機装女戦記ガンプラビルドマスターズEVOL   作:ダルクス

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稲妻轟くサンダーボルト宙域での戦いは熾烈を極めていた。
誰しもが数で勝る側が有利だと考えていたこの戦い、しかし戦いは思わぬ局面を迎える。


第5話「サンダーボルトバトルロイヤル(後編)」

『おおーっと!? ヴィシャス選手、レヴィーヤの両足に取り付けられているハイパービームソードでサーペントを刺し貫いたー! この短時間で一気に3機を撃滅! これで戦力差は1対7だーっ!!』

 

 実況に気を取られることなく、ヴィシャスは無言でデブリ帯に突っ込む。残る敵機は7機、今視認できる数は6機。うちヴァサーゴ、アシュタロン、アスタロトオリジンの3機は徒党を組んで分離した廃コロニーの残骸に潜んでいる。

 時折アシュタロンのアトミックシザースに備えられているビーム砲からの攻撃が機体を掠めるが、ヴァサーゴからはない。おそらく先程放ったメガソニック砲のチャージを行っているのだろう。アスタロトオリジンはショットガンと近接用の武器が主のため、この距離からでは攻撃できない。となると、現状自分が相手にすべき敵機は……。

 

「“トランザム”!」

「“EXAM”!」

「“HADES”!」

 

 突如3人分の掛け声が聞こえたかと思うと、ジグザグの軌道を描いて赤い尾を引きながらレヴィーヤに迫る三つの機影。GN-XⅣ、イフリート改、ペイルライダーだ。

 

『ここで特殊機能を持つ3機がそれぞれの能力を発動してレヴィーヤに迫るーっ! 一時的に機体性能を3倍に引き上げる“トランザムシステム”! 敵パイロットの殺気を察知し、驚異的な機体性能を発揮する“EXAMシステム”! そのシステムを応用して開発された、機体の性能を100%の状態に引き出す“HADESシステム”! ガンダム作品を代表する3大性能向上システムのオンパレード! 果たしてヴィシャス選手はこの猛攻を凌ぎきることができるのかーっ!?』

 

 特にEXAMとHADESは、公式設定にあるような暴走の危険性は無く、特徴は受け継いでいるものの、基本的にはトランザムと同様に一定時間機体の性能を爆発的に向上させる設定となっている。しかしその反面、機体の制御が難しく、完璧に使いこなすのは至難の業といえる。

 それらの機能を備えた3機が相手でも、当のヴィシャスは至って冷静だった。

 

「3大性能向上システム……ねぇ」

 

 機体を反転させると、あえてレヴィーヤを大型デブリが浮遊するデブリ帯へと突っ込んでいく。そのサイズはモビルスーツの全長を遥かに上回るサイズのものが高密度に密集している。ヴィシャスはそんな針の穴を通すような隙間に、高速のスピードを保ったままレヴィーヤを掻い潜らせていく。

 

「あの黒兜、デブリ帯に入って行きやがった!」

「正気か!? あのスピードで……!」

「ナメやがって……! 障害物で俺達の目を晦ますつもりだろうがッ!」

 

 “黒兜”、それはレヴィーヤに対する俗称だった。黒い鋭利な形状の頭部があたかも兜を被っているかのように見えることから、レヴィーヤはいつしか相対する相手からそう呼ばれていた。

 慣性を無視した高速マニューバで高密度のデブリ帯に入って行ったレヴィーヤを追い、同様に3機もデブリ帯へと突入する。

 

「いたぞ!」

「性能の上がったこの3機相手に逃げ切れると思ってんのか!?」

 

 青白く伸びるバーニア光を目印に、あっさりとレヴィーヤの姿を見つけると、GN-XⅣとペイルライダーはビームライフルで攻撃しながら追撃する。次々に放たれるロングバレルのGNビームライフルとハイパービームライフルの閃光は弾幕となってレヴィーヤに降り注ぐ。

 

「性能が向上している? 戯言をっ!」

 

 レバーを勢いよく操作し、マントの下から漏れる青白いバーニア光が煌く。レヴィーヤの巨体が虚空を縦横無尽に駆け抜け背後からの凶弾を悉く避けるか、デブリを盾にするかで巧みに攻撃をかわしていく。暗黒の空間にオレンジ色の花弁が咲くが如く、漂う建造物の残骸が膨大な熱によって次々に風穴が開けられていく。

 

「ガンプラバトル用に調整されたその機能はオリジナルのそれには遠く及ばない。ましてや並のファイターが操るには手に余る代物。お前たち程度が扱うには……」

 

 赤いオーラを纏ったイフリート改がモノアイを妖しく輝かせながら、バーニア全開でレヴィーヤに接近する。撃ち尽くした脚部ミサイルポッドをパージし、2振りのヒートサーベルで斬りかからんと更にスピードを上げてレヴィーヤに迫る。武装が豊富な僚機の2機とは違い、ミサイルもグレネードも撃ち尽くしたイフリート改は、残された武装は2本のヒートサーベルしか無い。レヴィーヤに攻撃を加えるには、その速度に追いつく他無かった。

 だが、レヴィーヤの眼前には廃コロニーより分離した、超巨大ミラーが迫ってきていた。しかしヴィシャスは全く物怖じせず、むしろミラーに向かって機体の速度を上げる。イフリート改はその速度に追いつく勢いでEXAMシステムの効力でさらに速度を上げる。ヴィシャスの首に掛けられた賞金は高い。最早金に目が眩んだ彼は、自らに迫る危機に気付く余裕は無かった。

 

「無理と知れッ!」

 

 言葉の直後、最早目前にそびえ立つ銀色の巨壁。レヴィーヤはそれに衝突する寸前で、バックパックに備え付けられているブレイズウィザードを流用したブースターの噴射口を、フレキシブルアームを介して真下に向ける。

 

『なっ、なんとぉーーー!? 寸前のところでレヴィーヤが直上に方向転換! 衝突を免れ、機体は直上に登って行くーーーっ!! だが、これはファイターに掛かるGの重さは凄まじい筈! ヴィシャス選手、耐えられるかーーーっ!?』

 

 その言葉通り、同時にヴィシャスの身体に凄まじいGが圧し掛かる。押し潰さんと頭の上から圧し掛かるGに、歯を食いしばって耐える。ひび割れた分厚い銀色の壁に、己の姿を映しながら上っていく。黒き覇王竜……レヴィーヤのドラゴンヘッドに灯る紅い一つ目が自分自身を見つめているかのように見えて、マスクの奥から睨みつける。

 

「もっとだ……もっと俺を昂らせろォ!!」

 

 押し付けるGを振り払うかのようにシートから身を乗り出し、口元を歪めて笑顔をつくる。叫びと共に、額から滴った汗が跳ねる。このスピードと、強烈なG、そして数で勝る敵機に追われているという戦況が、ヴィシャスの闘争心を昂らせる。それに呼応するかのように、レヴィーヤは更に強烈な軌道を繰り返していく。

 だが、その背後から追って来ていたイフリート改は。

 

「う、うわあああああああああああああっ!?」

 

 断末魔の叫びの直後、ミラーが粉々に砕け、爆炎が巻きあがる。ガンプラバトルにおけるEXAMシステムは、公式設定にあるような暴走の危険が無い代わりに、一定時間の出力向上・高機動が機体への負荷となって大きく圧し掛かり、それを制御するのは至難の業といえる。

