Fate/トワイライトデイズ 白禍深獄 ヘクトヘル 作:どるき
サーヴァント二騎を退けて休息を取る真子たちの耳にロマニから連絡が入る。曰く、別行動中の恭介と連絡がつかないという。
彼が持っていたゴーストという霊子デバイスはカルデアのシステムと接続されているのだが、流石に連絡の無い彼を不審がってロマニがコールを入れても無視されていた。
座標は存在証明のため追跡済みであり、すぐにそこ向かった真子の前にいたのは胸に刀が刺さった恭介だった。
バイタルデータを把握しているロマニが死んだといわない以上は生きているのだろうが傍目には刺殺体にしか見えない。真子が驚いて声を上げるのも当然であろう。
「恭介くん!」
駆け寄って刀を引き抜いた真子は魔力を隆起させて礼装にセットされた治癒魔術を起動する。見た目よりも傷口は浅く、むしろ過剰な治癒と膝枕する真子の豊満な胸が顔にかかって恭介の体がむくむくと反応していたのだが、それに気づいたアーチャーは野暮だと何も指摘しない。
「ま、真子さん?」
「よかった」
不覚にも敗北した恭介は真子に抱かれて状況に困惑していた。一方で白天丸は敗因が自分にあると感じてなにも言わず黙る。もし自分がセイバーを仕留めきれていればこのような敗北などなかっただろうにと。
そんな白天丸にアーチャーは声をかけた。
「何があった?」
「敵と戦って負けただけだ」
「それくらいは見ればわかる。具体的にどんな敵と戦って、なぜ負けたのか。それになぜ無事だったのかを聞いている」
「恭介に聞いてくれ。すべては俺の不注意だ」
「ハーッ! そういう話ではないのだがな」
アーチャーが聞きたかったのは式神である白天丸から見た敵の情報だったのだが、自分を責める白天丸にはその意図は伝わらなかった。
白天丸がいう恭介からの情報は既に真子が質問しているのでわざわざアーチャーが聞く必要もない。聞きたかったのは人外の眼を通した話である。
「ではそうさせてもらおう。しかし、それにしても羅刹の力を持つ天狐というのも拍子抜けだな。それとも嘉神恭介という少年もしょせんは生身の人間、サーヴァントの相手には力不足ということか」
「恭介は悪くねえ、俺がヘマしただけだ!」
「ほう?」
「恭介の考え通りに俺の牙はアイツを切り裂いたんだ。だが飲み込んでからなんて考えずに一撃で噛み砕いて動きを止めるべきだった。アレは自分が死んででも相手の命を狙っていたんだ」
「なるほど……バーサーカーやライダーもそうだったが、やはりと言うべきか」
上手く白天丸の言葉を引き出したアーチャーはこれまでの敵の行動から一つの仮説を立てる。それはライダーとバーサーカー、それにセイバーの三騎を召喚したのは同じマスター。しかも相討ちになってでも敵を倒すように令呪で縛られているのではと。
その仮説は正解ではあるが彼らに確かめる手段はない。だがなまじアーチャーは通常の聖杯戦争、それも冬木のものを知っているがゆえに敵の真意に思考が届いた。
「ドクター、聞こえているか?」
『どうしたんだい、アーチャー』
「調べてもらいたいことがある。仮にこの世界で英霊の魂を集めて根源に至ろうとする人間がいる場合、ソイツが目的を達成したらこの世界はどうなる?」
『それは……調べようがないな。でもこれだけは直感できる。平行世界が交差するその世界で根源へ道を開けようとしたら、ろくな結果にはならないはずだ。ただでさえ現代日本とは思えない程に不安定な世界だ。修復不可能になった特異点が爆弾となって、他の特異点ごと人理定礎が不可能になる可能性は高い』
「ドクターもそう思うか」
『も?』
「私も同じ意見だ」
アーチャーの推測はこうである。
一つに黄昏の間というこの世界の特異性を利用して敵は英霊召喚を行ったのだろう。だが呼べた英霊は根源へと至るための、聖杯戦争の真似事には不足している。
それでも人理が不安定なグランドオーダーに合わせてこのような儀式を行った影響は大きく、カルデアも動かざるを得ない特異点へとこの世界を変えてしまった。
故に修復のためにやってくるカルデアの存在は好都合なのだろう。聖杯にくべる英霊の魂を数多く抱えてやってくるのだから。
一つ腑に落ちないことは仮定した敵の目的がカルデアの介入抜きには破綻していることだが、英霊の霊器を満たすこの世界の大気を使えばもしかしたら追加の召喚も可能なのかもしれない───と。
