ミュラー艦隊旗艦リューベック――。
「ほっ、本日付で提督付きの副官に任命されましたカ、カッ、カトリーナ・フォン・ハルテンベルクです!よっ、よろしくお願いいたしますっ!!!!」
「ええっ!?なんだって!?」
ナイトハルト・ミュラーは耳に手を当てて怒鳴った。直後、ものすごい震動が艦を襲った。
「カトリーナ、フォン、ハルテンベルクですっ!!!!」
「ええっ!?」
「閣下の副官として着任しましたぁっ!!!」
「なんだって!?」
「だからぁっ!!私は、カトリーナ!!!フォン!!!ハルテンベルク!!!ですうっ!!!!閣下の副官として着任しましたってさっきから言ってるんですけれどぉっ!!!!!!」
カトリーナはお腹の底から声を出したので、ようやく若き砂色の髪の司令官は納得顔をした。
「あぁ!!!!よく来てくれた!!!!だが、今は見てのとおり戦闘中なのだ!!!!!」
ズッシ~~ン!!!という先ほどよりも大きな衝撃音がリューベックを包んだ。
(どうしてぇ~~~!?何でぇ~~~!?)
カトリーナははね飛ばされないようにしがみつくので精いっぱいだった。戦闘中の艦隊に着任せよという非常識極まりない辞令を受け取ったのだから仕方がない。
(もしかして私、ラインハルト様に嫌われちゃったから・・・・!?ハッ!!だからこんなところに放り込まれてしまったのね!?うう・・・・どうしてぇ~~~!?)
わけがわからないうちに激戦たけなわのヴァーミリオン星域会戦の真っただ中に放り込まれてしまったカトリーナ。その間にも刻々と戦況は悪化し続けている。
「第一砲塔損傷!!」
「第二エンジン被弾!!」
「核融合炉に被弾!!動力低下!!!航行不能です!!!!」
「駄目か・・・・!!総員退艦せよ!!!最も近い戦艦はどこか!?」
「ハッ!!戦艦ノイシュタットであります!!」
「司令部を移す!!」
「ハッ!!聞いたか!?司令部を移す!!」
「全乗組員は速やかに脱出用シャトルに搭乗せよ!!急げ!!!」
ミュラーはそう言い捨てると、自身が先に立ってシャトルへの通路を足早に歩き始める。幕僚たちも後を追った。カトリーナも後を追う。追いながら彼女の頭の中には「なんで!?」「どうして!?」のフレーズが一杯になっていた。
(うう・・・・どうしてこんなことに・・・・。)
迷っている間にもシャトルはノイシュタットに無事到着。ミュラーは司令部をここに設置することとなる。
「ローエングラム公の安否はどうなっている!?」
「ハッ!?(今この人ローエングラム公って言った!?ってことはラインハルト様がこの戦場にいらっしゃるってこと!?)」
「ハッ!ローエングラム公の本隊との通信、依然敵軍の妨害電波により困難!!それでも先ほどこちらからの援軍到着の一報は受け取った模様です。」
「ロロ、ローエングラム公がここにいらっしゃるんですかっ!?」
『え!?』
カトリーナが思わず立場を忘れてミュラー達に詰め寄る。
「いや、まぁ、正確に言えば本隊との通信が途絶して各個に動かざるを得なくなっているんだが――。」
「すぐにローエングラム公を御救いしないと!!」
「いや・・・まずは包囲に陥っている自分たち自身を何とかしないと(なんかこの子、さっきと俄然態度が変わったんだけれど・・・・。)――。」
「ええ!?ローエングラム公をお見捨てになるんですかぁっ!?」
カトリーナの一言で、ざわざわとする司令部要員。
「おい・・・聞いたかよ、うちの司令官・・・ローエングラム公を見捨てるって・・・・。」
「マジかよ!?あんなに忠誠を誓っておいて・・・・?」
「でもこの局面だからなァ・・・まずは自分の命を――。」
「違う!!違うのだ!!まずは友軍を救い、しかる後に反転して本隊と挟撃することこそが――。」
「ひどいっ!!あんまりです!!ううう~~~!!!」
泣き崩れるカトリーナ。それをみた司令部要員が「あ~あ、提督女の子泣かしちゃったよ~。」というしらっとした眼で見ている。
「わわ、わかった!わかったから、泣かないで・・・頼むから!!(こんなことをやっている場合じゃないのに・・・!!)仕方がない。シュナーベル!!」
『はっ!!』
「卿は一軍を率い、ローエングラム公を守り参らせよ!!」
『ははっ!!』
麾下の一隊をローエングラム公本隊の前面に回して、掩護をさせたミュラ―である。
「これでいいかな?」
「ぐすっ・・・ひっく・・・それで、今どれだけの戦力まわしたんですか?」
「え!?だ、だいたい1,000隻くらいだけれど。」
「ええ!?た、たった1,000隻!?そんな・・・ウソですよね!?」
「いや、その、だって、今到着している我々の総数は8,000隻余りなんだから――。」
「ひどいっ!!たった1,000隻だけだなんて!!」
泣き崩れるカトリーナ。その直後、大音響と共にノイシュタットが震動した。一同吹き飛ばされないように必死に物をつかむ。
「第三砲塔損傷!!」
「第四エンジン被弾!!」
「核融合炉に被弾!!動力低下!!!航行不能です!!!!」