 ヴィシャスがこの場所まで誘導したとはいえ、EXAMシステムが及ぼす出力をコントロールできなかった結果、勢い余ってイフリート改はミラーに激突し、そのまま大破・撃墜したのだった。イフリート改は、自身を周辺に漂う小デブリの如く散らせ爆散した

 しかも、破砕したミラーが新たなデブリとなり、イフリート改の後方に続いていたGN-Xとペイルライダーに降り注ぐ。ペイルライダーの持つHADESシステムは、教育型コンピューターとの連動により、機体に最適な情報を伝達し、強制的に動かす能力がある。それにより、ペイルライダーは自身に迫るデブリを感知すると、ファイターの意思に関係なく回避行動をとり、レヴィーヤを追う。しかし、GN-XⅣはそうはいかない。EXAM同様、このトランザムシステムもあくまで機体性能を引き上げるだけで、それを操るのはファイターの力量だ。

 

「ヒッ!? ヒィィィィィィ!」

 

 だが、所詮はポーンランクのファイター。レヴィーヤを追いつつも、目の前に猛スピードで迫る巨大なデブリに恐怖のあまり甲高い悲鳴を上げる。しかも、トランザム発動中で速度の上がった機体はすぐには減速できない。結局無数に降りかかるデブリを捌ききれずに一つ、二つとその身にデブリを受け、片足が、左腕が、衝突の鈍い金属音をたて火花を散らしながら損失していく。

 武器は手を離れ、ボディはひしゃげ、至る所からスパークとGN粒子が漏れ出し、最早戦闘力と呼べるものは無いに等しいが、それでもレヴィーヤの後を追う。

 実のところ、このファイターは手足に受けたダメージにより、最早機体のコントロールもおぼつかない状態になっているが、トランザム発動中のGN-XⅣの制御もできず、スピードを維持したままレヴィーヤに迫っている。

 それを知ってか知らずか、ヴィシャスは両腕のビームマシンガンを下方のGN-XⅣに向けると迷うことなく引き金を引いた。放たれた無数の光弾はGN-XⅣの胸部クリアパーツを割り、背中の疑似太陽炉まで刺し貫く。

 

「お、俺はまだ何も……―!」

 

 断末魔の叫びをあげる間もなく、GN-XⅣはトランザム発動の速度を維持したまま爆散し、その破片がデブリの一つへと変える。

 ヴィシャスは心底憐れむ眼差しで足元の光景を見届けると鼻で嗤い、背部のブースターを定位置に戻すと尚もデブリ帯を突き進む。

 すると、ヴィシャスを追っていたペイルライダーが突如その場に静止した。全身の廃熱口を黄色化させ、赤いカメラアイを不気味に光らせていることから、HADESシステムはまだ発動中だということがわかる。

 しかし、この密集したデブリ帯で猛進していた僚機が既に2機ともデブリに衝突して大破しているのだ、ペイルライダーを駆るポーンランクファイターはその光景を間近で見ていて、思わず生唾を呑み込んで身震いした。このままこのスピードを維持し続ければ、次にああなるのは自分だと目に見えていた。

 堪らず、その場に止まりレヴィーヤ目掛けてハイパービームライフルを向けて、放つ。だが、その一撃はABCマントによって防がれ、霧散する。

 

「くっ、黒兜めぇっ!!」

 

 ならばと、ハイパービームライフルを捨て、腰部にマウントしてあるジャイアントガトリングを両手で構える。シリンダーが回転し、断続的に響き渡る発砲音。弾丸は彼方を飛ぶレヴィーヤに向けて放たれ、ペイルライダーを中心にして円を描くようにばら撒かれる。レヴィーヤに迫る弾丸の雨は、周囲のデブリを破砕しつつも確実に迫ってくる。

 

「HADESの機動力を活かさず火力に頼るだと……? 愚策としか言いようが無いッ!!」

 

 突如、レヴィーヤは機体の向きを変えた。シールドを前面に展開し、一直線にペイルライダーへと迫る。ペイルライダーのファイターはチャンスとばかりにガトリングを撃ち続ける。その身に銃弾を浴びるレヴィーヤ。纏ったABCマントが千切れ、姿が露わになり、その身に弾丸を受け続けるが、止まらない。

 幾つものガンプラのジャンクパーツを組み合わせ、その裏にプラ板とパテで固めたレヴィーヤの装甲は実体弾ではそう簡単に貫けないほどに強固なものになっている。

 

「当たっているのに!? ばっ……化け物かよ!?」

 

 ペイルライダーのファイターが思わず慄きの声を上げた時、レヴィーヤがシールドの隙間からビームマシンガンの銃口を覗かせる。速射から単射モードにし、重い一撃を放つ。空間を劈く鋭い音がGポッド内に反響する。速射時よりも威力と貫通力の増した黄緑色の弾丸は、一直線にペイルライダーのジャイアントガトリングのバレルを貫き、融解の後爆散する。

 

「ぐああっ! くっ……クソッ!!」

 

 操るファイターは悪態をつきながらも、破損したジャイアントガトリングを放棄すると、脚部アポジモーターを小刻みに噴射させ、ペイルライダーの姿勢を制御し、迫るレヴィーヤに向けて両腕部のビームガンと頭部バルカン砲で斉射する。尚もHADESシステムが作動中のため、その機動性を駆使すればこの窮地を脱することもできるだろう。しかし、ペイルライダーを操る彼には加速のついたこの機体で無数のスペースデブリの間を縫って高速機動を行えるほどの技量は無かった。

 一方のレヴィーヤはシールドの表面でビームガンと頭部バルカンの斉射を受けつつ接近する。ジャイアントガトリングの直撃を受けてもビクともしない装甲には、その程度の火力で突き破れる道理など無かった。

 

「クソォッ!!」

 

 ついに至近距離にまで迫っても止まらないレヴィーヤに対し、相手ファイターはペイルライダーのマニュピレーターに腰のビームサーベルを掴ませる。それを腰から抜き、ビームサーベルを発振……する直前、レヴィーヤの両手のガントレットが可動した。

 

「遅いッ!!」

 

 その先端部より二筋の紅い爪……ビームクローを突出させ目の前に――ペイルライダー目掛けて――押し出す。

 

「がああああああああっ!?う、腕があああああああああっ!!」

 

 相手ファイターの悲鳴と共に「グシャア」という、ペイルライダーの両腕部が熱と切れ味によってひしゃげる音が木霊する。腕部ブースターにより勢いがついたビームクローは、ペイルライダーの両腕に捻じ込まれ、捕縛される。

 両腕に嵌められた衝撃体感装置からは、おびただしい量の電流が放出されペイルライダーのファイターに激痛を与える。こうなってはレバーによる操作も満足に行えないため、HADESが起動中であろうとも攻撃も撤退も到底無理となった。

 だがヴィシャスの攻撃はそれで終わりではない。レヴィーヤはクローを捻じ込んだまま、持ち前の馬力の強さを駆使してペイルライダーを引き寄せ、己の胸部に頭部を向かせる。ペイルライダーのカメラには、スリットガードの奥から不気味に紅い光を放つドラゴンヘッドのモノアイが映し出されていた。

 

「やっ、やめっ……!やっ……―!」

 

