ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト   作:hirotani

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第3話

 

   1

 

 結局、連れて帰ってしまった。

 長方形の箱――ケージというものらしい――に押し込まれたままの犬は、外に出たがっているらしく前足で窓を叩いている。しー、と人差し指を口に添えるが、飼い主でもない梨子の言う事なんて聞いてくれるはずもない。

「ここまで運んできたけど、どうしよう………」

 犬は甲高く吼えている。こんなに鳴き声をあげて疲れないのだろうか。梨子だってライブで歌うと1曲でも疲れるのに。

「静かにして、まだお母さんにも言ってないんだから」

 飼ったことなんてないのだから、犬を泣き止ませる方法なんて分かるはずもない。お腹空いてるのかな、と思い善子から犬と共に押し付けられたビニール袋を探る。満腹になれば眠って静かになるかもしれない。善子が1番好きだ、と言っていた犬用ビスケットの袋を出す。それ、と言うように、犬は一際大きな声で吼える。

「ちょっと待って」

 とだけ言って梨子は食事の準備に取り掛かった。皿に骨の形をしたビスケットを適当な量だけ入れる。ケージごと犬を部屋の真ん中に置いて、その前に餌の皿を置いてやる。当然、そのままでは食べられない。ケージのドアノブにリードを括りつけると、

「わたしに近付いたら駄目だからね。ご飯食べるだけだからね」

 と念押しした上で部屋のドアまで下がり、伸ばしたリードを引いてドアを開けてやる。ようやく食事にありつけた犬はビスケットを数口ほど食べると、顔をあげて梨子のほうを向き小さく鳴き声をあげる。そのままこちらへ近付いてこようとしてきたので、梨子は咄嗟にドアを閉めた。何だか悪いことをしてしまった気分になってしまう。犬はただ梨子と遊びたがっていたかもしれないのに。そもそも、何で今日会ったばかりの梨子と遊びたい、なんて思うのだろう。

「敵と味方を見分ける、不思議な力か………」

 不意に、千歌の言っていた言葉を思い出す。一体何をもって、この子はわたしを味方と思えたのだろう。そんな疑問と共にそ、とドアを開ける。犬は食事を再開することなく、ドアから現れた梨子の姿を認めると尻尾を振り鳴いている。

 喜んでいるのかな。そう思ってみると、あまり恐怖はない。なるべく優しく、梨子は口に人差し指を添えた。

「し、よ」

 

 現場の工業区へ到着すると、警察がイグアナのような顔のアンノウンと銃撃戦を繰り広げているところだった。警察の銃弾を一方的に受けるままだが、アンノウンの纏う赤い鎧には傷ひとつも付いていない。

「変身!」

 光と共にアギトへ変身した翔一は、バイクの速度を上げアンノウンへと突っ込んでいく。肉迫してようやくアンノウンも警察もこちらの存在に気付いたようだが、もう遅い。気付いた次の瞬間に、バイクのカウルはアンノウンの体を突き飛ばしていた。

 バイクから降りた翔一を、アンノウンはぎょろりとした目で睨みながら立ち上がり向かってくる。人間の常識なんて優に超越した存在だ。バイクで轢いたところで倒せるとは思っていない。跳びついてきた敵の腹に拳を入れる。追撃の蹴りで突き飛ばしたところで、不意に背後から体を羽交い絞めにされた。新手か。振りほどこうとするが、逆に脇を固められ投げ飛ばされてしまう。

 地面に伏した翔一は素早く立ち上がりながら、並んで立つアンノウンの姿を認めた。見分けが殆どつかないほど似通った姿はまるで双子みたいだ。違いと言えば、後から現れた個体は青い鎧を纏っているだけ。

 深く息を吸い、翔一は燃え盛る業炎の戦士(バーニングフォーム)の力を解放する。体の底から炎を漏出させる翔一に向かってきたのは赤い鎧のほうだ。翔一の突き出した拳にごぽ、と奇声と共に血を吐き出す。無造作に脇へ捨てると同時、青い鎧が頭上の光輪から出した槍を突き出してきた。切っ先が顔面を突く寸前に掴み拮抗させる。だがそれは、パワーに比重を置いた翔一にとっては容易に振り払うことができた。

