道化と紡ぐ世界   作:雪夏

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戦の前段階です。


八節 人とは面倒なものね

 

 

 

 

「さて、春蘭は兵たちを何時でも出発出来るよう準備させなさい。秋蘭は件の人物を呼び出してちょうだい」

 

「分かりました。華琳様」

 

 陳留に到着するなり、姉妹に指示を出す華琳。それに全く同じタイミングで返事をした姉妹は、それぞれ華琳の指示を果たす為に移動する。それを見送った華琳は横島たちに向き直り、数秒考えてから告げるのであった。

 

「あなた達は一緒に居なさい。あなた達の読みが正しければ、件の人物は軍師志望。私でも判断は出来るけど、あなた達の意見も聞いてみたいわ。それに、策を実行するとなった場合、私も成果を見るために出陣するから、陳留の留守はあなた達に任せることになる。それなら最初から任命の場にいた方が早いしね」

 

 華琳の言葉に首を傾げる横島。華琳が出撃する理由は分かるが、自分たちに留守を任せる理由が分からないためである。

 

「オレらが留守を守るって無理じゃないか? 兵たちが従わないだろ?」

 

「あら、忠夫は軍部受けがいいのよ? それに、今回は遠征と言っても数日かかるという訳ではないから留守を預かるといってもお飾りといっていいわ。実際に何かあったら、私に伝令を出すだけの将と皆は判断するでしょうね。そして、主だった将や文官は私が忠夫たちの評価をあげようとしていることにも気づくでしょう」

 

 横島を守将として残すことで、華琳の信頼を得ていることを示すというのが狙いのようである。それに反対したのが風であった。

 

「それは止した方がいいと思いますよ~」

 

「何故かしら?」

 

「風たちは客将と紹介されているということです。今回から正式に加わると通達したとしても、今までの訓練に参加している訳でもありません。幾ら軍部受けが良くても、そんなお兄さんがいきなり留守を任されるというのは反発を招く可能性があります。それに、当初守将と決まっていた人物が居るはず。その方も印象を悪くするでしょう」

 

「私の部下にそんな狭量な者がいるとは思いたくはないけど……」

 

「表立って反発するものはいないと思いますよ。そして、華琳さんの近くに居るものは、華琳さんが言う通り、華琳さんの意図を理解しれくれるでしょう。でも、内心に小さなしこりが残ることになります。それが、人です」

 

 風の言葉を聞いた華琳は腕を組み考える。やがて、考えがまとまったのか口を開く。

 

「風の言葉通りなのでしょうね。たまには、回り道をしなければならないということね」

 

「華琳さんが、お兄さんのことを考えて行動しようとしてくれたことは感謝します。ですが、人は皆同じではありません。華琳さんには煩わしく思える遠回りも、時には必要なのですよ」

 

「全く人とは面倒なものね。でも、それを統べると決めたのは私。それら全てを呑み込んで見せましょう」

 

「それが華琳さんの道ですか」

 

「そうよ。人々が暮らす世を統べる。それまで止まる事ない覇者としての道よ」

 

 その華琳の宣言に、風はこの人物が正しく英傑なのだと確信する。忠夫と出会わなかったら、この人物を自らの太陽と掲げただろうとも。しかし、風はそれを残念には思わない。

 風には確信があったからである。横島と出会った自分は華琳と歩むより幸せだという確信が。何より、華琳の道はやがて横島と寄り添うことになると確信しているからである。

 

(華琳さん。風は知ってるんですよ。あなたがよく笑うようになったことを。秋蘭さんが言ってましたからね~。きっと忠夫さんと出会ってしまったからでしょう。そんなあなたの覇道は、あなたが思っていた覇者の道よりもきっと優しいものとなるでしょう。だって、あなたは仁を否定しないで傍に置くことを決めたのですから)

 

 

 

「で、結局オレはどうすれば?」

 

「そうね……客将ではなく、正規に私に仕えることになったことにして……。やはり、私の傍にいなさい」

 

「こうか?」

 

 華琳の言葉に横島が彼女の真横に移動する。その距離は肩が触れ合う程である。それを確認した華琳は、そういう意味じゃないとため息を吐く。

 

「そういう意味じゃないわ。大体、私はこれでも構わないけど春蘭に見られたら間違いなく空を飛ぶ羽目になるわよ?」

 

「そ、それは困るな……」

 

 一歩横にずれる横島を可笑しそうに見ていた華琳であったが、何やら生暖かい視線を向けてくる風に尋ねる。

 

「どうかした?」

 