 これから自分が何をされるのかを悟ったファイターが恐怖のあまり顔を引きつらせる。直後、レヴィーヤの胸部ドラゴンヘッドが大口を開け、上下顎の左右にそれぞれビームバイトファングが生える。ペイルライダーの頭部を飲み込まんと迫り、相手ファイターのGポッド内は赤いビームの輝きで真っ赤に染まる。

 

「やめろォォォォォォォォォォ!!」

 

 絶叫が虚しく響き渡り、そして……その口がペイルライダーの頭部に噛みついた。途端に絶叫も止んだ。

 ビームバイトファングによって噛み砕かれる頭部パーツ。ドラゴンヘッドの歯の隙間からは、融解したそれが溢れる血肉の如く流れ出る。

 

【挿絵表示】

 

「ガ、ガンプラが……」

「ガンプラを喰っている……!?」

 

 観客の間でどよめきが起こる。勿論現実にそんなことは起こり得ない。実際にはビームバイトファングで部位を溶断しているだけなのだが、傍から見ればそれはガンプラがガンプラを貪り喰い、己の血肉として摂取している異様な光景のようにも見える。

 2度、3度とペイルライダーを頭部から胸部にかけて深々とビームバイトファングを突き立てると、ペイルライダーは完全に沈黙した。それを確認するとレヴィーヤはビームクローとビームバイトファングの発振を止め、ドラゴンヘッドの口部を閉じる。亡骸と化した敵機を離すと、再びデブリ帯を進み始めた。

 

「残り……4機!」

 

 稲妻轟くデブリ帯を抜けると、先程メガソニック砲が発射されたと思われるすり鉢状の廃コロニーの残骸が浮遊する地点に出た。

この地点にいる機体はヴァサーゴ、アシュタロン、アスタロトオリジンの3機の筈だ。

 

(先程の混戦時に参戦はおろか、援護射撃の一つもしなかったのは、おそらく俺とレヴィーヤが消耗したところを狙うつもりだったのだろう)

 

 その時、青白いバーニアの光が瞬いた。廃コロニーの頭頂部より飛び立ち、レヴィーヤの方に向かって伸びる光。エイハブ・リアクター特有の発光をするその機体は、鉄血のオルフェンズの外伝作品である“月鋼”出典のガンダムフレーム、ガンダムアスタロトオリジンだ。

 

(だが連中は大きな誤算をしている)

 

 アスタロトオリジンは可変型ブレードシールドとブースター尾翼を展開した高速機動形態をとり、レヴィーヤに向かって迫る。その過程で右手に備えたショットガンの銃口を向けると、有効射程距離内に入ったのか、銃口が火を噴く。近距離で広範囲を攻撃する散弾がばら撒かれる。

 

(俺もこいつ(レヴィーヤ)も、全く消耗していないということだ……!)

 

 散弾をその身に浴びるが、表面装甲に若干の打撃を与えただけでレヴィーヤはその攻撃を全く意に介さない。ならばと、アスタロトオリジンはショットガンを左腰にマウントし、その代わりに同位置のハードポイントにマウントしているスレッジハンマーを備え、ブースターの出力を上げてレヴィーヤに迫る。それに対しレヴィーヤは両手に持つビームマシンガンの銃口を向け、放つ。断続的に放たれたビームの銃弾がアスタロトオリジンの赤い装甲を舐める。しかし、ビームは装甲表面で霧散するのみで本体そのものにダメージを与える様子は無い。

 

「やはり、ナノラミネートアーマー……」

 

 鉄血のオルフェンズに登場するモビルスーツは、動力であるエイハブ・リアクターが発する特殊な金属塗料を装甲表面に定着させることにより、高い防御力を有する。特にビーム兵器に対しては極めて高い耐性を発揮し、その性能はこのガンプラバトルでも遺憾なく発揮されている。

 「そんなものが効くか!」と、通信が通じていなくても相手ファイターの得意げな声色が容易に想像できた。その証に、あっという間に距離を詰めたアスタロトオリジンはレヴィーヤの頭部に叩き付ける勢いでスレッジハンマーを大きく振りかぶる。

だが、ヴィシャスはナノラミネートアーマーの効力をしかと目の当たりにすると口角を上げてほくそ笑む。

 振り下ろされるスレッジハンマー。しかし、レヴィーヤは左手のビームマシンガンを捨てると、その一撃が届く前にアスタロトオリジンの右手首を掴み、動きを止める。

 

「なっ……!」

 

 アスタロトオリジンのファイターが思わず驚嘆の声をあげる。レバーを思いっきり倒してもビクともしない……素組みのガンプラとでは比較にならないほどにレヴィーヤの腕力は強かった。

 そしてその声は、接触回線としてヴィシャスの耳にも届いていた。

 

「ポーンランクということは俺と同期か。知っているか? ここだと娑婆で最底辺だった奴が頂点に君臨できるらしい」

「な、何言って……!?」

「お前たちがどの程度落ちぶれたクズかは知らないが……比較になるかな? 俺の堕ちた穴は奈落だぜ」

 

 次の瞬間、レヴィーヤの右拳が閃光を纏った。スタンショットナックルを起動させ、持ち前の腕力を用いてアスタロトオリジンの腰部――装甲の覆っていない、ガンダムフレームがむき出しの部分――を思いっきり殴りつける。その衝撃で上半身と下半身を繋いでいるシリンダーが折れ、アスタロトオリジンはほぼ皮一枚で繋がっている状態となる。

 

「ぐああああああっ!?」

 

 ファイターと共にアスタロトオリジンの全身を電撃が駆け巡り、痙攣するかのように半身が跳ねる。次の瞬間にはカメラアイから光が消え、肢体は力なく動きを止め、手から武器が離れる。しかし、撃墜されたわけではない。スタンショットナックルによって叩き込まれた衝撃と電撃の波状攻撃により、一時的に機能停止しているに過ぎない。しばらくのエネルギーチャージの後、機体は再稼働を開始する筈だ。当然、中のファイターもダメージこそ負ったが再戦は可能な状態だ。接触回線で、悪態をつきながらレバーやフットペダルをせわしなく動かしている音がヴィシャスの耳には聞こえる。

 

「せいぜい利用させてもらおうか」

 

 レヴィーヤは左のビームマシンガンを腰部にマウントするとアスタロトオリジンが使っていたスレッジハンマーの柄を捉え、空いている方の手でアスタロトオリジン本体を掴み、機体の前に押し出す形で前進する。アスタロトオリジンのファイターは何が起こっているのか全く理解できずに困惑している様子だが、ヴィシャスは意を介さない。

 そうして先程メガソニック砲が発射されたであろう地点に接近する。ヴィシャスの考えが正しくは、メガソニック砲を撃った後ヴァサーゴはかなりの長い時間チャージをしていた筈。そして今は既にチャージを追えているのだとしたら……。

 

「……来たか!」

 

 目的地に近付くと、唐突にビーム兵器の放射を受ける。その細く断続的な攻撃はガンダムアシュタロンのアトミックシザースと、ガンダムヴァサーゴのストライククローに備え付けられているビーム砲のものだとすぐにわかった。しかし、レヴィーヤはそれらの攻撃を全く臆さず前進していく。ナノラミネートアーマーを全身に纏っているアスタロトオリジンを盾代わりにしているため、自身がビーム兵器の洗礼を浴びることは無い。こちらの攻撃が届く範囲に迫るまで接近を試みる。

 

【挿絵表示】

 

「やめろ! 撃つな! 撃つなぁぁぁ!!」

 

