道化と紡ぐ世界   作:雪夏

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半分以上がその頃瑠里ちゃんシリーズです。


2016/12/14 修正
曹仁子孝の孝の字を間違っておりました。
それに伴い、次のように内容を修正していおります。

修正内容
サブタイトル。
偽名の由来。
間違った字の訂正。


六節 曹仁子孝

 

 

「新しい名前?」

 

 黒風たちの準備を終えた横島が、華琳たちの所に戻ってくると華琳に唐突に新しい名について告げられる。

 

「そう。今まで、忠夫は横子考と名乗っていたけど、横なんて家名は珍しいわ。少なくとも私は聞いたことがない」

 

「まぁ、偽名については取りあえずって形でつけましたからね。正直、早々に名乗る機会が来るとは思ってませんでしたので。時期を見て改めて検討しようかと思っていたんですけど」

 

「ああ、華琳ちゃん…「忠夫。真名を交換したのだから、呼び捨てにしなさい」…華琳が城門なんてとこにいたから、検討する前に名乗る羽目になっちまったのか。じゃ、華琳が悪いんじゃないか」

 

 横島の無茶苦茶な論理に、そうねと同意する華琳。正直、ツッコミ待ちだった横島はその対応に驚く。そんな横島を無視して、華琳が続ける。

 

「だから、私が考えることにしたの。それで、さっき皆の同意も得たとこだったのよ」

 

「へー。で、何になったんだ?」

 

「いい? 心して聞きなさい。姓は曹、名は仁。字は子孝。曹仁子孝――真名を忠夫。それが、天の世界から来た天の御使い、横島忠夫の新しい名前よ」

 

「曹仁子孝――」

 

 新しく自分の名となった言葉を繰り返す横島。意外としっくり来るそれは、天の世界の史実では曹操に若き日より付き従った曹魏の功将、知勇に優れた名将と評された男の名であった。

 

「まず、名の”仁”だけど思いやり、やさしさって意味があるの。そして、天ではどうか知らないけど、大陸の教えの中に”仁”という概念があって、その仁には貴方の真名である”忠夫”のこの字……”忠”という概念も含まれるわ。つまり、”仁”はあなたの真名を含んでいるの」

 

 文字を書きながら説明する華琳に、頷く横島。概念について詳しく説明しないのは、華琳の優しさなのか、理解できないだろうと不要な手間を省いたのかは華琳にしか分からない。

 

「そして、字ね。読みは変わらないけど文字は”子孝”に変わっているから気をつけなさい。名の仁から連想し、”孝”。これも、”忠”と同じく”仁”に含まれるとされる概念だから、名の仁から連想して字につけても不自然ではないし、父母を大切にするのはこの世界では当然のことだから、他の人からも受けがいいと思うわ。あとの”子”は、私の一族では多く字に使っているし、風もこの字が貴方には相応しいと主張したから残したわ。曹家に連なり、仁と孝を兼ね備えた人物。うん、良い名前になったわ。その名に恥じないように気をつけなさいね」

 

「お、おう」

 

 因みに、名前を考える過程で名の仁や字の子孝はすんなりと決まったのだが、姓を曹とする際は揉めた。袁姓は論外だし、劉姓は漢と関わりが深い。なら、馬術に長けているから馬姓が良いのでは、いやいっそ孫姓にと、議論は二転三転した。その結果、冗談で風が曹姓にすればいいのではないかと言ったのだが、結果それが華琳に受け入れられたという経緯があるのである。

 

 そんな経緯があるとは知らない横島は、呑気に新しい名前を呟くのであった。

 

 

 

 ――その頃の瑠里ちゃん その4――

 

「釣り野伏せ……囮部隊の偽装敗走で敵を釣り出し、敵兵を左右に伏せた兵で三方を包囲し殲滅する。囮となる兵の錬度と、左右の伏兵の殲滅力が決め手となる戦法。寡兵で戦う為の戦法なのでしょうが……」

