そして一色いろはは過去と向き合う。   作:秋 緋音

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すみません、体調を崩して死んでおりました。

秋 紅音です。

更新が少し遅れてしまいましたが、第5話です。







第5話

 

 

 

「………………え?」

「っ!…………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電車に揺られること数十分、イヤホンを耳に付けて

音楽を聴きながら目的の駅まで時間を潰した。

しかし、意識は耳へ向いておらず

いつ先輩に連絡をしようか、とか

始めはなんて書いて送ろうか、とか

頭の中でいろいろと考え込んでいた。

 

でもやっぱり、いきなり連絡しにくいなぁ……。

今日みたいにもう一度、偶然ばったり会えたりしないかな……。

 

 

思考に集中するあまり、アナウンスを聴き逃しそうになり

慌ててホームへと降り立つ。

 

階段を降りていくと改札が見えてくる。

少し離れた所で立ち止まり、定期券を取り出す。

 

すると、階段から降りてきたひとりの男に

なぜか視線を引き寄せられた。

濁った目、丸い猫背、人束のアホ毛……

 

すれ違うその瞬間に目が合い、固まる。

 

 

 

 

 

 

「……なんで、ここに?」

「……そりゃこっちの台詞だよ」

 

 

 

もう一度、偶然、ばったり、会っちゃったよ!!

いくらなんでも早すぎないっ!?

別々に同じ電車に乗って、同じ駅で降りるなんて……。

 

思わぬ再会(数十分ぶり)に嬉しさよりも

驚愕が何倍も大きくてどうしよう……。

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと……先輩のおうちもこの辺なんですかー?」

「お、おう……。この駅から歩いて数分のところだ」

「そ、そうなんですね~あはは……」

 

 

 

「「………………」」

 

 

 

 

なんか……、なんか気まずい!

 

 

 

 

「あー……一色、お前ん家どっちだ?」

「えっと、西口から出て徒歩5分くらいのとこです……」

「同じ方向だな、送っていってやるよ」

 

「なっ……!?なんですかいきなり!送り狼ですか酔った女の子を送り届けるふりして美味しく頂くつもりですか!?ちょっと怖いし考えが甘すぎるので無理です出直してくださいゴメンなさい!」

 

「いや、じゃあ、いいわ。気をつけて帰れよ」

「わあああ!冗談ですよ先輩っ!」

 

あの先輩が急に紳士的なことを言うので

つい照れ隠しで断ってしまった……!

 

慌てて走り出して先輩の横へ並ぶ。

 

「先輩もこういう気遣いができるようになったんですね♪♪」

「小町に調教されたからな」

 

全く誇らしくないことを胸張って言ってるけど……

小町ちゃん、グッジョブ!!

 

「あっ、そこ曲がってすぐのアパートです!」

「ほう……結構いいとこ住んでんだな」

「父親が心配性でして……」

 

わたしの住まいは、まだ築2年程のアパートにある1LDK。

オートロック付で安全面も完備。

駅からも近く、家賃もそれなりにするが

親からは「年頃の女の子がひとり暮らしするのに

半端なとこには住まわせられない!」と強く言われ

ここに決められたのである。

いくつになってもパp...お父さんは心配性だなぁ。

まあその分、家賃は負担してもらっているので

なにも文句は言えないし、正直めっちゃいい部屋である。

 

 

「ほーん、どこの家も娘には甘いのな。うちも小町の下宿先は完全防備だよ」

「そうなんですねー。先輩のおうちはどの辺りですか?」

「…………そこ」

 

なにやら言い淀んで指さした先は……

ほぼ真正面にある小さなアパート。

 

「ご近所さんじゃないですか!?」

「そう……みたいだな」

「よく1度も遭遇しなかったですねー」

「はっ、まったくだ」

 

 

今日は驚愕のオンパレードだ……!

こんなことがあるもんですか!?

これだけ近いなら…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、今日はありがとうございました!」

「おう、数年ぶりだったが……まあ……楽しかったわ」

「お、先輩がデレた~♪♪」

「デレてねぇよ、アホか」

 

ふふふ、相変わらずの捻デレさんですね~。

 

「先輩……また、会いましょうね……」

「……そんな機会があったら、な」

「もぉ~。……おやすみなさい、先輩っ」

「……おやすみ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バタン、キュ~……。

疲れた。すっごい疲れた。

 

先輩とのことで頭いっぱいだったけど

今日って大学の学園祭だったんだよね……。

 

 

 

先輩と別れてから自室に帰ったわたしは

服も着替えずに、荷物や靴下を脱ぎ散らかし

そのままベットへダイブした。

高反発のベットは勢いよく飛び乗った反動で

ポーンポーンッと波打ち跳ねる。

 

 

 

そういえば……!

思い立ったわたしは素足でベランダへ出ると

真正面にあるアパートを凝視する。

 

てか、先輩の部屋どこか知らないし。

そもそもこれストーカーじゃ……。

 

素足がひんやりとして身体の芯まで

冷えるようにブルッと震えた。

まだほんの少し残ったアルコールと

いまの興奮状態の熱には少し気持ちいい。

 

そのまま呆然と外を眺めていると

真正面のアパートの一室に光が灯った。

 

「……ッ!?」

 

あそこって……タイミング的に、先輩……だよね!?

