ギャラクCハイスクール   作:ハレル家

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5星:《Bクラス側》黄道的なトークショー

 放課後。外からは賑やかな声が聞こえる反面、校舎内は静かであった。その廊下を歩く一つの人影が揺れていた。

 その人影――セバス・ライフリングは自身のある目的の為にこの学園へと入学したのだ。

 

「……この学校に入学して、早くも数十日が経とうとしている……そろそろ動くべき……」

 

 誰もいない廊下を静かにだがゆっくりと慎重に進む。視界に一つの部屋が映り、彼女の足が止まる。

 

「さらに情報が必要だ……手始めに保健室(ここ)から集めるとしよう」

 

 小さく呟き、ゆっくりとドアを開く。中には白いシーツが敷かれたベッドに作業机と椅子、身体測定用の器具に保健体育の教材等が置かれている棚がある。

 

 ……誰もいない、好都合だ。

 

 用事でいない事にチャンスと思ったセバスは作業机にとある資料が置かれている事に着目する。

 

 ……これは……健康管理表? 随分と管理不十分な場所に置いてい――

 

「動くな」

 

 手に取ろうとした瞬間、セバスの首にボールペンが突き立てられる。周囲には人影がなかったのにも関わらず突然現れた気配に内心で困惑するセバスに声の主が続けて言う。

 

「下手な動きをしてみろ、延々と痛みを味わって貰うぞ」

 

 冷たく、鋭い声に身体が凍ったように動かなくなるセバス。声の主に心当たりが全く無い事に困惑すると同時に目的が果たせなくなる事を深く後悔する。

 

「そのまま、ゆっくりとこっちに振りむ――」

「急患だぁぁぁ!!」

「……おち……おち、落ち着け、用務員……げほ、げほ!?」

 

 顔を見せるように指示されるも突然保健室の扉が力任せに勢いよく開き、その張本人に遮られた。突入した人物は黄色が混ざった茶髪に青い目が特徴のヒューマン男性――ライオ・アルギエバが青い顔で黒髪ロングに眼鏡をかけているが目は濁っている無表情のデミート女性――アヤメ・クナギリをお姫様だっこしたまま転がり込む形で保健室に突入し、後から追ってきたのだろうアルト・ファフニールが息を切らして入室した。

 

「……ぜー……ぜー……み、水……」

「あれ? ライフリングに何やってんだスピカ?」

「……エ?」

 

 自身に気が付いたライオが目を点にして話しかけてきたが、彼の言葉に今度はセバスが目を点にする番だった。

 

 ……え? 今、スピカって彼は言わなかった?

 

 そんなハズはないと緩くなった拘束にゆっくりと後ろを振り向くセバス。しかし、彼女の予想は外れる事なく水色のウェーブヘアにタレ目と泣きほくろが特徴の顔に起伏が激しい所詮グラマー体型と言われるプロポーションをしたギアヒト女性――スピカ・ザヴィザの姿が視界に映った。

 

「……ン? ……オーウ!? ゴメンねぇ! てっきり泥棒だと思って対応してシマッタヨー!!」

「えぇ!?」

 

 ……まさか誤魔化してるつも……違う!? 目を見ても嘘を言ってない! 本当に僕が誰なのかわからないままやってたんだ!?

 

 まさかの反応に驚くセバス。彼女の様子から本当に行動したと理解して目を白黒させる。

 

「怖い思いさせてゴメンねぇ! クナギリちゃんの診察が終わっタラ、オイシイ茶菓子用意するからチョットマッテテネ?」

「……ハハ……は、はい」

 

 怖い思いよりも誰かわからないまま躊躇なく自身の首にボールペンを突き立てた彼女の行動に乾いた笑みを浮かべながら近くの椅子に座る。すると、ライオがセバスに近付いてきた。

 

「なぁ、ライフリング。スピカに動くなと言われた時って怖かっただろ?」

「えっと、その……」

「無理に言わなくていいぞ。怖いに決まってるよな……」

 

 ……いや、無神経過ぎるでしょ。

 

 仮にも本人が目の前にいるにも関わらずに言うライオの胆力に驚きながらも内心では否定しないセバス。

 

