元・天才魔術師は揺らがない   作:遠坂しぐれ
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19時に投稿するとか言った大嘘つきがいたようです。


一夜明け

 早朝、まだ人気もそこまで多くない通学路を、ルイは心底だるそうに歩いていた。

 この男、見事に二日酔いである。

 

(くそーあの白髪ロリめ、明日までは残らないから大丈夫と何杯も飲ませてきやがって……。最後の方とか絶対俺の事酔い潰すつもりだっただろあれ。何とか逃げてきたからいいものの、想像するだに恐ろしいな)

 

 一気飲みする度アリエスに一々おだてられて、それにまんまと乗せられたやつが言うセリフではない。

 

 ともあれ頭は痛いし、足は重い。

 加えて昨日薬を使った身体のダルさもまだ抜けていない。

 ぶっちゃけた話、ルイは学校を休みたくて仕方が無かった。

 

 しかし、いくらなんでも授業初日からすっぽかすというのは、優等生キャラの確立を狙っているルイにとっては許されないことなのだ。

 酒が残ったまま学校に行くのはいいのかという話もあるが。

 

 まあ一応、法律では定められていないが、十五歳の誕生日に初めて酒を飲ませるという慣習に従って、十五歳から酒が飲めるというのは暗黙の了解ではある。

 ただ、学生の身分で二日酔いのまま学校に行くのがオーケーかどうかはもう良識の範囲内だろう。

 

(もうこれいっそ迎え酒をした方がいいんじゃ……?)

 

 とりあえず、こんなこと言っているやつに良識がないことは明らかだ。

 

 そんな風にダラダラと歩いていたルイだったが、道程半ばといったところで突然横から声をかけられた。

 

「あの、ルイさん……おはようございます」

「えっ? あ、コスモスさんですか」

 

 声のした方に目を向けるとそこにはコスモスがいた。

 

「え、あの、なんでそんなところにいるんですか?」

 

 ルイの困惑の声もさもありなん、何故かコスモスは建物と建物の間の路地に立っていた。

 路地と言ってもそんなに奥ではないため、顔が見えるくらいではあるがやはり薄暗い。

 一体なんでこんなところに立っているのだろうか。

 

「あの、私、ルイさんを待って一緒に学校に行こうと思ったんですけど、その……ずっと同じところに立っていると、周りに変な人だと思われそうで……ここに隠れてました」

「そ、そうなんですか(いや路地に潜んでる方がよっぽどキモいわ)」

「はい。あの……い、一緒に学校行ってくれますか?」

「(ていうか、こいつ俺を待ち伏せしてたの? もうホントやめてくれよ朝っぱらからさあ)全然構いませんよ、じゃあ一緒に行きましょうか」

 

 ちょっとどころではなく引きながらも、とりあえず学校に向けて歩き出す。

 コスモスは嬉しそうにぴったりとルイの右隣につけていた。

 

「そう言えば、王都郊外の森で昨日火事があったみたいですよ。深夜だったから気が付くのに遅れて結構燃えてしまったとか」

 

 ふと出されたのはルイにとって非常にタイムリーな話題だ。

 

「へえ、自然発火ですかね? でも今は冬じゃないですし」

「それがですね……どうやら人為的なものらしいんですよ。

 又聞きの話なので信憑性は薄いんですが、森のどこかで殺人があってその戦いの余波で燃えたとかなんとか」

「殺人ですか。物騒ですね、犯人は早く捕まって欲しいものです」

 

 平然とした顔でそんな返答をかますルイ。

 町のみなさん、ここにその殺人犯がいますよ。

 

 やがて学校に着いた二人は教室の前で別れ、教室に入ったルイは真っ先にある人物を探す。

 そしてお目当ての人物を見つけると電光石火の勢いでその席に近づいて声をかけた。

 

「(見つけたぜ今日の玩具!)おはようございます、ミルシェさん」

「……あ、おはようルイ君」

「元気がないようですが、どうかしました?」

「え……そ、そうかな?」

「はい、ちょっと雰囲気が暗く見えたので」

 

 全部知っていてなおかつその張本人であるくせにぬけぬけとよく言うものである。

 自分でミルシェの従者を殺して、翌日真っ先に本人の様子を窺いに行くというとてつもない野次馬根性。

 浮かべている微笑が悪魔の笑みにしか見えない。

 

「まあちょっと昨日色々あったの。面白くない話だから聞かない方が良いよ」

「(は? お前の口で聞くから面白いんだよ。絶対話してもらうぞ)いえ、もし聞かせられない話でないなら話してくれませんか? 僕にも何か出来ることはあるかもしれません。僕の友人になってくれると言ったミルシェさんの力になりたいんですよ」

「ルイ君……」

 

 ギュッとミルシェの手を握って語り掛ける。

 この真剣な目も声も、欠片も本音ではなく出せるのだから大したものだ。

 哀れな少女ミルシェは、そんな演技に絆され頬を赤らめていた。

 

