雷鳴轟く宇宙にその漆黒の円筒状の建造物――スペースコロニー――は存在している。通常のガンプラバトル用のオブジェクトとしては一線を画する異様な存在感を放っている。それもその筈、廃コロニーだらけであるこのサンダーボルト宙域において唯一このコロニーだけは、まるで機能しているかのように無傷であり、大小のデブリが混在するこの宙域においてはオアシスのようにも思えるだろう。
しかしその実、本来コロニーはガラス張りの外周部により内部が透けて見える構造であるはずだが、そのガラスに該当する部分は漆黒に覆われており、内部を視認することは不可能だった。これからここに進入する意味を考えれば、オアシスというよりかは、どちらかというと悪の根城と言った方が正しいかもしれない。
そして今、その漆黒のコロニーからは進入口より点滅する光の筋が発信されている。「ガイドビーコン」と呼称されるその光の筋は、宇宙世紀のガンダム世界においては戦艦やモビルスーツの誘導灯に当たるものだ。
「望み通り、誘いに乗ってやる」
機体の先の戦闘で自分の手を離れ、空間内を漂っていた武器を回収し、静止していれば回復していく内蔵エネルギーの回復を待って、ヴィシャスはレヴィーヤのバーニアを起動させると、ガイドビーコンの伸びる漆黒のコロニーへと向かっていく。
『10対1という圧倒的に不利な状況を制したヴィシャス選手―っ! 既にこれだけでも大変な偉業ですが、本番はこれからだーっ! この後に控えるのはビショップランクのザンバ選手だーっ! 果たして疲労した身体とガンプラで、見事ジャイアントキリング達成なるのかーっ⁉』
実況のマイクマン・モリクボはああ言っているが、実のところ不思議なことに体の疲れはほとんど感じらない。それどころか妙な高揚感すら湧き上がっている。そして機体の方も、多少ダメージを負い武装も消費したが、戦闘には支障をきたさないレベルだ。まだまだ戦える。
「……行くぞ」
青白いバーニア光を伸ばしながら、レヴィーヤはついにコロニー内部へと進入していく。
第6話「強者の苦痛」
ガイドビーコンに誘導されるままに、機体はコロニーの進入口へと進んでいく。近付くと、閉ざされたハッチは音もたてずに開いた。宇宙空間なので、戦闘時の音声以外は鳴らない仕組みになっているのだが、それだけに不気味な雰囲気を漂わせる。
「……いるな」
ハッチの奥から延びる、円筒状の通路。ガイドビーコンの伸びる外部とは異なり、こちらは内部を照らす照明の類は全く点灯しておらず、足を踏み入れれば一寸先も見えない暗闇が広がっている。だがヴィシャスは眉をひそませると、その通路の奥から何者かのギラついた視線と殺気に満ち満ちた気配が自分に向いていることを悟っていた。
おそらくはこの通路の奥で自分を待ち構えている者がいる。しかも一方通行であるこの通路では、退路となるのはこの進入口のみ。十中八九、入ればハッチを閉じられることは明白だ。そうなればもう逃げ場はない。正面から迫ってくる凶弾に身を晒すことになる。
「だとしても……!」
元より逃げるつもりなど毛頭ない。臨むところだ、と言わんばかりにヴィシャスは両肩部のシールド2枚で正面を覆い、バーニアを全開でコロニー内部に侵入する。機体が新入口を
そう思っていた矢先。
「……ッ!」
ポッド内でアラートが響き渡り、シールドに衝撃が届いた。正面からの銃撃。ビームではなく実体弾。しかし1発1発が重い。おそらくはスナイパーライフルの類で狙撃されている。しかし狙撃にしては弾丸が矢継ぎ早に繰り出される。まるでスナイパーライフルをマシンガンのように連射可能にしているかのようだ。しかも、連射していようとも弾道はどれも同じ場所から放たれている。そのことが、シールドからレバーを通して伝わってくる感覚でわかった
「弾道予測すれば……そこかッ!」
伝わってくる弾丸の衝撃から方向を逆算すれば居場所は見えなくても攻撃はできる。ヴィシャスは、シールドの間からビームマシンガンの銃口を覗かせ、攻撃地点と思われる場所に向かってトリガーを引いた。数発の黄緑色の弾丸が尾を引いて放たれ、真っ暗なこの閉鎖空間に光を灯す。その燐光に照らされ、数十メートル離れた先にいる敵機の姿が
シルエットで機体を視認したのと同時に、ビームが敵機に命中した。しかし、直後黄緑色の残照となって霧散する。
「ビームコーティング……いや、ナノラミネートアーマーか」
先ほど照らされた敵機のシルエット、そしてナノラミネートアーマー。これらの特徴でヴィシャスは相対する敵機のおおよその正体を暴いた。ならばと、ビームマシンガンを腰部にマウントすると両腕部のガントレットを可動させる。両肘を引き込み前面をシールドで覆ったままバーニア全開で通路内を猛進する。スピードを上げると相対的に敵からの銃撃の威力が上がる。しかし、それも構わずにヴィシャスは高速を維持したまま通路内を進む。
「見えた……ッ!」
敵の姿を視認できる距離まで接近すると、スタンショットナックルを起動する。拳を覆ったガントレットにスパークが走り、直後それを思いっきり敵機めがけて殴りつけた。
「チィッ!」
相手ファイターの舌打ちが聞こえた。繰り出された一撃はしかと敵を捉えた……かに思えたが、敵もまた同じタイミングで拳を繰り出し、しかも同じくナックルガードで覆われた拳だ。拳同士がぶつかり合い、辺り一面にスパークが迸り、はっきりとした敵機の姿が露わになる。
「やはり、ガンダムグシオンリベイクフルシティ」
白と黄土色のカラーに、バックパックに増設されたサブアーム。そこに握られたロングライフル。間違いない、「鉄血のオルフェンズ」に登場したガンダムグシオンリベイクに更なる改修を施した、セカンドシーズンに登場するガンダムフレームの1機……ガンダムグシオンリベイクフルシティ。そして接触回線を通じてそれを操る者の姿がヴィシャスのモニターに映し出される。案の定、それはビショップランクの上位ランカー……ザンバだ。
「うオラァ!」
ザンバの雄叫びと共に、フルシティは振り上げた拳を殴り抜けるように大きく振るうと、スタンショットナックルを振り払い、レヴィーヤを引き離す。間髪入れずにリベイクフルシティのサブアームに握られたロングライフルが火を噴く。放たれた銃弾はレヴィーヤの黒い装甲を穿つ。と同時に、ヴィシャスの体に機体がダメージを負った部位と同じ場所に電撃が走る。
「ぐうっ……! だが、この程度か!」
「ほざいてんじゃねぇッ!!」
ヴィシャスの減らず口にザンバは激高し、背部サブアームに握られたロングライフルの銃口が更に火を噴く。至近距離で浴びせられる貫通制度の高い銃弾は、容赦なくレヴィーヤの厚い装甲を穿いていき、操者であるヴィシャスにリアルダメージを与えていく。
ヴィシャスは自分の体に襲い掛かる激痛を、歯を食いしばって耐え、武装を選択。ビーム兵器は効果が無いため、実体剣であるチェーンスライサーを選択。シールドの裏から2本を両手に持たせ、大きく引き抜くとワイヤーに繋がれた分割された刀身が閃き、目の前で十字にクロスさせるとロングライフルからの銃弾を弾く。
「ヘッ、いくら武器を持っていようが、
ザンバは言い放ちつつ、レバーを操作するとリベイクフルシティの背部に備わる左右のサブアームから、更にもう一対のサブアームが出現する。収納されていたわけではないが、視界の狭められたこの暗い通路内でその存在を認知できたのは、ザンバがサブアームを操作した加減だった。しかもそのサブアームにもロングライフルは握られている。
更に、ペダルを絶妙な力加減で踏み込むとリベイクフルシティが足元に転がしてあったロングライフルを蹴り上げると、本体の腕がナックルガードの代わりにそれをキャッチし、構える。合計、6丁のロングライフルの銃口が、暗闇からヴィシャスを狙う。
「ヒャハハハハハハ!! 見たか! これが俺様の愛機、“ガンダムグシオンリベイクフルシティフルアームズ”の真の姿だあああああッ!!」
「……なげー名前。てか“フル”って2回も付ける意味あるか?」
「ほざくなっつってんだろうがァァァ!!」
この期に及んで余裕綽々な態度のヴィシャスに激昂したのか、ザンバは一心不乱にトリガーを引く。6つの連続する重低音が1つの音に聞こえるほどの射撃音が空間内に響き渡り、黒き巨体を撃ち貫かんと数多の凶弾が降り注ぐ。
『通路内で次々と瞬くフラッシュバック! その度に大型機体であるレヴィーヤに容赦なく弾丸の雨が降り注ぐ! さすがのヴィシャス選手もここまでなのかーっ!?』
レヴィーヤが受けている攻撃を事細かに実況するマイクマンモリクボ。合計6つの銃口から次々に放たれる弾丸はチェーンスライサーの合間を縫ってレヴィーヤの装甲を穿つ。当然、相応のダメージがヴィシャスの身に浴びせられるが当の本人は臆する様子無く、ガンダムグシオンリベイクフルシティフルアームズへ接近を試みる。
「うおああああああっ!! 墜ちやがれ! 黒兜ォォォ!!」
雄叫びを上げながら、ザンバのトリガーを引く指に力が籠もる。彼には理解できなかった。大多数が弾かれているものの、数発の弾丸は確かにレヴィーヤの巨体を捉えている。重装甲により機体へのダメージは軽減されているとはいえ、衝撃体感装置によりファイターにフィードバックされる痛みは相当な筈。並みのファイターならば、ダメージを受けてまで接近戦に持ち込もうなどとは思わない筈だ。