「余計なこと言わナイデ! 去年も乙女のヒミツデアル管理表を覗こウトシタ生徒がいたカラ、テッキリ、その子だト思ってシマッタノヨ!」

 

 ライオの会話が聞こえたのか治療しながら反論するスピカにセバスはあの反応は前科持ちが来たと勘違いしたのかと納得する。

 

「んっんっんっん……ぷはぁ! だが丁度いい。デリカシーを傷つけられた慰謝料の代わりとして話してもらうぞ」

「何を?」

 

 水をがぶ飲みして息を整えたアルトがライオに話しかけた。その様子にライオが首を傾げるとアルトは聞きたい内容を言う。

 

「黄道星団についてだ」

 

 ライオとスピカが所属している集団を詳しく聞きたい知的欲求を見せるアルトにセバスは横で聞き耳をたてる。戦争を終わらせた立役者である集団に興味がないと言えば嘘になる。

 

「本来ならトシゾーから聞こうと思ったが、目の前に本人がいるなら直接聞いた方が早い」

「……そうだな。別に隠す必要はないから話してもいいか……とはいえ、多くは語れないからな」

[それは、何故ですか?]

「クナギリさん大丈夫?」

 

 本人が承諾したにも関わらずあまり話せない事に疑問する治療を終えたアヤメにセバスは大丈夫かと身体を気遣う。その質問に首を縦に振って肯定するアヤメはスピカが用意した椅子に座る。

 スピカはお茶菓子と人数分の温かい飲み物を用意している。

 

「俺とスピカは途中から入団したメンバーだからだ。アウストラリスさんと他の二人の三人が創設時のメンバーなんだ」

「意外だな。最初から十二人で結成したのかと思っていた……ならば、その時のお前は何をしていたのだ?」

「紅茶でヨカッたー?」

「ありがとう」

「あ、どうも」

[ありがとうございます]

 

 差し出された紅茶を受けとり、三人は同じタイミングで紅茶を飲む。そのタイミングでライオは質問に答えた。

 

「惑星カザリアで革命軍の斬り込み隊長やってた」

「ぶー!?」

「あっつい!?」

 

 ライオの言葉に驚いた反応を見せるアルトが口に含んだ紅茶を吹き出し、熱い飛沫にライオは悶絶する。

 

「貴様、それは本当に言っているのか!?」

「マジに決まっているだろ! ここに証人どころかご本人がいるだろ! あ、タオルありがとうなスピカ」

[ファフニールさん、革命軍ってなに?]

「えっと、有名なの?」

 

 驚きに声をあげるアルトに自身が証明だと反論してタオルを貸してくれたスピカに感謝するライオ。アヤメとセバスは革命軍を知らないのか疑問符を頭に浮かべる。その様子を見たアルトが二人に革命軍について説明する。

 

「革命軍ってのは星統種族戦争時の惑星カザリアでギアヒトがアニマジン等の捕虜の人権を奪おうとし、それに反対した人達が立ち向かう為に手を組んだ集団の事だ」

「……手を組んだって……黄道星団みたいなもの?」

「いや、動機が違う。革命軍は『奴隷になって従うぐらいなら、目の前のコイツと協力した方がマシだ』と嫌々ながら妥協して手を組んだ集団だ……終わった後はバラバラになったと聞いた……」

 

 “革命軍”

 

 惑星カザリアで人権を剥奪しようとしたキャストに反抗の異を唱えた武装集団。武器はキャストの最新兵器に劣るも奇襲や闇討ち、カザリアの過酷な環境を利用した戦術で翻弄した多種族の一時的な同盟軍。

 

「革命軍の殆どは自由を謳うアニマジンが多かったからな……終わった後は無法者になったのが多いな」

[なぜ、カザリアにいたのですか?]

「戦争でキャストに捕まって、惑星カザリアで捕虜として連行されたんだ。しばらく炭鉱で働かされていたけど、革命軍の騒ぎに乗じて脱走した」

「……居心地とか悪くなかったですか? 別々の種族だから目の敵にされたり……」

 

 質問に答えるとセバスの疑問にライオは遠くを見るような懐かしむ目になり、一つ一つ思い出すかのように語り始める。

 

「……そうだな……理由のない暴力や盗難、冤罪に仲間から盾にされたり、裏切りや囮要員、アッチ系の人物にやられそうになったりと騒がしく大変な目にはあったな……」

「さりげなくトンでもないのが混ざってたぞ」

[アッチ系ってなに?]

