Fate/トワイライトデイズ 白禍深獄 ヘクトヘル   作:どるき

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vs茫

 大陥没の奥にて少女は一人彼らを待つ。

 黄昏の間にて聖杯戦争を開始した魔術師、茫ブランツェの目的はすぐそこまで来ていた。

 魔術師として生まれ育った彼女には根源は理想である。たとえ根源に至れば世界が終わると言われても、彼女にはもう止められない。

 根源に至ればたとえこの世が異問帯となろうとも高次に至った自分には毛ほどの影響もない。彼女はそれを万能の神になることと等しく捕らえていた。

 

「待っていたよ、マシュ」

 

 真子たちが到着したのを確認すると、茫は真っ先にマシュに呼び掛けた。茫の目からすればセイバーら使役サーヴァントの何騎かはマシュの担当であり、あげく盾の英雄との融合まで果たしていると見えている。まるで平行世界の自分と同化し喰らった茫自身にもどこか似ていて、彼女も故にマシュを警戒していた。

 

「あなたは……」

『生きていたんだね、ブランツェくん。あの爆発で死んだものだと思っていたが』

「その声はドクターロマンか。アナタの見立て通り、僕は一度死んでいますよ。この体はここにあった青年の体を使わせて貰っているにすぎませんから」

『戦う前に一つだけ確認したい。キミは聖杯戦争を中断して、こちらに付く気はないか?』

 

 元同僚のよしみがそこにあった。

 きっともう彼女はカルデアのために戦うことなどないとわかってはいても、ロマニは茫に問いかける。

 

「当然、ノーだ」

『了解したよ。いいか、真子ちゃん。彼女を倒すんだ』

 

 茫の拒否を聞いたロマニは真子に命令した。基本は真子の判断を優先しようとするロマニが「倒せ」とあえて指定したその重みに真子は固唾を飲む。

 

「私が援護する。セイバーとライダーはその隙に接近してくれ」

「頼んだぞ」

 

 簡単に陣形を打ち合わせた英霊三騎は真子が茫を指差すのに合わせて戦闘を開始する。

 アーチャーが弓を取り出し、矢継ぎ早に投影した剣を矢に変えて放つ。その弾幕を背にしながらセイバーとライダーは接近し、先に鎖の間合いに捉えたライダーは杭を投げる。

 

「その程度など」

 

 飛来する矢に対して茫は虚魂を盾にして受け止める。ライダーの杭もそれに突き刺さるが、ライダーはそれを利用して鎖を引き加速した。ピンボールが跳ねるように飛び上がるライダーは勢いそのままに踵を落とす。

 

「せいやぁ!」

「ぐっ!」

 

 両腕で茫はそれを受け止めるが、あまりの衝撃に口から何かが飛び出しかける。そしてそのまま地面に突き刺さり、追撃としてとびかかったセイバーの魔剣が突き立てられた。心臓に剣が刺さり口から血の泡を噴く。常識でいえば殺されているこの状況でも茫は顔色一つ変えることはない。

 地面に溶けるように茫の体は崩れ、その崩れ肉が消えたと思うと十メートルほど離れた位置から人影がせり出す。虚魂を使った肉体の分解と再構成、これでは切ったはったは千日手にしかならない。

 

「流石に一筋縄ではいかないようだな」

「そちらこそ息の合ったコンビネーションです。さぞ名の通った英霊なのでしょう。だが……」

 

 今度はこちらが攻撃の番だと言わんばかりに茫は駆け寄った。

 一足でライダーとの距離を詰めると手刀の一突きでライダーの可憐な腹部を突き刺す。

 サーヴァントのエーテルでできた体が相手でも今の身体能力は通用する実感を得て、茫の表情はさらに崩れていく。

 

「はあっ!」

「遅い!」

 

 ライダーは穴の空いた腹を押さえながら茫を蹴るが容易く受け止められてしまう。

 握力を込めた茫の手からミシミシと骨が軋む音が鳴る。

 

「ちょうどいい。キミを頂くかな」

「いけない」

 

 茫はライダーの足を握りながらにんまりと笑った。

 茫の右手はライダーの前足を完全に握りつぶし、そこから彼女たちは溶けて混ざっていく。

 補職されながらライダーはしまったと心のなかで呟いてしまう。仕組みはわからないが茫はサーヴァントの体を取り込むことができる、捕まったら最後の天敵だと。

 

「ライダーーーー!」

 

 このままではいけないと判断したセイバーは二人に駆け寄り、そして美脚を切り離した。鮮血が吹き出す様相だが、足を切断されたことで自由となったライダーは霊体化して戦線から離れる。

 これで真子のサーヴァントは残り三人。

 

「ジークフリートさん! 後退を」

「すまない、今は」

 

 ライダーはセイバーの援護により無事に後退できたが、セイバーが言うように彼はもう後には引けない。茫は虚魂を触手のように操りセイバーを狙う。捕まったら先程のライダーよろしく同化吸収を企むのは目に見えていて、そうなればこちらは敗北である。

 触手を相手にセイバーは手一杯になってしまった。

 

「マスター、指示を。メドゥーサさんは危ないところでしたが、デミサーヴァントのわたしならたぶんアレに耐性が……」

「ダメよ、マシュ」

「どうして?」

「わたしにもハッキリとは解らないけれど感じるのよ。アレはサーヴァントだとか生身の人間だとかは関係ない。アレに抗うのに必要なのは虚魂を制する力……すなわち彼」

「そう言われましても。このままではジークフリートさんが」

 