「なんだ!? なんなんだテメェは!?」
「……」
「俺はテメェに勝たなくちゃならねぇ! そうじゃねぇと……俺は!」
……………
………
……
それは30分程前のこと。
「ザンバ、さっき言おうとしたことだがな」
ヴィシャスがポーンランクファイターたちと戦闘を開始した頃、裏方で待機していたザンバはゼイブに呼び出されていた。
「今夜は滅多にない大盛り上がりのステージだ、そう簡単に閉めるわけにはいかない。あの小僧がもし負けたら、客は興醒めだ。だから、その時はお前がショーを盛り上げるんだ」
「ヘ……?」
ゼイブの言っていることの意味が理解できず、柄にもなく呆けた表情で小さく声を上げる。
「お前、最近あまりランク戦にエントリーしてないだろ? 腕が鈍るといけねぇから、この機会にバトルの感覚を叩き込むべきだと思ってなぁ」
「そ、それは……!」
上級ランカーというポジションにつくと、借金を背負っている場合でもない限り、バトル自体は強制する必要は無くなる。あくまで稼ぎの一手段としてバトルする者もいる。とはいえ、利益の元である観客たちは自分の見定めたファイターに大枚を振り込むわけであり、バトルをしないファイターがいれば、それだけ利益が減ることを意味する。観客のニーズに応えるのもまたランカーたちの役目である。
しかし、ザンバはビショップランクに成り上がった途端、試合を行う回数が目に見えて減っており、たまに行われる試合も相手側の欠場で
それもそのはず、相手側の欠場はザンバが裏で手をまわしたものであり、ザイブはそのことをとっくに見通していた。
「あのガキも目障りだが、居座っているだけのランカーもオーナーは目障りなんだとさ」
「ゼ、ゼイブさん……!」
冷や汗がザンバの頬と背中をつたう。ゼイブが歩み寄るとザンバは何かを言いたげな口をパクパクさせるが、言葉が出ず、思わず後ろに下がる。
ゼイブの手が、ザンバの肩に置かれる。
「だからよ、たまにはバトルで観客を沸かせてみなよ……“壊れる”ぐらいになぁ」
「ッ……!」
肩に置いた手をギュッと掴むと、静かに放しゼイブはその場を後にした。あとに残されたザンバは、サングラスの奥で目を見開き、不規則な呼吸を荒げていた。
………………
…………
……
「俺はまだ満足しちゃいねぇ! テメェら格下共の上に立って金も! 女も! 思い通りにしてぇ! だからポッと出のテメェみてぇなガキに……この俺様が負けるなんてこと! あっちゃならねぇんだよォ!」
「……それがお前の戦う理由か」
両手に備えたチェーンスライサーをそれぞれ左右に一振りすると、刀身が伸び鞭のようにしなる。そのしなった刀身に勢いをつけてリベイクフルシティフルアームズに向けて交互に切りつける。
「俺が知っているある人の戦う理由に比べたら……なんて独善的で!」
その言葉と同時に一閃を繰り出し、右側三丁のロングライフルを。
「向上心の欠片も無い!」
二閃目で左側三丁のロングライフルの銃身を切り落とす。
「浅はかな闘争心だろうなぁッ!」
言葉の後、二振りのチェーンスライサーはレヴィーヤの手元に戻る。だがヴィシャスは尚も構えは解かない。一拍おいて切り落とされたロングライフルの銃身が
『な、な、な、なぁんとぉ!? ヴィシャス選手、剣の二振りでガンダムグシオンリベイクフルシティフルアームズのロングライフルを全て叩き切ったーっ!!』
「はっ……!? なっ、なにぃ!?」
夢中でトリガーを引いていたザンバは、突然のことに思わず面食らう。一瞬で、それも僅か二度の攻撃で己のガンプラの持ちうる戦闘力のほとんどを削ぎ落されたのだ。
「やはりお前は人の上に立つべき人間じゃない。ここで引き摺り下ろして細切れにしてやる」
刀身が手元に戻り、一振りの剣となったチェーンスライサーの剣先をガンダムグシオンリベイクフルシティフルアームズに突き付け、ヴィシャスは低い声色でそう宣言する。
「ぐっ……! ま、まだだぁぁぁぁぁっ!!」
銃身を切り落とされ使い物にならなくなったロングライフルを捨てると、先ほどまで遠距離戦に徹していた状況から打って変わって、バーニア全開でレヴィーヤに接近する。その過程で、腰部にマウントされているシールドを取る。そのシールドはベース機体となったガンダムグシオンリベイクフルシティに本来備わっていたものであり、展開することで鋏状の武器……大型シザースとなる。6本腕を合計した腕力から繰り出されるこの攻撃は強烈なものであり、これで挟めばいかに重装甲のレヴィーヤといえどもひとたまりもないだろう。
そう、“挟めれば”。
「阿頼耶識システム! 解ほ―……ぐあぁぁぁああっ!?」
自分のガンプラに搭載された特殊システムを使用するために、そこまで言いかけたところで、ザンバの言葉は絶叫へと変わった。突如左右の視界の端でスパークが巻き起こり、パーツの破片が宙を舞う。突然のことに理解が追い付かないザンバに、容赦なく襲い掛かる猛烈な電流。己の身を焦がす痛みに呻きながら、モニターの左右に目を向ける。
自機の肩部に捻じ込まれているのは、レヴィーヤの持つチェーンスライサーの剣先。
「遅いうえに動きも単調、機体の改造も平凡……よくその程度の腕で上位ランカーになれたものだ」
接触回線でヴィシャスの声が響く。モニター中央には目前にいるレヴィーヤが胸部モノアイを妖しく光らせ佇んでいた。その両手にはチェーンスライサーの柄をしかと掴み、ヴィシャスの匙加減でこのまま掻っ捌くことも引き抜くことも可能な状況だった。
ザンバは己の腕にかかる痛みで自分が今置かれている状況を理解したのか、声色を震わせながらヴィシャスに通信を繋げる。
「ま……待ってくれ! 俺が悪かった! この前金に困っていた奴を使って、お前をナイフで刺すように言ったのは確かに俺だ!」
「…………」
「だ、だけど違うんだ! 俺は単に『アイツを刺せ』って指示しただけで『殺せ』なんて一言も言ったわけじゃ……―!」
「もういい」
しばらくザンバの弁解に耳を傾けていたヴィシャスだったが、次々と吐き出される言い訳の数々にうんざりしたのかその言葉を遮る。同時に、レバーを握る手を緩めると、ザンバは剣に込められた力が緩んだのを感じ取り、僅かに安堵の表情を浮かべた。
「聞くに堪えないその御託、一瞬で終わらせてやる」
直後、再びヴィシャスは両方のレバーに力を籠めると思いっきり前に倒す。グシオンリベイクフルシティフルアームズの両肩部に捻じ込まれたチェーンスライサーはさらに押し込まれ、刀身の伸縮機構を活かしてバックパックのサブアームをも貫く。そのまま左側のチェーンスライサーを引き抜く。ひしゃげた腕部が刀身に引っ掛かりそのままレヴィーヤの元に寄せられるが、腕を大きく払うことでパーツの残骸は剣を離れ、通路の壁にぶつかり砕ける。右側も同様に剣を引き抜く。
両腕を捥がれたグシオンリベイクフルシティフルアームズは、弱々しく上半身を跳ねらせるだけでその場を離れることができない。動かそうにも、ザンバの腕は絶え間ない電流を浴びせられ、まともに機体を操作することすらできないのだ。
最後にレヴィーヤはグシオンリベイクフルシティフルアームズのコクピットブロックをその太い足で踏みつけ、通路の壁に押し付ける。
「俺を殺すなら、ガンプラで殺せ」
冷たい視線とともにフットペダルに込める力が強くなる。衝撃に強いはずのナノラミネートの装甲がミシミシと音を立てて亀裂が入っていく。
「がっ……!? ぐぅぉおおおあああああああっ!!」
グシャッ
一際大きな破砕音と共に、レヴィーヤの足が深く沈み込む。それっきりザンバの声は聞こえなくなり、グシオンリベイクフルシティフルアームズのツインアイからも光が消える。
『き……決まったぁーっ! ビショップランクのザンバ、ここで敗退―っ! 新たなランカー、ヴィシャスの誕生だぁぁぁーっ!』
ヴィシャスが勝利したと同時にマイクマン・モリクボのアナウンスが声高らかに響く。その後に一気に沸き立つ会場。ある者は歓喜し、ある者は唖然とし、ある者は憤慨する。
対して当のヴィシャスはというと、強張っていた全身の力を抜き、Gポッド内で深い溜息をつく。
戦いには確かに勝った。しかし己の内に燻る闘争心は未だ消えることがなく、むしろ思っていた以上に稚拙だった相手に勝利したという事実が、かえって虚しさを感じるようになってしまっていた。
そして、このバトルロイヤルルールという滅多にない見応えのあるバトルで湧き上がっていた観客たちも、ヴィシャスの勝利という結果にある者は歓喜し、ある者は憤慨しながら、今宵の催しは終わりかと次々と席を立ち始めた。
「ん……?」
ふとヴィシャスはここであることに気が付いた。バトルはとうに終了しているはずなのに、なぜかレザルト画面が表示されない。モニターには未だバトル用の画面のまま表示されており、まるでまだバトルが終わっていないことを暗示しているかのようだった。
(このバトル形式は確か『変則バトルロイヤルルール』……最初のポーンランク共のバトル以降も、そのバトル形式が継続されたままだとしたら……?)
