道化と紡ぐ世界   作:雪夏

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七話です。雛里ゲットだぜ! ついでに、あの子もゲットだぜ! というルートになりました。

一言: 2万UA突破。ありがとうございます。


七節 揃っちゃった!?

 

 

 

 

 

 雛里――鳳士元――を旗下に加えることになった横島。横島は、旅の仲間が増えるなぁといった程度の認識だが、風は雛里が本気であることに気づいていながら、許可を出していた。

 

(星ちゃんと稟ちゃんは、このまま自分の決めた道を進むでしょうからねー。お仲間は多い方がいいのですよー。太陽と共にあるお仲間は)

 

 飴を咥えながら薄く笑う風。彼女が前方に視線を向けると、雛里と横島が仲良く話している姿がある。あのあと、雛里が水鏡女学院の生徒だと判明したことで、彼女に学院まで案内してもらっているのである。

 

 稟に薬を届けるのは後回しである。風曰く、

 

「安静にしていれば問題ないですからー」

 

 だそうである。実際、彼女は貧血で倒れているだけなので安静にしていれば問題はない。星については、何処にいるか定かではないし、元々女学院に興味を持っていなかったので探す必要はないと判断された。

 

 

 

「あの、子考さん……」

 

「……ん? ああ、オレのことか。悪い悪い、慣れてなくてさー」

 

 雛里に呼ばれたことに気づかなかった横島が、バツが悪そうに頭を掻きながら謝る。その軽い態度からは、偽名であることを隠すつもりがあるとは思えない。

 そんな横島の態度に怒るでもなく、雛里は一つため息を吐くと横島を見つめ注意する。

 

「私はいいですけど、これから行く水鏡女学院では気をつけてくだしゃ……さい。水鏡先生は、人物鑑定に優れたお人です。つまり、観察力がずば抜けているんです。偽名だと分かったら、水鏡先生に追求されるかもしれないんですよ?」

 

 先程までは横島の問いかけにおずおずと答えていた雛里が、今は強い口調で注意を促してくる。横島は、そのギャップに戸惑うばかりである。横島と雛里が出逢ってから然程時間は経っていないが、雛里が本来内気な人物であることは、横島と風は理解していた。何せ、話しかければひどく慌てる上に、言葉をよく噛む。そして、被っている帽子のつばで顔を隠すのである。これで、実は陽気な性格だと言われた日には、嫌われているとしか思えない。

 

 そんなことを考えていた横島は、雛里に再び注意されるのであった。

 

「でもなー。慣れてないんだから仕方ないというか……何で、こんな名前なのかも知らないし」

 

 そう弁解しながら、横島は背後を歩く風の方を見る。その視線に気づいた風は、しょうがないといった態度で横島と雛里に説明を始める。

 

「お兄さんの偽名については、元々志才ちゃんや子龍ちゃんにも提案していたのですよ。結局しっくりくる名前が思い浮かばなかったので、そのままだったんですが……。今さっき突如閃きまして。いやー、天啓とはこういうことかと思いましたねー」

 

「ああ、あの二人も知ってたんだ。しかも、さっき閃いたのなら、オレが知らないのも無理は……って、違うわ!? 何で偽名って話!」

 

「うるさいですよ、お兄さん。偽名偽名と大きな声で言わないでください。何故、偽名が必要かと言うとですねー。一言でいえば、文化の違いですかね」

 

「文化の違い?」

 

 横島はその言葉に首を傾げる。文化の違いと言われても、そもそも世界からして違うので、何が問題なのかよくわかっていないのである。

 

「そですねー。士元ちゃんはわかってくれると思いますが、お兄さんは真名を気軽に名乗るのですよ」

 

「え?」

 

 風の言葉に、驚愕を顔に貼り付けた雛里が横島を見る。そこに、風が追加で説明を入れる。

 

「正確には、真名に該当する名……でしょうか。お兄さんは大陸の出身ではないので」

 

「それは……いえ、その話は今はいいです。子考さんには確かに、偽名が必要でしょうね。無用ないざこざを避ける意味でも」

 