 ベルトから双刃刀を引っ張り出し、敵の武器に叩きつける。金属のぶつかり合う音と共に火花が散り、今度こそ叩き折ろうと振り上げたとき、助太刀に来た赤い鎧によって引き剥がされる。そのパワーも、今の翔一にとってはさほど脅威ではない。腹に拳を打ち、胴を肩口から双刃刀で斬り裂いた。

 赤い鎧を血で更に赤く染めたアンノウンが、爆散して消滅していく。残ったもうひとりの標的に目を向けると、分が悪いと判断したのか青い鎧は口から白い霧を吹き出した。まるでタコやイカが墨を吐くように辺りの視界が遮られ、風で流される頃には敵の姿が工場の陰へ消えていく。

 バイクに跨り、翔一はすぐに追跡を開始した。敵の気配は、まだ残り香のように残っている。パトカーのサイレンがけたたましく響いている。警察もアンノウンの追跡にあたっているらしい。巻き添えを食わせてしまうのも面倒だから、追跡の目印にされないよう翔一は力の波を引かせ元の姿に戻る。

 このとき、警察はアンノウンを追っている、と翔一は疑わなかった。まさかパトカーが脇道から飛び出して急停止し、進路を塞いでくるだなんて予想もできるはずがない。Uターンしようにも、後方からもパトカーが数台押し寄せて足止めを喰らう。そればかりか、降りた警官たちは皆一様に拳銃を翔一に向けている。

「アギト、あなたの身柄を拘束します」

 車のドアを盾にするようにして、北條が銃口を向けながら言った。

「あれ、北條さん。何かあったんですか?」

 ヘルメットを脱いで尋ねると、北條は僅かに目を見開いた。

「あなたは……、津上翔一………!」

「やだなあ北條さん怖い顔して。やめて下さいよ銃なんか向けて」

 いつもの調子を崩さない翔一に対し、北條も拳銃の構えを崩さない。

「我々はアギトを追跡していました。そしてこの道は1本道だ。つまり、あなたがアギトである可能性は高いということになる」

「あぎと? 何ですかそれ? 俺夕食の買い物に行かなくちゃいけないんで――」

「動くな!」

 ヘルメットを被ろうとしたところで、銃を向けている警官のひとりから怒声が向けられる。そこで翔一は、自分を取り囲む警官たちの顔をひとりずつ見回していく。

 拳銃を手にする彼らの顔にあるのは、恐怖と疑念だ。アギトという未知との遭遇。本当にアギトなのか、と。

 銃を懐に収めた北條が近付いてくる。

「津上さん。あなたがアギトでないならば、それを証明するために我々に協力してもらえませんか? 任意同行してもらいたいのですが」

「まあ、それは良いですけど………」

 

 

   2

 

 ぼこん、と吐いた息が、泡になって上へと昇っていく。一切の光が射し込まないこの海の底で、上へ上へと昇り続ける自分の息は、永遠に水面に届かないままなのでは、という錯覚にとらわれる。眠ろう、と涼は抱えた膝に顔を埋める。この静かな暗闇の中なら、ずっと穏やかに眠っていられそうだ。

 

 ――ごめんなさい――

 

 水の中なのに鮮明なその声に、涼は目を開く。何も視えないはずの海の底に、涼と同じように膝を抱えている者がいた。緑色の筋肉に、額から伸びる双角。赤いふたつの目。もうひとりの自分とも言うべきその姿と対峙して、涼はただ醜いな、と思った。

 目の前に座っているギルスの体が、眩い光を放つ。まるで翔一や木野が変身するときと同じような光。何故俺には、あんな光がないのか。そんなことを思っていると光は晴れて、そこにはギルスの醜さとは真逆な、幼い少年が座っていた。一切の染みがない顔は悲しさを貼り付けていて、ごめんなさい、と再び幼な声で懺悔する。

 

 ――君を苦しめたくなかった――

 

