Fate/トワイライトデイズ 白禍深獄 ヘクトヘル   作:どるき

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vsライダー&バーサーカー

 黄昏の間。

 そこに放置された上半身だけの死体が一つ。

 この地で行われた戦いにて両断された式神つかい、ホローラビットこと茫の残骸である。

 本来なら朽ちるまで誰にも触れられることのないハズだったが、そんな彼にも人理焼却の余波が伸びていた。

 

「───動きたいか?」

「そうだね」

「───遊びたいか?」

「ああ、もっと遊びたい」

「僕も同じさ。でも僕には遊ぶための世界がない、キミには遊ぶための体がない。取引しようじゃないか」

「取引?」

「僕にはこの世に未練なんてない、あるのは目的地にたどり着けなかったという未練。生きる屍の僕とは逆に、キミは僕が目指したそこにたどり着きながら命を落とした。

 だからこうしよう。僕の命をキミに託すから、キミの遊びを僕にも楽しませてくれ」

「いいね。でも、キミは誰だ? 僕を利用したいだけならお断りだよ」

「心配しなくていい。僕はキミだ。ただし、別の世界の僕だけれど。性別も違うからたぶんキミと同じ部分の方が少ないだろう。だが魂は同じ……その場所は僕達終月一族の到着点だ」

「ハッ!」

 

 人理焼却に合わせて繋がった平行世界。

 そこから飛来した霊魂が取り憑くことで茫は生き返った。

 正確に言えば別世界の自分自身と融合である。体が欠けていても生きてさえいれば虚魂を取り込めば問題はない。

 

「さあ行こう。白禍深獄……根源の渦へ」

 

 虚魂で欠けた体を補った茫は空間の歪みに飛び込んでいった。

 それから一ヶ月。それが今現在である。

 茫が進んだ先がカルデアが観測した特異点へと変質し、茫を殺した人物である恭介がカルデアに来訪した。

 目を覚ました恭介に食事と情報を与えたカルデアは穏便に恭介の協力を得られた。彼等からすれば知ったことではないとは言え、平行世界の美好真子とはただならぬ関係であるため恭介は彼らが思っている以上にカルデアを信用していた。

 

「フムフム、その羅刹の力のおかげでキミ達はあの空間を移動できた訳か」

「たぶんな」

 

 ダヴィンチは早速ハクの性格を理解したようで、彼をおだてて天孤千年の知識を聞き出す。

 一方で恭介は真子に部屋に呼び出されていた。

 

「ねえ恭介くん。キミの世界でのわたしってどんな人だった?」

「それは……そんなに変わらないかな……」

 

 カルデアの制服に身を包み体を前に出す真子に恭介は赤面していた。

 厳密にはあの真子とは別人ではあるが目の前の彼女は真子である。普段と違う格好に興奮せざるをえない。

 それに彼女が傍らに連れている眼鏡の女性もどこか恥ずかしい。雄としての本能が二人のいやらしさを感じ取っていた。

 言葉に詰まっていた恭介を助けるようにカルデア内に警報が走る。件の特異点に動きがあったからだ。

 

「やあ、真子ちゃん。来てもらって早速だけど、コレを見てもらいたい」

 

 司令室にやってきた真子にロマンがカルデアスの観測結果を見せる。

 

「新しい特異点ですね」

「そうだね。だけど今回は異様だ。なにせ時代が近すぎる」

 

 ダヴィンチの尽力で特異点の分析が終わり、年代が特定できたことはカルデアスタッフを驚かせた。

 なぜなら時間座標は二千十五年七月、人理焼却が始まった前後だからだ。

 指し示す場所は東京の地下で、その位置に恭介らは心当たりがあった。

 

「しかも地下空間。東京の地下にしては地下鉄や地下街が混じらずすっぽりと広い空間なのが不可思議だ」

「この空間、もしかしたら黄昏の間かもしれません」

「キミ達がやってきたという?」

「はい。僕達の世界では東京の地下に入り口がありました。ここに行くというのなら、僕達も連れて行ってもらえませんか?」

「もちろん真子ちゃんと一緒に行ってもらうよ。真子ちゃんだけを行かせた場合にキミ達が裏切ったら、それを止めるサーヴァントがいないからね。信用したと言っても、これくらいの警戒はさせてもらうよ」