「な、なんだろうね、本当に!」

 

 どさくさに紛れた言葉に少し反応するも、追求すれば脱線してしまう恐れを感じて話の続きを促す。しばらく沈黙が流れ、ライオは呟いた。

 

「……それでも、悪いやつらじゃなかった」

 

 クシャリ、そんな言葉が出そうな子供のような笑みを見せ、ライオは朗らかに笑った。

 

「……私はそうとは思えないが……」

「うん。話を聞く限りじゃ好きになる理由がない」

[むしろ嫌って当然だと思う]

「……はは……そう思うよな……あの時の戦場は生きるので精一杯でな、全員が同じ安心を得ることは難しかったからな……唯一、戦っている時は目的が同じだから信用できたんだ……特に相手側のギアヒトに嫌な顔一つさせれば充分だったからな! それを肴に盛り上がったっけ……」

 

 子供のようにはしゃぎながら話すライオの身ぶり手振りな説明を聞く三人。語彙力(ごいりょく)は拙いが何が言いたいのかはわかり、黄道星団について意外な話に耳を傾けた。

 

「黄道星団ってどんな人達がいたんですか?」

「色々だな……アウストラリスさんのような農民もいれば、マフィアのボスに研究家、盗賊に教皇、果ては死刑囚もいたな……まぁ、死刑囚は奉仕活動で刑期を減らそうと頑張ってるから悪いやつじゃねぇし、比較的良いヤツラばかりだな……変人も多いけど……」

「おい、今聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ」

 

 ボソリと早口かつ小声で呟いたライオに異議を唱えるアルト。その声を聞かなかった事にしてライオは話続けた。

 

「黄道星団の中で誰が強かったんですか?」

「アウストラリスさんは間違いなく総合的トップだけど制圧力なら教皇だし、治療ならスピカが一番……まぁ! 元だけど革命軍トップだった俺が一番だけどな!!」

「……アルギエバさんが……?」

「当時のギアヒト軍にトッテ、革命軍のライオは天敵で目ノ上のたんこぶミタイナ物ダタノヨー」

「革命軍は奴隷とってヒーローのような存在だったからな……特に斬り込み隊長だったアルギエバは数多くの戦地を率先して切り開き、奴隷解放を最も多く行った人物として人望と人気が高かったそうだ」

[すごい人だったんですね……アルギエバさんて……]

[いつもはドジばっか起こすのに驚きました]

「おい待て、それって俺は今までダメなヤツって思われてたの?」

 

 セバスとアヤメの言葉に反応するライオ。その答えを誤魔化そうとセバスはスピカに話を振った。

 

「そういえば、ザヴィザさんはよくそんな事を詳しく知ってるんですね」

「あぁ、当時のギアヒト軍の事情なんていまだに謎だらけなのにな……」

「エ!? マ、まぁネー」

「そりゃあそうだろ」

 

 どこかしどろもどろになるスピカにライオはキョトンとした顔で答えた。

 

[何か知ってるんですか?]

「知ってるも何もスピカは――」

「ほらホラ! そろそろチャイムがナルよー! 戻った方がイインダヨー!!」

 

 言おうとした瞬間に何かに焦り始めたスピカがライオを除く三人を保健室から出そうと席を立たせ、背中を押し始めた。

 

「押さないで押さないで!」

「ちょ、おい! まだ話の途中なんだぞ!」

「いいからいいカラー! ハヤく行かないとダメよー!」

 

 反論なんて聞かないと言わんばかりの勢いのスピカに押された三人は保健室の前に押され、廊下に出た瞬間にスピカは保健室のドアを閉めた。

 

[閉め出されてしまいましたね]

「ぬぅ……もう少しで聞き出せたのに……」

 

 恐らく、戻っても追い出されてしまうと判断した三人は寮に帰ろうと足を動かした。

 

「……あれ? クナギリさん。何か挟まってるよ?」

[え?]

