今回は一足先にあの人の登場!
ガラガラガラ……
ラッシャイ!!
「比企谷ぁ! こっちだ! 」
古びた建物に小汚さ、それがまた味のある小さな居酒屋の扉を潜ると、店員さんの元気な挨拶がこだまのように響く。そのカウンターの奥には、総武高時代の恩師、平塚先生が煙草の煙を漂わせながら手招きをしていた。
「どもっす。ご無沙汰ですね」
「そうだな。君が今の会社に入社した頃以来か」
「わざわざこっちまで来てもらってすみません」
「なぁに、そう遠くはないし……ちょうどこっちに来ていたところだよ」
「へぇ……なんか用事でもあったんですか? 」
「うーん、まぁちょっとな……。それより、ビールでいいか?」
「あ、はい」
「すみませーん! 生2つ!」
アイヨー!!
先に着いていたのに待っていてくれたようで、飲み会の常套句「とりあえず生」を発動。その間に簡単な一品ものを数点注文したところで、ジョッキから溢れんばかりの泡と黄金比を極めたビールが2杯と、つきだしの小皿が運ばれてきた。
「「かんぱーい 」」
キンッと甲高い音でジョッキを鳴らし、キンキンに冷えたビールを呷る。喉を通る微炭酸が心地いい。
っぷはー。昔実家に住んでる時、親父がビールを飲む度、ぷはーって言ってたのが、ちょっとうぜぇと思ってたけど……これは言うね。親父、すまん。
「っぷはー! 沁み渡るわあ! あ、生もう一つ〜」
「ちょっと先生、飛ばしすぎじゃないですか……? 」
「だいじょぶだいじょぶ〜」
「ったく……まぁいつもの事ですけど。あ、俺も生もうひとつ」
お互いに一杯ずつ空けたところで、注文していた料理が次々に並ぶ。
「ふぅ……それで、仕事は順調かね」
「まぁぼちぼちですね」
「ぼちぼち、か……いいじゃないか。ぼちぼちやれるくらいが、丁度いいんだよ……。わたしなんてこの前———」グチグチ
スタート早ぇなおい……。こうなったらもう独りで語るだけで、俺はAIロボットよろしくひたすら頷くだけだ。てか、もうジョッキ空けてるし……また酔い潰れて懐抱するパターンだな。
「うぃっ……そういえば、あれからなにか進展はあったかね」
「……進展って、なんのことっすか」
「前回君から聞いた、あの二人の話さ」
「ッ! はぁ、あれは先生と同じで愚痴みたいなもんで、別にどうこうするわけじゃないですよ……」
そう、前回先生と飲みに行った時、先生からあの奉仕部のことを聞かれて、アルコールが口を滑らかにするように、つい愚痴ってしまった。愚痴というか懺悔に近い。
つい話を逸らそうとして、ポケットから取り出した煙草に火を付け、肺に深く吸い込んだ煙を、心のもやもやと共に吐き出す。
「そうか……。わたしが学校を去る頃に、君達の中で色々あったみたいだが……。」
そう言いながら先生も横に置いていた煙草を取り出したから、自分のライターを着火して先生に差し出す。煙草を咥えたまま「悪いなっ」と言いながら、火が移らないように長い髪を耳にかける仕草は、とても女性らしい艶かしさがあって、少しドキッとした。ほんと、なんでこの人結婚できないの……。俺が貰っちゃうよ?