「ドクターは心配しすぎよ」

「真子ちゃん……」

「頼むね恭介くん。それにサーヴァントのみんな」

「やれやれ、相変わらずのお人好しだな、キミは。だがそれでこそ人類最後のマスターだ」

 

 真子の決定にアーチャーは皮肉を良いながら同意し、ライダーとセイバーも無言で頷く。

 

「行きましょう、先輩」

 

 マシュが最後に閉めて、真子達はコフィンに身をゆだねた。

 対象を霊子変換し特異点に移動するある種のタイムマシン、それに身をゆだねて今回の異変に向かっていく。

 

 真子達が到着した場所は瓦礫にまみれた空間だった。

 どこか特異点Fを彷彿させる廃墟。

 

「皆さん。ここは黄昏の間です」

 

 この場所を恭介は知っていた。

 瞼を閉じれば思い出す程に印象深い決戦の地。

 ハクの予想通り、人理焼却という特殊な事象に巻き込まれた影響でカルデアがある世界は恭介の世界と繋がったのだろう。

 深獄という異界の一種との中間点であるが故に、そういう現象が発生するのも不思議じゃない。

 

「向こうに落ちている瓦礫は僕らの世界で門が開いた際に落ちてきたものです」

「間違いないのか?」

「ああ。それにここは東京の地下を指していたんだろう? 場所も一致しているぜ」

 

 恭介が言う先の戦いにて落下した瓦礫以外にこの世界には何もない。

 そんな場所がいくら特異とはいえ、元から特異でありながら特異点になるのは真子には不思議だった。

 

「先輩、とりあえず探索しましょう」

「賛成だ、マシュ。キミは真子と一緒に行動してくれ。あとは各自で散開だ」

 

 マシュとアーチャーの提案で各人がバラバラになって調査することになった。

 何もなさすぎる為、真子が探索する狭い範囲を中心にアーチャー、セイバー、ライダーの三騎は広がる。

 そして残る恭介は一人ある物を探した。

 

「───そろそろ集合してくれ」

 

 それから二時間ほどが経過し、カルデアからの通信を受けたサーヴァント達は真子の元に戻った。

 三騎とも浮かない顔をしている。

 

「ペガサスで広範囲を探索しましたが何もありませんね。人の気配すらも」

「俺も同意見だ。なにも発見できずすまない」

「右に同じく。だが───」

 

 三騎は目立った収穫は無かったが、一つだけ気付いたことがあった。

 それはこの空間の異様さである。

 まるで酸素が濃すぎるような感覚で力が溢れてくるが、調整を誤ればそのまま吐いてしまいそうな悪寒も混じっている。

 

「───事前の観測では判らなかったことで仕方がないが……そちらの観測ではどうなっている?」

「現代とは思えないくらいマナが濃いが、ローマと同程度と言ったところだ。それ以外は異常なしだね」

「そうか。だが私の感覚としてはこの世界の空気を吸うだけで魂食いのような効果を得ている気がするぞ。現に探索中は魔力の供給を断っていたが、単独行動スキルの恩恵があるにしても魔力の消耗が少なすぎる。むしろ増えたくらいだ」

「すまない、俺は気にしていなかった。確かに多少の不快感はあったが、慣れない環境のせいだとばかり」

「ちょっとまってね……確かにそうだね、アーチャー。キミの魔力容量がレイシフト前と比べてわずかだが増えている。誤差の範囲だが、魔力供給を断っていたというのならキミの推論通りだろうね」

 

 彼らは気付いていないが、この世界には深獄から飛来する虚魂の残滓が多く残っている。

 霊的存在である彼らを、精霊としての上位種であるサーヴァントらは知らぬうちに捕食していたのだ。

 それこそ息を吸うように。

 この体内循環は深獄と縁がある恭介の体にも影響するものであるが、当の恭介はそれを感じていなかった。

 その前に恭介は集合場所に現れていないため、会話にも混じっていない。

 

「それだと……もしはぐれサーヴァントと遭遇したら、その子もここの空気を吸ってパワーアップしていたりするのかしらね?」

「その心配はないと思うよ、真子ちゃん。あくまでこの程度では食事のようなものさ。アーチャーが特にパワーアップしていない様子から推測するに、それには濃度が足りない」

「そっか。ところで、恭介くんは?」

「嘉神恭介か。彼は戻ってくる気配がないな。探して来ようか?」

「いいよ。なんとなくだけれど、戻ってこないのなら何か手がかりを追っているんだと思うし」

「───だったらキミ達の暇をつぶしてあげようか!」

 