 尚もアスタロトオリジンのファイターの叫びが接触回線を通じて木霊するが、ヴァサーゴとアシュタロンのファイターには届かない。いや、仮に届いていたとしても彼らは既にガンダムアスタロトオリジンを既に見限っているとみてまず間違いないだろう。

 その証拠に、ガンダムヴァサーゴがストライククローを伸ばし、コロニーの外壁に突き刺して姿勢を固定すると、胸部を開き、その中に備えられたメガソニック砲の発射形態をとった。

 チャージと共に砲口に光が収束していく。そして臨界を迎えたのだろうか、一際大きく光が瞬いたと同時に螺旋状に渦を巻いた大出力のビームがレヴィーヤに迫る。

 

「……ダリル・ローレンツのようにはいかないか」

 

 ヴィシャスは小声でそう呟く。機動戦士ガンダムサンダーボルトのワンシーンで、イオ・フレミングの駆るフルアーマーガンダムがザクを盾代わりにしていたため、敵側のスナイパーであるダリル・ローレンツが攻撃を躊躇うという場面があったのを思い出していた。攻撃が躊躇われれば儲けものだったのだが、どうやらこの連中にはジオン兵ほどの崇高な仲間意識などは微塵も持ち合わせていないようだ。

 それを実感したところで、ヴィシャスはアスタロトオリジンのブースター尾翼を掴んだままレヴィーヤの太い足でその背中を押し上げる。更にフットペダルに力を込めると、脚部に加わる力が増し、アスタロトオリジンのガンダムフレームがミシミシと悲鳴をあげる。迫るビームの奔流。一瞬の間を置き、ヴィシャスは思いっきりペダルを踏みしめた。それと同時にレヴィーヤがブースター尾翼から手を離すと、アスタロトオリジンを蹴り押した。真空の宇宙空間内で瞬間的に生み出されたその蹴りの威力は大きく、蹴り飛ばされたアスタロトオリジンは無重力の空間を真っ直ぐ当直線状に飛んで行く。その進路の先には……ガンダムヴァサーゴが放ったメガソニック砲の奔流。

 次の瞬間にはアスタロトオリジンはメガソニック砲を直にその身に浴びる。本来であればナノラミネートアーマーの効力によってこの攻撃は相殺される……筈だが、先程レヴィーヤに殴りつけられた腰部の破損したガンダムフレームはビームの威力に耐えられず、大きくひしゃげていく。とはいえ、ビーム威力はかなり軽減され、メガソニック砲はまるで防水シートにホースで水を当てるかの如く、霧散していきレヴィーヤに攻撃は届かない。

 やがて、メガソニック砲の照射が止む頃にはアスタロトオリジンの鮮やかな紅い装甲は真っ黒に焼け焦げ、ガンダムフレームは見るも無残に千切れ、上半身と下半身が分かれて宙を漂う。当然これを操っていたファイターの反応は最早無い。

 

「黒兜はどこに!?」

 

 メガソニック砲の軌道に気を取られていたヴァサーゴとアシュタロンの2機はレヴィーヤの姿が視界から消えていたことに気が付き、機体の首を振って周囲を見回す。デブリに隠れたのか、それとも距離をとったのか。あの漆黒の機体色は常夜の宇宙においては視認性を低下させる。自分らと同じように遠距離からの攻撃を警戒していた、その時だった。

 左右を見回していたアシュタロンのファイターは、フッと目の前が薄暗くなったのを感じた。視線を正面に向けると、鋭利な形状のマスクと緑色のセンサーカメラがコクピット内を照らす。

 レヴィーヤの姿は、ゼロ距離にあった。

カメラを望遠にしていたのが仇となった。一瞬、アシュタロンのビルダーには目の前に何が映し出されているのか判断することが出来なかった。

 

「うあっ……―!」

 

 発見から一拍置いた驚嘆を叫ぶ間もなく彼の意識は途切れる。何故なら、レヴィーヤが振るったアスタロトオリジンのスレッジハンマーがガンダムアシュタロンのコクピット部に深々とめり込んだためだ。その緑色の双眸から光が消えたことを確認すると、今度はヴァサーゴの方に向き直る。

 

「まっ、待ってくれ!」

 

 レヴィーヤの威圧に気圧されてか、それともこれまでの戦闘から最早自分一人では勝ち目が無いと踏んだのだろうか、どちらにせよヴァサーゴのファイターはレヴィーヤに両掌を向けて攻撃の意思が無いことを示す。それはつまり、降伏の証だった。

 

「お、俺が悪かった! 対戦前にお前を煽ったのは謝る! だ、だから頼む! 見逃して……―」

「お前、ここで今まで何を見てきた?」

 

 男の言葉が終わらないうちに、ヴィシャスの言葉が割って入る。「へっ?」と疑問視する声が聞こえたが、ヴィシャスは構わず言葉を紡ぐ。

 

「ここは最初のバトルエリアからは最も遠く離れた宙域……メガソニック砲で常に俺を狙い撃ちしてきたくせに、仲間がいなくなった途端に自分だけを助けてくれと俺に懇願するのか?」

 

 男は「そ、それは」とどもりながら己の言い分を通そうとしている様子だったが、その様子も相まってヴィシャスは大きなため息を一つ零す。一歩一歩、その太い足で地表を踏みしめるレヴィーヤ。一歩進む毎に、ヴァサーゴは一歩後ずさりする。

 

「許しを請えば許してもらえるとでも? そんな甘い考えでこの戦場に立っていると?」

「た、たかがゲームだろ……!」

「たかが、だと?」

 

 その一言を聞き、ヴィシャスは進行を止め、肩を震わせる。多くの者たちが傷つきながらも己の力を高めていき、頂点を目指すこの戦いの場で、まるで己の立ち位置を理解している様子の一切ないその言葉……。その一言は、今まさに頂点を目指しているヴィシャスにとって、冒涜に他ならなかった。

 

「やはり何匹集まろうと雑魚は雑魚……あまりにも質が低すぎるッ!」

 

 両拳のスタンショットナックルからビームクローを発振すると、脚部クローラーを起動。ガンダムヴァサーゴに向かって猛進すると同時に、クローを横振るいに斬り付ける。面食らったヴァサーゴは咄嗟のバックステップでその攻撃を回避する。だが完全には避けきれず、二筋の赤熱化した斬り痕が胸部に残る。

 

「最早見逃す価値が無いほどになァ……!」

 

 胸部のドラゴンヘッドが僅かに口を開き、モノアイがより一層紅い光を放ちながら眼前のガンダムヴァサーゴを睨みつける。まるで飢えた黒竜が今にも獲物に襲い掛からんと威圧するばかりに……。

 

「ひっ……ヒィィィィィィッ!!」

 

 最早逃がしてはもらえないと悟ったガンダムヴァサーゴのファイターは、恐怖に慄きながらも反撃を行う。レヴィーヤから距離をとると腕部のクローを展開。肩を引き、パンチを繰り出す要領で腕を突き出すと伸縮機能の仕込まれた腕部が大きく伸びる。先端のクローでレヴィーヤのコクピット部をピンポイント刺し貫く算段のようだが、ヴィシャスはその攻撃を既に読んでいた。

 ストライククローの一撃が届く直前、半開きだったドラゴンヘッドの顎が大きく開かれる。

 

「至近距離でコクピットを直接狙うか」

 