そのヴィシャスの予感は的中した。その証拠に、突如アラートが鳴り響くとレヴィーヤが立つ場所に向かって彼方より数多のミサイルが降り注ぐ。
「っ……!」
それを視認するよりも先にヴィシャスの体は動いていた。機体の脚部を前方に向け、足裏に備わっているバーニアの出力を全開。その場から離脱する。直後、弾着するミサイル群の数々。巻き起こる爆炎の向こう側、この狭い通路の奥からこちらを攻撃してきた者の姿を確認する。徐々に炎が沈静化していき、その姿が露わになってくる。
「あのガンプラは……スサノオか?」
通路の終わり、進入口の前に腕組みをして佇む1機のガンプラ。黒と白の配色に、サイドバインダーから疑似太陽炉の赤いGN粒子を排出し、原型機となったフラッグの特徴である細身な体躯が特徴的なその機体は、確かに『機動戦士ガンダム00 セカンドシーズン』に登場するミスターブシドー専用のモビルスーツ、“スサノオ”に酷似している。
しかし一部装備が異なる。両腰のバインダーには強化サーベルがマウントされている筈だが、それは無く、代わりに左側のバインダーにのみ鞘に仕舞われた1本の日本刀が備えられている。さらに、最も目を引くのが頭頂部。というのも、このスサノオはなぜかギャンのミサイルシールドを“被って”いた。ただ固定はされていないのか、手でシールドの端部分を持って安定させている。降り注いだミサイルはこの機体が被っているギャンのミサイルシールド内に格納されているニードル・ミサイルとみてまず間違いないだろう。
おそらくはシールドを三度笠に見立てて、渡世人のようなイメージで改造した機体なのだろう。そんな時代劇を彷彿とさせる機体を扱う者といえば……。
「一応問う、何者だ?」
念のためと思い、ヴィシャスが問うと、目の前のスサノオベースのガンプラは腰を低く落とし左手のひらを差し向ける。見覚えのあるポーズに、「やっぱりか」と思ったヴィシャスがその相手が何者であるかを名乗る前に察した。
「アッ! ここで会ったが
「他に誰がいる」
画面に映し出されるのは金髪でブルーの瞳をした白人男性。Mr.ブドーと名乗るこの男は、ヴィシャスが上位ランカーたちの元に連れて行かれた際、紹介されたランカーの一人だ。
突如として現れた次の刺客に席を立ち始めた客たちは戸惑いの表情と共に慌てて踵を返す。
上位ビショップランクは、普通のビショップランクの一つ上のランクだ。今のヴィシャスは、ザンバを倒してそのビショップランクに繰り上がっている。自分から挑むのならいざ知らず、わざわざ下級のランカーに勝負を仕掛けてくることに何の意味があるのか。
『おーっと! 決着がついたからといって席をお立ちのそこのあなた! まだ今宵のミッドナイトコロシアムは終わりませんよぉ~? なぁんと! 今夜は特別企画! 名付けて、“ヴィシャスのキング成り上がり選手権”を開催しちゃいます! ドンドンドンパフパフパフ~♪』
口で楽器の音真似をするマイクマン・モリクボの陽気な実況が声高らかに会場内に響き渡る。それを聞き、ヴィシャスはこの状況の大まかなことを理解した。
「貴殿に恨みはないが、ゼイブ殿の命により、オイノチチョーダイする!」
「なるほど、そういうことか」
最上位ランカーであるゼイブは、どうあってもヴィシャスを排除したいと目論んでいるらしい。おそらくは休む間を与えずに次々と刺客を繰り出し、ヴィシャスの撲滅を謀っているのだろう。
「スサノオ改め、“ケンキャク”! いざジンジョーに、ショウブ!」
ブドーが己の駆るガンプラの名を叫ぶと、笠に見立てて頭に被っていたシールドを左腕のハードポイントに接続し、腰の鞘から刀を引き抜くと右手で構え、レヴィーヤに迫る。
“ケンキャク”……その名の通り時代劇でお馴染みの“剣客”から名をとっているのだろう。
(しかし……)
「ハァッ!」
ケンキャクはシールドを前面に構えると、その奥より日本刀を突きの形で繰り出す。しかし本来、日本刀はその強固な刀身を用いて切り裂くことに適しているなのに、刺突ばかりを繰り返しているようではこれではまるで
「所詮は時代劇かぶれか……フェイシングの構えと混同しているぞ」
「ナヌッ!?」
「日本刀は……―」
たじろぐブドーを他所に、刺突をかわしながら脹脛のハードポイントに備わっている柄を掴むと、ヴィシャスの指が居合いを抜くように動き、振り上げると同時に紅色の刀身を形成する。
「こう使うッ!」
紅い軌跡を描きながら振り下ろすと、ケンキャクは防御しようとシールドを前面につき出すが、ビームカタナはシールドを深々と切りつける。一瞬のスパークの後、ミサイルや機雷といった多機能を備えた盾が膨大な火薬の代わりとなり、直後それらに引火して誘爆を引き起こす。それにより、ケンキャクの左腕が吹き飛んだ。
「ぐおあっ!? うぬっ……! オヌシ、できるなっ!」
「いや、半ばその盾のせいだと思……―」
「なれば、トランザム!」
話を最後まで聞く前に、ケンキャクがその身に紅を纏う。疑似太陽炉と、爆散した左腕の断面から排出される粒子量が一気に増す。特殊機能、トランザムにより、ケンキャクは一定時間全体的な機体性能が3倍近くまで増幅される。
「フハハハハ! この動き、オヌシには見切れまい!」
高笑いと共にレヴィーヤから距離を取るとその周囲をぐるぐる回り始める。ヴィシャスの視点からだと、トランザムの輝きが残照となり、赤い膜が周囲を円状に覆っているように見えた。逃げ場を無くし、タイミングを見計らって攻撃を仕掛けるつもりなのだろう。
それに対しヴィシャスは、冷静に深く息を吐くとレバーにかける腕の力を弱めた。同時に機体も剣の構えを解くと、脱力したように腕部が下げる。
「愚かな! イクサバに立っていながら自ら戦いを捨てるとは……ショウシ!」
背後を取り、勝利を確信するとケンキャクは日本刀で突きを繰り出す。GNソードではないため、刀身にGN粒子が定着しているわけではないが、それでもトランザムにより加速の乗ったこの一撃を受ければいかにレヴィーヤといえども致命傷となる。
だが、その攻撃が見えていたとでもいうのだろうか。背後からの不意打ちの異種返しといわんばかりの攻撃を咄嗟に横に飛び退けると、ケンキャクの一突きは空を突く。
「ナヌっ……!?」
「お前に一つ教えておいてやる」
そう言うとヴィシャスは、空を突いた刀を素手で掴むと、一捻りでその刀身を握り潰す。
「“柔よく剛を制す”という言葉がある。日本文化に憧れるのは結構だが、その本質を見極めなければお前はただのにわかだ」
握り潰した刀を己の元に引き寄せ捨てると、振り向きざまに右手側のガントレットを起動、拳先からビームクローを展開すると、そのまま勢いをつけてケンキャクの胸部に突き刺した。
「グッ……ごほっ!? お、オヌシ……! 剣の勝負を捨てるとはそれでも武士か!?」
「ガンプラファイターだ」
「クッ……フフフッ、イクサバに立ちながらなおもガンプラファイターでいようとするか……その信念、果たしていつまで持つかな?」
「なんだと?」
「冥途の土産に教えてシンゼヨウ……オヌシの戦いは全てのランカーたちを倒すまでは終われない……そう、一人の例外もなく」
「……待て、それは一体どういう意味だ!? まさか……!」
「フッ、フフッ……散ればこそ、花美しく名を残し……今
最期にMr.ブドーは辞世の句を読み上げ、その直後機体は爆散。ヴィシャスの問いかけに応えることなく、ケンキャクの反応は消失した。後に残されたヴィシャスは、行き場のない憤りに苛まれた。
「……チッ」
堪らず舌打ちをつく。Mr.ブドーが散り際に思わせぶりに言い放った言葉が引っ掛かるためだ。“全てのランカー”ということは、もちろん現時点での最上位ランク、上位ルークランクであるゼイブまで相手にしなくては、このバトルロイヤルルールのリアルバトルは終わらないということ。
しかし気にすべきところはそこではない。“全てのランカー”……つまりは、上位ルークランクに至る過程で……。
「……確かめなければ」
とにかく立ち止まっていても仕方がない。自分にとって最悪の未来を脳内に描きながらも、ヴィシャスは進入路を奥へと進んでいく。
そんなことはあってはいけない……いや、あってほしくない。そのためにもまずは会って、そして話さなくては。
自分の脳裏に浮かぶ、しなびた優しい笑みを消さないために、ヴィシャスは無意識にレバーを固く握り、ペダルは深く踏みしめ進入路内を猛進していた。
やがて開け放たれたハッチを潜ると、そこは航宙船舶の発着ベイだった。軍艦から民間の貨物船まで、数多くの艦艇がその場に停泊している。言うまでもなくこれらは全てガンプラバトル内でのオブジェクト。動きこそしないが、MSが悠々とその身を船舶の陰に身を隠すことができるため、障害物としては役に立ってくれる。逆に言えば敵からの奇襲を受けやすいということ。先を急ぐが決して警戒心を緩めることなく進んでいく。
「ぐっ……!?」
その時、不意に機体が揺らいだ。と同時に、背中に電流が走る。歯を食いしばり、電撃に耐えると、けたたましい警報と共にモニターに赤く表示されるダメージ箇所。それを確認すると、やはり背部から攻撃を受けたらしく、2つあるブースターのうち右側が一部破損してしまった。油断したつもりはなかったのだが、不覚をとったようだ。
被弾箇所を目視で確認すると、思ったほどダメージは深くなく装甲が少し黒く焼け焦げているだけだった。小規模なことから、小型のミサイルかロケット弾の類で攻撃されたのだとわかった。
「攻撃!? どこから……?」
背後をとられたということは、進入口のすぐ傍に敵はいたということだ。しかし、いくら物影が多いからといっても、自分がMSサイズの存在をスルーしてしまうことなど考えにくい。