 真子たちの会話を遮るように誰かの声が響く。

 三騎はこの距離まで接近を許したミスを噛みしめて気を引き締める。

 飛来する矢を前に出たセイバーが身を盾にして防ぎ、その方角へアーチャーが弓を射て迎撃する。

 それと同時にライダーは渾身の怪力を発揮して矢のように跳ねた。

 

「んぐ!」

「大丈夫ですか、ジークフリートさん」

「この程度の攻撃などどうという事でもない。それよりもマシュ、しっかりマスターを護るんだ」

 

 マシュは盾、セイバーは聖剣を構えて謎の射手から真子を護る。

 アーチャーは眼に魔力を籠めて強化して遠くを見つめるが敵の姿を見つけられないでいた。

 

 敵はアサシンクラスのサーヴァントか?

 

 そのような疑問が真子たちの中で湧いてきていた。

 カルデアとの通信が保たれた状態での奇襲ということは、当然ながらカルデアの観測システムでさえ捕えられない相手となる。

 しかも射たれた矢は魔力で編まれたサーヴァントの礼装に相違ない。

 ともすれば相手は気配遮断のクラススキルを持つアサシンだというのが彼らの推論である。

 気配遮断スキルによるものというのは半分正解だが間違いである。

 その間違いこそが敵の罠、そして必殺の戦法であろう。

 

「みんなすまない。敵の姿はこちらからは観測できない。攻撃の瞬間も含めて『まるで反応がない』んだ」

「マスターの警護は俺とマシュの二人がかりならそうやすやすと突破できまい。アーチャー、ライダー、今のうちに頼む」

「任せておけ!」

 

 アーチャーは大見栄こそ切るが敵の矢に対しての迎撃しかできていなかった。

 いくら打ち返しても手ごたえはない。

 それはライダーも同様で、まるで英雄王の宝具のように矢のみを異空間から射出しているようにしか思えないでいた。

 どうするべきかという小康状態のまま時間だけが過ぎていく。

 

「セイバー、宝具の準備をして!」

 

 このままではじり貧だと真子は宝具の用意をセイバーに頼んだ。

 聖剣の柄にある真エーテルを開放して放つ必殺の一撃ならば、その余波で相手の姿を引きずり出せるのではないかという推測である。

 

「(いいのか?)」

 

 表向きは了承するセイバーも真子の判断には迷う。

 このままやたらに放っても無駄うちになるのではないかと。

 それにこれだけ姿をとらえきれない相手である。盾が緩んだ絶好の機会を逃すのかという点もセイバーには疑問だった。

 

「大丈夫、無駄にはしないから。半分程度の力で放って」

 

 真子は不意にセイバーの背中に寄り添って、そう彼に伝えた。

 無駄にはしないというのならマスターにも考えがあるのだろう。

 そう受け取たセイバーは己が悩みを振り払い、虚空に向けて宝具を放つ。

 

「幻想大剣・天魔失墜!」

 

 セイバーが開放した宝具によって奔流が発生して空間がゆがむ。

 放った先に標的がいれば魔力の雪崩がそれを打ち砕いたであろう。

 その奔流を水を潜る様に進む一隻の船。

 それは真子を狙い、必殺の槍を構えていた。

 

「アーチャー!」

 

 しびれを切らし、闇雲に宝具を放てばその隙を突いてくる。

 真子はセイバーが危惧した通りの予想を自分を囮にすることに使い、そして令呪に念じた。

 

「ローアイアス!」

「なにぃ! 読まれただと?」

 

 令呪を使った宝具の強制で真子を護る様に投影の盾を作らせたのだ。

 敵は直接攻撃を狙っていたためこれまでと違いその姿は隠匿されていない。

 最大の好機を逃した敵に待っているのはピンチである。

 

「見つけたぞ、バルムンク!」

 

 セイバーも先ほどの宝具は全開ではないため、まだ聖剣には貯めた力は残っている。それらを籠めた二発目の太刀は敵の船を二つに切り裂く。

 ばらばらになった船体から飛び出したのは二人の男。

 一人は髭面、もう一人は眼を血走らせた男である。

 

