ポケットモンスター虹 ~Raphel Octet~ 作:裏腹
01.手紙と言霊
いくつも立ち並ぶ、堆い情報の箱。
なくした探し物を見つけるために。溢れる知識欲を満たすために。単なる退屈を潰すために。各々の者が、様々な目的の下、銘々に箱の中の凝縮された知恵を手に取って行く。
どんなに世界がうるさくとも、ここは、ここだけは、いつでも嫌な顔ひとつ見せることなく静寂をくれる。
歳を召した木の香りも、自分を包み込む紙の香りも、心地よく感じる。自分という人間は外に出て、とかく五感で森羅万象を得るくちだと思っていたのだが――存外、歩かない旅というのも、悪くない。
そんなことを考えながら遠い地方のジムリーダーの青年、シンジョウはラジエス図書館で本を読んでいた。
「……ふむ。次、は」
「ほい。流れ的にお求めはラフエル英雄譚の中編、だよね?」
「ああ、すまない」
「んーんー、いいってことさ。どうせ暇だしね」
「であれば、何故ここにいるんだ」
「何故とはご挨拶だなあ。せっかくの友達との偶然の再会なんだから、そりゃあ話したいでしょ」
否定はしない。テーブルを挟んだ向かいに座るイリスへの返答を独白に終わらせながら、二冊目の書籍を味わい始める。
「ああ、君さては没頭すると周りが見えなくなるたちだな?」「否定はしない」「いや聞いてるのかよ!」
確かに、ここで一悶着あって以来の偶然の再会では、ある。が、シンジョウの優先順位としては、今のところ読書の方が高い所にあった。というのも自分にはまだ二四時間以上、
拝みたくなった顔を求め、ルシエシティへの連絡船を利用しようと思い立った矢先の悪天候。結構、とはおいそれと肯定できない欠航であった。
とりわけ人生観に対して高い意識を持ち合わせているわけではないが、どうせ時間をかけるならば有意義なものにしよう、という考えに至るのは、そう珍しい事ではないはずだ。そんな風に考える。
だからって何も今、目の前で頬杖ついて所在なさげな手で遊んでいる彼女との会話を、無益と言っているわけではない。帰結するが、順序の話をしている。
「あいだっ」
その衝撃は、リアクションほどではない。
「図書館では、お静かにお願いします」
イリスが頭頂部に物が落ちる感覚に従って背後を向くと、そこには修道服に身を包んだ長身の女性が、一人。手にしていた本の表紙の面をトン、と当てがったようで、そう注意しながら再び抱え直した。
「ステラちゃーん! やっほー、会いに行こうと思ってたんだよねえ」
「人の話を聞いて下さい……」
名を『ステラ』。ラジエスシティのジムリーダーであり、同市の職員でもある。又、今まさに二人がいるこの図書館の管理を担う者でもあった。
「うん、君も元気そうで何より」その頭上で二人に手を振るポケモン“ミミッキュ”は、公私共に彼女のパートナーで。
「お喋り好きなあなたがここを訪れるなんて、珍しいなと思ってみれば……」
困り顔、といった表情で小首を傾げると一緒に揺れる、煌びやかな金髪。ほどなくしてそれは、まるでわんぱく娘のようなイリスの情動を引き出した。
「漫画でもあれば、私も大人しくなったとは思うんだけれどね」
「そういう図書館の方が少ないだろう」
「ねえ、よかったら置くのも検討してよ。私はギエピー大冒険が大好きなのさ」
「よりにもよって児童向けギャグ漫画……」
「あなたは変わりませんね、本当に」ステラはふう、とため息だけ残して、仕事に戻る。
「そりゃどうも」
にしし。遠ざかる背中に笑いかけながら手を振るのは、上機嫌の表われで。
「……彼女は」
「うん?」
再び延々と紙を捲る音だけが聞こえてくるようになるのかと思えば、目の前の青年はそんな想像を裏切って、重たい口を開けた。
「ステラさんというのは、どういう人なんだ?」
「あ、気になる? うんうん、わかるとも。とても美人だものねえ」
そういうことでは、ないのだが。訂正するどころか視線を手元の文面から外すのも億劫だったので、大人しく続きの答えを待つことにした。
