道化と紡ぐ世界   作:雪夏

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八話です。タイトルに深い意味はないです。

一言: もうすっかり秋ですね。流石に再び暑くなるなんてことないですよね?


八節 あなたたちは今日で卒業です

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで二人とも慌ててどうしたの? それに朱里ちゃんは戻ってくるの明後日だったんじゃ?」

 

「あ、それはね? 隣り街で古書を買ったあと、ちょうどよくこっちに来る隊商の人たちに乗せてもらえたの」

 

 そう言って嬉しそうに微笑む諸葛孔明――朱里。隣りにいる徐元直――瑠里も嬉しそうに言葉を続ける。

 

「朱里ちゃんが買ってきた古書凄いんだよ! このあたりじゃ、まず見つけられないような貴重な本なんだよ。私が欲しいくらいだよ」

 

「そ、そんなに!?」

 

「あ~、士元ちゃん?」

 

 雛里も彼女らの言葉に興味を示し、収集がつかなくなるかと思われたその時。横島が話しかけたことで、ようやく朱里と瑠里の二人は客の前であることに気づいた。

 

「あ、子考さん。しゅ……しゅみませんでした。改めてご紹介致します。水鏡女学院主席の諸葛孔明と、三席の徐元直です」

 

 噛んじゃったと恥じる雛里を横目に、紹介された二人が名乗る。

 

「諸葛孔明と申します。ようこそ、水鏡女学院に。この度は我が友、鳳士元を助けて頂き感謝致します」

 

「徐元直と申します。我らはお二人を歓迎致します。孔明、士元ともども宜しくお願い致します」

 

 表情を引き締め、丁寧に名乗り頭を下げる二人。その挨拶に横島は戸惑う。それを見た風が一歩前に出て挨拶を返す。

 

「私は程仲徳と申します。この方は横子考様。此度は士元殿の招きに応じ参上しました。噂に名高き水鏡女学院の生徒、それも主席と三席の方にお会いできるとは光栄です」

 

 そう言って礼をする風。黙って見ていた横島は、初めて畏まった態度をとる風に驚いていたが、風が礼をするのにあわせて見よう見まねで礼をする。それを受けた朱里たちが再度礼をすると、雛里が口を開く。

 

「それで朱里ちゃん、先生は? あと、子考さんが私を助けたって何で知ってるの?」

 

 先までの堅苦しい口調が嘘のような軽い口調に、横島は戸惑うばかり。横島にすれば、彼女たちの切り替えのスイッチがわからないのである。そんな横島に気づいた風が、横島の袖を引き横島を屈ませると、耳元で説明する。

 

「士元ちゃんは、堅苦しいのは此処までと伝えたのですよ。そういうのが苦手なお兄さんを気遣ってのことでしょうね。それと、風やあちらの二人のやり取りは形式的なものですよ。主人側は歓迎の意を、客人側はそれらに感謝などを伝えるのです。まぁ、ただの客人相手に使うかというと否ですが、今回は特別でしょう」

 

 それはどういうことなのかと横島が問おうとするが、その疑問が口から出ることはなかった。何故なら、雛里が驚愕の声を発したからである。

 

「ええー!? 先生いないの?」

 

「そうなんだよ。私が古書を先生に渡したあと、雛里ちゃんが人攫いにあったって連絡があったの。そうしたら、先生が……」

 

『朱里、瑠里。あなたたちは今日で卒業です。今後は好きに生きなさい。旧き宿命(さだめ)に従うか、新しき宿命(さだめ)に従うかは貴女方の自由です。ああ、雛里はもうすぐ帰ってくるから心配は無用ですよ。おそらく、連絡にあった雛里を助けた御仁も一緒でしょう。その御仁とあってから、雛里と一緒に身の振り方でも決めるといいわ。あ、厨房の菓子貰っていくわね? あと、雛里が戻ってきたら一緒にこの手紙を読みなさい』

 

「って。そのあと、さぁ読むわよーとか言って出かけたから、いつものように何処かに篭ってるんだと思うけど……。そのあと、ただ雛里ちゃんを待つのもツライからって探しに行こうとしたら……」

 