「大人しくしてもらいましょうか」

 

 上空からライダーが鎖を投擲し、敵の二人を縛り上げた。

 その状態からライダーは尋問を開始する。

 

「さて、アナタ達がサーヴァントなのは判りますが、何者ですか? なぜ真子を狙うのです」

「当然だろう。キミ達のマスターなのだから」

 

 髭面のサーヴァントが語る理由を真子は飲み込めない。だがこれが聖杯戦争であればと考えれば三騎にはすぐにその理由が察することが出来た。

 

「マスター狙い……なら真の狙いは我々か。だが人っ子一人いないこんな世界で聖杯戦争の真似事など何の意味がある?」

「そこのマスターも魔術師ならわかるだろう? 根源を目指すためさ。我ら二人は言うなれば手駒に過ぎん。だが召喚された義理でアイツに付き合っているわけだ」

「ではそのマスターとやらを呼んでもらおうか?」

「勝った気でいるようだがまだ我らの負けでは無いぞ。やれ、バーサーカー!」

 

 目が血走ったサーヴァントを髭面のサーヴァントはバーサーカーと呼んだ。

 その声に反応したバーサーカーは体躯に魔力を巡らせて筋肉を膨れあがらせる。

 ミシミシと音を立てながらライダーの鎖を引き伸ばし、そして膂力で拘束を振りほどく。

 

「■■■■■-!」

 

 バーサーカーは雄叫びを上げるとそのまま真子に向かって突進した。

 

「■つ! ま■!」

 

 かすれて聞き取れないがバーサーカーは誰かの名を呼んでいる。

 その声を聞く間もないまま真子はライダーに抱えられて上空に逃れる。

 マシュはバーサーカーの突進を受け止めるのに手一杯で、横からセイバーが一閃を放っても怯む様子は無い。

 

「無駄だ! 若い女を一度見初めたらソイツは死ぬまで止まらん」

「無駄口を叩くこの口の方が無駄ではないかな?」

 

 高笑いをする髭面の咽をアーチャーは双剣で狙うが、髭面も腰の剣を抜いて防いだ。

 

「我の高説を遮るとは無礼だな。キサマ、名を名乗れ!」

「この場で名乗る名などない!」

 

 アーチャーは名を名乗れと言いながら振りかざす髭面の剣を双剣で払った。

 単純な白兵戦での二人の戦闘能力は五分、強いて言うならアーチャーは押されている。

 だがこのアーチャー───エミヤシロウの真骨頂は単純な白兵戦ではない。

 一度見た武器を解析し投影する大魔術、それによる様々な宝具を用いた応用力こそがそれである。

 髭面の使う剣も宝具の域には無い。

 

「───心技 泰山ニ至リ 心技 黄河ヲ渡ル」

 

 魔術詠唱をしながらアーチャーは髭面に接近すると、干将莫耶を投げつけた。

 当たれば致命の投擲剣が左右から髭面を襲うが彼も難なく弾き返す。

 その隙に接近したアーチャーは二対目の干将莫耶をその手に構え、魔力を籠めたオーバーエッジ状態で懐に飛び込んだ。

 

「───鶴翼三連!」

 

 アーチャー得意のコンビネーション攻撃が髭面の腹を切り裂く。

 

「……まだまだ!」

 

 だが髭面はこれでも倒れない。

 よく見ればオーバーエッジが切り裂いたモノも、投擲し引き寄せられた干将莫耶が突き刺したモノも髭面のサーヴァントではなかったのだ。

 髭面は懐に飛び込んだアーチャーの肩を剣で貫き、そのままアーチャーが下がったのを見て剣を手放す。

 

「念のために伏兵を貼っておいて正解だったか」

「く……」

 

 アーチャーは左肩の剣を抜くと髭面を睨んだ。

 この髭面のサーヴァント───李舜臣は十六世紀朝鮮における護国の英雄である。

 その代名詞の一つが十三隻造られたと言われる亀甲船であろう。

 陸では茂みに潜む移動要塞、水場では潜行すら可能な奇襲艇。

 その伝説が昇華したモノが彼が使う「十三隻亀船」である。

 気配遮断スキルに似た隠密性能は一度認識されるまで認識されない特性を持っている。最初の奇襲も舟から射た矢までは隠せないにしてもこの特性を使ったモノであった。

 セイバーが一隻、アーチャーが二隻破壊したので残るは十隻。このまま押すよりも一度引いて再度の奇襲をかけるべきと髭面は判断した。

 