(ミラージュコロイドや光学迷彩の類か? いや、違うな……それならもっと高火力の武器を使って一撃で仕留めればいい。この攻撃は、MSが繰り出すにはあまりにも小規模すぎる……むしろもっと小さい、例えば……)
その時、周囲に配置されていた貨物用コンテナの陰から、赤い噴射炎が尾を引きながら数多の弾頭が迫る。センサーが熱源を感知し、アラートがけたたましく鳴り響く。
「今更かよ……!」
悪態をつきながらも、シールドを前面に展開し、防御姿勢をとる。直後響き渡る爆音と共にシールドに弾着した衝撃がレバーを通して伝わる。しかし見た目ほど強い衝撃ではない。やはり今の攻撃は、MSが繰り出すにしては軽すぎる……その正体は一体何なのだろうかと思考を巡らせつつ、次の攻撃を凌ぐために貨物用コンテナの陰に身を隠す。
「ン……?」
不意に端に視線を向けると、何か肌色のものがそこに漂っている。何かと思い、しかと見据えると……流石のヴィシャスもこれには言葉を詰まらせた。“それ”が何なのか判別できなかった。しかし見れば見るほど、“それ”は紛れもないものだと判断した。
尻だった。
画面いっぱいに、およそ衣服と呼べる代物を纏っているとは思えない際どいラインが中心に走る、尻。それも女性の。
決して見とれているわけではないが、ヴィシャスは頭の理解が追い付かず、動きが止まる。その最中、尻の主が正面を向く。やはり女性、それもほとんど紐のような水着を纏っている。それがちょうどレヴィーヤの頭部カメラの正面、文字通り目と鼻の先に佇んでいた。
「裸の女……!?」
現状を形容するのに飛び出たのはその言葉。そして、今自分が思わず口走ってしまったこのワードには聞き覚えがあった。そして目の前の状況。理解するよりも先に、相手が動いた。その手に握られているのは歩兵用のロケットランチャーだ。振り向くや否や、それを正面に構える。その姿がモニターにはありありと映し出される。ロケットランチャーの砲口の先が、己を捉えていることも。
「トーデスシュレッケン!」
迷うことなくトリガーを引くと、側頭部より放たれた数多の弾丸は、紐水着の女を撃ち抜く。最初の数発で女は木っ端微塵に消し飛ぶ。人とMSのサイズ差を考えれば、頭部バルカン砲程度の武装でも十分すぎるほどの威力を持つ。
「な、なんだったんだ、今のは……」
いまだ理解の追いつかない状況に戸惑いつつも、射撃跡にカメラを向けて僅かに残された残滓を観察する。これはガンプラバトル。生身の人間が画面の中に出現し、攻撃してくることなど決してあり得ない。いくら人体に似せてあろうとも、ガンプラに攻撃を仕掛け、あまつさえダメージを与えてくるということは、あれは精密に作られた1/144サイズのフィギュアである可能性が高い。
その証左として、粉微塵ほどの女の欠片は、肉片などではなく、固められたパテの質感のそれだった。
「先ほどの攻撃もこのフィギュアからのものだとすると……」
半ばその答えを確かめるように、貨物コンテナの陰から出るや否や、艦船やハンガーの陰からジェットパックとヘッドギアを身に着け、ロケットランチャーを装備した露出の多い煽情的な水着姿の女性兵士たちがわらわらと出現する。
「まさかとは思ったが、ネネカ隊の再現とは……悪趣味にも程がある」
それは“機動戦士Vガンダム”の終盤において、主人公ウッソ・エヴィンの駆るV2ガンダムを前に、少年であるウッソの動揺を誘うために、カテジナ・ルースによってそそのかされたネネカ・ニブローら女性近衛師団たちが水着姿にロケットランチャー一つで対抗するという、色々な意味で衝撃的すぎる戦闘場面の再現だった。その結果、ウッソは精神的にも疲弊し、ネネカ隊は全員悲惨極まりない最期を迎えることとなり、ガンダムファンの間では長いことトラウマシーンとして語り継がれている。
大方、このネネカ隊フィギュアを操る者はカテジナ同様、男の劣情を煽り立てることで勝利を手にしようと画策しているのだろう。このミッドナイトコロシアムにおいては、ガンプラファイターのほとんど男性であるため、確かにこの戦法は有効に働くことだろう。そうでなくても、Vガンダムのあの光景を見た者であれば、おのずとトラウマを呼び起こされ、攻撃することを躊躇うものだ。
しかし、この男……ヴィシャスは違った。
「だが、所詮は人形……!」
レヴィーヤは両肩のシールドで正面を覆い、防御形態をとると頭部のトーデスシュレッケンを放ちながらネネカ隊を模したフィギュア群の中にあえて突撃していく。その過程でアームガードを展開。ただし、先端部の電撃はオフのままだ。
バルカンの斉射とシールドバッシュで何体かを粉砕すると、ネネカ隊の只中に入り両拳を覆うスタンショットナックルを振るう。
あとは、見てくれに惑わされない精神力さえ持ち合わせていればいい。
「こんなものでこの俺を止められなどと思わないことだ」
最後の1体、赤い髪色からしておそらくネネカ本人を模したであろうフィギュアを、羽虫を払うがごとく地面に叩き落とすと、レヴィーヤはあえてその上に巨脚を振り下ろし、着地する。
フィギュアは全て破壊したようだが、まだ戦いは終わってはいない。この人形たちを操っていた者がどこかにいるはずだ。そしてそれは、おそらくザンバやブドーよりも上のランカーだ。
その時、レヴィーヤの足元に何か光るものが見えた。視線を下に向けると、それはネネカフィギュアを踏み潰した足裏から延びている。
「糸……?」
ピンと張られたその細長い糸は、この発着ベイの更に奥……コロニー内部へと向かう運搬用の貨物通路の方に伸びている。よく見ると、周囲には同様の糸が数多く漂っており、フィギュアたちはこの糸によって操られていたのだと悟った。
敵はこの先の貨物通路の奥にいる。そう確信したヴィシャスは、迷わず機体を通路の方へと向かわせた。
とその時、不意に金属の反響音がこの空間内に鳴り響いた。鈴のような、いやおそらくは複数の金属の輪っか同士が触れ合うことによって鳴る音だと判別できた。その音は、今まさに自分が向かおうとした通路の奥より聞こえてくる。
その音は僧侶が所持する錫杖が揺れる際に起きる音色によく似ている。
「あぁ~ら、私の人形ちゃんたちをみんな叩き落すなんて……んふっ♪ 乱暴な坊やだこと」
艶っぽい声色の女性の声と共に、通路の奥より現れたのは黄色を基調とした機体色に、猫目のような特徴的なツインアイ。先ほどのネネカ隊を模した攻撃方法からして、この機体はVガンダムに登場するザンスカール帝国ベスパのモビルスーツ、リグ・シャッコーのカスタム機だ。加えて、随所に入った曼荼羅のような模様と、さらに特徴的な肩アーマーと手にする赤い錫杖からして、おそらくは……。
「呪術師
それは“新SD戦国伝 七人の超将軍”に登場する、新生闇軍団の呪術師
「会うのは2度目ね、坊や。私はナイトランクのイリス、次の刺客ってわけねぇ」
ヴィシャスに対し、改めて自己紹介をするイリス。モニターに映し出されているのは、濃い青色のアイシャドウに褐色の肌、随所に金色の装飾品を纏い、口元を紫色のフードで隠した占い師のような風貌をした女性だ。
ナイトランクのイリス……イーストコーナーの上位ランカーの中では唯一の女性ファイターだ。
「アンタに一つ聞きたいことがある」
「あら、何かしらぁん?」
「このバトルロイヤルは全ての上位ランカーが参加していると聞いた。ということは……アンタの先に、ハゼガーがいるのか?」
若干言葉を詰まらせながら、ヴィシャスは今自分が一番気掛かりになっていることを問いただす。その質問に対し、イリスはケラケラと笑う。
「戦う前から次の対戦相手のことを気にしているの? ダメよ坊や、ちゃんとお姉さんのことを見てくれないと、妬いちゃうわよ?」
「質問に答えろ」
「フフ、そう焦らないで。教えてあげるわぁん。ただし……」
その時、
「この私を倒したらねぇッ!!」
言うよりも早く、
「ビームストリングスか……!」
リグ・シャッコーとゾロアットのようなベスパ製MSには、所謂ヒートロッドや海ヘビのような役割を持つ電磁ワイヤーが搭載されている。名前こそ“ビーム”と名付けられているが、実際にはビーム兵器の類ではなく、放射した形状がビームのように見えることからこう名付けられたものだ。
「その通り! しかもこの極細さは特別製、振動を与えれば人形を操ることもできるし、対象を切り刻むことだってできるのよ。こんな風にねぇッ!」
「アッハハハ! さっきまでの威勢はどうしたの坊や? 逃げてばかりじゃ私を倒せないわぁん!」
半ば破壊を楽しむかのように腕を左右に振ってビームストリングスで周囲を削いでいく。その度にコンテナや床、支柱が切り裂かれ崩れていく。あの切れ味では、いかに防御にステータスを振っているレヴィーヤといえども、シールドや装甲で攻撃を受け止めようものなら簡単に切り裂かれてしまうだろう。また、ここが
しかし、いつまでも逃げ回っているわけにはいかない。幸いなことにこの武器に対抗しうる武器を、レヴィーヤは持っている。
「……っ! チェーンスライサー!」
肩のシールドからチェーンスライサーを引き抜くと大きく振りかぶり、刀身を伸ばしてワイヤーを絡めとる。双方の武器の切れ味は互角。互いに互いを傷つけることはできず、キシキシと金属同士が擦れ合う耳障りな音が響き渡る。しかし、これでビームストリングスを絡めとることができた。
「あら?」
イリスが驚嘆の声をあげる。このような方法で自慢のビームストリングスを無力化させられるとは思ってもみなかったという反応だ。
レヴィーヤはチェーンスライサーを握っている右腕を思いっきり引っ張ると、蛇腹剣は持ち前の伸縮機能を発揮させ、ビームストリングスを絡ませたまま元のサイズに収まろうと刀身を引っ張る。それに釣られて