 

 瞬間、アヤメが会話の際に利用しているスケッチブックにB5用紙よりも小さい長方形の形をした薄い物が挟まっていた事にセバスが気付き、それを手に取る。

 

「……これは……写真? いつの間に……」

[随分と古い写真ですね]

「写真の日付から見るに革命軍が話に出てきたギアヒト軍を一時的に惑星から撤退させた日と同じだ……恐らくだが、用務員が気を効かせてこっそりと挟んだんだろう」

 

 長方形の形をした薄い物の正体は写真であり、セバスは二人にも見えるように写真を見せる。

 

「うわ、この人って警備員のアウストラリスさんでしょ。今と変わらずに若いままだ」

[この女性と肩を組んでピースをしているのはアルギエバさんですね。こちらは幼く見えるので成長してます]

 

 まだ黄道星団として活動したばかりの人物の写真に少しだけ気分が高揚するセバスとアヤメだが、アルトは一人の人物に目を細める。

 

「……なぁ……この女性は誰だ……」

 

 指を指した人物は身体の起伏から女性だと判別できるが、深い青色のロングヘアーに目つきが猛禽類のように鋭く、表情は冷たく張り詰めている。しかし、肩を組んだライオを見ないようにしてるのかそっぽを向いているが、頬がほんのりと赤く染まっている事に近寄りがたい雰囲気が少しだけ和らいだ気がした。

 

「……本当に誰だろ……」

[……こんな人いましたっけ……?]

「……ギアヒトで女性だとわかるのだが……」

 

 黄道星団の二人の可能性もあるが、残念ながら他の二人の性別は男性である。頭を悩ます三人だが、同時に一つの可能性が頭に浮かんで固まった。

 

[あの……もしかして……]

「いやでも、顔や雰囲気が全然違うよ。気のせいだって」

「そ、そうだな。他人の空似だという可能性も捨てきれな――」

「どしたのー?」

「――ひゅわぁ!?」

 

 否定しようと口々に言う三人の後ろにいつの間にかスピカが現れ、物音立てずに現れた女性に固まる三人をよそにスピカがアルトの手にあった写真に気付いた。

 

「おお、懐かしい写真だヨー!」

 

 ……懐かしいって言った! まさか、この女性って……!!

 

 写真を奪うようにアルトの手から取ったスピカの言葉に三人の考えが確定し、動揺する三人にスピカが気付いた。

 

 気付いて、しまった。

 

「アハハ! こういうのは、心のゴミ箱にポーイダヨー! もし、うっかり誰かに話したら……」

 

 陽気に笑いながら、ニコニコと笑顔で近付いてフワッと擬音が出そうな優しさで三人を抱き締め――

 

「…………バラすぞ」

 

 ――凍り付いた。

 

 三人の耳元に頑固な油汚れよろしくにこびりついた殺意に三人は寿命が縮んだ錯覚に陥った。彼女とは思えない迫力に三人はガタガタと小さく震え始める……それはエンジン音でブルドーザーだとわかるように、炭酸飲料を一気飲みしてゲップするのが当たり前のように、気温がマイナスの世界では水は凍ってしまうかのように……三人は否定すればやられると判断し、急いでデスメタ顔負けの早さで首を上下に動かした。

 その答えに目の前のスピカの姿をした何かは納得した様子を見せ、フッ、と優しく笑った。

 

「……ん……ンンッ……気を付けルンダヨー!」

 

 はたして、その言葉はこれからの帰り道の安全についてなのか写真の姿を言外に漏らさないようにしろと言ってるのかわからないまま、目の前のギアヒト女性は三人に手を振って保健室に戻っていった。

 

 その様子にしばらく呆然とする三人。動けるようになったアルトが口を開いた。

 

「……私達は何も知らなかった……いいな?」

 

 その言葉に無言で頷くアヤメとセバス。思い出として心の押し入れの深い場所に鍵をかけて収納し、三人は寮へと帰っていった。




 ~昔~

やんちゃ獅子座「惑星カザリアで革命軍として世紀末してました」
恋する乙女座「ギアヒト軍の教官として部下や捕虜にSMプレイしてました」


 ~現在~

やんちゃ獅子座「副ぎょ……本業で学園の用務員をしています」
恋する乙女座「愛の狩人に転職しました」

射手座の紳士「……一体、誰なんでしょうか……?」
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