道化と紡ぐ世界   作:雪夏

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今更ですが、本作は魏√とは多少展開が異なります。


十三節 ただいま戻りました

 

 

 

 

 

 先日の討伐の褒賞として正式に華琳から譲り受けた屋敷の前で、朱里と雛里の二人は人を待っていた。

 

「朱里ちゃん! 雛里ちゃん!」

 

「「瑠里ちゃん!」」

 

 大きく手を振りながら駆け寄る瑠里。当初の予想よりは短い期間ではあったが、約二ヶ月ぶりの再会とあって三人の顔は笑顔である。

 手を取り合い喜ぶ三人だったが、いつまでも喜んでいる場合ではないと、瑠里が口を開く。

 

「色々聞きたいこともあるけど……まずは報告を。私を連れて行ってくれるかな?」

 

 その言葉に雛里と朱里の二人も真剣な顔になり、頷くと城内で待つ横島たちの元へと瑠里を案内するのであった。

 

 

 

 

 

「徐元直、ただいま戻りました」

 

 二人に案内され、城内で横島に割り当てられた部屋で瑠里は横島たちと再会する。部屋には横島以外に、風、華琳、澪に横島専属侍女である白寧の姿があったが、瑠里は彼女たちを気にせず主である横島に帰参の挨拶をする。

 

「お帰り。無事でよかったよ」

 

 朗らかに笑いながら応じる横島に、幽州やこれまでの疲れが癒されるような気がした瑠里は小さく笑みを浮かべる。しかし、この場には華琳たち初対面の人物がいる為、すぐに気を引き締めると彼女たちに挨拶をする。

 

「徐元直と申します」

 

「曹孟徳よ。皆から貴女の話は聞いているわ」

 

「司馬仲達にございます。以後、宜しくお願い致します」

 

「子孝様付侍従、満白寧と申します。今は主に城外にある屋敷の管理を行っております」

 

 簡単に自己紹介をすると、白寧が一礼し部屋から退出する。これから先は侍従が聞く話ではない為、城外にある屋敷へと先に戻ったのである。城内に部屋を割り当てられた横島たちだが、現状では休憩に使う程度で生活拠点は変わらず屋敷の方である。

 

 

 

「さて、元直ちゃんの話を早速聞きたい所ですが……まず、こちらの現状から説明した方が良いでしょうねー」

 

「お願いします」

 

 風により、横島たちの現状が語られていく。幽州を発った後、基本的には陳留での合流を優先していた瑠里は、一箇所に長く留まる事をしなかった。つまり、自身の状況を手紙で知らせることは出来たが、朱里たちからの近況を知ることが出来なかった訳である。

 その為、風の語る現状は初耳なことが多く、瑠里はかなり驚いていた。

 

「では、今後は曹仁子孝という名で通す訳ですね? そして、この場にいる人は全員子孝様の真実を知っていると。他に知っている方は?」

 

「私の家族は知っていますが、既に口止めは完了しています。ああ、元直様がお会いになった姉は別です」

 

「城内にはいないわね。秋蘭や桂花たちには何れ教える必要があるとは思うけど、今はその時ではないもの。そういえば、白寧は知っているの?」

 

「知らせていません。しかし、折を見て知らせようとは思います。それで構いませんね、忠夫さん?」

 

 風の言葉に軽く頷く横島。風がそうした方が良いと判断したのなら、それで構わないようである。そんな二人の関係を、瑠里は羨ましそうに見ていた。そして、同じく羨ましそうな顔で彼らを見ていた二人に視線を向ける。

 向けられた二人も瑠里の視線に気づいたようで、軽く頷くと横島たちの前に三人で並び立つ。その三人の様子に、横島以外は何が始まろうとしているのか分かったようで、壁際に移動する。それに感謝しながら、瑠里は横島に話しかける。

 

「子孝様。ご報告の前に、しばし時間を頂けませんか?」

 