 無垢なその声は、涼の中に沸々と怒りを込み上げさせる。立ち上がると、涼は少年の胸倉を掴む。

「何故だ。何故俺にこんな力を」

 大人に詰め寄られても、少年は微塵も怯える様子を見せず、ただ悲しげな目で涼を見返す。

 

 ――君を助けたかった。でも、そのために僕が目覚めるには早すぎたんだ――

 

 弁明なんて聞きたくない。過ぎたことは仕方のないことだ。涼が知りたいのは意味。この力を持つことの意味だ。

「何故俺なんだ。何故俺が………」

 少年は告げる。悲しい目のまま無情に。

 

 ――意味なんてない――

 

 唖然とし、胸倉から手が離れる。

 

 ――意味なんて無いんだ。ただ偶々、君の中に僕が宿った。それだけの話なんだ――

 

 何らかの、神の意志なんてものは介在しない。貧乏くじを引かされただけの話。「ふざけるな!」と怒鳴った。その偶然のせいで俺がどれだけのものを失ったと思ってる。散々失って、これからも失い続けて、それを偶然で済まされてたまるか。

 殴りかかろうと拳を振り上げたとき、涼の体は勢いよく上昇を始めた。まるで釣り糸で引っ張り上げられているみたいだ。少年の姿がどんどん小さくなっていく。彼の姿が完全に見えなくなるその寸前に、声はしっかりと届いていた。

 

 ――僕は君を助けたい。それだけは、分かってほしい――

 

 目を開く前に涼が捉えたのは、騒がしい物音だった。がしゃん、と乾いた金属らしきものがぶつかる音がする。同時に呻き声も。

「雅人……、雅人か!」

 目を開くと、視界いっぱいに白んだ光が広がる。その眩しさにようやく慣れ、自身に落ちる光が無数の電球によって織り成された照明だと分かる。

「何故だ、何故邪魔をする………、雅人!」

 重い頭を動かし、声の方向を向く。緑色の手術着を着た医師が、右腕を掴んで苦しそうにもがいている。床にのたうち回っているせいで、周囲の器具が床にばら撒かれている。

 マスクで口元を覆っているが、その目元は身間違えようがない。

 木野薫。

 そう認識すると、朧気だった意識がはっきりとする。同時に、彼が自分にしようとしていた恐ろしい行為も。

 口元の酸素マスクと、腕の点滴の注射針を乱暴にはぎ取って、手術台から降りる。手術室から出る涼を、木野は追ってはこなかった。準備室で脱がされていた服を見つけて着ると、外を目指して走ろうとする。

 胸がひどく痛み、しばし床に伏せて悶絶した。そうだ、俺は奴の蹴りを喰らったんだった。遅れて思い出し、ゆっくりと立ち上がる。肺もやられているのか、呼吸する度に患部が痛んだ。

「大丈夫ですか?」

「どけ!」

 玉汗を浮かべてのそのそ歩く涼に看護師が手を差し伸べてくれたが、乱暴に振り払って歩き続ける。階段を降りている途中、脚の力が抜けて崩れるように転がり落ちる。患部を打ったせいで激痛が走り、粗い呼吸を繰り返し飛びそうな意識を保とうとする。

「涼!」

 階段を駆け下りて来たのは、果南と鞠莉だった。

「どうしたの涼? 何があったの?」

 鞠莉が肩に腕を回してくれるが、「もういい」と乱暴に振り払い手すりに掴まって立ち上がる。

「もう沢山だ!」

 そう、もう沢山だ。何もかも。誰かの手にかかって引導を渡されるくらいなら、ひとりでどこか誰もいない場所で果てさせてほしい。

 涼の願いとは裏腹に、果南は寄ってくる。

「涼!」

「来るな!」

 怒鳴ったせいで、尚更怪我が痛んだ。「もう!」と果南は涼の右腕を肩に回す。左腕も鞠莉に支えられ、振り払おうにもそれほどの力さえ涼にはない。

「ほんと意地っ張りなんだから」

stubborn(強情)も大概にしなさい」

 少女ふたりに支えられ、涼はもたれる脚で進み続ける。歩きながら、視界がぼやけてきた。意識も混濁してきて、果たしてこれが夢なのか現実なのか曖昧で、やがて疑問すらも消えていく。

