■ドライフ皇国・【皇玉座 ドライフ・エンペルスタンド】・会議室
「『皇位継承権を持つ者で争え。その頂に立つものを次代の【機皇】とし、次期皇帝と定めるものとする』……遺言は以上です」
皇都の中心、その会議室ではほぼ全ての皇位継承権を持つ皇族が集まっていた。
皇族として最上位の教育を受けた者たちだが、先日喪が明けた先代【機皇】ザナファルド・ヴォルフガング・ドライフの遺言を儀式官から述べられた時、殆どの者が「理解できない」とでも言う感情を表に出していた。
ザナファルド皇王は生前から後継者を決めずに皇子たちを争わせ、その暗闘は第三皇子といった皇族のみならず多大な犠牲を出していた。
それは生存競争によりどちらが優れているかを見定めるためであり、その皇王の寿命というリミットを迎えた時最後の判決を下すものと思われていた。
──しかし、それは終わりですらなく、最大の骨肉の争いのスタートの合図に過ぎなかったのだ。
国中の民が飢餓に苦しむこの時期に?
<マスター>が各国に増え続けているこの情勢で?
誰が勝つとしても国力の大幅な低下は避けられない内乱に身を興じろと?
儀式官が偽の遺言を開示したと考えた方がまだ良いとすら感じるが、《真偽判定》はその発言を真実としている。
遺言は特殊な封蝋がなされており、【機皇】の転職にも関わるもので偽造・文書編纂も不可能だ。
「であれば、この場はもはや次期皇王を決める場所ではなくなったな」
誰もが前皇王の正気を疑い言葉を失う中、静かにそう言ったものがいた。
次期皇王として最有力とされながらも梯子を外された形となったグスタフ第一皇子だった。
獰猛に笑う
「本日の予定は遺言の開示とその後の次期皇王就任についてだったが……後者は現状不可能だろう。
その言葉を聞き、遅れて息子たちや甥も事の次第を理解したらしく、慌てて儀式官へと帰参の意を伝える。
「皇位継承権を持つ者同士で争え」──その言葉には兄弟どころか親子の間でも必要とあらば、皇王の座を望むのであれば骨肉の争いを起こせという意味すらある。
今や実子すらも裏切りの可能性を持つ相手ではあるが、第一皇子が敵として見ているのは第二皇子と──本日唯一この場にいない今は亡き第三皇子の子、ラインハルトだった。
皇王代行として国内の一切を取り仕切る第一皇子に対し、国境に領地を持つ第二皇子は特にカルディナとの繋がりが深く悩みの種である。
そして20にも満たぬ年で兄妹共に、ドライフにおいては重要な意味を持つ【機械王】【衝神】に就いているラインハルトとクラウディアの双子。
現皇族で唯一の超級職を持つ派閥(無論、配下の特務兵には他派閥にも超級職がいるが)であるが、他にも警戒すべき点があるとグスタフ第一皇子は考えている。
父である第三皇子が死亡した事件の後は二人して
ドライフが有する<超級>のマスターの内二人、【獣王】【破壊王】と親交がある点。特に【獣王】は必ずこちらの大きな障害となるだろう。
今はアルター王国にいる<デス・ピリオド>にしてもこの大事とあらば戻ってくる可能性が高い。
とはいえ、無論第一皇子の陣営に有利な点も多い。
特別な親交があれば別だが、それ以外のマスターは国家の一部……政争とは距離を置く場合が多い。
クランランキング一位、先日<超級>となったフランクリン率いる<叡智の三角>にしても国軍に【マーシャルⅡ】を納品しているが、その人数故素早く方針を決定することは出来ないだろうと推察されている。
その中でも所属する戦闘部隊の大戦力……決闘ランキング一位"
討伐ランカーにしても<超級>二人が圧倒的だがそれ以外のメンバーに関しては国に対してはドライな関係を築いている。
特に理由もなく首を突っ込んでくるマスターはそう多くはない。
──逆に言えば、
皇王代行としての権利は、国としてのクエスト発行の決定にも及ぶ。
(この事態を想定して既に依頼を行い領地に招聘したフリーの<超級>の戦力も合わせれば、【獣王】と【破壊王】にも届くだろう)
グスタフ第一皇子は敵手の力を過小評価せず、自ら持ち得る全てを持って戦力を整えていた。
──そして、クラウディアもまた味方の能力を
「──《ディストーション・パイル》」
突如反応した《殺気感知》に対応するより速く、強烈な衝撃がグスタフ第一皇子を貫いた。
「がっ・・・!?」
「クラウディア! 貴様何を……!」
突然の凶行にいつの間にか《瞬間装備》した槍を構えたクラウディアを非難する皇族の面々。
「だって──領地に戻られたりなんてしたら、地力でこちらに勝ち目なんてありませんもの?」
なんでもないことであるかのように言うクラウディアに対しその意図を察し、他の皇族は戦慄の表情を浮かべた。
(まさか、前提が違っていたとは、な……)
薄れ行く意識の中、グスタフ第一皇子は己が失念していた事にについて悔恨した。
【テレパシーカフス】等の通信手段もなく、ラインハルトからの指示もなくそれだけの判断ができるとは思っていなかったのだ。
……そして、その判断を下せた理由について考えを巡らせようとした時、グスタフ第一皇子の意識は暗転した。
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「……これでお兄様が次の皇王ですわね」
返り血を浴び、恐怖で尻餅をついている儀式官を気にも掛けず【衝神】クラウディア・L・ドライフは呟いた。
生を掴むため、国のため、世界のため、後悔はないが、それでも言葉とは裏腹に顔色は悪かった。
まるで、この後に待ち受ける大嵐を憂いているかのように──
「皇王継承戦の内乱……!?」
『正確には、正式に皇王を継承した後に反攻した貴族たちとの内戦だがな』
「お願いしますわ、レイ。『お兄様』を、ラインハルトを護ってください」
「……分かった。そっちも気を付けろよ、クラウディア」
風雲急を告げる、皇国政争に対し帰郷を決める<デス・ピリオド>
「ボクが調べたところによりますと、第一皇子が招聘していた【傭兵王】【車騎王】【大怪盗】、第二皇子の援軍としてカルディナが寄越した【砲神】【神獣狩】……計五人の<超級>が皇国に侵入しているとのことです」
「更に叔父様以外の特務兵も控えていると……」
『
皇国にて躍動する大戦力による<超級激突>
「カルディナの<超級>はこちらに任せて欲しいねぇ。"クラン一位"同士、という勝負にも興味があったんだ」
「フランクリン……ありがとう」
「これが、新しい【マーシャル】……!」
「こういった兵器開発こそ、【機皇】の本領です。本来軽々しく使うべきではありませんが、私たちを守ってくださる貴方に何もしない訳にもいきません」
絆が齎す力を手に、争いに挑む。
「……【グローリアδ】を使うかの?」
「あぁ、必要とあれば。ラインハルトを、クラウディアを護るためならば。頼むぞ、ネメシス」
「で、あろうな。もちろん分かっているとも。それがレイ、私のマスターなのだから、な」
これは、ドライフ皇国の転換の歴史の一幕。
無限に最も近しい<超級>の暴威吹き荒れる
<Infinite Dendrogram>二次小説、「並行世界の系統樹」
第四章 鋼鉄の姫君
2045年6月16日 投稿開始
う そ で す(四回目
フリー<超級>の情報欲しい
レイにゴーティエ姉妹丼とかアルター・ドライフ姫君丼を食べさせたい衝動に駆られる第四章嘘予告でした。
次回でラストの予定ですがまったりとお付き合いしていただけるとありがたい限りです。