そして一色いろはは過去と向き合う。   作:秋 緋音

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こんにちは、最近バンドリのRoseliaの曲を
耳コピでドラムをぽこぽこするのにハマってます。

秋 緋音です。


ルンルン気分のテンションを落とされたいろはす。

姿を見せない八幡は一体どこでなにをしているのか……。



それでは、第8話です!









第8話

 

 

 

「初めまして!今日はお集まり頂きありがとうございます。私は子供向け玩具を取扱う品川トイメーカーの青木と申します。本日はよろしくお願いします」

 

 

教卓にあがりマイクに向かって元気よく挨拶をするのは

以前居酒屋の前で見た覚えのある男。

 

 

 

先輩、じゃない……。

 

なんで……どうなってんの……?

 

そこには先輩が立っているはず。

先日先輩のアパートへ突撃訪問を仕掛け

先輩本人が説明会に立つことを、直接聞いていたから

間違いないはず、なのに。

 

なんで?どうして?

 

そんな混乱と疑問符ばかりを浮かべながら

教卓に立つ青木を見ていると、向こうもわたしに気付いた。

気が付きそして、驚きと少しの嬉しさを表情に浮かべた。

すぐにスピーチに戻り、それからも企業説明は続いたが、

内容は全く頭に入ってはこなかった。

 

各企業の説明会が終わると、場所を移り

それぞれの企業の方との話し合いの場が設けられた。

 

わたしは一番に品川トイメーカーのブースへ行き

先程教卓に立っていた男の前へ座る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは。先日はどうも……」

「こんにちは!まさかあの時の子がこの大学にいるなんて思わなくてビックリしたよ!改めてまして、品川トイメーカーの青木です」

 

なにかウキウキとしているようで、若干鼻息が荒くなっている。

いつもならここで、営業スマイルでキャピるんと

応対するのだが、いま愛想を振り撒いていられる心情ではなかった。

 

「それで……あの、今日は先輩……比企谷さんが来ると聞いていたのですが……」

「ん? ああ、比企谷ね。あいつ今朝会社に電話があって、なんか体調崩してるみたいでよぉ……。元々ふたりで参加する予定だったから急遽俺一人で────」

 

 

そんな……、体調が悪いなんて……あの時一言も……。

 

『あいよ……。ゲホッゴホッ……もういいか?』

 

そういえば、少し疲れ気味だったけど……

もしかして昨日のあの時既に体調悪かったんじゃ……。

 

 

 

 

「……一色さん、大丈夫?」

「あ、はい!すみません……」

「まぁ明日には復活するって、本人は言ってたから大丈夫だと思うけどね」

「そうですか……」

 

いま先輩は一人暮らしだし、大変なんじゃ……。

こうしちゃいられない……!

 

「すみません、ありがとうございました!」

「え、ちょっと!一色さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん乙葉、先に帰るね!」

「え、ちょっといろは!おーいっ!」

 

 

鞄を手に取り、教室を飛び出しす。

 

はぁ……はぁ……。

 

いつもの帰路を走って、一刻も早く先輩のところへと向かう。

 

はぁ……はぁ……。

 

普段運動なんてしていないせいか、息切れが激しい。時々脚が縺れそうになる。

そんなことには構わず、全力疾走で駅へ駆ける。

電車の時間までの間に売店に寄って

薬とポカリとゼリーを手に取り、肩で息をしているせいか店員さんに心配そうな目で見られながら風邪を引いた時の三種の神器を買っておく。

 

電車に乗り込んでも空いている席に座りもせず、扉の前に立ちソワソワと、ただただ早く着いてくれと急かす。

 

駅に到着した電車の扉が開くと同時にホームへ飛び出し階段を駆け下りる。

急ぎすぎて改札で定期を空かして、バーに激突するという

ちょっとした惨事があったが、とにかく走る。走る。

 

 

 

 

 

 

……はぁっ……はぁっ……。

 