 体が揺れる感覚と痛みだけが残っていたが、目を閉じるとそれも全て消え失せていった。

 

 

   3

 

 署に戻ってから、通常業務と会議に忙殺されるあまり、午前のカフェでの出来事について話し合う頃には陽が暮れていた。

「葦原涼はアギトの力を持ちながら邪悪な存在だって?」

「はい」

「それで、どうするつもりなの?」

 小沢の問いに、げんなりしながら誠は応える。

「探してみるつもりです。それで木野さんが赦してくれるなら」

「赦すも何もあなたは何も悪いことはしてないじゃないの」

 ぴしゃり、と小沢は言う。

「大体葦原涼なる人物が邪悪なる者だ、てそれも怪しいもんだわ」

 それが嘘だとして、何故木野がそんな嘘をつく必要があるというのか。あれ程の純粋な人間が、誰かを陥れ利用するとは到底思えない。

 反論しようとしたところで、誠のスマートフォンが鳴った。画面には木野の名前が表示されている。すぐに通話に応じた。

「木野さん? 氷川ですが」

『その後、何か分かりましたか? 葦原涼について』

「いえ、まだ何も……。すみません」

 「貸しなさい」と小沢に端末を奪われる。

「あなた何か勘違いしてるんじゃないの? 警察はあなたのために働く組織じゃないのよ。もしもし、聞いてる?」

 通話が切られたらしく、小沢は端末の画面を忌々しそうに一瞥すると誠に返す。

「何よこれ、失礼な奴ね」

「失礼なのは小沢さんじゃないですか。何もあんな言い方しなくても………」

「あなた、本当に最近逆らうわね」

 説教でもされるのでは、と身構えたが「まあいいわ」と小沢自身が回避する。

「とにかく、私が思うに木野薫はアギトではないわね」

「アギトではない? 何故そんな風に思うんです?」

「今までアギトは私達に何も求めてはこなかった。もしアギトが警察を利用したいのなら、もっと前に接近してきたんじゃないかしら?」

「でも、僕はこの目で見たんですよ。木野さんがアギトであるのは間違いありません」

「そうね。でも、もしアギトがひとりではないとしたら」

 思いもよらない仮説に、誠は震える喉元で反芻する。

「アギトが、ひとりではない……?」

「その可能性は十分あると思うけど」

 アギトがふたり。これまで誠が目撃してきたアギトは、木野とは別人かもしれない。確かに辻褄は合うのかもしれないが、あまり現実味があるとも思えなかった。

 アギトそのものが、不可解極まりない存在なのだから。

 

 また警察署の取調室かな、と思っていたのが、翔一が北條に連れてこられたのは沼津市内の総合病院。それも精神科だった。もう診察時間を終えた病院は静かなもので、精神科の診察室は病院というより応接間のようで調度品らしいソファは署で取り調べを受けたときの硬い椅子よりは快適だった。

 聴取は北條と、病院の医師同席で行われた。何でお医者さんが一緒なんだろう、と疑問には思ったが、警察には警察の事情があるのかもしれない、と深くは考えなかった。ただアギトであることを否定すればいい。隠し通せば家に帰してくれるだろう。

「あなたはアギトだ。正直に言ってください。けして悪いようにはしませんから」

「だから違いますって」

 北條からこの質問をされるのも何度目だろうか。流石に疲れてきた。

「何故アギトであることを隠すんですか?」

 と中年の男性医師が訊いてきた。「それは――」と口を開いたあたりで、咄嗟につぐむ。

「おっと危ない危ない。引っ掛かりませんよ。そんな質問に答えたらアギト、てことになるじゃないですか」

 我ながらファインプレー。そう得意げに思っていたのだが、

「ということはアギトなんですね? 今答えようとしていたではありませんか」

「え、そうなりますか?」

 北條からそう言われ、翔一は考える。質問に正直に答えてしまえばアギトということになって。でも今答えなかったけど答えようとした時点でアギトと白状したことになって――

「ややこしいなあ」

 考えすぎて知恵熱が出てしまいそうだ。面倒臭くなって頭を掻きむしり、翔一は観念する。

「分かりました、もういいです。正直に言います。ちょっと耳を貸してください」

 手招きすると、北條と医師は顔を近付けてくれる。これまで隠してきた――別にそのつもりはなく成り行きでそうなってしまったのだが――事実の告白を、翔一は小声で意を決して明かす。

