ここは訓練室。学園内にある星座術の使用許可が許されている数少ないエリア。ここでは、自身を鍛える為に多くの生徒が身体に鞭を打って日々鍛練している。また、コロニーの内部にはトレーニングジムもあり、ジョニー・ザ・ブラックペンチ等の筋肉を鍛える人はそちらの施設も利用している。
「せい! やっと!」
多く利用している生徒達の中に腹部の上腹部程の大きさの木の棒を持ったリゲルが竹刀を持ったクライドと模擬戦をしていた。威力よりも手数を優先したスピード主体の攻撃にクライドを翻弄しながら攻めるリゲル。クライドも微かな隙を見つけてリゲルを押し返す。
「ふん!」
「おとと……げ!?」
力強く押し返したクライドの攻撃を耐えたが壁に追いやられた事に気付いて声をあげるリゲル。
「はぁ!」
その隙を逃がさないと言わんばかりにクライドが走り、助走をつけた一撃をリゲルに向かって降り下ろした。
「とりゃ!!」
「なっ!?」
逃げ場なしでここまでと思いきや、リゲルは手にした棒を踏み台に跳んだ。自身の身長より高く跳んだ事より発想に驚くクライド。
「もら……え?」
クライドの頭上を越え、『今の彼は武器を降り下ろして隙だらけ』と考えたリゲルがクライドに視線を向けると彼はすでに次の攻撃の段階へと踏み込んでおり、むしろ武器を踏み台に跳んだお陰で丸腰になった自分こそが隙だらけと気付くも遅かった。
「かぁ!!」
「真剣白刃どふぎゃ!?」
巨体から繰り出される唐竹割りのごとき一撃を最後の足掻きか白刃取りを試みるも失敗に終わり、クライドに勝ち星がついた。
「……大丈夫か?」
「……なんとか……」
目の錯覚か、リゲルの頭から白い煙が出てるように見えたクライドは心配して声をかけるとリゲルが弱々しく返事を返した。
「やっぱり強いなぁ……星座術なしの手合わせを急に頼んでごめんね」
「気にするな。こちらとしても良いトレーニングになった」
まだ痛む頭を擦りながらトレーニングに付き合ってくれた事に気付いて感謝するとクライドは笑って気にしていない事を伝える。
「はい、スポドリ」
「……ベテルギウス……お前の出身はカザリアか?」
近くの自販機から購入したスポーツドリンクをリゲルから受けとると、クライドはリゲルの出身地について質問した。
「え? いや、アランドだけど……」
「両親の誰かがアニマジンか?」
首を傾げながらも答えるリゲルにクライドが彼の親について質問する。しかし、その質問に先程まで明るい様子を見せたリゲルの表情に陰が姿を見せる。
「……」
「……すまない。触れてはいけない所だったか」
「……別に気にしなくて良いよ。それより、何で急にそんなことを……?」
すぐに失言だと気付いたクライドが謝罪する。心配されたリゲルは気にしていない様子を見せて、質問の意図を聞く。
「ああ、それはお前の戦い方がカザリアのアニマジンと同じだったんだ」
その言葉にリゲルは目を丸くし、二度三度まばたきをして恐る恐る訓練室の一角に向かって指を指した。
「同じって……あれと?」
そこには、ゼロールを殴り飛ばしている女性の姿があった。ライオンの鬣を模したかのような荒々しいウェーブロングの金髪の意匠同様に、獅子耳と尻尾が顔を覗かせ、獰猛に笑う口元には獣が如く鋭い犬歯が輝き、瞳もかなり鋭く、男と比較してもかなり高い190㎝もありそうな高身長に抜群なスタイルも彼女の身体から溢れでる闘気を浴びて萎縮する生徒が現れている。
「そうではない。カザリアに住む無法者と同じ戦い方だった」
確かにアニマジンだが、戦い方が違うとクライドが否定して話を修正した。
「えっと……何で戦い方を知ってるの?」
「少し、カザリアに足を運んだ事があってな……その時に身長が高いという難癖をつけられて戦った事がある」
リゲルの質問にクライドは苦笑して答えるが、どこか哀愁のようなものを感じとってリゲルは追求することをやめた。
「集団によるコンビネーションも厄介だったが奇襲もそうだ……お前の戦い方はそれを合理的にした獣のような感じだったぞ」
