そして一色いろはは過去と向き合う。   作:秋 緋音

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どうも!今回はそんなにご無沙汰じゃない?
秋 緋音です( ・ω・)ゞ

しばらくかかりきりだった他界隈
バンドリの同人イベント"BDP10th"が
無事に完売して終わり、少数の希望と主催者の厚意から
通販販売も始まりました!

その甲斐あってこの俺ガイルssも捗りますw

まあそんな事は置いておいて、第16話です!





第16話

 

 

 

 

 

「かんぱーいっ!」

「……かんぱい」

 

 

平塚先生との再会と、教室の許可を取ったその日の夜、せんぱいととある居酒屋へ来てきた。

 

 

「なんですか、テンション低くないですか?」

「俺はこれが通常運行なんだよ」

「はぁ、まぁもう慣れましたけど」

「順応力高くて助かる」

 

 

がやがやと賑やかす年配の客と、狭苦しいカウンターに並んで座るこの居酒屋。かつてせんぱいと奇跡的な再会を果たした夜に、二人ではしごした小さな居酒屋だ。

 

昼間の報告も兼ねて、せんぱいのお家にと思っていたのに。

なんと今日はせんぱいから、飲みに行こうと誘ってきた。明日は槍でも降るのかな。いや、せんぱいのことだ、MAXコーヒーの雨かな……なにそれ最悪。

 

 

「ていうか、なんでこのお店なんですか?」

「悪かったな、洒落た店じゃなくてよ」

「いえ、それは別に構いませんけど。ここ、前にせんぱいと来た所ですよね?」

「……よく覚えてたな」

 

せんぱいと行ったところなら、どこだって覚えてますよ。

 

「まぁこれといった理由はねぇよ。前に一色と来たから、それだけだ」

「へぇ……」

 

せんぱいも、そうだといいな。

 

「そういえば、なんか話があるって言ってたよな」

「えっ……はい、まぁ。せんぱいこそ、なにか用があって誘ってくれたんじゃないんですか?」

「あぁ……まあ俺は別に。それで、話ってのは例の同窓会の件か?」

「はい、実は今日───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁん、なるほどな。ったく、平塚先生も昨日飲みに行った時に、言ってくれりゃいいのに」

「まだ手続きしてる段階だったから、異動してから伝える予定だったんじゃないですか?」

「なにか企んでたのか? まぁそれはそうと、先生のお陰もあって教室の許可は下りたか」

「はい……これで、あとは当日を待つだけですね」

「……そうか」

 

せんぱいは手に持ったグラスを、その更に遠くを見るように見つめ、半分ほど残った焼酎を一気に呷った。

 

「あー、えっと……一色」

「……? なんですか?」

「その、なんだ……あ、ありがとな」

「えっ……!」

「今回のことだけじゃないが、色々と……感謝してる。なんでここまでしてくれるのかは分からんけど、助かる。ありがとう」

 

上半身だけ捻ってこちらを向き、ぐっと頭を下げた。

 

「そんッ……な、なんですかせんぱぁい! デレ期ですか? ついにせんぱいも、いろはちゃんの魅力に気付いちゃった感じですかぁ?」

「うわぁ、あざとウザい……」

「あざといって、ウザいってなんですかーッ!? せんぱいの方がよっぽどあざといんですよ!」

「ぐえっ!」

 

 

隙だらけの脇腹に一突き入れると、せんぱいは気持ち悪い奇声を上げて、恨めしそうな目を向けてくる。そんなせんぱいを見て、わたしはケラケラと笑った。

 

そんな笑い声も、この騒がしい居酒屋では、掻き消される。それでもわたしは目尻を指で掬いながら、笑い声をあげた。そうしていないと、誤魔化せなかったから。

 

 

「それに、せんぱい! まだなにも終わってないんですからね! これで当日気まずくしたりしたら、一生弄り倒しますからね」

「うぇ、それはさぞかし鬱陶しいな……」

「だから、当日……しっかりやってくださいね」

「あぁ、こんだけお膳立てされたからな。まぁなんとかなるだろ……知らんけど」

「ふふっ、頼みましたよ……知らんけど!」

 

 

その後も喧騒の中で、気の済むまでお酒と料理を楽しんだ。陽気な気分が不安を溶かすように、笑いあってその夜を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉー、いろはじゃん! 全然授業来なかったのに、何してたんだよぉ」

「ぐえっ」

 

 

しばらくバタついていて、すっかりサボりがちだったが、わたしは華の女子大生。久しぶりに授業を受けに大学へ顔を出すと、すっかりご無沙汰の友人───雨音 乙葉(あまと おとは)が、がばちょッと抱き着いてきた。

 

 

「ちょ、乙葉、くるし、締まる……!」

「全く……大親友の乙葉様に連絡も無しに、一体何してたんだよ! さぁ吐けー!」

 

ちょ、まじ極まってる……! 殺す気かこいつッ!