「ま、君達は高校を卒業したとはいえ、まだまだ先は長い。君も今の会社に入社して、また多くの人と繋がりが出来ただろう。どうだぁ、いい人はいたか? エリートでイケメンで年上好きで高収入でそれから……」
「いませんよそんな奴! どいつもこいつもパーソナルスペースを、グイグイ侵攻してくる、面倒くさいやつばっかですよ」
「くくくっ、そうか。しかし、そんな連中と上手くやれているんだろう? なかなか成長したじゃないか。頭を撫でてやろうか? 」
「ちょ、やめてくださいこの酔っ払い……! 」
「照れるなよ、わたしは素直に褒めているんだぞ。高校時代の君からすれば、大いなる進歩さ……。あの頃の君ならば、それとなく遠ざけていただろう。人と上手くやる術を身につけろと、高校生の頃から言っていたろう? 賢くなったじゃないか……ほれほれっ」
くっそ、この酔っ払いめ……ッ! 店のオヤジさんからの生温かい視線が痛ぇんだよ……/// しかし、この感じも久しぶりだな。いつまで経っても、どこへ行っても"先生"なのだろう、きっとこの人は。
「まぁ……俺なりに付き合い方というか、付き合っていっても……悪くないかなって位には、思えるようになりましたよ……。馬鹿ばっかりですけどね」
「ふっ、類は友を呼ぶと言うだろう? 」
「ああいう戸部みたいなウェーイ系と一緒にしないでもらえます? 」
「戸部を代名詞みたく言ってやるなよ……気持ちはわかるが」
わかっちゃうのかよ……。そこそこお酒が進んできたところで、焼酎のロックが二杯テーブルに届き、ちびちびと呑む。そこに見計らったように、平塚先生は、元の話題を掘り返す。
「それよりもだ……。あれから雪ノ下や由比ヶ浜と、連絡は取っていないのか? 」
「……取ってませんよ。というより、今更どの面下げてあいつらと、何を話したらいいかもわかりません……」
「どの面下げて、か……。彼女たちも、君と離れる覚悟で、本音を打ち明けたのだろうから、それを不意にはしたくない、ってところかな? 」
「違いますよ……。前回もうっかり口を零して言いましたよね? 」
「自分で壊してしまったから、だったか? 」
「そうですよ……。だから……」
「本当に君は、そのままでいいのかい? 」
包み隠さないストレートな言葉に、心臓をグッと握られた感覚に、言葉の主に振り向いた。そこにはさっきまでのおちゃらけた面影は無く、鋭い目つきで俺の目を真っ直ぐ見ていた。背中に冷たいものが滴る。
「……俺が望んだ結果ですから……。そんな事をしても、過去の自分を否定することになります」
「相変わらず可愛くない奴だなぁ。私は以前こうも言ってやったはずだ。心理と感情は必ずしもイコールではない、とな」
それは高二の冬、クリスマスイベントの時期に、冷たい風が吹き付けるあの橋の上で、俺に言った言葉だ。
計算しかできないのなら計算しつくせ。全部の答えを出して、消去法で一つずつ潰せ。残ったものが君の答えだ。
「計算できずに残った答え……それが人の気持ちというものだ、でしたね……」
「そういうことだ! ま、本当は君はもう、その答えに気付いているんだろうがな」
ケラケラと笑いながらグラスを傾ける姿は、実に格好よく様になっている。本当に素敵な女性だと、心の底から思う。
「相変わらず、人の事を見透かしたような人ですね」
そう言って誤魔化して、グラスに残った焼酎を一気に呷った。
「ひきがやぁ~おらぁ、2軒目いくぞぉ~」
「ベロベロじゃないっすか! もう辞めときなさい……」
「ぁんだと~? まらまらいけんぞぉ~! 」
「ちょ、暴れないでください、この酔っ払い。ほら、タクシー来ましたよ」
「ちっ、付き合いわりぃなあ~。おぃひきがやぁ! 」
「なんすか……」
「お前はもうあの頃とは違うらろぅ……。もう少しわがままを言ってもいいんじゃらいか……」
「……うす、ありがとうございます……」
「ふっ……じゃあなぁ~」
ちょっと良いことを言ったと思ったら、無邪気に破顔して手をひらひらと振りながら、タクシーに連れられて去っていった。誰か……はやく、貰ってあげてください……。
わがまま、か……。この世で一番難しいことだと、思っている。俺が自分のためにわがままを言ったのは……一度だけ、あの教室で。くそっ思い出しただけで今でも羞恥に悶えそうだ……! 今が家ならベッドで枕に顔を埋めて足をバタバタさせること間違いない。
今の俺のわがままとはなんだ。あいつらに会うことか? それはできない。なら……別のこと。本当はわかってる。結局、今も昔も変わらない、ずっと目を背けて逃げているだけだ。
今夜は夏の割に、少し冷えるな……。酔いを冷ますにはちょうどいい、歩いて帰るか。
家に着く頃には、すっかり酔いも冷めて思考がクリアになっていた。帰ったら愛しのマッ缶でお口直しだな。
階段を登りきったところで、部屋のドアの前に人影を見つけた。固まったまま動かない、肩まで伸びた亜麻色の髪の人影。いや、ていうかあれって……。
「あ? なにしてんだ一色」
はい、八幡と静ちゃんの一幕でした。
こんな飲み友、欲しいもんですよ……。
近々、別の推しの生誕祭があるので
そちらのSSに取り掛かるために
こちらの更新が遅れるかもしれません!
大変申し訳ありません。
徐々に終わりへと近付いていくこのお話し
もうしばらくお付き合いしていただけると幸いです◎
良かったら感想・評価・お気に入り
いただけると嬉しいです(*´꒳`*)
ではまた、15話でお会いしましょう!
Twitter@autumn_akane