一人暮らしをしていると、風邪や病気は厄介なもので

すぐ近くに信頼できる友達でもいない限り

ひとりで対処するしかなく、身体が弱っている時は

心も同様に弱く、脆いものになる。

 

夢中になって駅から走ること数分

ようやく先輩のアパートの前に着いた。

全力疾走したせいで、肩を上下させ、膝に手を付き

先輩と会う前に、ひとまず呼吸を整える。

 

……はぁ…はぁ………ふぅ。

 

呼吸を落ち着かせたところで、インターホンを鳴らす。

 

ピンポーンッ……

 

 

 

しばらく待つが、先輩が出てくる様子はない。

またなにかの勧誘と思っているのか、まさか出られないほどしんどいのかな……。

 

一瞬躊躇して恐る恐るドアノブに手を掛ける。

静かにドアノブを捻り、そーっと引いてみると

鍵は掛かっていないようで、すんなりと扉は開いた。

 

無断で侵入するのに躊躇いはあったが

今はそうも言っていられない。

 

物が少ないスッキリとした玄関で靴を脱ぎ

おずおずと奥へと向かうと、これまたスッキリとした

必要最低限の物しかないリビングに入る。

 

 

 

 

「…………先輩……?」

 

リビングまで来たものの、先輩の姿が見当たらず

すぐ横のスライド式の扉を開くと

大きなベッドと、その上に横たわる先輩の姿があった。

 

 

「先輩っ!大丈夫ですか!?」

 

 

ベッドの側へ駆け寄り、おでこに冷えピタを貼って

ぐったりしている先輩へ声を掛ける。

 

「……ん…ぁ? 」

 

重たそうに瞼を持ち上げると、普段とは違い

虚ろな目でこちらを見る。

 

「先輩っ! いろはです!大丈夫ですか!?」

「……ぇ、は!? おまっ…ゲッホゴホッ!!」

 

ボヤけた世界から意識がハッキリしたと同時に

驚愕するあまりむせ返ったように、苦しそうに咳き込んだ。

 

ガバッと上半身を起こした先輩へ

買ってきたポカリのキャップを開けて差し出す。

 

「……ふぅ、わりぃ。いや、てかお前、なんでいんの?」

「すみません、鍵が開いてたので……。説明会に来てた人から体調を崩しているって聞いて、つい……」

 

事情を聞いて現状を理解したようで

また上半身をベッドへ預ける。

 

リビングを見渡すと机の上には水の入ったコップと

その側には風邪薬が転がっている。

 

「先輩、ご飯ちゃんと食べてます?」

「ぁ?……あぁ、自炊はしてねぇ」

 

リビングのゴミ箱にはカップラーメンのゴミが入っていた。

 

「はぁ……、ちょっと台所借りますね。先輩は寝てて下さい」

「いや、帰れよ……。風邪移るぞ」

「いいから黙って寝てて下さい!」

「あ、はい……」

 

先輩を大人しく寝かせてから、寝室の扉を静かに閉めてから、

リビングの奥にあるキッチンへ移動する。

 

キッチン周りは電子レンジやオーブンはあるが

その他調理器具はほとんどない。

調味料も醤油や塩、砂糖など、必要最低限の物しかない。

冷蔵庫には……、うわっ。

この黄色と黒のコントラスト……

先輩の大好きなMAXコーヒー、通称"マッ缶"だ。

スッキリとした冷蔵庫に堂々と佇むマッ缶たち。

 

はぁ、これは……まずは買い物からかな。

玄関にはキーストラップも付いていない、裸の鍵が置いてあったので

鞄を持って鍵を閉めてから家を出る。

 

家から歩いて数分の位置にある、いつも買い物の用いるスーパーへ行き、買い物カゴを乗せたカートを押し歩く。

 

 

風邪の時はやっぱりお粥だよね。

ご飯は……今から炊くには時間がかかるし

レンチンして食べられる白米と。

白だしと鶏がらスープと、七草。

あとは、玉子酒を作るために日本酒と卵、そしてグラニュー糖をカゴへ入れる。

 