「実は俺、アギトなんです」

 ああ言ってしまった。案外あっさりと言えるもんだな、と思うとつい笑ってしまう。帰ったら志満と美渡にも言うべきだろうか。そうなると梨子の母とか近所の支度している人々にも言ったほうが良いかな、と思った。

 

 秋の澄んだ空気が、宵闇に月明りを落としている。肌寒さに身震いしながら、果南は錆びた鉄柵を越えて誰もいない工場へ入る。幼い頃に鞠莉やダイヤと侵入してかくれんぼをしていた場所が、こんなことに役立つなんて思ってもみなかった。

 かつて休憩室として使われていた部屋は畳が腐っているけど、仮眠用なのか毛布が放置されていたのは助かった。病院に比べたらひどく劣悪な環境だが。せめて家で寝かせてあげられれば良いのだが、なるべく突き止められそうな場所は避けたい、と鞠莉と話し合った末に、この廃墟に落ち着かせることになった。

「どう?」

 汚れた毛布の上に横たわる涼を見ながら、彼の傍にいてくれた鞠莉に尋ねる。鞠莉は首を横に振り、

「変わらないわ」

 深く溜め息をつきながら、果南も鞠莉の隣に座る。コンビニで買ってきたタオルの包装を解くと、涼の体に浮かぶ汗を拭いてやる。患部の痣は、以前よりも範囲を広げていた。病院で処置を受ける寸前に、手術室から逃げたのだろう。

「何でこんなことに………」

 果南の誰に向けてなのかも分からない問いに答えたのは、唇を噛んでいた鞠莉だった。

「薫よ。さっき涼が言ってたの。彼の手術(オペ)をしようとしたみたい」

「薫、て――」

「あの時、わたしと涼を襲った人」

 果南は思い出した。ホテルオハラで鞠莉たちを追っていた、血走った目をした男を。

「あの人、お医者さんだったの?」

「ええ。きっと病院が何も知らずに呼んだのよ」

「何で……、何でその人が涼を襲うの?」

「アギトだからよ」

 聞けば聞くほど分からない。鞠莉は泣きそうな顔をしながらも、懸命に言葉を絞り出す。

「薫は、自分以外のアギトの存在が赦せない。涼とわたしと、きっと果南も狙われる」

「自分以外、て……、その人もアギトなの?」

 鞠莉は首肯する。翔一と涼以外にも、アギトの力を持つ者が存在する。その事実を知り、更に疑問が沸いてきた。

「でもどうして、だからって何で鞠莉やわたしまで?」

「わたし達も、いずれアギトになるから」

 開いた口が塞がらなかった。息をするのも忘れ、気が付けば自分の掌を見つめている。鞠莉は辛そうにしながらも、続けた。

「わたし達の力は、アギトになる前兆なの。わたし達だけじゃないわ。ダイヤも、Aqoursの皆も、アギトの力が目覚めようとしているのよ」

 以前から戸惑っていた、不思議な力。手を使うことなく物を動かし、視えるはずのないものが視える。その力の行きつく果てが、今目の前で苦しんでいる涼と同じ境地なのか。想像するだけで、背中に悪寒が走った。涼のように苦しむ。こんな苦しみに、自分は耐えられるのか。

 びくん、と涼の体が仰け反った。突然のことに鞠莉と揃って短い悲鳴をあげる。涼は重そうな目蓋を持ち上げ、途切れ途切れに掠れた声を絞り出す。

「逃げろ……、奴が……奴が来る………」

 

 

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