Fate/トワイライトデイズ 白禍深獄 ヘクトヘル 作:どるき
真子たちが敵サーヴァントと交戦している頃、恭介はあるモノを探していた。
「おかしいぜ。なんでアイツの死体が無い」
それはこの地での決戦にて命を落とした芒の死体である。この場所に異変が起きたと聞いて、彼らにとって真っ先に怪しいと考えつくのが芒の存在だったからだ。
確かに彼は死んだはずであるが、彼の死体以外に誰もいないはずの世界を狂わせることが出来るのは彼しかいない。荒唐無稽ながら恭介は今回の異変の原因を突いていた。
「まったく……気乗りがしない相手だ」
そんなことを呟きながら二人の前に一人の男が歩いてきた。腰には日本刀を挿していて口元には紙巻き煙草、ヤニの香りを纏った狼のような男である。
「誰だ?」
「セイバーのサーヴァントとだけ名乗らせてもらおう。見たところサーヴァントでは無いが、キサマがカルデアのマスターか?」
「違います。ですが、真子さんに手を出すというのなら相手になります」
「(好都合か)死なない程度に相手をしてやる、かかってこい」
「いきます!」
咥え煙草のセイバーは平突きの構えを取る。
恭介は全身の気を発揮させるとそれに向かって飛び込んだ。バックルから紙コダマの依り代をパラパラとまいて、迎撃の突きをコダマを使って受け止める。
セイバーも負けじと横なぎに転じてコダマを切り裂くが、恭介はそのままコダマを陰にしてセイバーの脇腹まで近づく。
「ぐ!」
憑力を籠めた恭介の拳はエーテル体のセイバーにもダメージを与えた。だがこの程度で死ぬようなら英霊の名折れとばかりに振り向いたセイバーは転身して逆袈裟で恭介の脇腹をえぐる。
寸前で恭介はよけるが切っ先はかすめており、裂かれた表皮からは血がにじんで服を染めた。
「コイツ、この前のアイツより強いぜ」
「今のは……そうか、お前が……」
「(何を言ってやがる?)今のうちだ、キョースケ!」
何かに気づいてセイバーが見せた隙を突いて二人は一つになった。
前回のアーチャー戦とは異なるもう一つの式神憑依、自我までは融合しない言わば半憑依とも言うべき姿に。
この姿の利点は二人の人格が融合しないことに他ならない。羅刹の力や身体能力では劣るとはいえ純粋な術者としてはこの姿の方が上位となる。
「狐が武器になるか。変わった獲物だな」
「こっちで行くってことは何か考えがあるんだろう? 任せるぜ、恭介」
恭介は無言のまま頷くと、足元に展開したコダマを動かしてそれに乗った。スケートボードの滑走のように滑るように上昇し、そして頭上からセイバーを狙う。
目に見えた攻撃ではあるが頭上からの攻撃というのは反応が難しい。これで決められるとまでは恭介も思っていないが、初弾としては上々であろう。
「阿呆が!」
「くっ!」
だがセイバーは恭介の予想を上回った。避けるでも飛びつくでもない予想外の行動をとる。刀を真上に構えたセイバーはそのまま己を矢に変えて飛翔したのだ。
思わず恭介はコダマから飛び降りるが、セイバーの突きは巨大コダマを貫いて灰燼に帰す。その威力に恭介は額に汗を浮かべた。
「ハク、あれは危険だ」
「気にしすぎだぜ恭介。あんな突きで俺様に風穴を空けるなんて出来やしない、その前に食い破れるぜ」
「そういう意味じゃない」
「───阿呆かと思ったがなかなかカンがいいな、小僧」
コダマを突き破って着地したセイバーは再び平突きの構えで恭介を褒めた。
「俺の平突きに貫けぬモノはない!」
「そうか、宝具ってやつか」
「うん」
セイバーの見栄にようやく白天丸も恭介の意図に気づく。あの突きはあらゆるモノを貫く牙であると。
このセイバーの突きは生前からなのか、それとも逸話を昇華したモノなのか。どちらにせよあらゆる障害を貫く牙である。
例えその身を白天丸に食いちぎられようとも恭介の急所だけは貫いてしまうだろう。
「!!!」
鬼気迫る顔でセイバーは突進した。
右手を引き左手を前に突き出した前傾姿勢。英霊の脚力で加速する胴体は瞬く間に速さを纏い、一本の矢と化す。
コダマを使って避ける間もないそれに対して恭介は紙一重で肩口狙う切っ先を逸らす。そして巨大過ぎて間合いの内にある白天丸を振り回すとセイバーの腹に叩きつけた。
首筋を断とうとする横なぎをセイバーを弾くことで躱した恭介の額は脂ぎる。今のは死んでもおかしくなかったと。だがこの機会を逃すかと恭介は自分から踏み込み、そして白天丸の力を開放する。大口を開けた白天丸が大砲のようにセイバーを襲って怯んだ隙を逃さずに丸呑みにしたのだ。
両肩を白天丸の牙がえぐるがむしろ口の中に入られたことで威力は不十分になってしまう。白天丸の咽から霊力の咆哮がほとばしるよりも先に傷だらけのままセイバーは再び立ち上がったのだから。
「(しくじった!)」
「(もらった!)」
手傷こそ負いながらだがまんまと自分の距離をつかんだセイバーは恭介の胸に刀を突き刺した。
「あがっ」
突きを受けた恭介は嗚咽をあげ、そのまま刀ごと地面に叩きつけられた。遠目には胸に突き刺さっているとしか思えない刀をそのままにセイバーは煙草に火をつけて立ち去る。
「さて、カルデアのマスターとやらはしっかり働くかな」
意味ありげな言葉をセイバーは呟き、それを紫煙に混ぜて飲み干した。
恭介が倒れ、真子たちと交戦したライダーらが消滅してから一時間弱。茫の目の前にはあのセイバーがいた。
彼は髭面のライダーやバーサーカーと同じく茫が召還した英霊である。不本意でも令呪によって縛られており茫の命令にはある程度しか逆らえない。
「ライダーとバーサーカーはどうした? マスター」
「彼らならここさ」
茫は自分の胸を親指で指した。
今の彼の体は冬木の小聖杯にも似た英霊の魂をくべる釜の役割を持っている。そのことをセイバーも知っており、このゼスチャーはライダーらが敗北し消滅したことを示す。
「二人がかりで返り討ちとは情けない話だ」
「そういうキミこそ自慢の刀を失って丸腰なんて無様だよ。そんな体たらくであの二人のことを悪くは言えないんじゃないかな」
「そう言うな。俺が戦ったのはキサマと同じ式神つかい……多分だが、キサマを殺したとか言う小僧だぞ」
「彼か」
セイバーの進言に茫も恭介のことを頭に浮かべる。だが一度死んだせいなのだろう、もやもやと霞がかかって茫は恭介の顔を思い出せない。
これが万全の茫であるならば今やろうとしていることを投げ打ってでも恭介を倒すことに固執したであろう。しかし、別世界の自分と融合した茫は恭介への興味を失っていた。
既に茫は彼とは呼べない存在となっていたことは、当人たちが最も理解している。
「キミが始末したというのならもう妨げにはならないだろう。キミは失った刀の穴埋めを最優先にしてくれ、他の二人の代わりにキミにはもっと働いて貰わなきゃいけないし」
「キサマに心配されるいわれはないさ、マスター。刀など元より消耗品、愛刀の代わりなどいくらでもある」
「ハッ! 頼もしい限りだ」
そう言うとセイバーは隠していた英霊としての武器の一つを実体化させて、恭介との戦いで失った刀の鞘に納刀した。