これではストーカー疑惑はあまり否定できないな。

 

身を屈めて隠れるように、手すりの隙間から

その一室をじーっと眺めていると。

カーテンに影が写り、ガラガラと音を立てて

スライド式の窓が開いていく。

そこから出てきたのは、やはり……

 

「……先輩……ッ!」

 

洗濯物ひとつないベランダに出てきた先輩は

少し着崩したスーツの胸ポケットから

なにかを取り出し、口に咥えると

カチンッ、ジュボッと音を立て

小さなオレンジ色の火が灯る。

 

あれは……タバコッ!?

先輩が……タバコ……!?

 

立派なストーカーと化したわたしは

先輩のタバコを吸う姿に、見蕩れていた。

 

 

先輩、タバコなんて吸うんだ……。

あれ……、でも今日1度もそんな素振り……。

もしかして、気を遣ってくれたのかな……。

 

 

 

 

 

先輩を見つめたまま、わたしはポケットからスマホを取り出した。

ホームボタンを押すとそんなに好きでもない

可愛いキャラクターの待受画面が現れる。

たくさんの四角いアイコンの中から連絡先を開き

せ……せ……あった!

せの行を辿ると「先輩」と書かれた連絡先を開き

意を決して、わたしは先輩に電話をかける。

 

プルルルル……プルルルル……。

こっちから掛けているのに

スマホのバイブ機能のように持つ手が震える。

 

 

「……はい、比企谷ですけど……」

「……先輩、さきほど振りです」

「んだよ、一色か。携帯変えたんだな」

「そりゃ高校卒業を期に携帯くらい変えますよ。ていうか、先輩は変えてなかったんですね、やっぱり」

「こんなの所詮、ゲームもできる目覚ましアラーム機だから。最近は仕事の同僚たちからの連絡もあるけど」

 

仕事の同僚とは、今日のあの居酒屋の前にいた

スーツ軍団のことかな。

 

そういえば……あの時わたしに話しかけてきた

ひとりの女の先輩を見る目……。

相変わらず無自覚にモテてるなぁ。

それに、結構可愛い人だったし。

 

「あの先輩が仕事仲間と飲みニケーションとは……成長しましたね。タバコもお仲間の影響ですか?」

 

………………あっ。

 

「……は!? おい、お前まさかっ!?」

 

しまったあああああああああ!!!

バカなのわたしバカなのッ!!!

 

先輩がこっちを睨みつけるように見ていた。

 

「……あ、あっはは~」

「怖ぇよいろはす、ストーカーかよ!あと怖い……!」

「た、たまたまですよ!? たまたま洗濯物を取り込もうとしてたら、目に付いただけですからね!?」

 

自ら白状してしまったわたしは

携帯を持っていない手をブンブンと振って

冷や汗を浮かべて誤魔化そうとする。

 

「……今度からベランダで吸うの辞めるわ。あと、タバコは平塚先生の影響だよ」

「ああー……今でもお会いするんですか?」

「まあ、たまにな。ほとんどがあの人の愚痴を聞くだけなんだが……ほんと誰か早く貰ってやれよ」

 

相変わらずだな、あの先生。

かっこいい人なんだけど……。

生徒会選挙の時もクリスマスイベントの時も

なにかとお世話になった平塚先生には

とても感謝しているので、ほんと誰か貰ってあげてください。

 

 

 

 

 

 

 

遠くに見える先輩は、空き缶かなにかに

吸殻を入れて中へ入っていく。

 

「おら、お前も早く部屋入れよ。あと、今後絶対に覗くなよ」

「だから覗いてませんってば!! 先輩こそわたしの朝のお着替えの時間に双眼鏡使って覗いたりしないで下さいよねー!」

「覗かねえよバーカ」

 

むぅ……なんか先輩の返しが妙に大人な対応なのがなんか悔しい……。

わたしが子供みたいじゃん!

 

 

先輩が部屋に戻ったのを見て

わたしも軽く足を払って部屋へ戻る。

 

「用がないならもう切るぞ」

「あっ待ってください先輩!」

「……なんだよ」

「今度また……一緒に飲みに行ってくれますか?」

 

せっかく電話をかけたついでに次の約束を

取り付けなければっ!

次に電話をかけられる機会なんて

いつになるかわからない。

それに……いつかは聞きたい。

今日聞けなかった、あの事を。

 

「……ああ、気が向いたらな」

「それ行かないやつじゃないですか!」

「気が向くように前向きに検討するよ」

「もぉー!絶対ですよ!」

「わぁーったよ。じゃあな」

「はい、今度こそおやすみなさい先輩!」

 

 

プッ、ツーツーツー

 

電話が切れたのを確認して

スマホを手にしたままソファーに蹲る。

話している時はなんともなかったのに

終わってから急にドキドキしてきた……。

ていうか、飲みに行こうとは言ったものの

いつ行くかは言ってないじゃん……。

 

タバコを吸う先輩、様になっててかっこよかったなぁ。

サークルの人とか友達でも吸う人はいたし

別に嫌いってわけじゃないから

わたしの前で吸ってもよかったのに。

 

 

 

でもそういうところが、先輩の優しさなんだよね。

 

 

 

先輩の優しさは、分かりにくい。

 

 

 

近しい人にしかわからない。

 

 

 

それが、本当の優しさなのかもしれない。

 

 

 

だから、先輩は……優しいんだ……。

 

 

 

 

そんな先輩……だから………、

 

 

 

 

 

 

わた…………し……は…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






はい、というわけで第5話でした。

今回もやはり、2人の口調を意識するのが
とても難しかったですね。
もはや私なりのって感じになっていますが……。

どこかで八幡視点も書いてみたいですね。

感想、評価等いただけると嬉しいです!

それでは第6話でまたお会いしましょう◎

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