そこまで言ってクライドは先程の戦いを思い出す。威力を捨ててスピードと手数を優先しながら相手の足を主体に攻撃して機動力を削ぎ、徐々に追い詰めようとするリゲル……そして、追い詰められたら驚く発想力で逃げ切る姿に野生動物のようなものをクライドは感じ取った。
「そっか……シリウスから教えてもらった戦い方が……」
「……シリウス?」
リゲルの口から出た言葉に驚くクライド。シリウスと言えば、リゲルの星座術で召喚される大型犬ロボット……あの戦い方を教えた事に目を点にするクライドの様子に気付いたリゲルは詳細を説明した。
「あぁ、シリウスとは小さい頃から一緒だったんだ……さっきの戦い方の他にも文字とか一般常識も教えてもらって……」
「まるで
「違いない!」
クライドの言葉に納得してケラケラと笑うリゲル。
「シリウスはオレにとって親でもあり、相棒でもあるから……もし、意識を持って星座術で出て来てくれなかったら多分だけど……オレは生きられなかったと思う」
リゲルの言葉にクライドは言い過ぎだと思ったが、両親について聞かれた時の様子を思い出して言葉を飲み込んだ。もし、彼の言う言葉が本当ならば辻褄が合ううえに彼自身の人生に深く踏み込んでしまう気がしてしまった。
「……あ、こんな時間か……ちょっと郵便局に用事があるから先に行くね」
「手紙でも届けるのか?」
「そんなところ。じゃあ、また明日!」
「うむ、気を付けてな」
学園のチャイムで現在の時刻に気付いたリゲルが荷物を持って訓練室を一足早く出ようとする。クライドに別れを言ってからリゲルは足早に去っていった。
その様子をクライドは黙って見続けていたことを彼は知らない。
「時間帯は間に合うけど、少し急ぐかな……行列だったらどうしようか……」
手に巻いた腕時計を気にしながら走るリゲル。もうすぐ曲がり角だが本人は気付いていない、目の前の曲がり角から人が現れ、そして――
「ぬばぁ!?」
――ラリアットがリゲルに襲いかかった。奇跡的とも言われるタイミングで当たったラリアットに地面に倒れて悶絶するリゲルとその様子にあたふたする人物。
「……ぉおぉぉぉぅうぅぅ……」
「ご、ごめん! こっちも急いでたから……大丈夫?」
「な、なんとか大じょ――ん……?」
平気である事を伝えようと起き上がるリゲルだが、違和感を感じとって人物を見つめる……その様子に首をかしげる人物。
その人物の容姿は街中で美女とか言われそうなレベルの美貌に目の色は透き通ったエメラルドのような緑色で金色の髪が揺れ、身長は153cmくらいの小柄な人物が心配そうに見つめていた。
「……女性?」
「は、ハハハハ、や、やだなぁ! 僕は男だよ! 顔は女っぽいけどズボン履いてるし!」
怪しむような目線で溢れた言葉に目の前の人物が笑いながら――どこか慌てるような感じでリゲルの言葉を否定する。リゲルが視線を向けるとズボンを履いており、目の前の人物が男性だと教えていた。
「あ、本当だ……ごめん」
「大丈夫だよ! これからは気を付けて走ってね!」
「……前向きに検討します」
「気を付けて走ってね!!」
素直に謝るリゲルの様子に安心した男性は注意してから、風のように去っていった。
「変な子だな……うぅん……あ、そうだ! 郵便局に行かないと!」
おかしな男性にあったことを呟きながら、目的を思い出して走るリゲル。その様子を先程の男性が物影から見ていた。
「……良かった……バレてない……」
去って行くリゲルの様子にホッと息を吐く。
「まさかラリアットする形でぶつかるなんて……これでバレたら一生の恥だよ……」
先程の光景を思い出して一人恥ずかしさに顔を赤くする男性。そして、ゆっくりと廊下を歩き始める。
「……バレる訳にはいかないんだ……僕の目的の為にも……」
その言葉にどこか重い覚悟を含めながら言う言葉は廊下に響くも、誰も聞こえなかった。
ドラゴンボーイ「ちょ、まっ、アベシ!?」
アネゴレオン「どうしたぁ! かかってこい! まだいけるだろ! もっと熱くなれよぉ!!」
アチャクレス「……激しいな……」
男装天馬「……バレてない……バレてない……」
Cクラスはここまでにして、次はBクラスに行きます!!