 そこまで聞いた雛里はがっくりと肩を落とす。水鏡には色々と言いたいことがあるが、現在の居場所が分からないのでは仕方ない。雛里はゆっくり横島たちに向き直ると、口を開く。

 

 

 

「すみません……先生はいないみたいで。以前から多量の本を一気に読むために姿を消すことがありまして……一回姿を消すと最低でも五日は帰ってこないかと」

 

「あー。そりゃ残念だ。せっかくの美女との出逢いが」

 

 雛里の説明に落胆した声を出す横島。誰も水鏡が美女であるとは言っていないのだが、横島には何故かわかるらしい。

 

「そうですねー。流石に五日となると、手持ちの路銀では少々心許ないですねー」

 

「あ、あの……今回私が買ってきた書は、些か古いものでして先生でも簡単には読めないかと」

 

 朱里の言葉に顔を見合わせる風と横島。五日でも不安なのに、それ以上となると路銀が尽きる可能性の方が高くなる。どうしたものかと考えていると、黙っていた瑠里が声をかける。

 

「ここで考えていても仕方ないですし、中へどうぞ。先生もいませんし、他の生徒たちも先生が飛び出していったので此処にはいませんから」

 

 お茶しか出せませんがと言いながら建物の中へ消える瑠里。横島と風も朱里と雛里が促すままに、中へと足を進めるのであった。

 

 

 

 

 

「さてさて……幾つか聞きたいことがあるのですが、質問してもよいですか?」

 

 案内された一室で瑠里が淹れたお茶を一口飲むと、風が雛里たちに質問してもいいかと聞く。それに対する雛里たちの答えは是。風は彼女らに質問をするのであった。

 

「先程、士元ちゃんとの会話が聞こえてきたのですが……お三方は学院を卒業するそうですね? そんな急に卒業と言われても困るのでは?」

 

「それがそうでもないんです。学院で習うべきことはとっくに終えていますから。今は今後に向けて路銀を貯めているところだったんです」

 

「ほほう、そうなんですかー」

 

 雛里の言葉に、風の目がきらりと光る。何やら思いついたようである。対して、横島はというと、年端もいかない少女たちが今後を見据え貯金をしていることに感心すると同時に、自身は無一文という現実に落ち込んでいた。

 

「それで、今後はどのように? 士元ちゃんは私と同じくお兄さんの旗下に加わるとのことでしたが」

 

 そんな横島の様子を無視して、風が更なる質問を重ねる。ちゃっかり、自身も横島の臣であると告げて。

 

 その言葉に朱里と瑠里は雛里の方を見つめる。風が旗下――つまり、横島の臣であるということは挨拶を交わした時に予想していたが、雛里もそうだとは思っていなかったのである。

 一方、急に見つめられた雛里はあわあわと慌てている。折を見て自分から話すつもりだったことを急に暴露されたのだから、無理もないことであろう。

 

「どういうこと、雛里ちゃん? 私たちと旅に出るんじゃなかったの?」

 

「そうだよ。……もしかして、昨日のこと?」

 

 問い詰めようとした朱里と瑠里であったが、瑠里が昨夜のことが関係しているのではないかという。

 

 昨夜のこと……それは、星読みのことである。雛里と瑠里が星を読んだ時、『運命』『異性』『出逢い』『仲間』『大きな変化』という結果であった。瑠里は、そのことを思い出し問いかけたのである。

 

「え~と、それもあるかな。ちょっと先走った感じはするけど、この決断を間違いだとは思ってないよ。先生の言葉もあるし、尚更」

 

 その言葉に、雛里は道を決めたのだと悟った二人は口を噤む。見た目頼りない横島についていく親友を止めたい気持ちもあるのだが、内気な雛里が星読みの結果だけで決断することがないことは二人もよく分かっているからである。

 さて、自分たちはどうするべきかと二人が思案していると、風が口を開く。

 

「話しを聞くに、お二人も旅に出るようですね。ならば、私たちと一緒に行きませんか? 無論、旗を同じにしろと言う訳ではありません。別に途中まででも良いのです。こちらには、無双の武を持つものも帯同しておりますし、多少は安全に旅を進めることができるかと」

