そして一色いろはは過去と向き合う。   作:秋 緋音

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第9話です。

余談ですが、先日姉が結婚しました。

その式でいろはさんという方がいらしてて

すごくいい名前だなと思いましたまる



というわけで第9話、攻めのいろはすです。




第9話

 

キメ顔のわたしと、げんなり顔の先輩。

奇妙な沈黙が先輩の寝室を覆っている。

 

 

「わたしが、あ~ん、してあげます」

「それはさっき聞いた。なんなの、大事な事なので2回言ったの?」

「わたしが、あ~ん、してあげます」

「お前あれだろ、▶︎はい。を選択しないと話し進まないRPGのNPCだろ、そうなんだろ」

「は?ちょっとなに言ってんのかわかんないです気持ち悪い」

「ひ、酷ェ……」

 

なかなかYesと答えない先輩と

漫才の様な掛け合いを繰り広げる。

 

 

 

「もぅ……なんで嫌がるんですか~!わたしが看病してあげるって言ってるんですよ?ご褒美ですよ!?」

「自分で食えるっつってんだよ……ゲッホゴホッ」

「ほらっ!病人は大人しくしてください!」

 

相変わらず往生際が悪いですね、もぅ。

さっさとお口を開ければいいんですよ!

 

お粥をスプーンで掬い、溢れないように

自分の口元へと持っていき

「ふぅーっふぅーっ……はい、先輩っ!」

「いや、だからいいって」

「い・い・か・らっ! あ~ん」

 

わたしの吐息でお粥を冷まして、先輩の口元へと

スプーンを運んであげたのに、未だに口に含もうとしない先輩に

ぐいっとさらに差し出す。

 

「…………一口だけだぞ」

 

先輩は頬を少し赤らめて、ボソッとそう呟き

目を閉じ口を、小さく開けた。

 

口元へ運んだスプーンを持つわたしの手は

固まったまま、動かない。

手だけでない、身体ごと、視線をも

照れながら口を開け、わたしがスプーンを運ぶのも

じっと待っている先輩の顔を見つめて動かなくなった。

沈黙が流れる中、わたしの鼓動だけが激しく、もしかしたら先輩にまで聞こえるのではと思うほどに動いている。

 

「…………ッ!? あ、あーん……」

 

たった数秒の硬直だっただろうけど、完全に先輩に見蕩れていたわたしは

おあずけを受けて待ちぼうけてる先輩の口へ

ようやくスプーンを運ぶことができた。

 

先輩は運ばれてきたスプーンを、咥えるように口を閉ざし

わたしはそっとスプーンを引き抜く。

 

口に含んだお粥を、もぐもぐと口を動かし

咀嚼すると、ごくんと喉を鳴らしたところで

ようやく目を開いき

 

「……普通に美味い……」

「普通にってなんですか、やり直し!」

「いや、めちゃめちゃ美味しい。なんだこれ、すげぇ……身体が回復していくみてぇだ……」

 

先輩は自然と顔を綻ばせ、賞賛の言葉を頂いたので、

ふふんッとドヤ顔をお見舞いしてみせたが

心の中では、内なるいろはが万歳している。

 

やったー!! よかったぁ……。

普段から料理の腕磨いておいて本当に良かった。

ママ……一色家直伝の七草粥を、伝授してくれてありがとう!

 

「ささっ、先輩!どんどん食べて下さい♪♪」

「おう、いただk……いや、一口だけっつっただろ。なんでまたスプーン持ってんだよ」

 

ちっ、バレたか……。

どさくさに紛れて引き続き、先輩にあーんしようとしたが

一瞬開きかけた口を、先輩は閉じてしまった。

 

「……先輩、この間お家の前でした約束……覚えてますよね……?」

「っ!……あぁ、説明会の後で、飲みに行く約束だろ……。それは、反故にして悪かった。埋め合わせは必ずするよ」

 

先輩は申し訳なさそうに、上半身だけで頭を下げた。

もちろんわたしは、その件で先輩を非難するつもりは微塵もない。

体調を崩してしまったなら、仕方の無いことだ。

 

「だったら……今日一日、先輩の看病をさせて下さい。それでチャラです……」

 

先輩はこの部屋にわたしが来た時に言った。風邪が移る、と。

わたしの身を案じて、言ってくれた先輩の優しさだったが。

こんなに弱っている先輩を、たった一人にしておく方が

わたしにとっては、辛い。

どうしても放ってはおけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わかった。お前がそれでいいなら、今日は甘えさせてもらうわ」

 

正直、耳を疑った。目を点にした。口からは「ほぇ?」と、演技ではなく自然に零れ出た。

 

そりゃ、ちょっと意地悪なやり方で

先輩の看病をするために、約束を盾に使ったりしたけど

わたしの想像した先輩の反応は

「ちっ、わぁーったよ……」と、いつもの様に

頭をガシガシと掻く、照れ隠しをしながら

そう言って応える姿を想像していた。

 

 

だが先輩の口からは「甘えさせて」と、そう言った。

あの先輩が? 人に頼ることを疎んでいた先輩が?

 

どうしよぅ……嬉しすぎてニヤけちゃう……//

 

先輩に必要とされることが、ただただ嬉しくて

無理矢理抑えても口角が上がってしまう。

 

「まっかせてください! 頼りになる後輩ですねっ♪♪」

「はっ、自分で言ってんじゃねぇよ」

 

 

先輩を一日甘やかせる券を獲得したわたしは

それからも先輩にお粥をあーんしてあげた。

相変わらず先輩の頬は赤く染まったままだ。

 

全て平らげた先輩に風邪薬とお白湯を飲ませて

お腹一杯になった先輩はそのまま眠りについた。

 

 

 

先輩が寝てしまったので、静かに寝室から離れリビングへと戻る。

物が少ないため、スッキリとしては見えるが

服や飲食したものが机や床、ソファーに放置してあり

大きな物音を立てないように、部屋の隅々まで掃除を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぅ……うん、綺麗になった!

