並行世界の系統樹   作:レイティス

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第三章 クラン、その名は

 

□皇都郊外・<叡智の三角>本拠地 【大機戦士】レイ・スターリング

 

 「ユリアを俺たちのクランに入れて欲しい?」

 

 大規模な初心者狩り事件からこちらの時間で一ヵ月と少々が経ったある日。

 <マジンギア>の整備の際に世間話をしていたところ、【大教授】フランクリンから奇妙な申し出を受けた。

 

 「とっくに<叡智の三角>に入ってると思ってたんだが」

 

 ユリアは<叡智の三角>のオーナーであるフランクリンの妹だ。

 ついでに優秀な【操縦士】……今は【高位操縦士】だ。

 マジンギアのテストやサブジョブの【整備士】を活かしての補助など、この<叡智の三角>で大いに活躍していると言っても過言ではないだろう。

 

 対して俺たちのクランは兄やルークたちを含めても今のメンバーは片手で足りる小クランだ。

 兄のポイントのおかげでクランランキングに載ってこそいるが、<叡智の三角>がそのトップにいる以上ユリアを入れる理由にはならない。

 

 「<叡智の三角>は純生産クランだからねぇ。君たちはこれから様々な国を巡ると聞いたよ」

 「あぁ、兄貴が以前旅したらしくて、折角だから見聞を広めるために少しずつ世界を回ってみるか、って」

 「それだよ」

 

 こちらの言葉に被せるようにフランクリンが答える。

 

 「所属外の国で活動するクラン……キャラバン型クランはカルディナ以外だとメジャーではなくてねぇ。あの子のリアル友達と二人旅をさせるには流石に心配だし、そうしたら都合よく貴方達がクランを立ち上げて外国に行くというから、ユリアも貴方を信用しているしちょうどいいと思ってね。どうせ【破壊王】も過保護はしないでしょ?」

 「なるほど……」

 

 途中でロールプレイ(悪のマッドサイエンティスト)が剥がれて心配性のお姉さんが出てきているが敢えて突っ込まないでおく。

 ついでにユリアは最近リアル友達(ソニア)以外にも半固定パーティを組んでいる<マスター>がいることを教えた方がいいのだろうか?

 

 「ともあれ、そういうことなら分かった。ユリアからの了承が取れてるなら俺は問題ないぞ」

 「助かるねぇ。最初はどの国に行くのかは決まってるのかい?」

 

 ユリアのクラン入りが決まり、話題はその最初の行き先となる。

 とはいえ、その対象となる国は既に兄と話し合って決まっている。

 

 「アルター王国の予定だ」

 

 兄の友達がおり、ドライフの隣国で同盟国でもある。

 ちょっとした都合で兄はドライフの次に長く滞在していたらしく、クラウディアから配達の依頼も受けている。

 騎士の国アルター王国、掲示板などで仕入れた情報では「典型的なファンタジーRPGのような国」という評価だった。

 職に癖がなく、西方三国の中では特に決闘が盛んな国らしい。

 

 ……ドライフは今決闘ランカーに<超級>どころか超級職すらいないからな。

 興行としても普通のランキング戦よりも<叡智の三角>の新型機のテストの決闘の方が人の入りが良いのもお国柄というやつだろうか。

 

 「アルターか、それならちょうどいいねぇ」

 「? ちょうどいい?」

  

 何かアルター王国でローカルイベントでもあるのだろうか。

 それを訪ねようとした俺に、フランクリンは答えを告げる。

 

 「もうじき、王国と皇国の()()()()()()が始まるからねぇ。道中のモンスターは随分少なくなってるはずだよ」

 

 ──この時の俺たちは知らなかった。

 かの国に待ち受ける災厄(最悪)の脅威を──

 

 

 

 

 「シュウも久しぶり。相変わらずの着ぐるみ(動物型マーシャル)だね」

 『うるせーメカクマ。文句なら管理AIに山ほど言ったメカクマ』

 「それで、そっちの子達が──」

 『あぁ、弟とその仲間たちだメカクマー』

 「クマとライオンの着ぐるみの話し合いとか、シュールだのう……」

 

 「あれ? こんなところで会うなんてどないしたんレイやん? 遠征?」

 「そんなところです、扶桑先輩。そちらの方は……藤林先輩じゃ、ないですよね?」

 「あっはっは。ビーちゃんならフィールドで元気に狩りしてはるよー。こっちのは──」

 「お初にお目にかかります。月夜さんからお噂はかねがね伺っております。──今代の【聖女(セイント)】、イコーヌ・ベルディナートと申します」

 

 王国にて紡がれる、新たな絆。

 

 

 「【三極竜 グローリア】……!?」

 「最上位の<UBM>、二番目の<SUBM>だ」

 

 「お前たちは待っていろ。クレーミルでの敗北で分かった通り……合計レベルが300を超えた程度では、戦いの土俵にすら立てない」

 「……ッ」

 「……心配するな。既に殆どのスキルは割れてるんだ。可能性はいつだって──」

 

 三首の災厄の到来に一度膝を折るも、その心は"不屈"故に──。

 

 

 「《燃え上がれ、我が魂(コル・レオニス)》」

 「《聖者の帰還(ウルファリア・エルトラーム)》」

 「――《無双之戦神(バルドル)》ッ!!」

 

 三人の<超級>の力は()()()()()()届こうとしていた。

 

 

 【──緊急の報告故、《天啓偽報(ワーンド・アナウンス)》で失礼します。依頼されていた《既死改生》の解析が完了しました。詳細データをパーティメンバーに次いで送信します】

 「これじゃあ、兄貴たちが【グローリア】を倒しても復活するって言うのか!?」

 「やるしかないんです。僕たちの手で、"四本角"の討伐を──!」

 【四本角までの道のりはこちらが案内します。マリーは知ってるでしょうが、カラスを目印に】

 

 兄弟は走る。最悪を止めるために。

 

 

 【同調者生命危機感知】

 【同調者生存意思感知】

 【<エンブリオ>TYPE:メイデン【復讐乙女 ネメシス】の蓄積経験値――グリーン】

 【■■■実行可能】

 【■■■起動準備中】

 【停止する場合はあと20秒以内に停止操作を行ってください】

 【停止しますか? Y/N】

 「この力は──!?」

 

 

 かくて、アルター王国を襲った<SUBM>は王国の二人の<超級>と一つのクランにより討伐される。

 <SUBM>の討伐に他国のマスターが関わったことは大きな注目を呼び、その名声を高めた。

 ──それは、<デス・ピリオド(絶死の終止符)>と呼ばれるクランが<Infinite Dendrogram>で語られる最初の物語。

 

 

 

 <Infinite Dendrogram>二次小説、「並行世界の系統樹」

 第三章 クラン、その名は

 2045年5月16日 投稿開始

 

 

 

 




う そ で す(三回目

感想欄で話題にも出しましたが、このシリーズは五章(5話)までを予定しております。
それまでまったりとお付き合いいただけると幸いです。


天啓偽報(ワーンド・アナウンス)》:
【記者】系統超級職【超記者(オーヴァー・ジャーナリスト)】の固有スキル。
対象に任意の実効性のないシステムメッセージを表示させるスキル。
先々期文明の際には射程無限の通信魔法のような存在だったが"アップデート"の影響で現在の形に変更がされたスキル。
ようはダッチェスのあれ。



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