「いえいえ、何でもないのですよ。それより、お兄さんを連れて行き華琳さんの傍に配置。経験を積ませると共に、重宝するという意思を周囲に示すというのは妥当かと思います。それで相談なのですが、風と澪ちゃん、孔明ちゃん、士元ちゃんのうち一人を一緒に連れて行ってくれませんか?」

 

「一人でいいの?」

 

「はい。風としては、孔明ちゃんと士元ちゃんのどちらかが都合が良いのですが。どうですかね?」

 

「わ、私でしゅか!? はわわっ」

「あわわ、私でしゅか!?」

 

 風の提案に狼狽える朱里と雛里。名前を呼ばれなかった澪は、微笑みを絶やしてはいないが何故と視線で問い掛けている。

 

「二人を推薦した理由は簡単です。澪ちゃんは名家司馬家の次女ですので、知名度は抜群です。それでも能力を疑う者はいるでしょうが、それもやがていなくなるでしょう。となると、残りは風と水鏡女学院の二人。水鏡女学院の二人のうちどちらかが、この戦で評価されれば残りも一目置かれることになります。何より、もう一人の仲間、元直ちゃんも同じ学院出身ですから戻ってきた時に推挙という形をとりやすい。風も推挙に値する人物に心当たりはありますが、彼女は絶対にこちらに来るとは言えませんから」

 

 内心、絶対華琳の元に来るだろうと思っているが、あくまでも華琳の元なのである。横島の臣や味方と言う訳ではない。彼女のことは親友とは思っているが、ここは涙を飲んで横島の為になる方を優先させて貰うことにする風であった。

 

「そう。残った風も、澪たちと同等の能力があると一目置かれる可能性が高いから、全員が一度に城内での評価をあげるにはいいかもね。一定の評価があれば仕事を回しやすいし、あなたたちなら更に評価を高めることは可能でしょうしね。それが必然的に忠夫の評価をあげることにもなる……か。いいでしょう。どちらかを忠夫の副官として連れて行きましょう。ただ、今回は件の人物の策を試したいから、然程活躍は出来ないかもしれないわよ?」

 

「それは構いませんよ。ただ、風たちに城内の仕事をまわして頂ければ。そっちで評価をあげますから」

 

 その風の提案を快諾した華琳は、どちらを連れて行くかを横島に尋ねる。尋ねられた横島は、どちらにすべきか悩んだ結果じゃんけんで決めることにする。

 

「じゃんけん……ですか?」

 

「それって、子孝様が子供たちに教えていた遊びですよね?」

 

「そう、それ。困ったときはじゃんけんってな」

 

「遊びで決めるものではないのだけど……まぁ、忠夫に任せた訳だし決まるのならそれでいいわ」

 

 華琳が承諾したところで、じゃんけんを始める朱里と雛里。あいこを繰り返す彼女たちを前に、華琳と澪は横島と風の二人からじゃんけんの説明を受ける。

 

「へ~。似たような遊びはあるけど、こっちの方が分かりやすいわね。一瞬で勝敗が分かるし、出しやすいし」

 

「そうですね。簡単なので覚えやすいですし、すぐに広まりそうですね」

 

 澪の言う通り、じゃんけんは今後大陸全土に広がりを見せるのであるが、それは置いておいて今は朱里たちである。壮絶なあいこの末、雛里が勝利したようである。

 

「か、勝ちました!」

 

「うう、雛里ちゃんならあの場面では、絶対グーだと思ったのに……」

 

「決まったようね。では、孔明には澪と風と一緒に仕事をしてもらいましょう」

 

 何の仕事が良いだろうかと悩む華琳に、澪が提案する。

 

「華琳様。私としては、この機会に情報の整理を行いたいと思います。西涼や荊州方面は遠い為に、幾分情報が遅れていますので、使える情報かどうかを判断したいです」

 

「あ、なら私も手伝います。荊州方面の情報は持っていますから」

 

「それなら風は文官たちの仕事を手伝いますかね。適当に割り振って頂ければ、それで構わないですよ」

 

 それぞれの提案に反対する必要もないので承諾する華琳。特に澪と朱里の情報には期待していた。同時に情報を収集する特殊部隊の設立を決意する。今までは、集めた情報を精査できる文官が少なかった為に、情報収集に力をいれていなかったが頼もしい軍師が増えた今なら運用が可能だと華琳は判断したのである。

 

「さて、そろそろ秋蘭が戻ってくるわね」

 

 華琳の言葉とほぼ同時に、秋蘭がやってくる。傍らに控えている少女が、件の人物なのであろう。彼女たちの方を向いた横島たちは、自然と横島と華琳の二人が中心となるように立つ。

 

「連れて参りました、華琳様」

 

「ご苦労。で、彼女が?」

 

「はい。彼女が件の人物です。元は、文官試験に応募して来たのを優秀でしたので、兵馬の監督官を任せました」

 