「いいよ。ちょっと休憩しようか。元直ちゃんも着いたばかりで疲れているだろうし……」

 

 横島の気遣いは嬉しいが、そうではないと否定する瑠里たち。違ったのかと首をひねる横島の姿に、肩の力が抜けていくのを感じる三人。緊張していると自覚していたが、思っている以上に緊張していたようだと小さく笑う。

 そして、一つ大きく息を吐くと横島を真っ直ぐに見据え言葉を紡いでいく。

 

「姓は徐、名を庶。字は元直。真名を瑠里」

 

「姓は鳳、名を統。字は士元。真名を雛里」

 

「姓を諸葛、名を亮。字は孔明。真名を朱里」

 

 

「「「未熟な身ですがどうか我らの真名をお受け取りください、ご主人様!」」」

 

 

 

 

 

 ――その頃の彼 その1――

 

「どうかされましたか、ご主人様?」

 

「ちょっとね。新しく兗州牧になったって言う曹操って人が気になってさ。どんな人物か愛紗は知っている? 出来れば、どんな人物が配下にいるかを知りたいんだけど」

 

 幽州の一部で噂される義勇軍。その大将である天の御使い、北郷一刀の問いに愛紗と呼ばれた美女は少し考えてから答える。

 

「配下……ですか。私が知っているのは、腹心に文武に優れた姉妹がいるという程度ですね。曹孟徳殿は黄巾党討伐の功績で兗州牧に昇格したそうですが、元は陳留の太守です。本人の能力や方針は聞こえてきても、配下の話となると……」

 

 愛紗の言葉に残念そうな表情を浮かべる一刀。それに気づかず愛紗は続ける。

 

「その姉妹の活躍で、彼女が元々治めていた陳留付近の賊は一掃されたと聞きます。彼女たちの活躍が目立って注目されていない有能な人物がいるのかもしれませんが……」

 

「そうか。ありがとう、愛紗。そういえば、さっき桃香が探してたよ」

 

「桃香様が? 分かりました、私の方でも探してみます」

 

 そう言って歩いていく愛紗を見送りながら、一刀は考える。

 

(曹操の腹心で姉妹ってことは、夏侯惇と夏侯淵か? 知っている歴史より早く曹操が州牧になっているし、孫堅は既にいない。徐庶は曹操が治めていた陳留に行った。劉備が趙雲と初めて会ったのは確か、袁紹と公孫賛が戦っている時だし。歴史の出来事が、少し形を変えて前倒しになっているのか……)

 

「それにしても、オレが孔明のポジションってのはな」

 

 そう呟くと、一刀は公孫賛から徐庶が母のいる陳留へと向かったと聞いた時のことを思い出していた。

 

 

 

『そうそう、北郷。釣り野伏せのこと以外にも元直が言っていたぞ』

 

『徐庶が?』

 

『ああ。何でも、お前は伏した龍なんだと。それで今日、伏せることをやめたお前がこの先の乱世の中で黄龍と変わるのかを見極めるってさ』

 

『オレが……伏龍? 間違いなく徐庶が言ったのか?』

 

『ああ、一言一句間違いなくとは言えないが……大体そんな感じだったぞ?』

 

『オレが……』

 

 

 

 その後、公孫賛の元を離れた一刀たちは幾つかの戦場を経験し、徐庶のアドバイス通り釣り野伏せに磨きをかけていった。そのような中で、一刀は己が定めた役割――諸葛亮孔明――を果たし、自信を深めていくのであった。

 

 

 

 

 




あとがき
 水鏡三人娘の真名交換回です。その頃シリーズは一刀Side。こっちの方が書き易かったのは秘密です。
 あと今更ですが、華琳の役職が陳留太守となっています。まぁ、今回から兗州の州牧になりましたが。原作では兗州牧だったかは忘れましたが、拙作では兗州ということで。


 横島の偽名。華琳の役職。
 これらは拙作内設定です。

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 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。

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