ポケットモンスター虹 ~Raphel Octet~   作:裏腹

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04.自由を司る街

 八人のジムリーダー達は、ククリタウンでの二日間を終えた。

 それは騒がしかったり、慌ただしかったり、時には理不尽が降り注いだりもしたが、誰もが概ね「楽しかった」と言っていた。恙なくビーチを満喫出来たと表現しても、いいだろう。

 財宝が隠されていたとか、伝説のポケモンに出会えたとか、そういった特別にして劇的なこともなかったが――結構だ。それでいいのだろう。平穏無事が一番。

 五泊六日のうちの三日目、つまり今日以降に何をするのかというと。

 

「はいよー、シャルムシティ到着ね。料金は八名様、お荷物が二八個で96000円になります」

「っげ、たっけえ……」

「まいど!」

 

 答えは、この地が知っている。

 ラフエル地方の移動手段は、主に陸路に頼るものが多い。鉄道が開通していないし、飛行機を飛ばす技術はあっても、各地に発着場を設けるスペースも経済力もない。

 よって町から町への大規模移動は、一般的に馬車『バンバドロ・キャリッジ』に頼ることになるのだが……やはり、スピードという面で疎かになってしまう。迅速さが求められたときに、物足りないのだ。

 そんな時の最終手段が、この『ポケット・スカイカーゴ』というサービス。陸地のせせこましさを無視し、町から町を空路でひとっ飛び。コスト面等の問題で値は張るものの、人数も貨物も上限が高く設定されていて、交通手段としての使い勝手の良さはラフエル地方に於いてトップクラス。

「それじゃ、またのご利用をお待ちしてまーす!」高級ブランドの名に恥じない働きぶりを見せた化石ポケモン“プテラ”が、操者を乗せて再び飛んでいく。

 ランタナは束の間の空の旅を終えて、背伸びした。伴わせる欠伸のついでに空を拝んで、天候の確認。絶好の観光日和を確信。

 

「ここが、か。なんだかんだ来たことはなかったな……」

「存外、明確な目的がある奴以外は来ることもねえな。遊びたきゃぺガスで済むし、学びたきゃリザイナでいい。外部からの客は首都ラジエスを見るだけで満足ときた。見られる顔と言や、ネイヴュに御入用の奴ぐれえよ」

 

 賑わうメインストリートには、石畳が敷き詰められている。

 脇を固める建物達は、デザインの毛色がバラバラで一向に統一感がない。

 普通の街ならば不格好以外の何でもないのだが、この地が育てた背景は、寧ろその景色を個性として容認させてくれる。

 至る所に施された飾りや落書きは、素人のものではないと一目でわかる。なんでも訪れた異邦の芸術家たちが、此処の特異な成り立ちに感銘を受けて残していったものだそう。

 高低差があるもので、場所によっては街の全体像が一望できる。住民の誰もが強く主張するエネルギーを持っているのだろう、家々は思い思いの色が乗せられていて、カラフルそのもので。

 

「ま、つまんねえことはねぇからさ。ゆっくりしてってくれや」

 

 ここは世界遺産に登録された街。文化と文化の、交差点。

 

「ウェルカム、シャルムシティ」

 

 一行は、全てを尊重する自由の街――――シャルムシティへと、足を踏み入れた。

 

 

 

 ジョウト地方は、今でこそ立派な名前が付けられている。

 しかし当初は、趣を重んじるその国柄や、柔らかな言葉遣いを多用する国民性から、諸外国からは『和の国』なんて呼ばれ方をしていた。

 ジョウトの甘味は和菓子、詫と寂を大切にする風情は和風。

 

「おいでやす~」

 

 そして民族衣装は、和服と云われる。

 “着物”なる別名を取るそれは、彩り豊かで気品があり、独特な奥ゆかしさが見る者を虜にする。

 特にジョウト外にあっては、憧れる者すらいるとか、いないとか。

 

「……いけないわ、少しはしゃぎすぎですね……」

 