と同時に、左腕のガントレットを可動させ、先端部にビームクローを発振させる。引き寄せたと同時にこのビームクローを突き立てるつもりだ。
しかし、目論見はそう簡単にはいかなかった。
「やるわね坊や。でもあまりお姉さんを舐めないことねぇ! ホォーム……―」
イリスは何やら、その場で呪文のようなものを唱え始めた。すると、屋内であるにも関わらず、周囲に暗雲が立ち込める。直後、暗雲より雷光が轟き、レヴィーヤを直撃する。
「ぐああっ!?」
摩訶不思議な攻撃をその身に浴び、衝撃体感装置で痛みとなって襲い掛かる電撃に思わず声をあげながらも、攻撃から逃れようと躍起になる。しかし、暗雲はそのままレヴィーヤを包み込むように纏わりつき、電撃を直に流し込み、身動きを完全に封じる。
「き、機体が動かない……!?」
レバーを力いっぱい押し込むが、機体は地に手をつきビクとも動かせない。さらに流し込まれる電撃は痛みとなってヴィシャスの身を文字通り焦がしていく。
「アッハハハ! これぞ暗黒呪法“闇結界”! 坊やの機体に超重圧をかけて動きを封じる術よ!」
声高らかな笑い声が響き渡る。闇の力を以てして相手の動きを封じ込めるこの闇結界の前では、伝説の巨神、“機動武者 大鋼”ですら手も足も出なかったほどだ。
『なぁーんと!? イリス選手、ガンプラバトルにあるまじき戦法! まさに魔法を、いや! 呪術を駆使して戦っております!!』
通常のMSを模したガンプラではまず有り得ない戦法だろう。しかし、SDガンダムはそのパーツを作り込むことにより原作同様の超常的な攻撃を繰り出すことができるのが特徴だ。しかも、このリアルタイプ呪術師
一見、非の打ち所がないようにも思える。
だが、ヴィシャスは既にこの攻撃を受けながらも同時にその弱点にも気付いていた。
「思い知ったかしら? じゃあそろそろ楽にさせてあげるわぁん。これでも喰らいなさいッ!」
錫杖の先端より魔力波を撃ち出し、レヴィーヤへと迫る。
「うっ……おおおおおおおおおおっ!!」
瞬間、ヴィシャスは一気にペダルを踏みこむ。すると、レヴィーヤは暗雲を纏いながらも動き出し、立ち上がるとシールドを魔力波が迫るほうへ向ける。直後、シールドに当たった魔力波は霧散する。
「なっ、なんですって!?」
またも自分の術が破られ、イリスは2度面食らう。呼吸を荒げ、全身に電流が流れながらも、ヴィシャスとレヴィーヤは立ち上がった。
「馬鹿な! 闇結界を受けていながらなぜ立ち上がれるの!?」
「その術は闇軍団が駆使する闇の呪縛……それに対抗しうるには同じく闇の力が必要……。俺の心には、深い深い闇が渦巻いている……それがある限り、こんな術は蚊に刺された程度も効かん!」
「屁理屈で押し通るつもり!?」
錫杖の先端と左掌から魔力波を撃ち出す。しかし、レヴィーヤは脚部クローラーを駆使して地面を滑るように移動し攻撃を避ける。あっという間に距離を詰めると脹脛にマウントしたビームカタナの柄を掴み、ビーム刃を展開すると同時に一閃、
「ひっ、ひぃ……!」
目の前でビームの刃が掠め、
「さっきの質問の続きだ。答えれば見逃してやる」
「こ、答える! 答えるわ! ……た、確かにハゼガーはいるわよ。この通路の先に」
必死な素振りでイリスは説明すると、
「あ、あなたの首には今、10人分のポーンランクと2人のビショップランクを倒した分の賞金が上乗せされているの。しかも下級の者が上級ランカーを倒せばその掛け金は倍。そんなあなたを倒せばその賞金が全部手に入る。だからみんなあなたを狙っているってわけ」
と、イリスは額に冷や汗をかきながら、確実に見逃してもらうためか、聞いてもいない情報をペラペラと教える。しかしヴィシャスは理解している。
自分と戦わなくてはならない理由……それはただ一つ。
全てを失ったあの人の、唯一残されたなによりも大切な存在。それを質にとられているとみてまず間違いない。
「……もう一つ、知っていたら聞かせろ。このバトルロイヤルを計画したのは誰だ?」
「じ、上位ルークランクのゼイブよ……」
それを聞いた途端、ヴィシャスは拳を固く握りしめ震わせる。しばらくすると
「そうか……わかった」
短くそれだけ言い残し、視線を倒れ込んだ
あの先にあの人がいる……どのような目論見が渦巻いているにしろ、先に進まなくてはならない。覚悟を決め、
その時。
「フッ、フフッ……甘いよねぇ坊や!」
脚部に収納していたビームサーベルを手に取ると振りかざし、
しかし、ヴィシャスはイリスの行動を読んでいたとでも思える反応で瞬時に振り向き、遮光《シャッコー》がビームサーベルを振りかざした右腕を左手で掴み上げ、攻撃を封じる。しかもレヴィーヤの右手には、ビームカタナの柄がまだ握られたままだ。
彼女が見据える正面のモニターは、次の瞬間には真っ赤なスパークで覆われる。
「うっ、そ……―?」
途切れる寸前に呟くように聞こえた疑問符。その後、機体は爆散し通信は途絶えた。
「『甘い』……か」
ビームカタナの柄を脚部のハードポイントに戻すと、ヴィシャスは今イリスが自分に対して放った言葉を、誰に言い聞かせるでもなく、小さく呟いた。
その通りかもしれない。結局自分は、全てを捨て去ってこの戦いに臨んでいたつもりだったが、新たな出会いがあったお陰で今、自分の心は揺れ動いている。ヴィシャス……いや、キモト・ソウシにとってその出会いは幸か不幸か……。
「そうだとしても……!」
ここまで来たらもう止まらない。否、止まってはいけないところまで来てしまった。十中八九、この後に待ち受けている最大の試練を前に、彼は柄にもなく深呼吸をすると先ほど指さされた通路を見据える。
「……よし」
意を決し、その通路に侵入していく。先ほど通ってきた進入路とは違い、通路内は小さな照明が均等に並んでおり、奥にMSが進入できるサイズのハッチがあることが確認できた。さらに、進むにつれて機体の浮遊感が無くなり、徐々に足が地についていく。ここから先は重力ブロックのようだ。つまり、重量級な機体であるレヴィーヤの機動力も落ちるということだ。目立った外傷は無いものの、既に先ほどのナイトランク相手では自慢の重装甲を以てしても攻撃を受け止めきれる確証がなかった。ここから先の戦い、防御だけにポテンシャルを置いて戦うのは危険かもしれない。
そんなことを思考しつつ、機体は通路の向こう側まで辿り着いた。ハッチの横には、MS用の回転式レバーがあるのが確認できた。おそらくこれがハッチの開閉レバーだろう。ガンダム作品においても、似たようなものを何度か見たことがある。
ヴィシャスは、レヴィーヤの手にレバーを掴ませると手首を2回転分ほど回すとハッチが音を立てて開く。
ハッチが完全に開ききり、視界の先に広がっていた景色は荒野だった。地肌が露わになった山々に、吹き荒れる砂嵐。
『さぁ! 最終ステージはこのテキサスコロニー! 果たしてヴィシャス選手は立ちはだかる難関を乗り越え、見事キングと成り得るのでしょうかー!?』
ここが最終ステージ……つまり、残り3人のランカーが全員このコロニー内にいるということだ。
サイド5“ルウム”に属するこのコロニーは、本来ならばサンダーボルト宙域のサイド4“ムーア”とは場所が異なるが、こちらも同様に暗礁宙域に位置するコロニーだ。
“テキサスコロニー”という名の由来は、アメリカのテキサス州をモチーフにした観光地として開発が進められていたが、一年戦争の影響で開発は中断。内部を照らすミラーも可動を止めているため、内部は荒れ放題になっているという経緯がある。また、ファーストガンダムではガンダムとギャンが激戦を繰り広げ、THE ORIGINでは幼少期のアルテイシアとキャスバルが幼少期を過ごしたという、ガンダムシリーズでは比較的知名度の高いスポットだ。
開閉ハッチは、そんな山肌の只中に設けられていた。その荒地に足を踏み入れると、不安定な足場に思わず機体のバランスが崩れる。なんとか持ち直し、地表に降り立つ。砂と岩しかない丸裸の地表は、吹き荒れる風の影響で巻き上げられた砂が視界を塞ぎ、間接に入り込む砂が機動性を鈍らせる。視界の彼方では、半ば野生化したバッファローの群れが通り過ぎていくのが見えた。
思った通りここは
吹き荒れる砂嵐の最中、目を凝らして次の対戦相手を探そうとしたその時、Gポッド内にけたたましいアラートが鳴り響く。熱反応を感知したらしい。しかし、それは敵機の熱源反応ではなく、攻撃を感知した際のアラートだった。
「……っ!」
攻撃を察知し、反射的に体が動いた。ペダルを思いっきり踏み込むと、脚部のクローラーが起動する。砂を巻き込み数回空転すると、砂煙を巻き上げながらレヴィーヤの巨体が滑るように地面を移動する。直後、紅と紫に彩られた閃光が大気を灼いて疾り抜け、瞬く間にレヴィーヤがいた空間を灼き、地面を熔かして爆ぜる。
そのビームの威力をまじまじと見せつけられたヴィシャスは、思わず言葉を詰まらせる。あの一撃をマトモに食らったら、いくら重装甲のレヴィーヤでもひとたまりもない、と。
灼かれた地面を尻目にしつつ、クローラーで移動しながらこのビームが発射された箇所を目指して走る。尚も遠方よりビームの斉射は続く。その度にレバーを操作し、機体が右へ左へと揺らぎ、その度にGポッド内も大きく揺れる。
だが敵機からの攻撃のお陰で、砂嵐で巻き上げられた砂が排除され、視界が開けた。それにより敵機の存在も確認できた。遠方からの狙撃だと思われた攻撃は、意外と近い箇所からの攻撃だった。