 

「吐く! 色んな意味で吐くから離せェ……!」

「よし、聞こう」

「ゲボっ……ほんと、死ぬかと思った」

 

 

手厚い歓迎(洗礼?)を受け、少し移動して授業の出席票だけゲットした後、その辺の便r……頼りになる男の子にお願いして、早々に教室を抜け出したわたしと乙葉。大学内のカフェテラスに二人分のコーヒー(奢らされた)を持って腰を落ち着けた。

 

 

「なるほどねぇ……。例の先輩と話をしに行ったあの後、そんな急展開になってわけか。そりゃ授業出てる暇もないわね」

「うん、まぁね……」

 

 

ゆい先輩と会った日の前日、乙葉に電話で勇気をもらったその後のこと。同窓会の計画が始まり、ついにその準備が全て整ったところまで、順を追って説明した。

 

 

「ふぅん、まぁ良かったじゃん! なかなか連絡寄越さないし、心配だったけど。これでようやく、また始められるんでしょ?」

「う、うん……後は当日だけ。たぶんそこが一番大変なんだけどね……」

 

一方的に話をし続けたおかげで、喉はカラカラだ。アイスコーヒーを一気にストローで吸い込み、底に浸った残りをズズズッと音を鳴らし飲み干す。

 

神妙な顔をした乙葉は顔を上げると、ビシッと指さし言った。

 

 

「いろは……! この私がありがた〜いお言葉をプレゼントしよう!」

「いや、いいよ別に」

「ちょちょ、人がいい雰囲気出してるのにぃ〜」

「はぁいはい、それで何?」

「ふっふっふ、心して聞くがいい……」

 

 

「 終わり良ければ、全て良し! 」

 

 

「はぁ……有難みの欠けらも無い。まだ始まってもないんだし、きっとせんぱい達なら上手くいくよ」

「それはせんぱい達の話でしょー? いろははどうなの?」

「わたし? わたしだって同窓会が上手くいけば───」

 

 

上手くいけば……わたしは?

 

せんぱい達がまた昔のように、元の関係を取り戻したら。

 

わたしは、また────

 

 

「……ね? 終わり良ければ全て良し。じゃあ、いろはの"終わり"は、どこにあるの?」

「わたしの終わり…………」

「いろはさぁ、何度も"自分のため"って言ってたけど、やっぱり結局はせんぱいのためじゃん? もちろんいろはの為でも、あるんだろうけど」

 

否定はできない。そこにはもちろん、せんぱいの為でもあると、分かっていたから。

 

「でもその先は? その同窓会が上手くいって、それだけで終わっていいの? 本当に?

 

いろはの心の根っこにある想いは?」

「わたしの……心の根っこ」

 

 

『そっか……。

先輩はそういう"答え"を導いたんだ……。

それが、先輩の言う"本物"なんだ。

 

なら……わたしは……。』

 

 

『その優しさに触れたから、みんな先輩が好きで………………

 

わたしはやっぱり、せんぱいが好きなんだ!』

 

 

 

「────そうだ。そうだった。そうだよね」

「……ちゃんと見つけた?」

「うん……見つけたよ。終わり良ければ全て良し、かぁ……。わたしはまだ、終わってすらなかった。わたしだけ、終わらせられなかったんだ」

 

 

せんぱいは、ちゃんと答えを導き出した。

ゆい先輩と雪乃先輩は、ちゃんと終われたんだ。

 

それを見ていたわたしも、自分の気持ちに答えを出した。つもりだった。

でも、ちゃんと終われていなかったんだね。

終わってない。まだ、終われない。

 

 

「ありがとう、乙葉。わたしも、ちゃんと終わらせてくるよ」

「うんうん! 終わり良ければ全て良し! 良くなかったら……何度でもやり直せばいいんだから」

「へへっ……乙葉はほんとバカで真っ直ぐで、諦めが悪いよ」

「まぁね〜! あれ、貶されてる?」

「ううん、今までになく褒めてるんだよ」

「んん……なんか納得いかないなぁ」

 

 

抜け出した授業の終わりを告げるチャイムが響いて、次の授業は真面目に出席をした。おばかな親友は開始早々、机に突っ伏して居眠りし始めたけど。

 

あれだけ不安がっていた日が、今は待ち遠しくすら思う。

 

本来の生活を取り戻して過ごす日々は、やけに短く感じるほど。

 

きっと、その日はあっという間に訪れるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入国審査をパスして重たい荷物を手に取り、ようやくスマホの機内モードを解除した。すると、溜まっていたメッセージがなだれ込んできた。

 

あまりの多さにゾッとしたその瞬間、急に軽快な電子音が手元で鳴り響く。

 

わたわたと手元で暴れるスマホの液晶には、見慣れた名前が映し出されていた。勝手に操作されて登録された、ごてごてと飾り付いた絵文字と共に。

 

「もしもし……。えぇ、ちょうど今降りたところよ。機内ではメッセージを受信できないからと、あれ程言ったでしょう」

 

変わらない明るい声にホッとした。少し緊張しているのか、いつもより更に早口だ。

 

「時間は……えぇ、どうにか間に合いそうね。わざわざ迎えに来ずに、あなただけでも先に行ってくれて良かったのに……。

そう、まぁそういう事にしておいてあげるわ……ふふっ」

 

からかうような言い方をすると、いつもの調子を取り戻りたようだ。いつもと違うのは、私も同じだったかしら。

 

「えぇ……えぇ、わかったわ。じゃあもう少ししたらそこへ向かうわ……。

あっ待って……。

 

ありがとう……由比ヶ浜さん」

 

『全然だよ、ゆきのん』

 

 

そっと通話終了のボタンを押すと、懐かしい写真を飾った、待受画面が表示される。

それを眺めていると、懐かしい香りがした。

 

日本は醤油の香りがするなんて聞いたけれど、そんなことはない。

 

少なくとも今日は、芳醇な紅茶の香りがした。

 

 

「さて、行きましょうか」

 

 

重たい荷物を持ち直して、親友の待つ場所へと歩き出した。

 

今日が、人生で二番目に大切な日となることを祈って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be Continued......

 







はい、というわけで第16話でした(*´꒳`*)

着々と物語が終わりへと向かっていますね。
最後にはこの物語にようやく、彼女が登場しました!


そして遂に!

次話が、最終話となります!!(たぶん)

私もちゃんと終わらせなければ……。
頑張れ!いろはす!!
頑張れ!自分!!

それでは最新話でまた、お会いしましょう\(( °ω° ))/

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