「そう。名は?」

 

 華琳の視線を受けた少女は、華琳の傍にいる横島を睨み付けるのをやめかしこまった表情で自己紹介を始める。

 

「荀文若と申します。以前は南皮で軍師をしておりました」

 

「そう。何故呼ばれたかは分かっているわね? 回りくどいのは嫌いなの。我が軍で軍師となりたいのなら、策を言いなさい」

 

 華琳の言葉に一瞬驚いた表情をする文若であったが、顔を輝かせて策を語っていく。それを聞いた華琳は、一つ頷くと横島たちに視線を向ける。どう思うかを問われているのだと思った横島だが、策の良し悪しを判断できる訳がなく傍に立つ雛里に視線を向ける。

 

「どう?」

 

「問題はないかと。相手の規模次第では厳しい戦になりますが、そこは斥候の情報を元に囮と伏兵の数を修正すれば何とでもなるでしょう。伏兵を配置し挟撃するに適した地形も、あの辺りにはありますしね」

 

「だそうだけど?」

 

「そうね。釣り出しが上手く行かなかった場合の策も、十分に評価出来る。あなたに此度の戦の行方を預けるとしましょう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 華琳の言葉に喜び感謝する文若。そんな彼女に、華琳は愛用の大鎌――絶――を突きつける。

 

「ただし、覚えておきなさい。私は試されるのが嫌いなの。次に同じことをしたら、容赦なく首を落とすわ。それと、此度の戦であなたの用意した兵糧が不足する事態が起こったら、その時は……」

 

「その時は、私の命をご自由に扱いください。この命は既に曹孟徳様に捧げました。何が起ころうと、それを天命と受け止めるだけです」

 

「そう……いいわね、あなた。そこまで言うのなら、此度の戦の結果次第で真名を許しましょう。文若は私と同じ部隊とする! 妙才に従い準備を進めよ! 妙才は全部隊に通達! 出立は一刻後とし、時間と共に賊の討伐へと向かう!」

 

「御意!」

 

 華琳の号令の元、慌しく動き始める一同。本格的な争乱の気配に、横島は乱世が動き出したのだと感じていた。

 

 

 

 

 ――その頃、華琳ちゃん――

 

 号令を下した華琳は、恍惚としていた。そんな華琳に、戦の準備などしたことがない為、その場に留まっていた横島が話しかける。

 

「やけに嬉しそうだな」

 

「それはそうよ。風や澪、孔明、士元は同士ではあるけど配下というわけではないわ。あくまでも忠夫の臣。そこに、あの娘よ。私を試したのは気に入らないけど、洞察力、推察力に優れているのは確か。度胸もあるし、策も特に穴はない。それに、私が真名を許すといったときの顔を見た?」

 

「あー、やたらと目が輝いていたな。オレを睨んでいる時の目つきも怖かったが、あれはあれで怖かった」

 

 その時のことを思い出していた横島に、華琳が告げる。

 

「あれは、澪が忠夫を見る目と同じだわ。あの娘なら私に首を落とされたとしても、本当に天命だと思うでしょうね。それほど、強い憧憬と歓喜、敬愛をあの目からは感じた」

 

 いいわと呟き続ける華琳に、横島は若干引きながら尋ねる。

 

「あの娘が失敗したらどうすんだ? 戦の方は大丈夫だろうけど、兵糧の方は絶対に不足しないとは言い切れんだろ?」

 

「その時はそうね……」

 

 横島の問いに考える華琳。斬首は論外。折角の軍師を捨てるのは勿体ない。かと言って、何もなしというのはいけない。どうするかと考えていた華琳の目に、横島の姿が目に入る。

 何が気に入らなかったのか、横島を見る文若の目は嫌悪で満ちていた。華琳の前だから自重したのだろうが、それがなければ罵声を浴びせていたかもしれない。それほど嫌いな男に身を許すというのはどうだろうか。それも華琳の目の前で。さぞ、いい声で啼いてくれるに違いないと華琳は想像する。

 

「……首を落とすなんてことはしないから、安心なさい。ただ、罰は受けて貰うけどね」

 

 そう横島に告げる華琳の顔には、怪しい笑みが浮かんでいた。

 

 

 




 猫耳軍師が登場しました。そして、風たちと横島が別行動です。
 作中でじゃんけんが行われていますが、似たような遊びは世界中にあります。古代中国にもあったでしょうが、じゃんけんを普及させました。決して、調べるのが面倒だったわけではありませんよ?

 恋姫って時間の単位って刻でしたっけ?誰か教えてください。

 横島の偽名が曹仁。
 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。感想いただけるとモチベーションあがります。
 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。

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