空中からの狙撃。まず目についたのは細長く青と白の配色の開放バレル型のロングライフルだった。V2アサルトバスターガンダムが装備しているメガ・ビーム・ライフル。宇宙世紀に登場した手持ちのビーム兵器では最強クラスの装備だ。
そして、そのライフルを装備している機体は……。
「やはり、あなたか……ハゼガー!」
上空からレヴィーヤを見下ろすのは、白と青、関節はダークイエローの三色のカラーリングを基調とし、両肩に備えたバインダーを翼状にして広げ、煌々と煌めく青いツインアイのガンプラ……。紛れもなく、以前ソウシがハゼガーの小屋で見せてもらったダハックとモンテーロのミキシングガンプラ、“ダハーロ”だった。
「やぁ、ヴィシャス君」
その人を前にして岸壁に打ち付ける荒波の如く、ヴィシャスの気持ちは大きく揺さぶられた。しかし、相対する本人は普段と同じように落ち着いた口調と様子で、当たり前に交わす挨拶のように通信を送る。
『さぁ、ついにここまで来た! ヴィシャス選手と相対するは百戦錬磨の老兵、上位ルークランクのハゼガー! そして彼が駆るのはブルー・ジーニアス! “ダハーロ”だぁッッッ!!』
マイクマン・モリクボの熱烈な実況が轟く最中、大局的に極めて冷静な2人は対峙したまま睨み合う。
「何か私に言いたいことがあるようだね?」
「…………」
「上位ランカー特権として、秘匿回線を使用している。私たちの会話は、外に聞こえることは無い」
「なら聞かせてもらうぞ。なんでアンタがここにいる?」
「おかしなことを聞くね。当然、私は上位ナイトランクとして君を倒すためにここにいる。先日、ゼイブさんから召集をかけられてね、上位ランカーはゼイブさんの命令には絶対なんだよ」
いつものがさついた声だが、その言葉の裏には真剣みを感じさせた。
直後、ダハーロの持つメガ・ビーム・ライフルの開放バレルに雷電の蛇がのたうちまわる。次の瞬間、放射される。迫る滅光を前に、ヴィシャスは瞬時にレバーを操作、ペダルを踏みしめ脚部クローラーを起動。素早くターンしてその場を逃れる。既に何発かをこの出力で放っているが、ライフルの威力は相も変わらず凄まじく、砂の大地を一直線に穿った。
「ッ……それだけが理由じゃないだろう!? アンタは自分の信念を以て戦っていた! その信念を曲げざるを得ない条件を突き出されたからここにいるんだろう!?」
「私を見くびるな」
ダハーロの両腰部に備わっている3連装のミサイル、合計6発が発射される。
「チィッ……!」
巻きあがる砂塵の向こう側から鮮やかな青色の相貌が睨みつける。次の瞬間、砂のカーテンを突き破り、青く細長い得物を振りかざすダハーロ。モンテーロに装備されているビームジャベリンだということはすぐにわかった。リーチの長いビームジャベリンで切りつけられれば致命傷と成り得る。しかしビームマシンガンを備えたままで近接戦闘への対応が遅れたヴィシャスは、そのままビームマシンガンの銃口を突き出し、トリガーを引く。黄緑色の弾丸が発射されるが、その弾はダハーロに届く前に
「プランダーか!?」
「その通りだ」
単純な話、敵のビーム兵器を吸収し、己のエネルギーに変えてしまうという、鉄血系列の機体とはまた異なるアンチビーム兵器の機能だ。ハゼガーのダハーロは、そのプランダーを正面に向けたままビームジャベリンを振り下ろす。回避も防御も遅れたレヴィーヤは、成すすべなく銃口を向けていたビームマシンガンの銃身部分を両断される。
「くっ……!」
すぐさま両断されたマシンガンを捨てると、
「私もあんな生活とは一刻も早くおさらばしたくてね、この話に乗らせてもらったんだよ」
「……!」
「私に心を許した君なら、必ず私が相手だと知った時動揺すると思った。そして、その目論見はどうやら当たっていたようだ」
ダハーロがビームジャベリンをバインダーの裏側に収納すると、腰部にマウントしていたメガ・ビーム・ライフルのバレルを伸ばし、地に足を踏ん張りながら狙いをつける。
「やらせるか!」
長物の射撃武器は、威力は高いが予備動作が大きい。放たれる前に、武器を無力化しようと残されたもう一丁のビームマシンガンを向け、トリガーを引く。断続的に放たれる光弾は、確実にメガ・ビーム・ライフルの銃身に迫る。しかし、直撃寸前でまたもダハーロは左掌を前に突き出し、プランダーによって阻まれてしまう。直後、返戻とばかりに銃身の先より放たれる膨大な出力のビーム。
反撃の兆しが見えたその瞬間を見計らい、ヴィシャスは機体をわざと地面の上に横転させる。機動性を奪われる地形・重力下においては、むしろこうした方が攻撃を回避しやすい。
次の瞬間、地面に転がったレヴィーヤの足先数センチの距離を野太いビームの奔流が通り過ぎていく。並みのビームライフルとは比較にならないその威力は、むしろバスターライフルやハイメガキャノンの最大出力のそれに近い。ビームマシンガンから放たれたビームを吸収した分のエネルギーも合わせた出力なのだろう。
「その機体の特徴は全て把握している。第一にその機体は防御力に秀でている代わりに、極めて機動性が低い」
「…………ッ!」
ダハーロは再び両肩のバインダーを広げ上空に飛び上がると、バレルを縮めて通常のビームライフルとしての威力で空中から銃撃する。地面に転がるレヴィーヤは、成す術なくその攻撃を身に受ける。その身に纏う重装甲で攻撃を凌いではいるものの、こうも絶えず攻撃を受けていては体勢立て直すこともおぼつかない。その身に受ける攻撃一撃一撃が衝撃体感装置を通じてヴィシャスの体に小刻みに電撃を流す。
「第二に、その身に纏った装甲が可動範囲を狭めている。見てくれにこだわって勝てるほど、リアルバトルは甘くないッ!」
チャージと共に放たれる一撃。この身に受ければ確実に致命傷と成り得る攻撃だが、しかしレヴィーヤは仰向けになると地面に向けて背部のバーニアを噴射、その反動を利用して素早く起き上がり、攻撃を回避した。
「言わせておけば偉そうにッ……!」
奥歯を噛みしめ、宙に浮かぶダハーロを一瞥するとバーニアを噴射したままレヴィーヤも飛び上がる。スペースコロニーは、自転することによって遠心力により重力を生み出している。故に、コロニーの回転軸である中心部に向かえば向かうほど重力は小さくなる。重量級であるレヴィーヤを宙に上げる推力は正直な話、ギリギリだったがそれでも一度の噴射でダハーロの滞空地点に到達した。
「やっぱりアンタは! 俺のことを何にもわかっちゃいないッ!!」
右手側ガントレットが可動、拳を覆いこむように展開すると先端部よりビームクローを発振、肘を曲げて大きく引き込み、前方に突き出すと同時、肘部バーニアを起動。バックパックのバーニアも複合させた推力でダハーロに迫る。
高速で突っ込んでくるレヴィーヤに対し、射撃武器では対応できないと判断したのか左手を前方に向け、ビームバリアを展開する。次の瞬間、レヴィーヤのビームクローとダハーロのビームバリアが触れた。その瞬間、まるで貪るかのようにビームクローのビーム刃が掌の中に吸い込まれていく。
「無駄なことを」
「それはどうかな……っ!」
勿論、ビームクローのエネルギーが吸い込まれることを承知の上でヴィシャスはガントレットの先端部を突き立てている。激しいスパークが巻き起こる中、尚もビームバリアの中にガントレットを押し込んでいく。発振されているビームクローが完全に消滅し、ガントレットの先端部がバリアを突き抜ける。
「今だッ!!」
そのタイミングを見計らい、ヴィシャスはスタンショットナックルの放電機能を使用。眩い閃光と共にガントレットの先端から放出された電流がダハーロの全身を駆け抜ける。
「ごあっ!? なんっ……のぉっ!」
電流を耐えつつ、ダハーロがレヴィーヤの巨体を蹴り飛ばす。鈍い音が響き渡り、レヴィーヤの体勢が揺らぐ。
腹部に受けた痛みを手で擦り緩和していると、上空からダハーロも降りてきた。スタンショットナックルの放った電撃のせいか、機体の各部からスパークが起こり、機体が思うように動かせていない様子だ。
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
ヴィシャスの耳に荒い呼吸音が聞こえる。自分のものではない。対峙するハゼガーのものだということは容易に想像がついた。
「どうだ、これでもまだ観賞用だなんて言えるか? 俺が持つ限り、こいつは戦いの中でこそ輝く!」
「……ガンプラバトルにおいて、作品にこだわることと、頂点に戴くことは矛盾している」
電流による痺れが抜けたのか、呼吸を整えたハゼガーの反論を、ヴィシャスはマスクの奥で眉を
「魅せることを諦め、いかに効率的に敵を倒すかを念頭に入れなければ勝利を得ることはできない!」
「そういうアンタはどうなんだ!」
ハゼガーからの一方的な持論ばかりをぶつけられたことに我慢の限界を迎えたヴィシャスは、堪らず反論を繰りだす。
「なぜメガ・ビーム・ライフルを装備している? その機体の性能を十分に発揮するためには、両手分のプランダーを展開するべきだろう! 手持ち式のロングライフルなんてその特徴を殺してるようなものじゃないか! なのになんで!」
まさに、今まで溜まりに溜まっていた鬱憤を一気に放出したかのようだった。売り言葉に買い言葉とはよく言ったもので、ヴィシャスもハゼガーのダハーロに対しての疑問を憤りと共にぶつけた。自分が「一番良い」と思っているガンプラのことを、根底から否定されれば誰でもこうなるものだろう。ヴィシャスからの思わぬ反駁の言葉に、ハゼガーは言葉を詰まらせる。
「…………へ、ヘルメスの薔薇の設計図」
「は……?」
少々間を置き、呟くように聞こえたハゼガーの言葉。それは、Gのレコンギスタにおいて宇宙世紀時代のテクノロジーが記されたデータの総称だった。