 ステラとアサツキもまた、そのくちの人であった。

 それらしくジョウト言葉を使うのが、その証拠。実際に身に纏って高揚を抑えられなかったのだろう。

 木造の長屋がひたすらに軒を連ねる街並みは、とてもラフエルのものと思えないし、そればかりか現代という時間には大きく噛み合わない絵面だ。

 それもそのはず、ここら一帯は戦争で荒廃したところを、ジョウト出身の職人たちが修復した町『和装街(わそうがい)』なのだから。

 どんなにジムリーダーや、一地方の守り手と言ったところで、アサツキは若者だ。ステラもまた然り。

 やはり流行には興味があるし、洒落たものは写真に収めずにはいられないし、楽しみたいことだって次から次へと出てきて、きりがない……なんてこともある。

 だったらば、旅行先で観光スポットを巡りたいと思うことも、ごくごく自然な話で。

 

「活気に溢れるのは、良い事です。羽目を外すのも、時には大事だと考えます。例えば……」

「みんなー! これすっげーかっけーぞー! いあいぎり! つじぎり!」

「あれぐらいやれれば、上出来でしょうか」

 

 脇差し片手に袴を振り乱すカエンを眺め、言う。安全な材質で造られたレプリカなので、問題はない。

 青い長着を着流すサザンカは、涼やかに袖手(しゅうしゅ)の恰好を取りながら、

 

「お二方、お似合いですよ」

 

 桜色の蝶柄と、黄色の菖蒲柄を褒める。

 ステラの「ありがとうございます」に続けて、無言で自分の姿を何度も見回すアサツキ。まんざらでもないのだろう。

 八人は旅館へ荷物を預け終えると、チェックインまでの猶予を自由時間とした。

 四、四で二手に分かれた後、サザンカ、アサツキ、カエン、ステラは、衣装をレンタルして和装街を散策する選択を取ったのだ。

 カイドウ、ランタナ、ユキナリ、コスモスの四人組は何をしているのだろう――なまじ個性が強いメンバーで固まっていて、動向が気にならなくもない。が、

 

『美味~~~~!!』

 

 今はこの手元にある和菓子の味を、一生懸命に覚えたい。

 運河が見える甘味処で、彼女達はそんなことを思っていた。

 

 

 

 沢山のガラスに、囲まれている。向こう側にいるのは、くたびれた紙くずだったり、ボロボロの布切れだったり、汚れた石だったり、錆びた鉄屑だったりして、千差万別なのだが――決まって『長い時を生きたモノである』ことは、共通している。

 これではどちらが見られているのか、わからない。静寂の中で佇む展示物たちをじい、と凝視しながら、コスモスは思う。

 

「時空を創りしポケモンを繋ぎ止める『赤い鎖』か。人間の意識を構成する三要素――“感情”、“意思”、“知恵”のそれぞれを司るポケモンの骨から生み出されるそれは、長く伸びて絡み合う、ヒトの血管のように複雑な形状をしていた。そんな記述もある」

「人を形作る存在から造られたから、人の血の色。故に赤、と?」

「検証していないので、断定は出来ない。が、そう云われている」

「成程。ガイドをありがとう、カイドウくん。でもこの色は、血を表す赤ではないと思うわ。動脈血の色にするならば少し黄が足りていないし、静脈のものならば緑が僅かに欠けています」

「保管性を重視したレプリカにそこまで求めるな、一瞬の状態を切り取っただけのものに過ぎん。こういう色をしている時期もあった、程度の認識でいい」

「そういうもの、ですか」

 

 何やら知的な会話を繰り広げているが、正直聞く気が起きない。退屈に思えて、冗長に感じられ、眠くなってくるから。

 ショーウインドウ前に並ぶコスモスとカイドウの背中をぼんやり眺めながら、小指で耳穴を掻くランタナ。

 海ではダンマリであった賢者も、ここでは饒舌であった。露骨に増える口数をカウントしながら、やっぱこいつとは趣味が合わねぇな、なんて独白を腹の底に垂らす。

 一方の四人が訪れていたのは『七色資料館』なる施設。

 ラフエル外部から伝わってきた文化財、及び伝説にまつわる物品を所蔵している博物館だ。

 ほの明るい証明に照らされて活き活きとする荘厳さには、自ずと背筋が伸びるというもの。

 

「(……アイツら、和装街に行ったのか。俺もそっちにすりゃ良かったなぁ……)」

 