ガサガサと買い物カゴに必要なものを入れ

素早くレジでお会計を済ませると

また来た道をそのまま戻り、先輩のアパートへと帰る。

 

 

家へ入るとひとまずキッチンへ買い物袋を置いて、先輩の様子を見に

寝室の扉をそろーっと開けて中を覗くと

先輩はスースーと心地よい寝息を立て、ぐっすりと眠っている。

 

先輩のかわいい寝顔を拝見してからキッチンへ向かい

買い物袋から材料を取り出し、お粥を作り始める。

 

大根とカブの葉を切り離し、湯通ししてから

冷水で冷ましてみじん切りする。

大根、カブを皮剥きし角切り、葉物はみじん切りにする。

レンチンした白米、水、白だし、切った七草を鍋に移し、弱火でぐつぐつと煮込む。

 

あ、やばい……なんか先輩のお嫁さんみたい///

専業主夫とか言ってた先輩も立派に就職して

お仕事してるから……わたしが専業主婦かぁ。

 

お花畑な妄想を頭に思い描いているうちに

いい感じに柔らかくなったお粥に、鶏がらスープと塩で

味付けをして……ズズッ……うん!美味しい!

いろは特製の七草粥の完成!

 

あとは小鍋に日本酒、卵、グラニュー糖を投入し

よくかき混ぜて泡立てたら弱中火で

加熱しながらかき混ぜる。

いい状態になったら耐熱性のコップに移す。

 

お粥と玉子酒をお盆に乗せて……あっ、そうだ……ニヒヒッ!

 

いい作戦を思い付いて蠱惑的な笑みを浮かべる。

お盆のお粥と玉子酒が溢れないように

そーっと脚を運び寝室へと運ぶ。

 

 

「先輩、起きてください先輩」

「……ん、あぁ」

「ご飯できましたよ~。起き上がれますか?」

「……お、おぅ……悪いな」

 

 

ベッドの横に少し小さめな机があったので

お盆ごとそこへ置き、辛そうに上半身を

起こした先輩の前へ差し出す。

 

 

「おぉ……普通に美味そうなんだが……」

「あったりまえですよ!一人暮らししてからもう長いですし、元々料理とかお菓子作りは得意でしたから♪♪」

 

エッヘンと胸を張り、得意気な顔を見せる。

 

「そういやバレンタインイベントの時もチョコ、美味かったな」

 

バレンタインイベントといえば、まだわたしも先輩も

総武高に通っていたころに、生徒会と海浜さんとで開催した

みんなで一緒にチョコを作って、それぞれ試食を

してもらうイベントだった。

きっかけは当時バレンタインチョコを誰からも受け取らないという

葉山先輩に手作りチョコを食べてもらうために

用意したイベントでもあった。

 

もちろんあの時も本命は先輩だったんだけど……

そっかぁ、美味しかったかぁ……//

 

 

 

 

 

「今回のお粥も美味しく出来てますから、どうぞ食べて下さい!」

「そんじゃ……って、スプーンねぇんだけど?」

「おっと、気が付きましたね……。スプーンは、ここにあります!」

 

隠し持っていたスプーンを、まるで勇者の剣のように掲げる。

 

「お、おう……ありが───」

 

わたしが取り出したスプーンを取ろうと手を伸ばした先輩の手は虚しく宙を掴む。

 

「…………なに、手で食べろってか?」

 

先輩の手から逃れたスプーンを胸元で握りしめ

「わたしが、あ~ん、してあげますっ☆彡」

 

そう、これがわたしの作戦である!!

 

 

 

 

 

 

バチコンッとウインクを飛ばした先の先輩の顔は…………

 

 

「なにいってんの、こいつ」

という露骨に嫌そうな表情を向けられた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





はい、というわけで第8話でした!


以前体調を崩した際に、お粥と玉子酒を作って食べました。
えぇ、もちろん、ひとりで……。

ずるいぞっ八幡!!

ここがチャンスと見たいろはす、攻めますよ。

感想、評価など頂けると嬉しいです◎

それでは第9話でお会いしましょう♪♪

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