 

 高台から戦場を見渡していた瑠里が呟くと、待機していた公孫賛が口を開く。

 

「賊相手にも絶大な効果を発揮するってことだな。面白いように釣れてるよ」

 

「正規兵でも追い討ちをかける場面で、賊が敗走を疑うとは思えませんからね。しかも、正規兵ではなく義勇兵を囮とすることで、敗走を疑われにくくしてます」

 

「まぁ、流石に他人の軍に囮になれとは言えないからな。お、押し返すぞ」

 

 公孫賛の言うように、釣り出された賊に左右から関羽隊と張飛隊が突撃し、同時に囮を担っていた劉備+御使い隊、趙雲隊が反転、攻勢に出る。

 

「うん、流石は趙子龍だな。義勇兵たちを上手く操ってくれた」

 

「どうしても囮となる隊の損害が酷くなりますからね。子龍さんが損害を減らすように上手く指揮しなければ、左右の兵が間に合ったかどうか。囮となる隊は、天の御使いの策を信じているとはいっても、不安だったでしょうから。天の御使いの戦術は見事でしたが、それを支える将と兵が足りませんね」

 

「それはこれからだろうな。この釣り野伏せで今回、囮の大半を担ったのは義勇兵たち。彼らが今後も北郷たちを信じついて行くのなら、彼らは中心を担う兵になるだろうな。激戦を天の御使いと共に駆け抜け、作戦の要を遂行したという自信を得たんだからな」

 

「そうですね……」

 

 瑠里たちの視線の先には、殲滅戦を終え勝鬨の声をあげている義勇兵たちの姿。左右から突入した公孫賛軍の騎馬兵たちの錬度と、一騎当千といえる三人の武将の存在があった為、本人たちが思うほど死戦ではなかったのだが、彼らは今後の戦場で勇敢に戦う土台を得たのである。

 何より、比較的安全な戦場で戦術を試せたのは彼らにとって大きな糧となるだろうと瑠里は思う。これから独立する彼らは賊を相手に常に兵力が上回るとは限らない。そんな彼らが寡兵で戦う戦術を確立できたことの意味は大きいし、何より大勢の賊を前にしても勝てると戦術があると思えば兵たちの士気が違う。天の御使いという威光も届きやすいだろう。

 

「ある程度戦えることが分かって、太守様も安心ですね?」

 

「うん? まぁ、元々は私の民だからな。生き残れる確率があがったってのはいいことだ」

 

「義勇兵たちもですが、劉玄徳さんですよ。お友達なんでしょう? 彼について行っても、すぐ敗走、行方知れずってことはなさそうですから」

 

「まぁ」

 

 そういって照れくさそうに頬を掻く公孫賛。太守としての彼女からすれば、民を奪った相手を思うのは良くないだろうが、個人としては友人である彼女のことが心配なのである。

 そんな友人を想う彼女に、瑠里は友たちを思い浮かべる。そして、公孫賛に告げるのであった。

 

「そろそろお暇しようかと思います」

 

「……そうか。黄巾党の件が片付くまで居てくれたらと思ったが……。元より、勉強の為に期限付きでのことだったんだ。ま、元直に任せていた仕事は出陣前に終わってるし仕方ないか」

 

「ありがとうございます」 

 

 そういって頭をさげる瑠里に、よしてくれと笑いながら告げる公孫賛。彼女はふと瑠里の今後を聞いたことがないことを思い出す。そして、良ければと前置きして今後について尋ねる。

 

「これからどうするんだ? 天の御使いについていくのか? あいつに勧誘されてたろ?」

 

 その言葉に、道中何度も知恵を借りたいとか、一緒に行こうと勧誘されたことを思い出した瑠里は少し不快そうな表情をしたが、公孫賛は悪くないと努めて笑みをつくり否定の言葉をつげる。

 

「いいえ」

 

 瑠里の想定以上に冷たい声が出た。それに引きつった顔をする公孫賛。

 