「……フン!」

 

 髭面は上空の雲に飛び込むとそこに待機させた亀甲船に乗り込み逃げの一手を取る。

 だが彼はアーチャーとの戦いに集中していたため一つ大きな見落としをしてしまう。バーサーカーから逃れた真子がライダーと共に空中にいたことに。

 

「逃がさないわよ!」

 

 地上にいるアーチャーからは観測できなくても空中に待機していた真子達にはそうでもない。雲の合間で乗り込む姿を見ていた二人には亀甲船の気配遮断能力は発揮されない。

 

「ペルレフォーン!」

 

 そのままライダーはペガサスに全開を出せせて亀甲船に突撃した。

 

「小癪な」

 

 だが相手も将のサーヴァント。常に相手の手を警戒した策は講じている。

 待機させていた三隻の亀甲船を起動させて盾にしたのだ。

 この船は非搭乗状態では遠隔操作に制限があるが、隠密機能を解除することでそれは解除される。

 素早い軌道で整列した盾がペガサスの突進を相殺する。

 バコンバコンと船を破壊するが盾にした三隻で殺された威力では致命傷には遠い。そのまま雲に紛れて髭面が搭乗した船はまんまと隠れた。

 

「逃がした」

「申し訳ないです」

「気にすることはないよ」

 

 真子は肩を落とすライダーを慰める。そしてまだカンで狙いをつけられるうちにとセイバーへの指示を出した。

 

「───セイバー! あの方向を狙って」

「了解した。しかし……」

「ええい! 今です」

 

 真子の指示通りに動きたくてもセイバーはバーサーカーと組み合っていて満足に動けない。

 それを見てマシュは自分から盾を前に出して突貫し、セイバーが宝具を放つ隙を生んだ。

 

「撃ち落とせ! 幻想大剣・天魔失墜!」

 

 天に向けた聖剣の一撃は髭面が地の利としていた雲を吹き飛ばした。

 それでも髭面の姿はわからないが、これでもう雲に隠れて気配を消される不安はない。

 攻撃の瞬間には何かしら前兆があることはこれまでの交戦でわかっている。

 ライダーも奇襲を避けるように一か所にとどまらずに周回する。

 

「■■ー!」

 

 そんな中、髭面が連れてきたバーサーカーは暴れ続けていた。

 何がこの狂戦士を突き動かしているかなど真子もわからないが、この英霊はいくらセイバーがその身を切り断とうとしても蠢くことを止めない。

 戦闘続行スキルにしても常軌を逸したタフネス。その姿は間近で攻撃を受け止めるマシュにも痛々しい。

 

「(何故バーサーカーは戦い続けるのですか?)」

 

 マシュにも流石にこうとしか思えなかった。

 いくら狂戦士として召喚され、命令のままに暴れるにしても普通ならここまで戦い続けるなど難しい。

 なにせ骨も筋肉もこれ以上は動けないほどに傷ついているのだ。まだ現界を維持していることが疑問の状態である。

 空飛ぶ船を巧みに操る髭面でさえもこのバーサーカーはスイッチを入れて暴れさせているに過ぎない。髭面が姿を見せない以上はこの暴れ馬を陽動に使い続けていることは想像に安くとも、あまりにもこの英霊を自由にさせ過ぎているのだ。

 まるで自爆してそのまま倒れてほしいとも言わんばかりに髭面もバーサーカーを操ろうとしない。

 

「背中ががら空きだ!」

 

 髭面が隠れたことで迎撃のために弓を構えるアーチャーはバーサーカーの死角を見つけるとそこに矢を穿った。

 追尾効果を持つフルンディングの赤き魔弾がバーサーカーの背中を狙って胸を後ろから貫く。

 さすがの心臓は霊核にもダメージが入ったようでバーサーカーは膝から崩れ落ち、その勢いで天空を周回する真子の顔を見る。

 そのとき、バーサーカーはにこやかに笑顔を浮かべた。

 まるで答えを見つけたかのように。戦いは終着に近いと言わんばかりに。

 

「まつー!」

 

