ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト 作:hirotani
『ラブライブ! feat.仮面ライダー』とシリーズ化して良いものか葛藤はありましたが、読者様からの熱いお言葉を頂きまた作品の投稿をさせていただきます。本作は実験的な試みのため、どんな出来になるかは分かりませんが長い目で読んでいただけると幸いです。
よろしくお願いいたします。
始まりは、見慣れた海だった。
その日はいつもと同じ日和で、同じ海だと思っていた。
幼い頃から慣れ親しんだ、静岡県沼津市の内浦から広がる駿河湾の海。波の音も、1年の大半は頭に雪を被った富士山も、何も変わらない日常のありふれた風景だった。
けれどその日だけ、わたしはありふれた日常から外れた。
「千歌ちゃん、誰か倒れてるよ!」
わたしの親友が慌ただしげに海岸を指さしたのは、休日に沼津の市街へ遊びに行こうと家を出た朝のこと。楽しみ、という期待がまっさらに消えて、「待ってよ曜ちゃん」と親友の後を追って波打ち際まで走ると、確かに見慣れた風景の一点でその人は海水に身を浸していた。
「生きてる……、かな?」
まだ子供だった故の不謹慎さから、わたしは恐る恐るその人の顔を覗き込みながらそう言った。見たところ若い青年だった。濡れた長めの髪がうつ伏せの顔面に張り付いて、その顔が一定の間に押し寄せる波で洗われていく。
「引き揚げなきゃ」
親友の言葉で、わたしはまずやべきことを見出す。どれくらいの時間に青年が海を漂って内浦の海岸に流れ着いたのかは分からないけど、まだ海水が冷たい季節だから低体温症で危ない状態かもしれない。現に、そのときのわたし達はとても興奮して大声でまくし立てていたというのに、青年は微動だにせず砂浜に顔を埋めていたのだから。
「よいしょ」とわたし達は片方ずつ腕を掴んで、青年を波から引っ張り上げた。子供――といってもその頃はもう中学生だったけど――にとって青年の体はとても重くて、普段から運動をしている親友は平気そうにしていたけどわたしはすっかり息をあえがせた。砂浜に腰を下ろしたわたしの手を青年の手が握り返したとき、「うわあっ」と驚いて反射的に放り投げるように放してしまった。
微かな痙攣を起こしながら、ゆっくりと青年の目蓋が開けられる。緩慢に頭を持ち上げた青年はわたし達に気付くと、緊張感なんて無縁そうな笑みを浮かべて言った。
「靴が濡れちゃいますよ」
このときに抱いた気持ちは、今でも鮮明に思い出すことができる。確かに青年を引っ張り上げるときに靴を海水で濡らしてしまったけど、まさかそのことを心配されるなんて。ここはどこ、とか君たちは誰、とか疑問が飛んでくるとばかり思っていたのに。
この浜辺から、全てが始まった。
本格的にわたし達の物語が動き出すのはこの日から1年と半年も待たなければならなかったのだけれど、わたしにとっての始まりはこの出会いだ。
これを読むあなたにとっては既に知っている過去のことだから、少し退屈かもしれない。でも、わたし達が過ごした時間が一緒でも、わたし達それぞれが感じていたことは違うと思う。わたしは皆が感じていたことを知りたかったし、皆にも知ってほしいんだ。わたし達が何を想いながらあの頃を過ごしていたのか。わたし達の知らないところで、何が起こっていたのか。
これからわたしが語るのは、わたし達が伝説の輝きを追いかけ、わたし達自身の輝きを探し求めた物語。
輝きを力に変えた、アギトの神話の物語。