 ちらりと目線を向けたマシュの先でセイバーは触手に抗っている。

 無言で矢を射て続けるアーチャーの援護がなければとっくにからみとられていたであろうその姿をマシュが心配するのは当然であろう。

 

「セイバーならきっと大丈夫。だから今は持ち場を離れないで。みんなが頑張ってくれているのに、マシュと別行動した隙に、先にわたしがやられるわけにはいかないじゃない」

 

 真子はセイバーを信頼して彼に任せていた。

 

「ぐっ!」

「つかまえたよ」

 

 だがついにセイバーは陥落した。

 絡み付く触手が束ねられて一つの樹となりセイバーをそこに埋もれさせる。アーチャーの矢もこれを断てず、このままではセイバーの霊器は茫の手に落ちる。

 

「どうやらそろそろ仕上げか」

「ハッ! それは褒め言葉かい?」

「いいや、こちらの話だ」

 

 アーチャーは茫を挑発し、彼女が気をそらした隙に無限の剣で茫とセイバーを覆う。

 喉元に刃を当てられた茫だがそんなのお構いなしにセイバーに抱きつき大きな口を開く。

 今にも補食されそうな状態ながらセイバーは悪竜の血鎧の恩恵でそれに抗っている。だからこその茫の行動であり、これがあるからこそのセイバーの突撃であった。

 

「やれば?」

「だ、そうだぞ……嘉神くん」

「カガミ?」

 

 アーチャーの言葉に反応した茫は周囲を見渡した。

 言われてみれば彼の姿はどこにもない。終月茫ならいざ知らず、茫ブランツェは目の前のカルデアに目を奪われていたのだ。

 真子の作戦はセイバーとライダーを前に出して陽動し、その隙に恭介が相手の核を探ること。あと一歩でセイバーが補食されるところであったが間一髪。恭介は間に合っていた。

 

「まさか?!」

 

 アーチャーの合図に合わせてせりあがる地面に茫は驚く。いつの間にであろうか、地面には大型の紙コダマが仕込まれておりそれは大きな式神の姿に変わる。つかまえたはずのセイバーも内側から増殖する小さな紙コダマの束に押されて裂けて逃げ出す。

 やってくれたなと吠える間もなく、恭介の攻撃は続く。

 

「霊刀羅刹……九字神楽!」

 

 コダマの下から現れた恭介……正確にはシロは両手に霊刀羅刹を構え、勢いのまますれ違い様に茫の虚魂を刻む。早九字にそって切られた虚魂は再び結着することは叶わない。

 

「まさか……こんな簡単に……」

 

 茫が言うように呆気ない結末であろう。

 次元を断つ羅刹の刃は茫と虚魂の繋がりさえも切り刻んでいた。これがもし終月茫なら別の霊的パスで再度虚魂を収束し持ち直していたであろう。だが茫ブランツェは平行世界の同一体を吸収することでこれだけの式神つかいとしての力量を上乗せされたに過ぎず、本来の彼女にはサーヴァントと虚魂と融合してサーヴァント級の力を得ることなど出来るはずがなかった。

 しょせん彼女は魔術協会から派遣された英霊召喚のサポートメンバーでしかない。式神つかいとして終月のように血が薄まることなく、そんな力が最初からあったならばカルデアは彼女を珍重していたであろう。そしてマシュ同様Aチームに編成していたことは明確なのだから。

 

「参ったな」

 

 ぼとぼとと落下した肉片の一つから、上半身だけになった茫が現れた。恭介にとっては二度目の姿。あのときの死体が目の前にある。

 

「あと一歩だったのに」

「残念だったな」

 

 恭介も白天丸も根源については詳しくない。故に軽く残念だったとシロは言葉を投げ掛ける。

 

「いや、キミに負けたことじゃない。アイツに負けたことのほうさ。いくら死んだ直後とはいえ、三下にいいようにされたら怒りもするさ。まさか別世界の自分があんなヤツだなんて」

「!?」

 

 茫の言葉に恭介は気づく。目の前の茫は彼なのだと。

 まだ茫ブランツェは生きている。

 それに気づいて真子の名を叫ぶ恭介だが、彼にはもう間に合わない。真子がいる場所は離れすぎていた。

 

「ロード───」

 

 恭介が叫ぶのを見計らったような眼光が真子を襲う。

 先程補食した足一本を燃料として、茫ブランツェは自らの目にライダーの魔を宿したのだ。

 むき出しの生身、虚魂のほとんどを失った彼女に使えるのは一度だけ。それでも下級魔術師一人を石に変えて命を断つのには充分であろう。

 惜しむことがひとつあるとするならばそれは茫ブランツェは美好真子を侮っていた事であろうか。

 自らも英霊と融合して磐石の体制をとるマシュと比べれば無防備にも見えず、彼女には真子が三下にしか思えなかった。なまじマシュの経歴を知っているからこそ後方で隙を見せないマシュを警戒しすぎていたのもある。言い訳としては情けないが、最後のマスターとしての運と度胸は茫ブランツェの見通しを越えていた。

 

「勝った」

 

 茫ブランツェは魔眼での勝利を確信したが、それは幻となる。マシュが展開した宝具が石化の毒を遮って不発に終わらせたからだ。

 これで魔力も虚魂も、終月茫さえも茫ブランツェは失った。目の前のデミサーヴァントを前にもはやなすすべはない。

 

「でやあ!」

 

 マシュの盾は茫ブランツェの鳩尾を穿つ。もはや並みの人間以下にまで力が落ちていた彼女には、マシュのシールドバッシュに耐えられる訳などなかった。

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