「彼女はー、そうだなあ……世界中の全ての人が笑うことをやめてしまっても、唯一笑顔でい続けられる人、かな」
ああ、苦手な手合いだなと、思った。人の話だけで判断するには些か早いと知りながらも、この苦手に寄った直感への裏付けのようなものは、感じられたのだ。
「今、渋い顔したね。ちょっとだけ」己の表情を看破されて、漸く彼女と目が合った。
「何故、わかった」
「あはは、わかるよ。だって私だもん」
頬杖は変わらずに、覗き込む面持ちは少しだけ得意げで。
不思議と沸く納得は、なんだそれ、という月並みの返答をかき消した。
少しの吃驚の後にふと落とした視線にあったのは、白一色で飾り気ない、手紙用封筒。口を閉じられてからかなりの時間が経っているようで、いくらかのしわや折れがその事実を教えてくれている。
シンジョウは床からそれをおもむろに拾い上げたが、中身の便箋にまで目通ししようという無粋な考えはない。ただ、落とし物としてステラに届けようと、
「いっ」
思っていたところに彼女から来てくれたので、願ったり叶ったり。無論、頭頂部に走る極めて軽い痛みを除けば、だが。
「もう、また辱めるおつもりですか」
「す、すまん」
「いや、なんで謝ってんの」
ステラはイリスと同じことを彼にも行い、渡されるまでもなく手紙を取る。どうやら彼女のものだったようだ。
一連の動作悉くが焦り気味で、そこに会話の余地はない。どうにも苦手なのは彼女とて一緒なようだと、確信。
「あとはまぁ、こういう人」
「……把握した」
立ち去った後の紹介で、腑に落ちる。
「でもまあ、さ。そんなに嫌わないでやってよ」
「?」
「ああ見えて、けっこう凄いんだ、彼女」
焦がれ、懐かしむような横顔の先。さらなる横顔を正面に捉える彼女は、きっと何かを思い出してるんだろうな――と、シンジョウは悟った。
「なんたって一度、世界を救ってるからね」
これから語られる昔話は、聖女を聖女たらしめんとする、その
ステラというジムリーダーの
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ラジエスシティジムのバトルスペースは、晴れの日に巨大な陽だまりが形成される。
そしてそれには、いくつかの理由が存在する。
一つ目に、スタジアムとして屋外に鎮座していること。すり鉢状で天井が取り払われた石造りの形状は、大昔にポケモンバトルが盛んに行われた
二つ目に、テルス山を越えた太陽が、真上にあること。縁のどこにも切り抜かれることなく、日光が差す角度と位置がある。
この二つの条件が揃った時――。
『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
観覧席のボルテージは、最高潮に達した。
ラフエルの首都という事も手伝って、ラジエスシティのジムバトルは大々的に行われる。無論全国ネットで模様を放映される訳ではないが、ちゃんと実況と解説まで付いて、インターネットライブで配信される程度には。
シーズンによっては観光客も詰め掛けるので、ラフエル外でも一大イベントとしてその扱いは浸透している。
「見事だ。イリス、と言ったな。本当に強い……六もの地方を巡っただけのことはある」
「それはどうも。私こそ、こんなに熱いバトルをさせてもらえて本当に嬉しいよ、トゥワイスさん」
特に今回は、空前絶後の盛り上がりとすら目されるまでの顔ぶれであった。
『最優のジムリーダー』と呼ばれる青年“トゥワイス”と、『最強のトレーナー』と謳われる女性“イリス”による、バッジを巡る一大カード。人が来ないことを想像する方が、うんと難しくて。
渦巻く声援の中、トレーナーズサークル越しで交わされる会話は、互いをリスペクトするものばかり。双方総力を尽くして尚、均衡が崩れぬまま最後の一体にまで展開が及んだのだから、無理もないだろう。