「うん、じゃあ話すよ。といっても込み入ったこともあるから全部言えるわけじゃないんだけど」

「構いません、誰かに話すだけでミルシェさんが少し楽になるかもしれませんし(だから早く話せよ! ほら早くぅ!)」

「ありがと。あのね……昨日の火事のことって聞いてる?」

「はい、今朝聞きました。又聞きの又聞きになりますが、殺人の可能性もあるとかなんとか」

「そっか、そこまで知ってるんだね。

 実は、そこで殺されたって私の身内なんだ」

「え……」

 

 ルイはそこで如何にも驚いたような顔をする。

 しかし何度も言うが犯人はこの男。

 なので当然、そんな顔を作りながらも全く違うことを考えていた。

 

(身内? あいつってこの女の護衛だったんだよな? 従者風情も身内カウントするのかこいつは。いや、待てよ! ひょっとしたらこいつらはただならぬ関係にあったのかもしれんぞ。身分違いの恋か、なるほどなるほど……虫唾が走るぜ)

 

 勝手に邪推をして勝手に虫唾を走らせていた。

 一体何なのだろうこいつは。

 

「それは、辛いことをお聞きしました。申し訳ありません(全く思ってないけどな。マジちょー笑えるわ)」

「ううんいいの。話すことを決めたのは私だし、実際家の関係上こういうゴタゴタは慣れてるって言えば慣れてるから。

 でもルイ君にして欲しいことは、そうだね……一つあるかな」

「(え、図々しいなこいつ)なんですか?」

「もうちょっとだけ手を握って欲しいの」

 

 そう言ってルイの右手に自分の左手を重ねるミルシェ。

 ルイは鳥肌が立ちそうになるのを全力で堪えていた。

 地味にすごい。

 

 そのままの状態で一分ほどして、ミルシェは手を離した。

 その顔にはいつも通りの笑顔が浮かんでいる。

 

「ありがとルイ君。私、ホントはちょっと心細かったんだけど、ルイ君のおかげでそうでもなくなったよ。だって、私が寂しいときはルイ君がこうしてくれるでしょ?」

「(は? こんな破格のサービス今日だけだとしても感涙にむせぶレベルだろ。図々しさ限界値突破してないこの女?)はい、僕なんかでよければいつでも」

「ふふふっ、ありがと!」

 

 その後は普通の世間話に戻り、ミルシェは昨日聞きたかったことなどを色々と訊いてくる。

 それに嘘八百で答えながらルイは、授業始まんねーかなとずっと考えていた。

 自分のやりたいことが終わればもういいやという身勝手思考は流石だ。

 

 そうしてあと少しで授業も始まりそうだという頃、ミルシェが思い出したかのように言った。

 

「そう言えば、ルイ君って指輪つけてたんだね。さっき手握られて気づいたけど」

「ああ、はい。そうですね」

「あとネックレスも付けてるよね。なんか意外だなー。

 あ、いや似合ってないわけじゃないよ? ルイ君カッコいいしさ」

「あはは、ありがとうございます(ったりめーだろアホ。俺に似合わなきゃ誰にも似合わねえよ)」

 

 実際に面は良いとはいえよくもまあここまで傲岸不遜になれるものである。

 

「なんか真面目な優等生のイメージだったからこういうのは付けないのかと思ってた」

「僕、金物が好きなんです。身に着けてると落ち着くんですよ。お洒落の意味合いもあるけど、ほとんど外さないので身体の一部みたいなものですね」

 

 金物が好きだというのは一応本音ではある。

 ただし高級品に限る、と但し書きが付くが。

 

 しかし実際に身に着けている理由は、とても実利的な面からだ。

 というのもこの右手に付けている指輪もネックレスも、特殊な効果を持ったアイテムなのだ。

 当然その効果とはルイが戦闘を行うにあたって発揮するもので、戦いの際には必要不可欠。身に着けてないと落ち着かないというのも嘘ではない。

 

 ちなみに二つとも、あの白い髪の少女による提供です。

 

「じゃあ今度一緒にアクセサリー見に行かない? 私も何か欲しいなって思ってたところだし、ルイ君にも選んで欲しいな」

「(ぜってー嫌だ)そうですね、じゃあ今度――」

 

 そこで授業を開始十分前を告げる鐘が鳴り、ルイは内心ガッツポーズを決める。

 美少女からの誘いに対して実に失礼な奴である。

 

 この話はまたお昼にしようと言い合って別れ、ようやく席に着こうとしたところでいきなり教室のドアが勢いよく開いた。

 

(おいおい、なんつー野蛮な開け方だよ。ここの教師はゴリラかなんかか?)

 

 そう思ったルイだったがそこに立っていたのは教師ではなかった。

 

 赤い髪を一本に結わえて腰まで下ろし、堂々と腕組みをして立っている一人の女子生徒。

 制服に付いているリボンの色からするに上級生のようだ。

 その女子生徒はゆっくりと教室内を一度見渡し、それから口を開いた。

 

「このクラスにいる魔力無しのルイってやつ、出てきなさい!」








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