「このメガ・ビーム・ライフルは、ヘルメスの薔薇の設計図を基に復元されたものだ」
「……結局のところ、アンタだって捨てきれてないじゃないか。ガンプラを魅せることを」
言いつつ、自分では自覚していないが、マスクの奥で眉間に寄せた皺が消えた。それと共に意を決したように、レヴィーヤの手がシールドの裏に伸び、柄を掴むと思いっきり引き抜き、チェーンスライサーの刀身が煌く。ビーム兵器による攻撃は、かえって相手を有利にさせてしまうと判断し、チェーンスライサーを主軸とした物理攻撃に切り替えることにした。
「そうだ。我々はガンプラビルダーであると同時に、ガンプラファイターだ。何かを得るためには何かを捨てなくてはいけないのが世の常だが、我々は貪欲だ。賞賛の声の元で勝利を手にし、報酬も手にする! 私が失くしたものを、再び取り戻すために!」
ダハーロが再びメガ・ビーム・ライフルを構える。解放バレル型の銃身に徐々にエネルギーが蓄積されていく。
「撃たせるか! チェーンスライサァァァー!!」
腕を大きく振るい、手にした蛇腹剣の刀身が飛び出る。この刀身をライフルの銃身に巻き付け、射撃を阻止することがヴィシャスの目的だった。
「ワイヤーで繋がれた剣というのは面白い発想だが、こちらにはプランダーがある!」
ダハーロが再び左掌を正面に向けると、波紋状の光波が広がり半透明のシールドを形づくる。
「先ほどのように接近さえさせなければ、破ることはできまい!」
『ハゼガーのダハーロが再びプランダーを展開! ヴィシャス選手、この光波の盾を再び破ることはできるのかーっ!?』
その問いはおのずと結果が出た。切っ先がプランダーに接触すると、案の定ビームバリアがチェーンスライサーの先端部を弾く……かと思われた。
しかし実際はビームバリアを貫通し、ワイヤー部がメガ・ビーム・ライフルに巻き付いた。
『通ったーーー!? ダハーロの絶対無敵の守護領域、プランダーを2度も破ったーっ!』
「なんだとぉ……!?」
バリアを貫通したチェーンスライサーはメガ・ビーム・ライフルの砲身に巻き付く。すぐさま発射しようとハゼガーはトリガーを引くが、向きをずらされた砲身は見当違いの方向を向き、放たれた高出力のビームは明後日の方向へと放たれる。その直後、レヴィーヤがチェーンスライサーを引き寄せると巻き付いたメガ・ビーム・ライフルはダハーロの手を離れ、彼方へと投げ飛ばされた。
メイン武装を失ったダハーロは、刀身が手元に戻るレヴィーヤと対峙し合う他なかった。
「まさか、私のプランダーが2度も破られるとは……」
「レギンレイズジュリアのジュリアンソードをベースに、幾度に渡るヒケ処理と表面処理。塗料は三度吹き付け。更にコンパウンドで極限まで磨き上げたからな。その分、ビーム耐性と切れ味は増したと自負しているつもりだ」
それを聞き、ハゼガーは思わず言葉を詰まらせた。先ほどとは違い、今度は驚嘆と感心のためだ。今までこのプランダーを破り、自分に満足なダメージを与えた者はいない。それは彼がこのダハーロというガンプラを丁寧に作り上げたことに対する証左だった。故に、このバリアを破れる者は自分以上にガンプラを作り込んだ者……。即ち、自分以上に強い想いや信念を込めてガンプラを作り上げた者だけだということだ
その考えに至った時、ハゼガーは己の胸中で悟った。
この勝負の行く末は決した、と。
「ならば……あとは!」
ダハーロの両腕が、左右のバインダー裏に伸びる。そこにマウントされているビームジャベリンを両手で構えると、バインダーを翻し、左右に広げて地面をホバー移動しながら迫ってくる。
砂煙をあげながら迫ってくるダハーロを前に、ヴィシャスは呼吸を整える。ハゼガーは戦闘スタイルを接近戦に切り替えたようだ。この距離でチェーンスライサーを放ってもジャベリンで切り払われてしまうだろう。ならばと、チェーンスライサーをシールド内に収め、脹脛にマウントされているビーム刀を手に取る。両手に構えたビーム刀を正面でクロスさせ、目を閉じ、呼吸を整える。何故かはわからないが、こうやって目を閉じると相手の気配を感じ取り、攻撃するタイミングが掴めるような気がした。
両者共に、己の剣を相手に振り下ろすことへの迷いはもう無かった。純粋に、ガンプラファイター同士の戦いとして、このバトルを互いに噛み締めていた。
そして……。
「とったぞッ!!」
確信の言葉と共にビームジャベリンが両サイドから振るわれる。刃が触れるまではまだ距離があるが、先端部より放出されたビームワイヤーがレヴィーヤを捕縛せんと迫る。
「ッ!」
黄緑色の帯が迫るのを瞼の奥で感じ取り、ハッと見開くとビームカタナを左右に振るう。淡紅色の一閃と共に、切っ先が黄緑の帯を弾く。更に間髪入れずに
「その手の武器の対策は心得ているつもりだ」
「だろうね!」
ビームジャベリンの先端部からワイヤーが切り離され、軽量化され取り回しのしやすくなったジャベリンの刃が、唸りを上げて風を引き裂き、鋏のようにクロスしてレヴィーヤに迫る。
「舐めるなァッ!!」
両手のビーム刀を束ねることで、巨大なビームサーベルへと変貌する。大きく振りかざし、真下へと振り下ろす。束ねることにより出力が2倍になったビーム刀は、刃をクロスさせたビームジャベリンと鍔迫り合い、互いにビームが削れ、紅いスパークが巻き起こる。斥力する両者だが、ビームの出力はレヴィーヤの方が上であり、パワーゲインの差に任せてじりじりと押し返している。
だが、僅かに押し返したという事実がヴィシャスの心に余裕を生んだ。故に、眼前のことばかりに気を取られ、視線の少し先で起きたことを把握できずにいた。
ダハーロのクロス状になっているバックパックが駆動音と共に稼働しはじめ、細長いアームを四方向に伸ばすと、穴の開いたアーム先端部をレヴィーヤに向ける。
ダハック特有の装備、アームドアーム。4本のフレキシブルアームの先端にビーム砲兼ビームサーベルを有しているため、射撃と格闘戦が両立できる兵装だ。
「ッ……!?」
「私の機体がダハックをベースにしているということを、忘れたわけではあるまい!」
次の瞬間、アームの先端部より放出される赤いビームの閃光。それが各アームより合計4本放出される。互いの武器が組み合ったこの状態ではダハーロのビームサーベルに機体が貫かれることは容易い。
「ンなろォ!!」
一声吠えると、レヴィーヤの爪先が可動。先端部よりハイパービームソードを展開。足を引き、前方に突き出すと同時に脚部バーニアを放出し、勢いをつけて前方に横薙ぎに振るう。
「ぬうっ……!」
あと一歩というところまでダハーロのサーベルが届く距離だったが、レヴィーヤのハイパービームソードの方が威力も高く、先に剣先が到達し貫くのは明らかだった。刹那の合間にハゼガーはそれを判断し。レヴィーヤとの組み合いを解き、後方に下がりつつ飛び上がり、高度をとる。
直後、空を割くハイパービームソードの紅の軌跡。
口惜しさに奥歯を噛みしめながらヴィシャスは目前のダハーロを見据える。すると、ダハーロはサーベルを終息させると、アームドアームのビーム砲口をレヴィーヤに向け、放つ。
断続的な甲高いビームの発射音が響く。テキサスコロニー内を吹き巻く砂嵐の只中を、風穴を開けながらレヴィーヤに降り注いでいく。
その攻撃を、レヴィーヤは両腕を頭部の前でクロスさせ防ぐ。だが、ビームとしての威力はさほどではなくとも、作り込まれたアームドアームの攻撃は確実にレヴィーヤの外装を削ぎ、同時にヴィシャスの身にも苦痛を刻んでいく。
「まだだぁ! ファイヤビーミサァイル!!」
この瞬間を見計らっていたかのように、まるで戒めを解くかのように勢いよく両腕のクロスを解くと、両肘を引き、しかと地面を踏みしめ、機体両肩部に備えられたブースターに備わっているハッチが開く。顔を覗かせるのは赤いミサイルの弾頭。それが左右合わせて28発。ヴィシャスがトリガーを引くと、合計28発のミサイルは蜘蛛の子を散らすように一斉に放たれる。めいめいの軌道を描きながら、煙の尾を引きダハーロに迫っていく。
「むぅっ……!」
やむを得ず視線を上げ、迫りくるミサイルを捉えたハゼガー。アームドアームの射軸をミサイル群に合わせ、モニターに表示されているロックオンカーソルを合わせる。マルチロックオンで大多数のミサイルが補足された。直後、アームの先端より放出される数多のビーム。それらは補足したミサイルを撃ち落とすことができたが、直後にアラートが鳴り響く。ハゼガーは何事かと思い、モニターに表示されている警告文に目を通す。
「エネルギー切れだと……!?」
ビームの過剰使用により、残留エネルギーが残り僅かという内容だった。これにより、一定時間ビーム兵器を使用することはできなくなった。
先ほどからプランダーで攻撃を防いでいたものの、吸収するエネルギーよりも放出されるエネルギーの方が多かったためだ。ヴィシャスが物理攻撃の戦法に早めに切り替えたことが勝負の分かれ目となった。
エネルギーはしばらく時間をおけば回復するが、しかしミサイルは初弾のビーム斉射で数発を撃ち落とすことはできたが、まだ数十発が後続に控えている。
「まさか、この私が武器管制を怠るとは……」
フフッ、とハゼガーの口元から笑みが零れる。追い込まれている筈なのに、こんなにも気分を高揚させるバトルはいつぶりだろうか。自分の全力を込めて作り上げたガンプラを、この少年は超えてきた。互いに本気のバトルができて、ハゼガーは嬉しく思っていた。
残念なのは、これが痛みを伴うリアルバトルだということ。そして自分はまだしも、彼の方はこのバトルを楽しんでなどはいないだろう。
(こんな……こんな形で君と出会ってさえいなければ……!)