 至って冷静なヴィシャスの声色。その声の後、ストライククローは開かれたドラゴンヘッドの口内に叩き込まれる。しかし、レヴィーヤはダメージを受けてはいない。なぜなら、ストライククローはドラゴンヘッドの口内で“止められて”いたからだ。上下に開かれた顎が、ストライククローが収まると同時に閉じ、ヴァサーゴのストライククローを挟み込み、受け止めていた。

 

「で、それだけか?」

 

 マスクの奥から冷ややかな視線で目の前の状況を一瞥するヴィシャス。

 ヴァサーゴはドラゴンヘッドに挟まれたクローを引き戻そうと力を込めているが、ビクともしない。それどころか、クローは今にも噛み砕かれんとミシミシと不穏な音を立て、やがてパーツの接合部より火花が漏れる。

 一際大きな破砕音が響くと、ヴァサーゴのストライククローはドラゴンヘッドに咬み砕かれた。

 

「ぐあああっ!? くっ、くくく……クソォ!!」

 

 左のストライククローを失ったことにより、それを操るファイターは衝撃体感装置により左腕に電撃が浴びせられる。その痛みを堪えながらも右手のクローを突き出す。だが半ば自棄(ヤケ)で繰り出されたその攻撃は照準がぶれ、レヴィーヤに軽々とかわされる。あまつさえ、突き出された腕はレヴィーヤに掴まれ、さらにもう片方の腕より発振されたビームクローによって斬り落とされる。

 

「ぎゃあああああッ!? イ……痛い……! 痛ぇよぉ……!」

「たった一人を相手にして10人がかりでこのザマか。最早哀れみすら込み上げてくる」

「や、やめろ……! 頼むから助けて……!」

 

 顔は見えないが、その声だけは通信越しにヴィシャスの耳にも届いていた。嗚咽交じりに鼻をすすり上げている様子から、痛みと恐怖のあまりに泣き出しているのだとわかった。

 

「お前には流せるだけの涙があって羨ましい」

 

 冷たくも寂しげな声色でヴィシャスが呟いた後、再びレヴィーヤの脚部クローラーが起動する。モーターの駆動音を響かせ、デブリより舞い上がった砂埃を宇宙空間に撒き散らしながら両腕を失ったヴァサーゴに迫る。両腕を失ったということは、その痛みで最早ファイターは満足に機体を操ることもできないということ。ヴァサーゴは避けることも退くこともできずに、ただ茫然と突っ立っていることしかできない。

 レヴィーヤのモニターでは、ヴァサーゴを中央に捉えている。

 

「俺なんてもう、涙も枯れ果てた」

 

 それが相手への手向けの言葉だったのかはヴィシャス本人が自覚していたつもりは無い。だが言葉の後にレヴィーヤのビームクローがガンダムヴァサーゴの胸部を刺し貫いた。それと同時に「あ“っ」という短い悲鳴がGポッド内に反響する。しかしそれを最後にし、相手ファイターからの声は何も聞こえなくなった。

 ビームクローを引き抜き、クローラーを逆回転させ全速後退。刺し貫かれた箇所を中心としてヴァサーゴの全身がスパークを起こし、一瞬の間の後機体は炎に包まれ、爆発した。

 

「……………………」

 

 ヴァサーゴを葬ったヴィシャスは、その燃え上る炎を見据えながら、深い深呼吸の後に現在の状況を把握する。これで撃破した敵の数は9機。10対1のバトルであるため、残る敵は1機……。おそらくはここに陣取っていたヴァサーゴ、アシュタロン、アスタロトオリジンらと同じように自分の消耗を待っている姑息なファイターがどこかに隠れているのか、それとも勝てないと悟り恐れを成して出てこないのか……。

 どちらにしても、この広大なバトルフィールドで残された1機をわざわざ探しに行くほど、ヴィシャスは執念深くは無い。

 

「どこにいるかは知らないが、出てこないのならば俺はランカーの元に行かせてもらうぞ」

 

 どこかに隠れている最後の一人に聞こえるように、オープン回線で呼びかける。上位ランカー、ナイトランクのザンバはこのサンダーボルト宙域の原型を保っている廃コロニー内で待ち構えている筈だ。

 呼び掛けても出てこない最後の一人を相手にする間もなく、ヴィシャスはデブリの間を縫ってコロニーに近付く。徐々に近づくにつれ、その巨大な円筒状の建造物がどのような風貌なのかが伺えてきた。この荒廃したサンダーボルト宙域内の建築物の中では珍しく、スペースコロニーとしての原型を保っている。が、円筒状に構築されたガラスの内部はまるでインクで塗りつぶしたかのように暗く、至近距離まで近づいても中の様子を伺うことはできず、人気も無い。おそらく対戦前に内部構造を把握されないための措置だろう。逆に言えば、相手はこのコロニー内部でどのように自分を攻撃するのか、その算段をつけているということになる。つくづく姑息な連中だと、ヴィシャスは小声でぼやきながらコロニーの周囲を回り、侵入経路を探す。

 その時、人気が無かった筈のコロニーの先端部、船舶等が侵入する発着場へのハッチが突如開き、そこから点線状に伸びた二筋の誘導灯――ガイドビーコン――が漆黒の虚空に点灯する。

 

「……そこから来いということか」

 

 誘いに乗ってやると言わんばかりにヴィシャスはレヴィーヤのブースターを吹かし、一直線にガイドビーコンを目指す。

最早自分の進行を妨げる者は誰もいないと、この時彼は高を括っていたのかもしれない。

 

 その油断が仇となった。

 

 突如彼方より黄色の閃光が瞬いたかと思うと、その直後弾丸がレヴィーヤの右肩を抉った。

 

「ぐあっ……!」

 

 同時に右腕に取り付けられた衝撃体感装置より迸る電流。電圧はさほど高くはないが、右肩付近まで痺れが襲う。

 弾丸が放たれた場所にカメラを向け、ズームアップする。漂うデブリの陰に隠れて1体のモビルスーツが右肩にバズーカを担いでいた。

 デブリが流れていき、その機体の全容が明らかになる。グレーを基調としたカラーリングに、全体的に太い体躯にスカートを思わせる大型の後部スラスター。袖と胸部に施された特有のエングレービング。十字の赤いモノアイレール……それは、ネオジオンの重モビルスーツ。

 

「あの機体は……ドライセンか!」

 

 機体の全高だけならばレヴィーヤをも上回る巨体のドライセンは、右肩に担いだバズーカの砲口をピッタリと狙いをつけて、モノアイを赤く光らせる。しかし、所持しているのは本来のドライセンが所持しているタイプのロケットバズーカではなかった。角ばった細長い砲身に後部に取り付けられたエネルギーパック……形状からしてそれはレールバズーカ“ゲイボルグ”に間違いなかった。

 

【挿絵表示】

 

 そのバズーカを見た途端、ヴィシャスは嫌な予感を肌で感じた。

 そして、その予感は的中していた。

 

「ぐひひっ……げへへへへェ!! ようやく会えたどぉ! ずっとここで待ってた甲斐があったもんだァ!」

「お前は……!」

 

 聞き覚えのある濁った声が通信越しに聞こえた。あのドライセンを操るファイターからだった。その声の主は紛れもなく、ヴィシャス(ソウシ)がガンプラバトルリングにおいて初戦で倒した相手……。

 

「ゴルグ・ドレッドか!」

 