 尤もランタナは、例外であるが。

 暇な手でなんとなしにSNSを確認すると、タイムラインを流れる和菓子の写真。皆の着物姿も拝めたものだから、余計に楽しそうに見えて。

「ぜってー間違ったわ、ついてく方……」生憎、学術的な話には微塵も興味が沸かない。昔から勉強が嫌い故に。

 そんな風にひとりごちったところで、最早顔ぶれも現在地も、変わることはないのだが。

 しけた顔で突っ立って雰囲気が悪くなっても仕方がないので、切り替えて自身も館内を回ることにした。地元でこそあれ、満足に巡ったことがないので、飽きないという点だけが救いだろうか。

 

「……ん?」

 

 歩き出した足を、ほどなくして止める。

 遠くで望めた赤線入りの黒服に、酷く見覚えがあったからだ。

 

 

 

 ユキナリは、いち早く違和感に気付いていた。

 

「(何でPG本部が、ここに……?)」

 

 一人で館内を回っている折のことだ。その制服が、横切ったのは。

 一人や二人では済まない規模の人員が、七色資料館の中を平然と歩いているのだ。

 背中と両上腕の部隊章は、クイックボールのもの。どうやら機動部らしい。

『渡り鳥』の名を取って平素の巡回を業務とする彼らだが、施設の中まで警らを行うなんて、聞いたことがない。仮に特例があったとしても、二桁という規模はあまりに大袈裟だろう。

 異質さを伝えるには、十分な絵面だった。

 しかし現在の自分はジムリーダーで、同時に休暇中で。深いことは考えずに見て見ぬふりが賢いのだろうが、生憎人一倍異常には敏感にならねばならない職業柄、こうも強調されると気にかかって仕方がない。

 一応手帳は持ち合わせているので、訊ねるだけならばいいだろうか。

 

「ユキナリ特務、ではあるまいか?」

 

 背中に当たった言葉が、そんな思考を散らした。

 記憶の中に、該当する声が一つ。瞬時にそれを思い浮かべると、ユキナリの体は反射的に後ろへと向いていた。

 上にも横にも逞しい体格をした、黒髪の偉丈夫。その男は、見立て通り初めましてではない。

 

「お久しぶりですなあ! もしや“あの日”以来では」

「ギーセ警視……!」

 

 そうだ。

 機動部、第四旅団長。この再会は、あの日以来の――。

 

 

 

 色とりどりな、四角形を見ている。

 赤、青、緑、黄、紫、黒、白といった純色から、グレー、ピンク、シアンといった混色までが鎮座する様は、圧巻に尽きる。

 コスモスは絵を嗜むので、視界を占める色数が多ければ多いほど、満足感を得られるものだ。

 幼い頃からパレットいっぱいに垂らされた絵の具を眺めるだけで幸せだったし、湿った雨上がりに見える虹が大好きだった。いや、今も変わらず愛している。

 だからこの瞬間も、内心を躍らせている。たとえレプリカであっても、シンオウにて“属性(タイプ)という概念が具現化した物”と云われる石板『プレート』は、彼女の感覚を確かに揺すってくれた。

 

「現物でなくても、綺麗なものだな。この世界の最小単位が元素だとするのなら、差し詰めそれを司る物が並ぶ様相は、きっと世界の縮図である事に違いない」

 

「きっとこのガラスの中には、世界が詰まっているのだろう」声が上がった、隣を見た。言外にそっと仕舞いこんだ感想を、図らずも言い当てられたからだろうか。

 派手で明るい金髪だが、品位を備えており、攻撃的な光が抑えられているのは、地毛ゆえなのだろう。

 一見でわかる壮年でありつつも、輪郭が滲ませるのは、“老い”というよりかは“盛り”。彼女はこの『気』を知っている。明確に何かを成さんとする者の、挑戦する者の気配。幾度となく目の当たりにしてきたから、確信を持って言える。

 穏やかな口調と落ち着いた微笑が一緒になって、彼女へと向いた。

 彼が言い当てたのは、何も彼自身とて意図したことではない。知っている。わかっている。

 されどコスモスは、そのしわ一つないスーツを着た白手袋の男性から、目を背けることができなかった。

 

「失礼、驚かせてしまったね。独り言が癖になってしまっているもので。年甲斐もなく、申し訳ない」

「……いえ。こちらこそ、視線を押し付けてしまい、無礼を働きました。お詫びします」

 

 再び向き直るのは、共にプレート。

 

「ご令嬢は、こういった物はお好みなのかな」

「『学芸品』のことを指しているのでしたら、はい、と答えます」

「そうか。私もだ」

 

 だからこそ、ここに来ている訳なのだがね。付け加えで、話を締める。

 