傍らで見守る審判のジムトレーナー、ステラもまた、この熱烈な展開の前で両手を握り合わせた。
でも、それも終わり。彼女の手から出てきた小さくも鋭い雷鳴が、そう告げる。
「“ピカチュウ”、キミで決める!」
「ゴー、“メタグロス”!」
違いないと、四つの蒼い
「メガシンカ!」トゥワイスがペンダントに埋め込まれた極彩色の石に触れながら発すると、そこから同じ色の光の糸が伸び、メタグロスを包み込んでその容貌を変えていく。
『ロォォォォォォォス!!』
響くような咆哮と共に弾ける虹の繭。メガメタグロスへとさらなる進化を果たした鉄騎は、その爪を研ぎ澄ます腕をもう四本追加し、ピカチュウの前に立ちはだかった。
「じゃあ!」
「いざ!」
『いくぞ!!』
黄色と蒼が、それぞれを求めて小細工なしに突っ込んだ。
迫る目鼻の先。瞬間に止まった景色で、蒼は黄色が電光を纏ったのを、黄色は蒼が障壁に包まれたのを確認。
「“ボルテッカー”!!」「“しねんのずつき”!!」
そうして戦いの火蓋は、切って落とされた。
激突。爆ぜ散るエネルギーが黒煙を呼ぶ。そこから先に吐き出されたのはピカチュウだった。
身軽だから飛んだ。飛んだから空転する。そんな世界。
「“10まんボルト”!!」青空に背中預けたまま、イリスの声を聞いた。遊ぶつもりが毛頭ないそれを受け入れた稲妻は、一目散に靄の中へ突っ込んでいく。
バチィン。確かな手応えがスパークとして輝いた。
「その火力では!」
「ッ!!」
直後、風切り音に震える耳。せっかちな反射神経が咄嗟に尻尾を剣に変え、砲弾と化した
裂きたてだからだろう、煙の残滓を着込んだままに、メタグロスは瞳を煌めかせた。
「ピカチュウ、一旦距離を――!」
「逃がすな、“バレットパンチ”」
怯んだわけではない。ただごくごく近い未来に力負けを想定しての指示だったが、迂闊だった。読み負けた。
砲弾の次は弾丸だ。威力よりも速度を重視したジャブが、立ち直ろうとした小さな躰を打ち飛ばす。
『ピカァアアアッ!!』いくら効果はいまひとつであっても、メガシンカで底上げされた火力で放たれた一撃は、やはり応えるもので。
悶えて宙を転げる落下。既のところで受け身は取れるも、
『ピ――――!!?』
『ロォオオオオオオオオオオオオ!!!!』
追撃は約束済みで。
大きな影と飛翔体。ピカチュウへ着地して見上げる暇も与えてやらず、まるで隕石のような速度でスタンプじみた面制圧攻撃“じしん”を叩き込む。
盛大な炸裂音が鳴った。瓦礫が飛び散り大地が罅割れる。叫ぶ観衆も思わず目を覆い、雨避けに止まる鳥たちは驚いて逃げ出した。
「どうだね、凄いものだろう」
手前味噌だと知りながら、襟元を整えながら己を誇ってみせるトゥワイス。
それは同時にパワーのみならずスピードも併せて上昇したメガメタグロスの賞賛にもなり、尚且つ回避を誘い続けてそれをぬかりなく狩り取ったバトルセンスの自慢にもなる。
その性能差から、ピカチュウがメタグロスとのパワー勝負を嫌う事を知り、初めから有効打となる“じしん”を伏せて警戒心を解き、弱みに付け込みきったところでそれを開示する。
――あまりに完璧な作戦だった。ましてそれを初見で組み立てるというのだから、凄まじい。
イリスは、トゥワイスという男を評価する。
「ああ、間違いなく凄いや。恐れ入った」
つばを掴んで、キャップをより深く被った。広がる光景の視認を拒んだからだろうか。
塵煙から抜け出たメタグロスが、ふわふわと浮遊しながら仕留めた獲物の行方の発覚を待っている。
「確かに凄いけど」
視界がゆっくりと晴れていく。見守る聖女が固唾を飲んだ。熱気に満ちるフィールドがどよめいた。
でもまだだ、まだ足りない。もっと歓声を呼んでやろう。自分を滾らせる名声を聞いてやろう。
「――私のピカチュウの方が、凄い」
その願いを実現するための、鮮烈な
「なんだと……――!!?」
煙が立ち去った場所に、ピカチュウがいないことを確認した刹那であった。メタグロスは想像だにしない明後日の方向から、渾身の稲妻を喰らった。