 名を呼び、相手ファイターの姿がモニターに表示される。そこに映っていたのは、鍛え上げられた巨体の黒人。名を呼んだ通り、西側のポーンランクチーム、“ドレッドブラザーズ”の三男、ゴルグの姿だった。しかし、その見てくれは明らかに常軌を逸脱している様子だった。モニター越しではその巨体故に首から上しか映らないが、それでも認識できるほど顔中に張り巡らされるように広まったミミズ腫れ……おそらくはヴィシャスと対戦した時に負った、リアルバトルのダメージのせいだろう。更に目は赤く充血し大きく見開かれ、待ちに待ったであろうヴィシャスを前にして浮かべている笑みは、口の端から涎が零れるほどに釣り上がり、明らかに狂気を孕んでいる。

 元々危ない雰囲気の3人兄弟だったが、このゴルグはそれにより一層磨きがかかったといった様子だ。しかもその首には既に衝撃体感装置が取り付けられていた。長い間締め付けられているのか、その箇所がうっ血し青ずんでいる。おそらく前のバトル以降外されていないのだろう。

 しかし、何故ここにゴルグがここにいるのか? 初戦の際に再起不能とされリングを去り、病院に運び込まれたとヴィシャスには聞かされていた。

 更に言えば、試合開始前にポーンランクファイター10人と顔を合わせた際にはゴルグの姿はどこにもなかった筈だ。

 

「ぐひひっ……お前を待ってたどぉ……! (あん)ちゃんたちの復讐を果たすたべにお前をなぁ……!」

「復讐だと?」

「そうだぁ……! あの試合の後、おでも(あん)ちゃんたちも全身大火傷を負っただぁ……! 兄ちゃんたちは今も病院で意識不明だども、おではお前を倒すために戻ってきただぁ!」

 

 撃墜時の電撃は、常人であれば再起不能と言われているレベルのダメージを負うと言われている。しかし、兄2人に比べても遥かに巨漢なゴルグは、その持ち前の頑丈さか、もしくはヴィシャスに復讐を果たすという執念か、それ故に意識を取り戻すことができたのだろう。しかし、現在のゴルグの様子を見る限り、全くの無傷というわけにはいかないらしい。おそらくこの勝負に敗れれば、今度こそ再起不能となるだろう。

 

「そしたらなんだか面白いことやってるでねぇか。おでも参加したいから、このGポッドの扉引っぺがして、ここに座っていたファイターにはおねんねしてもらっただぁ」

 

 巨体で隠れてヴィシャスの方からは見えないが、ゴルグの座っているGポッドは扉が壊されて破損部からは火花が散っており、その傍には本来のポーンランクファイターが顔面に大きな青痣をつくり白目を向いて倒れていた。

 

『な、な、な、なぁんとぉ!! ここで予期せぬ乱入者! かつてヴィシャス選手に倒されたドレッドブラザーズの三男、ゴルグ・ドレッドが参戦だぁ!!』

 

 マイクマン・モリクボのわざとらしい驚きの声にヴィシャスは若干イラつきながら鼻を鳴らす。実況席からGポッドの様子が伺えるくせに、「予期せぬ乱入者」などとよく言えたものだなと内心で蔑んだ。

 しかし、ゴルグの参入はヴィシャスのワンサイドゲーム状態だったこのサンダーボルトバトルロイヤルに新たな風向きを生んだ。なにせ9機がかりでもほぼ無傷だったレヴィーヤが不意打ちとはいえ、一撃与えたのだ。ポーンランク側に賭けていた客たちは大いに沸き立つ。

 

「さぁ行くどぉ! 今度はこのドライセンで、おめぇを血祭りにあげてやるだぁ!」

 

 ネオジオンの重モビルスーツ、“ドライセン”。一年戦争時のドムの発展機であり、地上・宇宙と双方で十分な性能を発揮し、重量級でありながら高機動とトータルバランスのとれた傑作機だ。しかもその武装は、ドレッドブラザーズの3人が元々使っていたドムが装備していたものだ。右手にはレールバズーカ“ゲイボルグ”を持ち、左手にはフェダーインライフル、背中のハードポイントにはグシオンハンマーをマウントしている。それらはさしずめ、兄たちの形見ということだろう。

 

(しかし、先程の威力……)

 

 ヴィシャスはモニターの右側に視線を向ける。先程レールバズーカ“ゲイボルグ”によって穿たれた右肩は、外装甲が見事に砕かれ、内部装甲が露わになってしまっている。以前戦った時、あのバズーカの攻撃を直撃しても装甲が傷つくことは無かった。

 それは工作精度の差故の問題だった。ヴィシャスのレヴィーヤは装甲パーツにいくつものパーツを組み合わせ、工作精度を高めているのに対し、あの時使われたゲイボルグは素組み。単に説明書通りに作られただけのパーツだ。完成度が低ければ、いくら強力な武装を用いても作り込まれたパーツにダメージを負わすことは容易にはできない。

 しかし、今ドライセンが所持している武器はどうだろうか。形は同じでも、その完成度は比較にならないほど精密だ。

 

(あの筋肉馬鹿(ゴルグ・ドレッド)にそれほどの精密な作業ができるとは思えない……となると、思い当たるのは……―)

「喰らえやぁ!」

 

 考えていると、突如ドライセンより浴びせられる電磁弾とビームの応射。ヴィシャスは考えを止め、目の前の敵に集中する。

レヴィーヤが素早いマニューバでそれらを回避する。逸れた攻撃はレヴィーヤの背後に漂っていたデブリやコロニーの残骸に直撃すると、それらを大きく砕くか爆散していった。

 やはり武器の威力はケタ違いの様子だった。この敵は先ほどまでの雑魚とは違う。余計なことを考えていると足元を掬われる。

 

「逃がさないどぉ!」

 

 ドライセンの背部にマウントされている半円状の物体が2つ、本体と分離し3枚の羽根状の刃を開くとコマのように高速回転をする。ドライセンのみが持つ独特な近接斬撃武器、“トライブレード”だ。本来ならば3基備えられているのだが、一つはグシオンハンマーをマウントするためにスペースを割いているため、2基を装備している。

 その2基のトライブレードは高速回転しながら左右からレヴィーヤに迫る。

 右手に持ったビームマシンガンで迎撃しようと右のアームレバーに力を込める。が、先程攻撃を受けたせいで右手に痺れが残り、固いアームは思うように動かせない。

 

「……っ! トーデスシュレッケン!」

 

 口惜しさと共に出た掛け声とともにレヴィーヤの頭部が迫るトライブレードを補足して動く。次の瞬間、側頭部に開口された銃口から弾丸が断続的な射撃音とマズルフラッシュを引っ提げて高速で撃ち出される。“トーデスシュレッケン”……名前こそ洒落を利かせているが、その実は俗にいう頭部バルカン砲だ。

 左手のビームマシンガンは左から迫るトライブレードを、右側は動けない右腕の代わりに迫るトライブレードに向けてトーデスシュレッケンが弾丸を放つ。

旋回して迫るトライブレードを、大きく楕円を描くようにビームマシンガンの光弾が伸びる。やがて光弾が追いつき、小さな爆発と共にトライブレードは撃破される。しかし、右側から迫るトライブレードは……。

 

「ちぃっ……!」

 

 ヴィシャスが眉間に皺を寄せて舌打ちをする。トーデスシュレッケンの弾丸は確かに命中しているのだが、高速回転する3枚刃にことごとく弾かれている。癪だが、工作精度が向こうの方が上手だということだ。