「時に、貴女は“アルセウス”というポケモンを、存じているかな」

 

 しかし話題が切り替わるだけであって、言の葉のやり取りは終わらない。尤もコスモスとて、意思が通じ合えない野蛮人ならいざ知らず、他者と触れ合う行為は己の生産にも繋がるため、決して嫌ではない。

 

「このプレートを生み出したと伝えられる、神代のポケモンの事でしょうか」

 

 もう一度隣を見上げると、彼は小さく頷いた。

 

「そうだ。それ即ち、世界を創造したと謳われる存在だ」

 

 アルセウス。時間を作り、空間を生み出し、宇宙を広げ、元素を与え、星を用意し、命を練った、所謂“世界の始まり”となり、創世を行った神として語られる伝説のポケモンだ。

『ギガス』なる巨人族と争った伝承があったり、実は宇宙を司る神の子だったという説が出たりと、語られる姿は一定のものではないが――少なくとも彼が全ての生命の起源である、というのは、世界中の共通認識なようだ。

 事実、コスモスも神話でそのように教えられ、育ってきた。

 

「不思議なものだね。全てはポケモンから始まっているはずなのに、今では人がポケモンを管理し、あまつさえ彼らをモンスターボールという道具で縛り付けている」

「言い回しに、少々の棘を感じました。手段の意図を画一化すべきでない、と私は考えます」

 

 取り出した球体を見つめる横顔に、静かなる異議の申し立て。

「人の数だけ、用途があると?」「はい」横目の確認に即答し、向き合う。

 

「勿論、貴方が考える使い方をする人もいることでしょう。現在の文明に対する悪意的な解釈も、立派な意見の一つなので、否定を投げかけることだってしません。ですが極端な視点というものは、いつの時代も悲劇の引き金になってきたはずです。歴史に対する認知というものは、特に」

「違いない、肯定しよう」

 

 コスモスは、珍しく饒舌だった。

 

「そもそも、アルセウスが創世する光景を、私達は見ていません。こうして伝わることだって、語り手の立場や解釈の違いで簡単に捻じ曲がっていきます。もしかすると、アルセウスは人が作ったものなのかも知れない。或いは誰の手がなくとも、私たちは最初からただそこに居ただけなのかも知れない。本当のアルセウスは、世界を滅ぼさんとする邪神であったのかも知れない――――過ごした一年で生じる歪みが一ミリだったとしても、繰り返せば十年後には一センチ、百年後には十センチにもなります。そうやって時と共に忘れ去られること、すり替わっていくものが、積み重なっていくのです」

 

 何がそうさせるのかは、わからない。ただ。

 まるで何かを知り、悟ったような語り口は、とても一人の少女が話しているようには見えなくて。

 

「つまり真相など誰にもわかりはしない、と。ラフエル神話もまた、同様だと思うかい?」

「……例外はありません」

 

 それでも少しの逡巡が、挟まったような気がする。

 

「ならば、どうする? 仮に過去を見ようとした時。嘗てと向き合わねばならなくなった時。我々はどうすればいいと思う? 一体、何を重んじればいいと思う?」

 

 確信こそないままだったが、僅かに動いたその表情で、一瞬だけ綻んだ神秘で、たまらず意地悪な質問をしたくなったことに違いはない。

 

「過去が今のためにあるならば、信じたいものを信じれば良いと思います」

「矛盾。堂々巡りではないかな?」

「いいえ。私は先程、否定しないと言いました。貴方の見識が、本当に“今の貴方の心”が導き出したものなら、それは誰にも壊されるべきものではないのでしょう」

 

 今度は、男が発話を遅らせた。

 

「――何かと対立してしまうことに、なったとしても?」

 

 その時、初めて色が出た。

 コスモスと同じ姿勢――相手に臍を向け、視線を正面から重ね合わせる。ライトの横槍を素気なく跳ね退け、ぎらぎらと光る色。彼女はそこに“灰”を見た。

 彩度という“遊び”を欠かした状態にある、純粋が極まった色。コスモスにとって、白と黒はそういった意味を持つ。

 何に於いて、どの方向かまではわからないが、それらに彩られた魂は、まず何かを成し遂げる輝きを湛えていて。

 しかし眼前の彼は白黒どちらの要素を携えつつも、どちらとも取れない不明瞭さがあった。決心が付かないといえばそれまでなのだが、それにしては彼の瞳はぶれを知らなさすぎる。