「あのー。二人で納得してないで、オレにもわかるように言ってくんない?」

 

 雛里は偽名の必要性に理解を示したが、横島にはさっぱりである。少々情けない声で、二人に説明を求める。それを聞いた風と雛里は、横島に説明を始める。

 

「ああ、すみません。子考さんは真名については何処まで?」

 

「勝手に呼んだら刺される」

 

「……ま、まぁ間違ってはないですが……。今回問題なのは、そこじゃないんです。真名とは、信頼の証。生涯の友や伴侶にのみ伝える名なんです。親でさえ、子供の真名を勝手には呼べないんです」

 

「基本的に……と、つきますがねー。あとは、呼ぶ場面でしょうか。例えば、志才ちゃんと私は真名を交換していますが、この場で志才ちゃんの真名を口にすることはありません。本人がいないところで真名を呼ぶのは御法度なんです」

 

「ああ、だからさっきからその呼び方なんだ」

 

 風の説明に納得する横島。風はそれに対し頷くと、真名の説明を続ける。

 

「つまり、真名はお兄さんのように気軽に名乗る名ではないのですよ。例え当人が重要に思っていなくとも、周りが気にします」

 

「それはわかったけど……オレの場合は違うだろ? 真名っていう風習がないんだから」

 

「ですから、文化の違いなのですよ、お兄さん。真名という風習を持つ私たちは、真名に該当するものを探してしまうのですよ。それが、大陸に住まう我々の常識ですから。それならいっそ、本当に真名にしてしまえばいいのです。少しお兄さんをあらわす飾りが増えると思って、受け入れてくれませんか。お兄さんも大陸で生活するのなら、こちらの風習を理解してくださるとありがたいのです」

 

 これで話は終わりと言うように言い切る風。文化の違いとは、そういうものだと納得する以外に落としどころはないのである。例え、横島が真名ではないと否定しても、周囲がそう受け取るかは別なのである。

 

 それでも、横島本人が納得するかは別の話。既に偽名を名乗らせているが、本当に受け入れてくれるだろうかと風は横島を伺う。それに対する横島の返答は軽いものであった。

 

「別に名前を捨てる訳じゃないし、構わないけど。それに、郷に入っては郷に従えって言うしな」

 

 悩むことなく即答した横島。どうやら、偽名に関して問いかけたのは単純に名乗る理由が知りたかっただけのようである。

 そんな横島の態度に安堵しながら、風は疑問に思ったことを口にする。

 

「郷に入ってはとはどう言う意味の言葉ですか? お兄さんの故郷の言葉でしょうか?」

 

「ああ、確か新しい場所に行ったら、その場所のルール……規則に従えって意味だったかな? この状況にぴったりだろ?」

 

「そうですねー。では、お兄さんには郷に入っては郷に従ってもらうとしましょう」

 

 そう言って笑い合う風と横島。その時になって、事の経緯を途中からあわあわしながら見ていた雛里が口を挟む。

 

「あ、あの子考さん。偽名を名乗るにはまだ理由があるんです」

 

「え? そうなの?」

 

「はい。今、この大陸は漢王室が支配しています。そして、漢という国は異民族に何度も襲われています。荊州はそうでもないですが、幽州などの異民族と国境を隣り合う地では異民族は嫌われています。子考さんの産まれが何処かに関わらず、異民族というだけで悪意を向けられる可能性は十分に有り得ます」

 

「そういういざこざを避けるのにも、偽名は有効ってことね。教えてくれてありがとう、士元ちゃん。余り出身について言わないようにするよ。……それにしても、幽州って目的地の一つじゃなかったっけ?」

 

 雛里の頭をお礼の代わりに撫でながら、横島は風に問いかける。撫でられた雛里は、恥ずかしいのか必要以上に帽子を深く被り、あわわと言いながら表情を横島たちから隠す。その様子を何処か羨ましそうに見ていた風は、横島の問いかけに首肯して答える。

 

「志才ちゃんたちの予定ではそうですね。洛陽の次に向かうんじゃないですかねー」

 