本当に、突然の事。しかし時間は考え至るまで待ってくれなくて、地面を抉って道を作らせながら、フェンスまで激突させる。
「あの攻撃を回避したというのか……? ピカチュウが持つ最速の技“でんこうせっか”ですら、そんな芸当は不可能だ。あの範囲攻撃ならば、経験則でわかる……これは、“しんそく”でもない限りは……!」
「うん、うん。いい線いってるよ」
「……まさか……!」
「初見殺しは、あまり好きじゃないんだけどね」ポケモンに代わり思考する主の可能性の提示に、短く頷いたイリス。その口元は不敵に笑っていた。
このピカチュウは、ただのピカチュウではないと言った。
カントー、ジョウト、ホウエン、シンオウ、イッシュ、カロスを旅する過程で経た度重なるバトルの中で、技『でんこうせっか』が洗練されきった“神速のピカチュウ”だと、言った。
「なんと、技まで進化するというのか……!?」
「私もびっくりしたよ。でも、考えていることは変わらない。いつだって、いつもやっていることをやるだけ」
流れを覆したピカチュウが、地面に手を付いて姿勢を低める。頬に電気を迸らせ、次なるボルテッカーの指示を待っている。
そんな中でメタグロスは、再び立ちはだかった。
明確なダメージを確認出来ても、全力の構えを解かない。強気に睨んでいても、討つべき敵を侮らない。
「……面白い!」
「ほんと? ――私も」
声がまたも、鎬を削って重なり合う。
弾ける西日が見届ける下で、雷電と鉄爪は心行くまでぶつかりあった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『勝者、挑戦者イリス!』
ラフエルチャンピオンシップ決勝戦にも見紛う壮絶な戦いを締めくくったのは、ステラのこの判定だった。
決まり手はやはりボルテッカー。本来は反動によって発動したポケモンにもダメージが入る技なのだが、神速のピカチュウは違った。反動を避けつつも最大効率の威力を叩き出すことが可能となっており、これもまた経験という時間の貯金が為せる業として、大いにトゥワイスを驚かせた。
「やはり、君は本物のようだな」
ステラ、彼女にバッジを。トゥワイスに促されるまま、差し出したアルミの薄型ケースを開くと、中から一日の終わりを髣髴させる輝きが顔を出す。それはラジエスの港から見える夕陽の色と同じで、この街のイメージカラーとされるゴールデンイエローだった。時計モチーフのデザインは、記憶を刻み続ける古きの象徴。
イリスはオールドバッジをその手中に収め、ご機嫌に頬を綻ばせた。
「おめでとうございます」
「ありがとう、美人さん」
「ステラと申します」
「あ、名前で呼んだ方が?」
「はい。その呼び方は、滅相もありませんので……」
聖職者というのはとかく控えめな印象があったが、本当にそうなのか――なんて感心を抱いてみたり。かわいらしく頬をかいて視線を外しているあたり、単に照れているだけなのかもしれないが、追及するのは野暮だからやめておく。
「私の後継者だ。今のうちに仲良くしておいても損はないぞ」
「そんな、とんでもありません……お役所のお仕事だけで精一杯です」
元より市の職員であった彼女は、ジムの管理と運営を手伝う目的でラジエスジムに派遣されたのだが、ジムトレーナーとして挑戦者を撃退したことでそのセンスを買われ、今やトゥワイスをして次期ラジエスジムリーダーと評価するほどに大きな存在になった。
もしかすると、この事務所でも清掃する立場から、一転して椅子にふんぞり返る日も近いのかもしれない。
尤もこの淑やかさから想像がつくかと云われれば、頷けやしないのだが。
「役所だけで一杯、か。人は元来の務めに精を出すのが無論理想であるし、それだけでいいのだ。が――」
トゥワイスは話を切り替えるように、別の方へ顔向けした。銀の瞳の行き先は、今しがたよりニュースを映し始めたテレビ。