「この艦もか!!最も近い戦艦はどこか?」
「ハッ!!戦艦オッフェンブルフであります!!」
「総員退艦せよ!!急げッ!!!(くそっ!!この子を慰めるだけにここに来たようなものじゃないか、これはっ!!)」
そう言い捨てると、足早にシャトルのある通路に歩き出すミュラ―。他の幕僚たちもその後に続く。
* * * * *
「敵の包囲網の一角にくさびを打ち込むぞ!!主砲、一斉射!!集中砲撃だ!!」
「球形陣形をしいて、損傷した艦艇を内側にして耐え抜け!!」
「ありったけのミサイルを前方に打ち込め!!弾薬を惜しむなッ!!」
ミュラ―の指揮のもと、全軍が一丸となって突進し、包囲網に穴を開けようとする。カルナップらを救出しようとして、逆に包囲されている現状。何とかしてここを脱出し、本隊に合流しなくては命がない。
「か、閣下!!」
「どうした!?」
「シュナーベル提督の1,000隻がほぼ壊滅!!包囲網を突破した直後に敵襲を受け、壊滅状態の模様です!!」
「ええ!?なんですって!?」
ミュラ―が答えるよりも早く、カトリーナが反応した。
「ロロロ、ローエングラム公を御救いしないと!!」
「あの・・・我が艦隊も危ないのだけれど――。」
「そんな・・・ローエングラム公を見捨てるんですかぁっ!!!そんな・・・ひどいっ!!!」
泣き崩れるカトリーナ。困ったように頭を掻くミュラ―。それでいて彼はこのKYきわまる女に対してはらわたが煮えくり返っていた。話に乗って、貴重な艦艇1,000隻を宇宙の塵にさせてしまったのだから。
「あ~あ、提督また女の子を泣かしちゃったよ。」
という白けきった眼がまたもやミュラ―に向けられる。焦りまくるミュラ―。泣き崩れるカトリーナ。完全にこっちが被害者なのに、完全にこっちが悪者扱いである。
「わ、わかったよ!わかった!!・・・・ヴァルヒ!!」
『はっ!!』
「麾下の艦隊を率い、ローエングラム公を守り参らせよ!!(すまん・・・許せ、ヴァルヒ!!)」
『ははっ!!』
麾下の一隊をローエングラム公本隊の前面に回して、掩護をさせたミュラ―である。
「これでいいかな?」
「ぐすっ・・・ひっく・・・それで、今どれだけの戦力まわしたんですか?」
「え!?だ、だいたい1,500隻くらいだけれど。」
「ええ!?た、たった1,500隻!?そんな・・・ウソですよね!?だってさっき1,000隻回してあっという間に塵にされたんですけれど?!」
「いや、その、だって、今到着している我々の総数は8,000隻余りなんだから――。」
「ひどいっ!!たった1,500隻だけだなんて!!」
泣き崩れるカトリーナ。
「あ~あ、提督まぁた女の子を泣かしちゃったよ。」
という白けきった眼が三度ミュラ―に向けられる。焦りまくるミュラ―。泣き崩れるカトリーナ。完全にこっちが被害者なのに、完全にこっちが悪者扱いである。
その直後、大音響と共にオッフェンブルフが震動した。一同吹き飛ばされないように必死に物をつかむ。
「第二砲塔損傷!!」
「第四、第三エンジン被弾!!」
「核融合炉に被弾!!動力低下!!!航行不能です!!!!」
「この艦もか!!最も近い戦艦はどこか?(くそうっ!!さっきからこの子のお守だけで、ロクな指揮を執っていないぞ!!)」
「戦艦ヘルテンであります。」
「総員退艦せよ!!急げッ!!!」
そう言い捨てると、足早にシャトルのある通路に歩き出すミュラ―。他の幕僚たちもその後に続く。
こうして、ミュラ―は不退転の決意で3度乗艦を変え、戦い抜いたが、その実は新任の女性副官をなだめすかしていた間に戦闘が終わっていた、というのは内緒である。
以上「真相はこうだ!!ヴァーミリオン星域会戦の裏側!!」でした(ナレーター)。
* * * * *
ミュラ―艦隊司令部執務室――。
「・・・・・・・。」
台本原稿を読んだカトリーナがそれをパタンと閉じ、憮然としてミュラ―を見る。
「・・・あの。」
カトリーナがジト目でミュラ―に話しかける。
「いくら私がローエングラム公ラヴだからって、いくらローエングラム公の許可の下、二次創作がOKだからって、これはさすがにやりすぎだと思います。」
「それは私に言われても困るのだけれど・・・そもそもそれは、メックリンガーが書いた劇作の下書きだからね、まだそれが完成するとは限らないし――。」
「私のKYっぷりが全宇宙に放送されるじゃないですかぁっ!!!」
カトリーナが両手を頬にあてて叫んだ。
「と言うか!私、ヴァーミリオン星域会戦の後に着任したんですから!!完全にこれ、フィクションですよね!!!史実じゃないし!!」
「君の言いたいことは分るけれど――。」
「ひどいっ!!私のローエングラム公・・・ラインハルト様へのラヴを弄んでっ!!あんまりですっ・・・!!」
泣き崩れるカトリーナ。それを見た幕僚たちが、一斉にミュラ―を見る。
「あ~あ、提督が女の子を泣かしちゃったよ。」
という白けきった眼で。焦りまくるミュラ―。泣き崩れるカトリーナ。
カトリーナ(ミュラ―)の受難は続く――。