 至近距離にまで迫ったトライブレードを前にし、ヴィシャスはトーデスシュレッケンによる射撃を止め、右肩のシールドを機体の前に突き出す。トライブレードはシールドを斬り付け、火花と共に鋭い斬撃音がGポッド内に反響する。シールドに鋭い抉り痕を遺し、トライブレードは彼方へと飛び去っていった。所謂サイコミュ兵装とは異なるトライブレードは、基本的には使い捨ての武装だ。

 だが右腕を思うように動かせないヴィシャスに、更に追い打ちをかけて隙を作らせるにはこの武装はうってつけだった。

 

「もらっだああああああああッ!!」

 

 直後、怒号と共にドライセンが両手に持ったゲイボルグとフェダーインライフルを捨て、背部にマウントされたグシオンハンマーの柄を両手で握り、レヴィーヤへと突撃してくる。

 その巨体からは想像もできないような機動性を発揮するドライセンを前にし、ヴィシャスは対応が遅れた。まるでゴルグの覇気に呼応するかのようにドライセンのモノアイが妖しく光り、大きく振り下ろされるグシオンハンマー。その寸前でかろうじて腕の痺れが抜けたヴィシャスは、咄嗟にビームマシンガンを捨て脹脛にマウントされているビームカタナの柄を両手で2本掴む。引き抜くと同時に赤い刀身を形成し、それを目の前でクロスしグシオンハンマーによる一撃を受け止める。

 ビームがハンマーに接触し、目の前で火花が散り視界が狭まる。剛腕により振り下ろされたこのハンマーもまた、ただのハンマーではなかった。ずっしりと重く圧し掛かるこの感覚は、十中八九ドライセンの腕力によるものだけではない。おそらくはハンマーの芯は本物の金属を使用している。その証拠に、抜群の切れ味と熱量を持つ2本のビームカタナの刀身に長時間接しているにも関わらず、ハンマーは赤熱化しても融解する気配は見せない。

 

「っ……ブーストアーム点火ッ!」

 

 斥力する2機。だが力の差で押され気味なのはレヴィーヤの方だった。レバーを通してそれを感じたヴィシャスは、レヴィーヤの両腕肘辺りに備え付けられているバーニア、“ブーストアーム”を起動させる。青白い炎と共にバーニアが点火すると、その推進力を利用してドライセンとグシオンハンマーを押し返す。

 

「げへへへへへェッ! やるなぁ? なら、おでも本気を出すどぉ!」

 

 直後、腕にかかる力が更に強くなった。ドライセンがより強い力で押し始めたのだった。どうやらゴルグはその鍛え抜かれた肉体故に、まだまだ余力を残しているらしい。

 

「ぐッ……馬鹿力めぇっ!」

「げひゃはははははははァ!! ()ねェッ!! ()ぃねえええええェェェッ!!」

 

 血走った眼を見開き、歯茎を剥き出し、口角が裂けそうなほどの笑みを浮かべたゴルグの姿が、モニターいっぱいに映し出される。徐々に赤熱化したハンマーの面が迫ってくる。レヴィーヤの頭頂部アンテナの先端に触れるか、触れないかという距離にまで迫るとその熱でカメラに映し出された視界が揺らぐ。

 

【挿絵表示】

 

「チッ……! 温存しておくつもりだったが……!」

 

 その言葉と共にレヴィーヤの左肩部装甲の上部がせり上がる。姿を露出した内部装甲には4つの穴が空いている。重火器等の口径と比べると遥かに小さい穴だが、それは明らかに何かの射出口だった

 

「ショルダースパイクランチャー!!」

 

 モニター上に出現した十字の照準器をドライセンにセットすると、ヴィシャスはその武装名を声高に叫ぶと共に躊躇いなくトリガーを引いた。火薬の破裂音と共に4つの射出口より弾が撃ち出される。彼方で稲妻が轟き、その光が一瞬宇宙を照らし、同時にレヴィーヤより射出された物体を輝き照らす。

 針だった。肩部装甲より射出されたのは4つの細長い針は、全てがドライセンの巨体に――左胸辺り――に深々と突き刺さる。

 

「があああああっ!?」

 

 突然の反撃によりゴルグは悲鳴をあげ、ダメージが痛みによって反映された左胸を抑える。その瞬間だけ、ヴィシャスの両腕にかかる重さが軽くなった。ゴルグがレバーから手を離したためだ。

 “ショルダースパイクランチャー”は所謂ニードルガンと呼ばれる物であり、通常の火器に比べると弾の装填数は少なく射程も短いが、非常に貫通力の高い針弾を撃ち出すことができる、近~中距離用の武装だ。針弾は裁縫用の針を加工したものだが素材は当然ながら金属製。それが肩のアーマー内に片方に4発、両肩で8発装填されている。が、右の肩は先程ゲイボルグの砲撃により破損してしまったため、ショルダースパイクランチャーはこれで弾切れとなった。

 元来、金属パーツはガンプラバトルにおいて絶大な威力を持つ。これを高速で撃ち出すだけでも、プラスチック製であるガンプラのボディにおいては十分脅威となりうる兵器だからだ。

 だがこれでドライセンにダメージを与えることができたため、隙が出来た。

 

「喰らえッ!」

 

 間髪入れず、ヴィシャスは脚部ハイパービームソードを起動させる。淡紅色の軌道を描きながら横一文字に振るわれる回し蹴り。

 

「喰らわねェェェェェェェッ!!」

 

 しかし、ドライセンはその見た目とは裏腹に素早い挙動で左足を振り上げ、レヴィーヤの脚を払いのけるとそのまま脚部バーニアのマニューバで距離をとる。ハイパービームソードによる一撃は、虚しく空を裂いた。

 腐っても敵もガンプラファイター。それも自分に対して並々ならぬ復讐心を抱いているのであれば、当然一筋縄ではいかない。

 

「奴のハンマーは金属製だった……ならば! チェーンスライサー!」

 

 ヴィシャスは勝負に出た。ビームカタナをハードポイントに収納し、代わりにシールド裏から蛇腹剣(チェーンスライサー)を1本取り出す。それを大きく振りかぶると、ドライセンに向けて刀身を伸ばす。

 

「そんなものぉ!!」

 

 対するゴルグはグシオンハンマーを向け、伸ばされたチェーンスライサーを受け止める。止められた刀身はハンマーにぐるぐると巻き付いた。

 

「ふんぬっ!」

 

 先程の痛みが抜けたのだろうか、もしくは耐えているのだろうか。いずれにしてもゴルグは先程のダメージを微塵も感じさせないほどに力強くレバーを手前に引くとハンマーを引き寄せる。それに巻き付いたチェーンスライサーも、レヴィーヤの手を離れてドライセンの手に渡ってしまった。

 

「げへへへへッ、わざわざ武器を寄越してくでるとはなぁ。自分の武器でたっぷり苦しめぇ!」

 

 己の手元に渡ったチェーンスライサーの柄を掴むと、巻き付いた刃がまるでメジャーの紐を巻き取るかのようにワイヤーが収縮していき、一振りの洋剣となる。それを左手で持ち、切っ先をレヴィーヤに向ける。

 

「フッ……クククッ」

「あ? なに笑ってる?」

「いや……実は俺の武器も同じなんだよ。アンタのハンマー同様、金属パーツを使用している」

「金属ぅ?」

 