 

 その提案に少々考え込む朱里。彼女にとっては、横島を見極める時間を得ることができる上に、安全を確保できるというこの上ない提案ではある。

 

「それはありがたいのですが、こちらにばかり利があるように思えるのですが」

 

「勿論、こちらにも利はありますよー。士元ちゃんの他に学院の主席や三席も一緒なら、道中色々学ぶこともできるでしょうし。何より、そのままずっと一緒ということも十分ありえますからねー」

 

「そんなはっきりと……それを言ってしまったら、私たちが断るとは思わないのですか?」

 

 風のぶっちゃけた発言に、朱里は苦笑しながら尋ねる。瑠里も同じような表情である。

 

「そうですかねー。逆に興味を抱いたのではないですか?」

 

 朱里と瑠里はその言葉に答えることはせず、風もそれで構わないのかそれ以上言うことはなく笑うだけであった。

 

 

 

 

 

 その後、話題は水鏡が残した手紙へと移る。手紙は代表して朱里が音読することとなり、横島たちも同席を許された。とは言っても、感謝したのは風で、横島は興味なさそうにしていたが。

 

「それじゃ、読みますね」

 

『我が優秀たる教え子たちへ』

 

『この手紙は、あなたたちが学院から巣立つ日の為に書きしたためたものです』

 

『おそらく、その場に私はいないでしょう。もしかしたら、手紙も手渡していないかもしれません。湿っぽい別れは苦手ですからね。適当な理由をつけて姿を隠しているものと思います』

 

 そこまで読み上げると、思わず朱里は苦笑いを浮かべてしまう。雛里や瑠里も同じである。

 

『あなたたちに伝える事は全て授業で伝えました。今更、伝えることはありません』

 

『それでも、何も贈らないのは師としてどうかと思ったので、貴方がたに号を贈ることにしました』

 

『諸葛孔明には“伏竜”の号を』

 

『鳳士元には“鳳雛”の号を』

 

『徐元直には“臥狼”の号を』

 

 師より与えられた号を噛み締めるかのように、呟く三人。それを聞いていた横島は、自身は終ぞ縁のなかった師の愛に感動していた。

 

(何かいいよなー。師匠からの贈り物ってのは。オレなんか……やめよ)

 

 横島の師といえば、美神や老師――斉天大聖孫悟空――になるのだろうかと、横島は彼らから教わったことを思い出そうとしたが、一つも思い出せなかった。贈り物についても同様である。強いて挙げるのならば、文珠が該当するのだろうがアレは潜在能力に目覚めた結果のものであるため、やはり違うだろう。

 因みに、霊能力の師とも言えるバンダナ――心眼――は師匠ではなく、相棒という認識である。

 

 横島が三人を羨んでいる間に、朱里が続きを読み始める。

 

『伏竜、鳳雛、臥狼』

 

『これらの号には二つの願いを込めました』

 

『一つは、あなたがたの才が知られることのない世であって欲しいということ。あなたたちに教えた軍略が発揮されない世であって欲しい。ですが残念なことに、この願いが叶うことはないでしょう。もうすぐそこまで、乱世の足音は聞こえているのですから』

 

『もう一つは、その才を定めた主の元で存分に発揮して欲しいということ。天に昇る竜のように、飛翔する鳳凰のように、牙をむく餓狼のように。存分にその智を、軍略を、謀略をふるいなさい』

 

 そして、手紙は次の言葉で締められていた。

 

 

 

 

 

『三人の誰も欠けることなく、揃って再会出来ることを願っています』

 

 




 八話です。冒頭、挨拶のシーンは真面目なシーンの筈なのに、幼女が大人の真似をしているようにしか思えないという不思議な事態に。

 あと、水鏡先生はまさかの回想&手紙のみ。横島の飛びつきを期待していた方々すみません。横島が最初に飛びつくのは、関西弁の露出過多なあの人と決めていたので。もっとも、次かその次くらいには飛びつくかな?

 今回のタイトルは、水鏡先生の回想より抜粋。

 水鏡の行動あれこれ。伏龍、鳳雛の二つ名を水鏡が与えた。徐庶の号が臥狼。
 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。

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