及ばないしな。ま、騎馬だったら負けてやるつもりはないけどな」
明るく笑う赤髪の少女。彼女こそが幽州の太守である公孫賛伯珪その人である。本人は器用貧乏だと謙遜するが、そんな人間が異民族と国境を隣にし、小競り合いが絶えない幽州を保てるわけがない。確かに、彼女の智や武は超一流、一流といわれる人物には劣るだろう。しかし、その両方を一流にわずかに劣る程度のレベルで修め、騎馬を指揮し異民族と渡り合える人物がどれだけいるのであろうか。
その点を自覚していない公孫賛をもったいないと思いながら、瑠里はその点を指摘することはしなかった。今の段階でそこまでする義理がないこともあるが、何れ去る身としては後の脅威を増やすことはないと思ったからである。
そんな高い評価をされているとは知らない公孫賛は、知っているかと瑠里に話しかける。
「何でも、ここから近い村に天の御使いが現れたと民たちが噂しているらしいぞ? そんな噂が流れているってことは、漢の威厳が薄れちまってるってことなんだろうな」
「そうですか。ここは異民族との争いが絶えませんからね。そんな噂にもすがりたいのでしょうね。……頑張らないといけませんね」
「おう、そうだな」
瑠里の言葉に気合をいれる公孫賛は知らない。瑠里が気合をいれたのは、遂に自分の役目を果たすときが来たのだと悟ったからであることを……
横島が喋っていない!?
遂に? 仲達さんの登場です。あと、北郷一刀君もほの字くらいは登場しましたね。
今度こそ近いうちに続きを更新したいものです。
司馬家関連。
これらは拙作内設定です。
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