「確かに智の御使いといわれるだけのことは、あるかもしれません。ですが、母が友人に人質にされると言われて、ついて行く訳がありません」

 

 そうなのである。勧誘を断る際に、母の元に行こうと思っていると嘘をついたのだが、それに予想以上に反応し、あげくこんな言葉を吐いたのである。

 

『まさか、もう程昱に人質にされているのかっ!?』

 

 何故、名前を知っているのかと問い詰めることもせず瑠里は、話を打ち切りそれ以来勧誘に来ても体調不良を理由に会ってもいない。

 

「彼に言っておいてください。母が人質になるといけないので、母の元に行きますと。それと、釣り野伏せは見事な戦術でした。より一層磨き上げれば、黄巾党を蹴散らすことも可能となるでしょう。ただ、囮をした兵は十分に労ってくださいと」

 

 そう公孫賛に言付ける瑠里。分かったと頷く公孫賛に、それとと続きを告げる。

 

「あなたと言う龍は今日、伏せることをやめ飛び立ちました。これから先の乱世でただの龍で終わるのか、黄龍と変わるものなのか、見極めさせてもらいます、とも」

 

「分かった。にしても、黄龍ねー。天の御使いが漢ととって代わるって?」

 

 公孫賛は黄龍を現在の皇帝=漢の比喩だと思ったようである。それを否定することなく、瑠里はただ微笑むだけであった。そして、瑠里は最後に公孫賛にも言葉を残す。

 

「お世話になりましたので、太守様にも一言。遠からず大陸全土を飲み込む乱世がやってくるでしょう。その時、太守様が太守公孫賛伯珪ではなくなる時が来るかもしれません。その時は私たちを頼ってください。きっと、助けになれると思います」

 

「私が太守でなくなる時……か。不吉なことを言う。で、私たちってのは? 元直と元直の母か?」

 

「いえ。私の主です」

 

 その言葉にため息を吐く公孫賛。勉強の為に食客になったのだから、てっきり主を探しているのだと勝手に思っていたが、瑠里に騙されていたようだと気づいたようである。

 

「全く……もう主がいるとはね。他の太守の仕事を勉強しに来たってのかい?」

 

「いえ、違います。主は太守ではありませんので。それに太守様には悪いのですが、太守様は自分で仕事をしすぎです。太守の仕事という意味では、全く参考になりませんでした」

 

「あ、そう? ま、いいや。で、主ってのは? それを知らなければ、頼りようがないじゃないか」

 

「今は陳留に身を寄せています。何れ紹介させて頂く機会もあるかもしれまえんね」

 

「何だ、今教えてくれないのか」

 

「意外とその時は近いかもしれませんよ?」

 

 そういって微笑むと、瑠里は白の御使いたちと会わないようにと、一足先に幽州へと戻り、陳留で待つ横島たちの元へと向かうのであった。

 




 大半が瑠里ちゃんシリーズでした。次はその頃○○シリーズが始まる……かもしれない。
 曹仁子孝が横島の偽名。これは当初から決めていたことでした。私は好きな武将なんだけど、演技では脇役扱いだし、恋姫には出てこないし。それなら、横島の偽名にして活躍させようと思ったのが理由です。
 途中で英雄譚を知り、追加武将に曹仁いるじゃん!となりましたが、このまま突っ走ります。つまり、拙作に曹仁ちゃんは出てきません。曹仁ちゃんファンの方すみません。

2016/12/14 追記
 曹仁子孝の漢字が間違っておりました。訂正しております。また、これより前の話数については、「子孝」ではなく「子考」のままです。これより前は、風が決めた偽名である為、そういう漢字なんだとお考えください。

 また、大陸の教えとぼかしましたが、儒教のことです。儒教の仁に忠と孝が含まれるという主張を採用しました。


 横島の偽名が曹仁子孝。
 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。感想いただけるとモチベーションあがります。
 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。

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