 

ゴミを全てまとめて捨てて、放置された服は洗濯へ持っていき、机周りから床まで拭き掃除。

ピッカピカになった部屋を満足気に見渡す。

 

時計はもう既に夕方を指しており、すっかり掃除に熱中してしまったみたいだ。

 

今日一日先輩のお世話をする約束なので、夕飯のお買い物をするため

またスーパーへと行かなくては。

鍵と鞄と、先程の買い物袋を持って家を出る準備をしていると、

 

ピンポーンッ…………

 

不意にインターホンが鳴る。

 

先輩が言ったようにN〇Kか新聞の勧誘かな……?

わたしが勝手に出るのもどうかと思うし

でもインターホンを連打されて先輩を起こされるのも……。

 

 

あれやこれやと頭を巡らせていたが、再度インターホンが鳴ることはなかった。

 

少し時間を置いてから外へ出ると、玄関にはなにかが入った女性物ブランドの紙袋が置いてあった。

一応中身を確認すると、そこにはポカリ、ゼリー、風邪薬と、小さな手紙が入っていた。

そのメモ用紙のような手紙には『はやく元気になって仕事に来い! 彩香』と、可愛らしい女の子の手書きメッセージが書かれていた。

 

…………まさか、彼女とかじゃないよね?

ないないないない、ないでしょ。

彼女なら合鍵くらい持ってるだろうし。

 

ひとまずその紙袋を玄関へ置いておき、周囲をキョロキョロと見渡してみるが、置いていった人影は見当たらなかった。

 

心にモヤモヤしたなにかも抱えたまま、夕飯の買い物へと出掛ける。

 

うーん……お昼はお粥だったから、晩はうどんかな!

鶏肉とうどんと……風邪には生姜!

 

速やかにレジを済ませ、また来た道を帰る。

 

先輩は……まだ寝てるな。

 

こそっと寝室を覗くと、先輩はぐっすりと眠っていた。

お昼に覗いた時よりも、顔色は良くなった気がする。

 

 

今回は生姜を使った鶏たまうどん!

 

うどんの上にふんわり卵と鶏肉の乗った

生姜の効いたとろ~りあんかけうどん。

 

しっかり二人分作ったところで時計を確認すると、もう18時を回っていた。

 

寝室の扉をそっと開けて、ベッドの側へ膝立ちする。

目の前にはまるで子供のような寝顔をした先輩。

目を閉じていると、ほんとかっこいいなぁ……。

 

しばし先輩の寝顔を堪能してから、布団の上から肩を叩く。

 

「先輩っ、晩ご飯ができましたよ~? 起きられますか?」

「ぅん……ああ、悪ぃ寝ちまってた……」

「いえいえ、身体はどうです?少しは良くなりましたか?」

「ああ、気分はかなり良くなったわ……晩ご飯まで、何からなにまですまん」

「水臭いですね~。今日一日は先輩の看病しますからね♪♪」

 

先輩はそっと微笑み上半身のみ起こした態勢から

足をベッドの側に着け、立ち上がる。

 

「起き上がっても大丈夫なんですか?」

「ああ、だいぶ回復したみたいだな」

 

…………ッ!

 

そう言って先輩は、ベッドの側でしゃがんでいる

わたしの頭にそっと手を置き、くしゃくしゃと

微笑みながら愛でるように頭を撫でた。

 

 

「……っ!!わ、わるい!いつもつい小町にやってた癖で……」

「…………もう一回……」

「……え?」

「もう一回だけ、撫でてください」

 

どんな反応を想像してたんだろう。

焦って身構えていた先輩は、わたしのおかわり発言を聞いた途端、キョトン……('ω')とした表情を浮かべる。

 

おねだりをしたわたしはただ静かに、しゃがんだまま上目遣いで、先輩を見つめる。

自分でおねだりしておいて、心臓は激しく脈を打つ。

 

先輩が恥ずかしそうに、耳まで赤く染めながら

さっきよりも軽く、わたしの頭を撫でる。

 

先輩の手の温度が伝わる。先輩の手が髪を梳く。

なんとも言えぬ心地よい感覚に浸ってゆく。

 

 

「…………も、もういいか?」

「……はい、ありがとうございます……」

 

 

名残惜しいが、先輩はわたしの頭から手を離す。

 

「「…………」」

 

お互いに微動だにせず、ただ沈黙する。

 

「さ、さぁ、晩ご飯冷めちゃいますし、早く食べましょう!」

「そ、そうだな、ありがたくいただくわ」

 

 

またお互いに照れ隠しのように、辿たどしい空気の中、リビングへ移動する。

 

普段から来客がないのか、座椅子などの家具はなく

机とソファーがひとつ、リビングに置かれているので

床に座るのも憚れるので、微妙な距離感で

ふたり並んでソファーに座り、ふたり一緒に夕食をとった。

 

 

「「いただきます」」

 

 

 

 

 

 

 

 





はい、というわけで第9話でした。

先日感想にて、「タイトルからは想像つかない内容」と
言っていただいて、確かに……と思いました。笑

シーンひとつひとつの描写が細かいのかな……
想定していたより、かなり展開かゆっくりしてます。

ここまで来てタイトルを変えるのもなんだかなぁ……。


果たして、いろはがステージで叫ぶ日はいつ来るのか!?


感想、評価など頂けると大変嬉しいです◎
頂いたお言葉、とても嬉しかったです!

それではまた、第10話でお会いしましょう♪♪

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