 凄まじい異様さに当てられ、より深く観察するコスモス。

 リアルタイムで白黒の割合が変動している。明るくなったり、暗くなったり、模様が歪んだり、整ったり。

 常に忙しなく姿を変えて、実在性からぼかそうとしてくるこの表現は、なんだろうか。こんなものは初めてだ。

 まるでブラインドが掛けられているみたいで、何も見ることが出来ない。奥底を掴めない。

 ちらついて、ばらついて、常々不確定たるこれは。この、感じは。

 

「衝突は、掲げた時に初めて生まれます」

「……ほう」

「もしそうなってしまった時は、止めるべき人が、止めるべき方を、止めるべくして止めます」

 

 コスモスはそこまで思い巡らせたところで、言葉を返した。脳の運動を終了する合図だ。

「成程」男も満足したか先に目を逸らし、それ以上問答を続けることはしなかった。

 

「フリック市長、そろそろです」

「む、そうか、もうそんな時間か」

 

 沈黙が付け入る前に現れる第三者は、ギーセ。

 男に歩み寄って「フリック」と呼ぶと、会話が始まった。

 何故PGがこの場にいるのか、些かの取っ掛かりはあったものの、取り込み中故に口を閉じる。

 それに、後から訊ねることも出来るだろう。ギーセに伴って自分と合流してきたユキナリを一瞥し、そう考える。

 

「それでは、無事を祈ります」

「楽にされよ、特務。そちらも良き休日をお過ごしください」

 

 畏まるユキナリの敬礼には、あえて返さなかった。

 ギーセが先を歩いたのを合図に、

 

「邪魔をしたね。素敵な時間をありがとう、ご令嬢」

 

 フリックもコスモスへと声をかけた。

 

「こちらこそ楽しく語らえました、感謝します」

 

 遠ざかる後ろ姿を、最後まで見送ることはしない。

 続けて物言いたげな上目を向けると、つられてユキナリは口を開いた。

 

「彼はフリック。ぺガスシティの市長をなさっている人だ」

「……ここはシャルムシティですが」

「ああ、知ってる。どうやらイベントが好きらしくてね……ラフエルの行事があるたび、ああして各地を視察という体で回っては遊んでるらしい」

 

「なるほど」あんなに慧敏な振る舞いをしていながら、お茶目なところもあるのね。内心で唱える。

 

「でも、ここ数日以内にシャルムでイベントなんてあったかしら」

「それは」

「明後日の夜に“シャルム王感謝祭”がある。旅行先にここを選んだ理由もそれだ」

 

 遮るはランタナ。館内を見終えて戻ってきたようだ。

 

「そりゃ街一つ治める要人だもんな……あんだけのPGも護衛で押し掛けらァな」

 

 そして、頬を掻く訳知り顔。

 

「それでなくとも、近頃は何かと騒がしい。何よりネイヴュの難民受け入れが上手く行っている唯一の都市の長だ……その腕も買われているのだろう」

 

 最後にカイドウも混じり、四人の再集合は完了する。

 

「さてと。皆用事も済んだみたいだし、昼飯にでもすっか」

「甘味処へ行くぞ」

「四人が共通して食えるモンは、と――」

「甘味処へ」

「せっかくだから肉系のがいいか? 今日も暑いしなァ、バテちまいそうだ」

「かん」

「だーっ、うるせえ! 却下却下、却下だッ!!」

「糖分をよこせ! 糖分が無ければならんのだ! ストレスだ!! さもなくば俺の機嫌がドン底に落ちる!!」

「さらっと脅してんじゃねえよ!!」

 

 次の行き先を決めようとする二人を尻目に、コスモスは考える。

 自分は高い位に身を置く人と話していたのだな、と。口々にされる情報を、もう少し早く得られていればな、と。

 タイムラグを抱えた実感は今更どうしようもないのだが、まあ覚えるきっかけになるのならば、良しとする。

 

「ところで君は、彼と何を話していたんだい?」

「……さて。何でしたか」

「ん、んん?」

 

 故意にモザイクをかけ、本当の色を最後まで明かそうとしなかった――。

 

「――そもそも私は、彼と話してすらいなかったのかもしれないです」

 

 そんな彼を覚えるきっかけに、なるのならば。

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