「――という言葉があります。このことから分かるように、みなさんの年齢になれば誰もが――」
高い天井を有する体育館に、スピーカーを通してしわがれた声が響き渡る。
壇上には声の主である時の重みを感じさせる
延々と語る校長に入学式早々に生徒の数人が表情に疲労の色を見せ始めているが、そんなのお構いなしに校長は語る。
「その頃、宇宙は激しい時代でした。だからこそ私は――」
「なるほど……だから今の校長はハゲしいのか……」
終わる気配の見えない校長の話に、列の中央部に並ぶ赤いカウボーイハットを被った青年が小さく呟いた。
「――くっ」
周囲の数人が吹き出しそうになるがどうにか耐えた――が、その中のニ、三人は壇上のライトを受けて
「や、やめろよ、本当に……!」
紺のブレザーと革の手袋の渋めなファッションの青年が苦悶の表情で赤いカウボーイハットの青年――リゲル・ベテルギウスを後ろ手に小突いた。
「校長が自虐ネタを振ってくるもんだから、つい……ごめん」
苦笑しながらも申し訳なさそうに謝るリゲル。そして、壇上では校長が快調に話を続けていた。
……よく喋れるなぁ。校長は長話しないといけない宿命でもあるのかな……
心中どうでもいい事を考えていると校長がお辞儀をして壇上から離れる。やっと終わったと思えば、誰かが壇上に登ってきた。
目をこらして見ると若葉色の髪に帽子とコートを着ており、彼の歩くスピードに生えている馬の尻尾が揺れる。穏やかで落ち着いた表情のアニマジン男性だった。
「……だれ?」
『『『え!?』』』
リゲルが呟いた言葉に周囲の新入生は驚愕の意味で声をあげた。
「……え……もしかして有名な人?」
「……有名にも程がある」
「えぇ! えぇ! そうですとも! あれこそが宇宙全体を巻き込んだ大戦争に終止符を打った大英雄……“黄道星団”のリーダーである『カウス・アウストラリス』でございます!」
周りの反応から有名人なんだと察したリゲルが質問すると列の後ろにいた顔の左半分を覆う首元まで伸びる銀髪が特徴の青年が呆れた感じで答え、右にいたスリムな長身で黒くてきれいな長髪を束ねているパッと見て女性にも見える中性的な容貌の青年が大げさに説明した。
“黄道星団”
かつて、宇宙全体を巻き込んだ戦争を終結させた少数精鋭の集団。彼らは時に言葉で、時に力で惑星の争いを止めて平和条約を結ばせたと言われる存在。彼らの星座術は現在でも同じ星座を持った人がいないと言われている……強力な力なのかわからないが、一人は『フラり、と現れた瞬間に消えて瞬く間に戦場で戦った人達を気絶させた』や『広大に広がる土地を埋め尽くすような大量の赤ん坊が泣き声の大合唱をした』とか考えられない武勇伝が今でも言い伝わっている。
そんな人物達のリーダーが壇上に立っていると知って緊張するリゲル……そして、カウスは口を広げた。
『あー、あー、テステス、テステス……うん。良いですね。それではお話を……する前に一言』
マイクテストを行った若葉色の髪に帽子とコートを着たアニマジン男性――カウス・アウストラリスは眼下に広がる新入生に向かって一言呟く。
『校長の頭部について呟いた人は後でO☆HA☆NA☆SIがありますので、逃げないでください』
瞬間、リゲルに数人の冷たい視線が突き刺さる。本人は必死で誤魔化そうとしてるのか帽子を深くかぶる。
『……オホン。まずはアルゴ学園へようこそ! 無事に全員が休むことなく、遅れることなく入学式に来てくれた事を私は喜びます』
屈託のない笑顔で笑うカウスを見て、新入生の緊張から出た空気が少し和らいだ。
『この学園はギリシャ神話のアルゴー船をモチーフに創立された学園です……私達の仕事は貴方達をアルゴー船に乗った英雄達のような強く生きてくれる人物に鍛えることです……まぁ、数人が儚く散ると思いますが……』
突然出たブラックジョークに困惑する新入生。在校生はいつもの事なのか苦笑いを見せ、教師陣は数人を除いて引きつった笑みを浮かべ、その数人は爆笑していた。
『貴方達が進む道は暗い荒廃した大地です。右も左もわからない暗い道のりを自身の中にある【星座術】という星の光を頼りに進み、時には迷い、苦しみ、困難に足が止まってしまうでしょう』
カウスの言葉の一つ一つを静かに耳をすます。それは神様の信託のような言葉なのかもしれない。
『ですが、私は貴方達にこれだけは言います……“進みなさい”。貴方達が進み続けた跡は大きな道しるべとなり、貴方達が挑み続けた意思は輝く光となり、ここで築いた思い出や絆は仲間となって力になるでしょう……そろそろ最後になりますので、貴方達にはこの言葉を送りましょう……』
その言葉を一旦止めて深呼吸するカウスの言葉を生徒達は緊張しながら見守る。そして、カウスの口が開いた。
『The possibility of the person is eternity same as the Milky Way……人の可能性は銀河と同じ無限である……それでは、良き学園生活を』
壇上で一歩退いて丁寧にお辞儀したカウスに対しての万雷の拍手が降り注いだ。カウスの言葉にやる気をより燃やす者、不敵に笑う者、あまりの感動に言葉をなくす者と様々なリアクションを見せるが誰一人嫌悪感を表してない。
リゲルもまた、その例にも入ってよりやる気を燃やす。
……やっぱり間違ってなかった!
自身の選択が間違ってない事に小さな歓喜を見せ、小さくガッツポーズするリゲル。これから新入生は指定されたクラスである一年生の教室へと向かう。
「ねぇ、少しいいかしら?」
「はい、なん――」
後ろから声をかけられ、笑顔で振り向くリゲル。しかし、徐々に笑顔が消えてさっきまでの感情がウソみたいな無表情になっていく。声の正体は――
「ちょっと、来てくれるかしら?」
少なくとも同じ年齢に見えない成人男性と女性の教師陣だった。用件は言うまでもなく、アレだろう。
「……」
「逃げた!?」
「追え! 今すぐに捕まえるんだ!!」
本能的にヤバイと感じ取ったのか無言で教師陣から走って逃げるリゲル。教師達も逃げるリゲルを捕まえようと追い始め、入学式早々に鬼ごっこが始まった。
彼のプライバシーの為に多くは言えないので一言だけ言うと……彼の他人と親しくなる為の第一歩は教室ではなく職員室からだった。
レトリバーマン「脚力には自信があるんだ! 勝ったッ! 鬼ごっこ完!」
射手座の紳士「ほーお、それで次回からは誰が貴方の代わりをつとめるんですか? まさか、貴方のわけはないですよね!」
レトリバーマン「高速移動には勝てなかった……」
※次回からCクラス編です。
順番はまだ決まってませんが、とりあえずクラスの日常みたいな事を書く予定です。