 ドライセンのモノアイが左手に握られたチェーンスライサーに向けられる。

 

「中に鋼鉄製のワイヤーが仕込まれていてな、伸ばした際には刀身だけじゃなくワイヤー部でも切断できるようになっている」

「げへへェ! わざわざ武器の特徴教えてくでてありがどよぉ! お礼に望み通りバラバラに切り刻んでやるどぉ!」

 

 チェーンスライサーの刀身を伸ばすために、ドライセンが左手を大きく掲げた。しかし振り下ろされる直前でゴルグの視界は眩い光に遮られた。

 

「ぐあっ! な、なんだぁ……!?」

 

 光の正体は稲妻だった。周囲を見回すと、かなり近い距離でいくつもの雷撃が迸っているのが観測できる。いつの間にか2機は、このサンダーボルト宙域の中でも特に雷撃が激しい地帯に行き着いてしまっていたらしい。

 

「俺がさっき、この場所に誘導した」

「何ッ!?」

 

 それはドライセンとビームカタナで組み合った際、ブーストアームの推力でドライセンを押し出した時だった。その時からヴィシャスは、このパワー馬鹿をどう倒すべきかあらかたの算段をつけていたのだった。

 

「当然、お前が俺の武器をそうやって奪って使おうとするのも予測のうちさ」

「な、な、なにを……?」

「まだ気付かないのか、俺の真の狙いに」

 

 その時、一際大きな稲妻がドライセンのすぐ横を掠めた。雷撃はドライセンの左肩を掠め、その先端部が黒く焼け焦げる。しかしその一つだけではない。2つ、3つ、尚も多くの雷撃がドライセンの周囲に集まり、迸る。まるでドライセンを囲む稲妻の牢獄だ。

 

「ひっ……! ひぃっ!? なっ、なんだぁこでは!?」

「避雷針ってやつさ。雷は長い金属に吸い寄せられる性質を持つ。ガンプラはモビルスーツを模してはいるが、その材質はプラスチック。だからこのサンダーボルト宙域でも、雷が滅多に直撃することはない。だが、アンタはどうかな?」

 

 今のドライセンは鋼鉄製のハンマーに、ワイヤーが仕込まれたチェーンスライサー、そして先程胸に撃ち込まれた針弾と、全身に金属を纏っているようなものである。

 鼓膜を劈く雷鳴と共に稲妻が、ドライセンの左手に持ったチェーンスライサーの先端に落ちる。雷はチェーンスライサー内部に仕込まれている鋼鉄製ワイヤーを通りドライセンの左腕に届いた。

 

「うがああああああっ!?」

 

 ゴルグの絶叫と共にドライセンの左腕はチェーンスライサーが手を離れ、小爆発を起こして焼け落ちる。

 

「金槌と馬鹿力……確かに相性は良かったみたいだが、金槌と雷との相性も抜群に良かったってわけだ」

 

 ヴィシャスの言葉の後、一際大きな雷がドライセンの持つグシオンハンマーに落ちた。更に胸の針弾にも伝達する。

 

「いぎっ!? あっぎゃああああああああああああ!?」

 

 普段の野太い声からは想像もできない甲高い絶叫が響き渡る。ドライセンに墜ちた落雷は瞬時にその巨体を駆け巡り、衝撃でハンマーが手を離れる全身の至る所からスパークが起こり、爆発を引き起こす。腕の関節、腰部の動力パイプと、次々に破損していく中、ドライセンの右腕が稼働する。

 

「ぐっ……がっぎっ……殺してやる……殺してやるううううううううっ!!」

 

 満身創痍のドライセンが、ギシギシと関節を軋ませながら右腕をレヴィーヤに向ける。特徴的なエングレービングが施された袖部分のアームカバーがスライド可動し、内部に備えられた3連ビームキャノンがその銃口を覗かせる。しかし、当のゴルグは全身の痺れが抜けず、恨めしい言葉を放ちながらも照準が思うように定まらない。

 指先に僅かに残った感覚を頼りに、トリガーに触れた指が引き金を引く。3つの銃口より放たれる緑色の弾丸。だが、それらはレヴィーヤを素通りし、背後で漂うデブリに穴を開けたのみだった。

 

「クソッ……クゾオオオオオオッ!!」

 

 怒号と共に尚も放たれる緑の弾丸。だが感電によって麻痺した腕は発砲の反動で大きく揺さぶられ、何発撃とうとも弾丸は明後日の方向へと飛んで行く。レヴィーヤを操るヴィシャスは、その光景を微動だにせず無言のままじっと眺めていた。

 

「こっ、こいづをブッ殺さねぇど……あっ、(あん)ちゃんだちに顔向げ

でけねぇ……!」

 

 恨みつらみのこもった声色と共に、現在のゴルグの状態が観客席のモニターに映し出される。感電により、装置を取り付けられた部位は黒く焼け爛れ、目は血走り、顔の筋肉は強張ってしまい声色は怒号なのに対し不気味な笑みを浮かべたままになっている。ゴルグのその狂気の姿に、観客は誰しもが慄いている。

 

「兄弟愛か、美しい足掻きだな。だが……」

 

 レヴィーヤが脹脛にマウントされたビームカタナの柄を取り、先端部より刀状に沿った紅いビームサーベルが発振される。それを構え、バーニアを吹かす。尚も轟くゴルグの怒号と雷鳴。ビームキャノンの雨を掻い潜り、レヴィーヤはあっという間にドライセンの懐に潜り込む。そこでヴィシャスはビームカタナを一閃。気付けば、レヴィーヤはドライセンを追い越し、その背後でビームカタナを横一文字に伸ばしている。

 

「見苦しい」

 

 言葉の後、ドライセンの胴が上下に泣き別れる。

 

【挿絵表示】

 

「げ、ひ」

 

 とうに苦痛を超越したゴルグの怒号は、そんな虚無の言霊となって唐突に途切れた。

 

「勝つのは俺だ。敗者は消えろ」

 

 ヴィシャスが冷たい声色で言い放つ。あとに残されたドライセンは、溶断されたコクピット部を中心にスパークが広がっていき、一瞬の間の後機体が揺らぎ、大爆発が起こる。背を向けているヴィシャスは、その爆発を背後で感じ取ると、発振したビームカタナを収束させ、元の脹脛のハードポイントにマウントする。

 

「……雑魚共相手に少し手間取ったか」

 

 ゲイボルグによってアーマーを砕かれた右肩に視線を送りながら、ヴィシャスは呟いた。ABCマントと、ショルダースパイクランチャーの針弾も全て使い切ってしまったことも損失だった。

 だが、本番はここからだ。機体の状態はこのままで、ビショップランクのザンバとの戦いがこの後に控えている。

 先程奪われたチェーンスライサーを回収すると、痺れた右腕の感覚が戻るのを待ち、機体の内蔵エネルギーが回復するのも待ち、それらが十分な状態になると機体の向きを反転させ、尚もガイドビーコンを出し続ける廃コロニーに視線を向ける。

 

「行くぞ」

 

 背部のバーニア全開でレヴィーヤが宇宙を駆ける。

 戦闘を終え、先程までの殺戮が嘘のように静寂が訪れたサンダーボルト宙域。レヴィーヤが去ると、彼方で雷鳴が虚しく響き渡った。




模型コンテスト等で滞っていた更新ですが、ようやく最新話を仕上げました。
次回の更新はもっと早くしたい…!
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