『続きまして、ラジエス連続通り魔事件の続報です』
「どうやら、そうも言ってられんらしい」
いいニュースであれば。そんな淡い期待も一瞬で打ち壊す内容が、画面越しのキャスター達から伝えられる。
ステラは肩を落とし込みながら、その報道に意識を集めていた。
「またか……私がここに来てからでも、もう五件起こってる。正気じゃないね」
「本当ならば、人を集めてジムバトルを大っぴらに行っている場合でも、ないのだがな」
旅をしながらでも、世界情勢の確認は忘れない。そんなイリスは、ラジエスに入るにあたり事前に心したことが一つある。連日世間を不穏に騒がせる、通り魔事件への警戒だ。
「被害者は合わせて二〇名ほどになる。いずれもラジエスのポケモントレーナーを狙った犯行で、鋭利な刃物を凶器にした傷害事件だ。動機は依然として不明……だが何より不審なのは」
『やはりこれまで通り、被害者は犯人の容姿を覚えておらず――』
「姿を、掴めていないこと」
かちゃり、と空になったコーヒーカップの置かれる音だけが、不気味に静まり返った室内に響く。
「それは襲われた事実による精神的ショック等からなる、被害者に依存した記憶障害ではない」
依然、四角形は淡々と彼らに隣り合った情報を吐き散らしている。
「単純に、誰も覚えていないのだ。犯人はその場にいたはずなのに。自分を襲ったはずなのに、だ」
そうして必要以上に、彼らを焦らせる。
「……酷く、おかしな話だと思わないか」
椅子の座面を回して、臍ごと液晶に向き合って。いつしかトゥワイスの面構えは、神妙なものへと変貌していた。
「ああ、違いないね」首で肯いながら組み合わせた腕を解いて、眉をひそめるイリス。
「でも、この事件がどうしたっていうの?」
こういった疑問があるからだ。彼女の耳には、ついさっきトゥワイスが残した『本来の仕事ばかりをしていられなくなった』という発言が、ずっと引っかかっていた。
いや、彼女だけではない。勿論ステラにとっても、それは注意を向けるべき材料で。
トゥワイスは二人の食いつきを予期していたかのように立ち上がって、あらかじめコーヒーで温めていた言葉を返す。
「昨今、ラジエスに限らず――ラフエル全土では、怪しい風が吹いている」
「ええ……理解は、あります」
決していい加減な返答ではなく、確かに思い当たる節があった。
「そんな中で、こういった一般の人間が起こす犯罪だ。さしものPGも首が回らなくなってきているそうでな」
何を言わんとしているのだろう――辛抱たまらなそうにして、内心で結論を急かす間の事。
その足音は、ゆっくりと近づいてきた。
「そこで彼らは、我らポケモンリーグにとある提案をしてきたのだ」
それは、大股だ。木霊の間隔が長い。
それは、逞しい。接地面積が広い靴なのかもしれない。
「資金援助と引き換えに、捜査に手を貸す気はないか――とな」
それは、やがて止まった。そうして扉を開いて、主の正体を彼女らへとこれ見よがしに知らしめる。
日没間際のラジエスジムに訪れた奇妙な客は、トゥワイスの「待っていた」という言葉を聞くやいなや、短い敬礼を返答とした。
「え、えー、っと? 話が読めないんですけど?」
「トゥワイスさん、この方は……」
イリスとステラは、同性でありながら自分たちをも越えるその長身に驚いてか、言葉を失くす。
影が多く落ちる場所であっても、そのプラチナブロンドは気品を失わない。
着込んだ黒服は正義の証。血管のように張り巡らされた赤を流れるは、法という名の平和の原理。
「PG本部勤務、刑事部第一課所属――」
この凛とした顔立ちの女性も。トゥワイスの結論も。そして、これからステラがどうなるのかも。
「アシュリー・ホプキンスだ。よろしく頼む」
全ては背負われたマスターボール柄の盾が、教えてくれた。
「ステラ。君にはこれから彼女と協力して、ラジエス通り魔事件の解決に努めてもらう」
えええええええええええ!!?
仰天する修道女の声だけが、ジム内に響き渡った。