「これは刀ですね」
「そうだな」
真子とマシュが恭介の手当てをし、アーチャーが白天丸の話を聞いていた頃、残ったライダーとセイバーは周囲の様子を調べていた。
これといったモノは残されていなかったのだが、一つ気になるものと言えば敵セイバーが残していったという一振りの刀だった。
この二人は異国の英雄と言うこともあり日本の刀剣には精通していない。だからこそなのだろう、二人は直感でこの刀に違和感を得ていた。
「ちょっといいですかね、アーチャー」
「どうした、ライダー?」
「この刀をアナタの魔術で調べてもらいたいのです」
「私に?」
「ええ、他でもないアナタに」
「…了解した」
ライダーの物言いに含みを感じつつも、アーチャーは詮索をせずにそれを受け入れた。
「解析開始」
アーチャーは頼まれた通りに解析の魔術を用いて刀を調べた。様々な聖剣魔剣の類を解析し、己が複製とするアーチャーにとってはお手のものな魔術行程。だがこの刀はライダーらが感じた通りに武器として異質だった。
「これは……」
刀を解析したアーチャーがおもむろに束を外すと、中子にはなにやら暗号が刻まれていた。
「壱参漆、陸玖、それに狼?」
「数字と狼か……いったいどういう意味だ?」
「単にふざけているとは思えんな。見たところこの刀は人を殺すためのモノではない。あの狐が言うように相討ち覚悟で使うハズがないんだ」
「どういう意味でしょう? たしかに私もセイバーもこの剣には違和感を感じていましたが」
「簡単な話だ。この刀は刃も切っ先も砥を潰している。見た目こそ精巧だが、いわゆる練習刀というやつに他ならない」
「練習刀?」
「型稽古に使用するいわゆるフェイクだな。それ自体は特別おかしなものではないが、嘉神少年を殺そうとしたサーヴァントが使う武器としてはチグハグだ。練習刀を愛用する英雄など聞いたこともないし、それに何より敵は嘉神少年を殺せていない」
アーチャーは刀の性質と敵の行動の差異を二人に説明すると、ここからはマスターらもふくめて語るべきだと一同を集める。
そして先程までライダーとセイバーに説明したことをもう一度真子らに伝えた後、その続きを語った。
「───ここからは私の推測だが……敵の目的は我々にこの刀を渡すことだったのではないだろうか?」
「つまりこの暗号を伝えたかったということですか」
「罠かもしれないがな。しかし、これ以外には手がかりはない」
「そうね……仮にアーチャーの推理が正しいとするのなら、この暗号は罠だとしても黒幕の居場所に繋がっている可能性は高いわ。ちょっと貸してみて」
「それは構わないが」
「久々に視てみる」
真子が急に言い出したことにアーチャーらは小首を傾げるが、恭介は静かに頷く。この世界の真子にとっては契約英霊も知らされていない失って久しい能力ではあるのだが、恭介と相棒として心を通じた別の真子はこの能力で何度も危機を乗り越えている。
理屈はわからないが彼女の能力はおそらく白禍深獄や黄昏の間と関係がある。白禍深獄の空気に触れて力を増した真子を知っているからこそ、恭介だけは視ることができると確信していた。
「すーはー」
中子を握りしめた真子は深く目をつぶって念じる。あの頃のように探し物が視えないものかと。
念じる真子は魔術回路を励起させ、気がつくと体を火照らせていた。そんな真子の脳裏に、気がつくともう一人の自分が現れた。
「落ち着いて……アナタはわたし。だったらアナタにも出来る。たぶん一時の出会いになるんだろうけれど、恭介くんをお願いね」
「視えた!」
もう一人の自分に何故か恭介のことを託された真子であったが、それに頷いて返答すると彼女のなかに眠っていた力が揺り動かされた。
真子にしか見えない光が天高く登り、彼女を誘う。
「みんな、こっちよ」
「もしかして、敵の位置がわかったんですか?」
「敵かどうかはわからないけれど、暗号が示している場所はね」
『もしかして以前言っていた『子供の頃に使えた力』かい? そっちの方角には大きなクレパスがあるようだ。アジトを作っている可能性はありそうだね』
真子たちは彼女の力に従って、光が示す大陥没へと向かうことにした。その場所が今回の終局点になろうとは、この時点では誰もしらないことである。