 そして真子目掛けてバーサーカーは飛翔した。

 バーサーカーの脚は激しい飛翔で足が砕け、魔力放出スキルなのだろうか、脚を構成する魔力を推進力に変えてバーサーカーは空を飛ぶ。ペガサスの周回軌道に割り込んだ飛翔体はペガサスに抱き付き、その動きを地に落とす。

 そのまま叩きつけられれば同乗する真子もひとたまりもないと、ライダーは彼女を抱えて横に飛び退く。ペガサスはこれでしばらく戦えなくなるだろうが、このままマスターを失う事と比べれば安い買い物である。

 そしてその動きを今かと待ち望んでいた相手もまた当然のように真子を狙う。

 宝具の約半数こそ失っていても髭面は諦めていない。

 あるものでやりくりするのは髭面にとって生前からの風景である。それと比べれば半数の船などまだ折り返しに過ぎない。

 

「(織田信忠、やってくれたか)」

 

 バーサーカーの作った好機に髭面は彼の真名を呟いていた。

 その正体は戦国の三英傑と呼ばれた日本の英雄、織田信長の嫡子である。

 バーサーカーとしての彼は父の威光が大きすぎたがゆえに過小評価される無辜を背負った姿である。

 そして松姫のために長篠の合戦で大立ち回りをしたと言われる恋愛物語が暴走して、まつに似た要素を若い女性に見つければそれに向かって直進し続ける存在として召喚されている。

 異様なタフネスも魔力放出のジェットもすべて松姫とみなした真子を抱かんとせんが為。

 抱くと言っても単なるハグで終わらないのは当然であり、仮に真子がバーサーカーに捕まれば待っているのは確実な死に他ならない。

 

「(今だ)」

 

 ライダーが真子を抱えて着地し、バーサーカーに抱き潰されてペガサスが消滅する。その瞬間を狙って髭面は突貫した。

 ライダーがそれに気付いた時にはもう遅い。あとは真子ごと刺されるだけ。今度こそと髭面は亀甲船の中でほくそ笑むが真子も並ではない。いかにカルデアからのバックアップがあるとはいえ英霊三人の宝具連発は枯渇に近い。だがあと一発は放てる。

 そのための魔力を託されたアーチャーは真子の期待に応えた。

 

「偽螺旋剣!」

 

 空間を穿つ贋作宝具の矢は亀甲船を粉砕し、中にいる髭面をはじき出した。

 腹には大穴を開けた髭面は青息吐息、もはや死に体といえよう。

 しかし青息吐息は真子とて同じ。カラドボルグに託した魔力でガス欠を起こし、これ以上の宝具はしばらく使えない。

 その点を言えば、自分が生き残る必要のない髭面とバーサーカーの方がこの場では優位であろう。

 

「まだだ……まだ負けではない。我らはこのまま朽ちるだろうが、ならば貴様らも道連れにする」

「■■■」

「くっ!」

 

 霊核へのダメージで魔力も足りず、もはや髭面は宝具もろくに使えない。

 そんな状態でも何も成せずに消えるのは名折れだと言わんばかりに、彼はその身を犠牲に立ち向かう。

 思考回路こそ異なるとはいえそれはバーサーカーも同様で、半死人の英霊二騎が青色吐息の真子を狙う。

 

「先輩!」

 

 二騎による特攻。

 魔力不足で動かなくなった亀甲船をバーサーカーを薪にして駆動させる文字通りの体当たり。

 船尾から炎が噴き上げて亀甲船はその炎で自らを焼き払う。

 この場で満足に動けるのはデミサーヴァントとして生身の自身が保有する魔力をまだ残しているマシュのみ。

 セイバーのジークフリート、アーチャーのエミヤ、ライダーのメドゥーサ……彼らは疲弊し、せいぜい出来るのはその身を盾にするくらいである。その程度では犬死でしかない。

 だが彼女ならば……マシュの中にいる英霊の魂が震える。

 

「ロード……カルデアス!」

 

 宝具である盾の真名を疑似開放したマシュはその身で真子を護る。

 肌が焼けそうな炎に対してマシュは気丈に振る舞う。気丈でなければこの盾は維持できない。

 

「■■ー!」

 

 二騎の叫びがこだまし、ついにマシュは真子を守り切った。

 骨すらも残らずに焼けた亀甲船は雲散霧消し、敵対サーヴァントの反応は消えた。

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