 横島は風の言葉に若干の引っかかりを覚えながらも、記憶違いではなかったと安心した様子を見せる。そこに、風が近寄ると無言で頭を横島に差し出す。

 

「仲徳ちゃん?」

 

『おうおう兄さんよー。そっちの嬢ちゃんには礼を言った上に頭を撫でたってーのに、うちの嬢ちゃんには何もなしかい? そいつはちぃとばかし義に欠けるんじゃねぇかい?』

 

 突然、風の頭に乗っている人形――宝譿――が喋ったことに驚く雛里から手をどけると、横島は風の頭も同じように撫でようと手を伸ばす。

 

 ……が、その手がそのまま風の頭に乗ることはなかった。

 

「仲徳ちゃん……宝譿が邪魔でなでれない」

 

「おおう……これ、宝譿邪魔ですよ」

 

『そりゃないぜ、嬢ちゃん』

 

 

 

 

 

 その後、風の頭をひとしきり撫でたあと横島たちは、水鏡女学院の前に到着していた。

 

「ここが水鏡女学院です。名が示す通り、女性ちょ……女生徒が通う学院ですので、基本的に男子禁制でしゅ。子考さんたちは、少々此処でお待ちください。先生に許可を頂いてきますので……」

 

 そう言って、戸に手をかけようとした雛里を衝撃が襲う。目の前で戸が開き、中から飛び出してきた人物とぶつかったのである。

 

「「「いたたた……」」」

 

 痛みを訴える声の主は三人。一人は当然ながら雛里である。他の二人は、雛里と似た服を着用しており、一人はベレー帽を、もう一人はソフト帽を被っており、今はずれた帽子で顔が隠れている。

 

「はわわ、どうしよう瑠里ちゃん! 真っ暗だよ!」

「ふわわ、落ち着いて朱里ちゃん! きっとお外は夜だったんだよ!」

 

 余程慌てているのか、自分の視界が帽子で遮られていることに気がついていないようである。

 

 そこに、横島に抱き起こされた雛里が声をかける。

 

「二人とも落ち着いて! まだ夜じゃないし、暗いのは帽子のせいだよ!」

 

「っ! その声は……」

 

「「雛里ちゃん!? 良かった無事だったんだね!」」

 

 良かったーっという二人。そんな二人に戸惑いながらも、雛里は横島たちに二人のことを紹介する。

 

「あ、あの……この二人が親友の諸葛孔明ちゃんと徐元直ちゃんです」

 

 

 

 その瞬間、横島は心の中で驚愕の言葉を叫んでいた。

 

(伏龍鳳雛揃っちゃったー!! しかも、徐庶まで!!)

 

 

 

 

 

――おまけ:偽名の由来――

 

 これは、水鏡女学院に着く前の風と横島の会話の一部である。

 

「そういや、(おう)子考(しこう)って、どうやって決めたの?」

 

「横はお兄さんの姓の読みを変えたものですねー。字の子考はですねー。お兄さんが地元の子達と遊んでいる時に閃いたのですよ。遊んでいるお兄さんは、本当に子供のことを考えている優しいお人なのだなぁと風は思ったのです。その瞬間、子のことを考える人という意味で子考という名が浮かんだのです」

 

「結構考えてつけてくれたんだなー。子どものことを考える人かー。うん、優しそうで女にモテそうな名前だ。ありがとう、仲徳ちゃん!」

 

「いえいえー。気に入ってくれたならそれで」

 

 疑問が解決したからなのか、褒められたからなのか上機嫌で少し先を歩く雛里に近寄る横島。そんな横島を見ながら、小さく風は呟くのだった。

 

「本当は、子供みたいな考えを持ち続けている人で子考だったのですが……これは、風だけの秘密にしときましょうか」

 

 




 七話です。前半部分は偽名をつけた理由。別にいらないです。そして、万を持しての登場となった朱里と徐元直。彼女らの扱いは既に決定しています。ええ。一言で言うなら、ゴメンね一刀くんでしょうか。


 真名に関する一部設定。徐元直の服装など。
 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。

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