直後、目の前が暗転し、ミサイルの着弾。凄まじい破裂音と炎が巻き起こり、爆炎がダハーロを包み込む。しかしダハーロは寸前のところで両肩のバインダーの平面を正面に向け、シールドとして活用した。とはいえ、本来シールドとしての機能を有していないそれを盾代わりに使用すれば、結果は
「――――ッッッ!!!」
その瞬間、猛烈な苦痛が襲い掛かる。だが、ハゼガーはこれを歯を食いしばって痛みに耐える。しかし本体には十数発のミサイルをその身に受ける。持ち前の作り込みの高さから致命傷には至らなかったが、全身焼け焦げ、既に飛行能力も失い爆炎に押し出され地面へと落下していく。
「もらった!」
チャンスとばかりに、レヴィーヤが右腕を肘の奥に引き込むと、ガントレットを展開。さらにそこからビームクローを突出させると、機体背部のバーニア全開で飛び上がる。
「うおおぉぉぉおおおっ!!」
雄叫びを上げながら跳び、右肘部のバーニアを点火するとビームクローを突き出す。ダメージを負っているといっても、ダハーロは未だ戦闘可能な状態だというのは見て取れる。アームドアームとビームジャベリンの2重の近接戦闘用兵装は充分脅威ではあるが、この機を逃せば反撃のチャンスはもう無いだろうと、ヴィシャスは考えていた。ダハーロの両掌も未だ健在である様子から、おそらくこの攻撃は防がれてしまうだろう。
しかし、ダハーロがダメージを負ったこの状態で間髪入れずに左ガントレットをスタンショットナックルモードにし、電光の一撃を再び叩き込めば機体は機能停止に追い込めるかもしれない、そう算段をつけていた。
「フフッ」
不意に、小さな吐息が聞こえた。
笑みを零した際に出るそれだとわかったのは、ヴィシャスがビームクローを突き出し、その先端部がダハーロまでもうあと数メートルと迫った時だった。微笑んだ相手は、間違いなくハゼガーだ。
その笑みの意味を理解するのに、ヴィシャスは闘争心に掻き立てられた脳を冷静に引き戻す必要があった。そしてそれは、一瞬だが、ひどく時間がかかったように感じた。
なぜ、今あの人は笑った?
なぜ、この距離に迫ってもビームバリアを張らない?
ものの数秒後にその答えは出た。
ハゼガーは、
「ど、どうして……!?」
突然のことにヴィシャスは動揺する。高揚した気分が覚めていき、今目の前で起きている現実を徐々に理解していく。
「ぐっ、クッ……がはっ……!」
接触回線を通じて相手側のGポッド内の様子が映し出される。絶え間なく電光が迸り、想像以上の苦痛に苛まれているであろうに、その口から呻き声のように絶叫を噛みしめた苦痛に堪える声が漏れる。
ヴィシャスは慌ててビームクローを引き抜き、収束させると、ダハーロの両肩を掴む。胸部が黒く焼き焦げ、小さくスパークを漏らすダハーロからは、全くと言っていいほどに駆動の気配がしない。頭部は力なく項垂れ、両手からは握られていたビームジャベリンが零れ落ちる。
「オッサン!? 聞こえるか、オッサン!」
ダハーロを抱きかかえたまま、地面に降り立ったレヴィーヤは片膝をつきながら、機体を小さく揺さぶりながらその頭部をのぞき込む。すると、僅かに反応があった。ダハーロの頭部が僅かに動き、消えてしまいそうに薄く輝く水色の双眸がレヴィーヤの目線に合わさる。それと同時に、少し落ち着きを取り戻したハゼガーの声がノイズ交じりに聞こえた。
「うっ……ぐっ……び、ヴィシャス、くん……」
しかしその声は弱々しく、今にも途切れてしまいそうなほどか細いものだった。
「どうしてプランダーを使わなかった!? 俺の攻撃はそれで防げただろうに! アンタ、まさか最初から……!?」
「フフッ……き、君とのバトルに夢中になりすぎてしまって……つい、使うのを忘れてしまっていたよ……」
嘘だ。この人ほどガンプラとガンプラバトルを愛するビルドファイターが、己の使用するガンプラの特性を
「こんなところで負けていいのか!? 娘さんともう一度一緒に暮らすんじゃなかったのか!?」
「か、勘違いするなヴィシャス君……。私を退けたその力は、確かに君の実力だ……。だが、私には……どうしてもできなかった。君を押しのけ、自分だけが掴み取った幸せに……一体どれほどの価値があるのだろうか……」
「だから自分は身を引くっていうのか!? そんなの…ただ逃げてるだけじゃないか!」
「あぁ……そうさ。私は所詮、ガンプラしか取り柄の無いダメ親父さ……。だから、そうやってずっと逃げてきた……家族からも、社会からも……もう何度目だろうな…………」
「いいのかよそれで!? やり直せよ! ガンプラが好きなだけの、どこの家庭にもいる普通のおっさんになればいいだろ!」
「そうなるには…………私は人を傷つけすぎた。元に戻ったんじゃ、虫が良すぎるだろう……」
「でも……!」
「いいかヴィシャス君、よく聞け」
弱々しい息遣いは消え去り、先ほどまで苦痛に悶えていたのが嘘のように、急にハゼガーの声色がクリアに聞こえた。
「戦いとは、常に非情だ。必ずどちらかは去らねばならない。だが勝者にも痛みが伴う。時には、親しい者と戦わねばならない時もあるだろう。それを覚悟の上で、もし君がこれからも修羅の道を進むというのなら……私で慣れておけ」
それはまるで、師が弟子に、或いは親が子に大切な教えを言い聞かせるかのような、厳しさの中に優しさが垣間見える声色だった。誰かの顔色を窺い、常に腰が低かった気弱な男の姿は、もうここにはない。
「うぐぅっ……!」
「……っ! オッサン!?」
突然、ハゼガーは胸を押さえて苦しみ始めた。強すぎる電気ショックが体に負担を与えたとでもいうのだろうか。顔をしかめ、玉のような汗が額から滴り落ちる。
「っ……うっ……ど、どうやら……今までの無理が祟ったらしい……自分でもわかっていた……これ以上電撃を受け続ければどうなるかって……ぐぅっ! がっ……あっ……!」
「ダメだ……! もう喋らないでくれ!」
首を振り懇願するヴィシャスだが、それでもハゼガーは苦しみに悶えながらも懸命に言葉を絞り出す。
「わ……私の名は……ハセガワ・ユウイチ……!」
「何を……?」
「き……君の名を……教えてくれ……!」
「…………キモト・ソウシだ」
マスクを外し、ソウシは自分の素顔をモニター越しにハゼガーに見せながら、自分の名を呟く。ソウシの名を聞いた途端、ハセガワは苦悶の表情を少しだけ緩ませ、笑みを浮かべる。
「キモト……ソウシ……。そうか……君は
「……! ハセガワさん!!」
より一層苦しむハセガワを前に、ソウシはようやく知り得たその名を呼ぶ。しかし、二人を隔てる壁は厚く、この遮られたGポッド内ではただ狼狽えることしかできなかった。
「わ、私の負けだ……ソウシ君、トドメを……」
「…………」
「敵に……情けをかけるのか?」
「アンタは敵なんかじゃない……アンタの攻撃はどれも真っ直ぐで、純粋にバトルを謳歌してるって感じだった。俺にはわかる。あれはただ金が欲しいだけの亡者が放つ攻撃じゃない。本物の、ガンプラファイターの一撃だ」
「ソウシ君……」
「残っているんだよ……ファイターとしての心が。もう一度ファイターとして立ち上がれよ。まだ遅くない」
「……しかし、私は……―っ!? 伏せろ! ソウシ君!」
「えっ……-!」
この時、ソウシは目の前で起きている出来事がまるでスローモーションのように感じられ、その光景の一つ一つを鮮明に記憶した。
突然叫んだハセガワ。
彼方より光が迫ってくるのを感じ取ったのは、その言葉の後だった。
それに対し、ダハーロが残る最後の力を振り絞ってレヴィーヤを押しのけ、その光の前に両手でプランダーを張り、立ち塞がる。
しかし、機体の損傷が激しく、また残されたエネルギーが極僅かだったこともあり、プランダーはものの数秒で破られ、直後、光がダハーロを呑み込む。
「ハセガワさん!!」
ソウシの叫びがGポッド内に木霊する最中、聞き取ることがやっとのノイズの嵐の中で、ハセガワの最後の言葉が聞こえた。
「ソウシ君……! 勝て……! ガンプラバトルは……―――!」
その言葉の続きは、全く聞き取ることができなくなってしまった。
なぜなら、元々深刻なダメージを負っていたダハーロは、この攻撃をその身に受けたがために、とうとう限界を迎え粉微塵に爆散してしまったのだから。
それっきり、ハセガワの声は聞こえなくなった。
だが、最後の最後でハセガワは叫び声一つ上げずに、散った。
その現実が、逆にソウシの目の前で起こった出来事に現実味を感じさせずにいた。
放たれた光が止むと同時に、焼き焦げた青いガンプラのパーツが周囲に散らばっていった。
「オイ……オッサン? ハセガワさん? 俺になんて言おうとしたんだ……? 教えてくれよ……最後の方が……聞き取れなくて…………」
自分で言いつつ、ようやく目の前で起こった現実を受け入れ始めた。ハセガワはたった今、元々ボロボロだったその身で、身を焦がすほどの激痛だった筈なのに、最後は叫び声一つ上げず、そして散った。他ならぬ、ソウシを守るために我が身を盾として……。
「ゲハハハハハァ!! 小僧、上手く盾にしたなぁ!」
フィールド内に轟く下品な笑い声。その声は、光が放たれた方から響き渡ってくる。おそらくあの声の主はルークランクの“ブットバス”。バーで会った時は会話をしなかったが、対戦相手の順序からしてそうだろうと推測するのは容易い。
だが、今のソウシにとってそんなことは細事だった。呼吸を荒げつつ、固く握りしめた拳をゆっくりと開きつつ、手をわなわなと震わせる。
「……まだあの人との決着はついてはいなかった……なのに……割って入って来ただと……?」
そう、このバトルは1対複数という戦局が主となっているが、その実は変則的なバトルロイヤルルールだ。同陣営の者に攻撃すれば、当然それはダメージ判定となる。奴は、
ハセガワごと、ソウシを葬らんとするために。
「…………お前、そんなに俺と戦いたいのか?」
ゆらり、と機体を立て直すと尚も震える手でマスクを深めに被ると、ソウシは再び“ヴィシャス”となる。そうして砂嵐の奥に立ち
「なら、望みどおりにしてやる……!」
次の瞬間、レヴィーヤの脚部クローラーがその場で空転するほどの出力でその巨大なシルエット目掛けて突っ込んで行った。