ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト 作:hirotani
1
コンクリート製の倉庫は夜風に吹かれたせいか、中はすっかり冷え込んでいる。海水を被ったからシャワーを浴びてきたのだが、移動中にすっかり鞠莉の体は湯冷めしてしまった。
匿っていた区画に入ると、彼は鞠莉たちが被せた毛布をどかしているところだった。
「涼!」
真っ先に駆け寄ったのは果南で、自力で重そうな体を起こす彼を支える。「目覚めたのね」「良かった、本当に」と鞠莉とダイヤが呼びかけるも、涼は不思議そうに自分のいる倉庫内を見渡す。まだ額に汗を浮かべているが、その目にはしっかりと生気が感じられる。良かった、と安堵に浮かびかけた涙を指で掬った。
「ここは?」
まだ苦しそうな声で涼は訊く。「それよりも」と冷静なダイヤが問いを遮る。
「葦原さんを安全な場所に連れて行きましょう」
「そうね」と鞠莉も頷く。峠を越した今、涼をここに置いておくのは危険だ。
「でも、どこに?」
果南が訊くと、ダイヤは迷わず即答する。
「ひとまずわたくしの家に。鞠莉さんと果南さんの家では気付かれるでしょうから」
議論の余地もなく、その提案に鞠莉と果南も同意した。3人で涼の体を支えて、倉庫の出口まで連れて行く。涼は拙いながらも立てるまで回復しているようで、ここに匿う時よりは楽に移動することができた。出口までの道中はそう長くはなかったが、鞠莉の脳裏に渦巻く問いは永遠に続くようだった。
あの時に現れた男は、涼が力を完全なものにしようとしている、と言っていた。
力のお陰で涼は峠を越すことができたが、果たしてそれは彼にとっては幸福なのだろうか。益々人から遠ざかって、それでも彼は「自分」という意識を保ち続けられるのだろうか。
鞠莉にとって最も不安なのは、アギトの力がもたらす末路。人でなくなった者は、意識まで人から遠ざかってしまうのか。もし怪物になってしまうのなら、アギトがこの世界に生きる意義はどこにあるのだろう。
謎の男が語っていた、アギトのもたらす「可能性」とは――
思考を吹き飛ばすように、一陣の海風が吹く。考えているうちに外へ出たらしい。瞬間、果南かダイヤか、あるいはふたりともなのかは定かじゃないけど、息を呑む声が聞こえ、鞠莉は俯かせていた視線を上げる。
夜の埠頭に気休め程度に設置された街灯の光の下。そこで、彼はやれやれ、とばかりに嘆息しサングラスを外す。
「馬鹿な奴らだ。わざわざ俺を、ここまで案内してくれるとはな」
「木野……!」と涼は目を剥く。薫はゆったりとした足取りで鞠莉たちへと歩く。その腰にベルトに似た器官を出現させながら。
「今度は逃がさん。お前を倒し、津上を倒し、俺は最強唯一のアギトになる」
光を放ち、薫はアナザーアギトに変身する。その変貌を見届けるよりも速く、鞠莉たちは涼を支えながら脚を速める。振り返れば、焦る様子もなしに歩くアナザーアギトの赤い目が、しっかりとこちらへと向けられている。まるで獲物を狙う獣。標的を定めたアンノウン。
薫はアンノウンと同じになってしまった。
その力を他のアギトを葬るために扱う存在へと。
「果南さん、津上さんを!」
ダイヤが指示を飛ばし、即座に果南がスマートフォンを耳に当てた。相手はすぐに出てくれたらしく、早口でまくし立てる。
「千歌? 翔一さんに代わって!」
2
今すぐ沼津港に来て。
そろそろ寝ようと思っていたときの連絡だったが、翔一は電話口で果南から事情を聞かずにすぐバイクを走らせた。アンノウンなら気配が分かるはずだが、今は全く感じられない。
だとしたら、あのアギトが――
アクセルを捻ると共に、自身の中にある「アギト」を表層化させていく。
「変し――」
「津上さん」
その声に一旦力を引っ込め、ミラーを見やる。映っているのは、白バイに青い鎧を纏った警察官。
G3-X装備で現れた誠は翔一の横に付き、
「どこに行くんです?」
「え、あ……、ちょっと買い物に」
言ってすぐしまった、と思った。こんな深夜に空いているスーパーが沼津にあるものか。だが出動するほどの緊急事態からか、誠を騙す事はできたらしい。
「スピードの出し過ぎです。気を付けてください」
「あ、はい」
アクセルを緩めると、誠の白バイはサイレンを鳴らし港の方向へと走り去っていく。その姿がようやく見えなくなったところで、翔一は再びアクセルを捻った。それでは気を取り直して、
「変身!」
近隣住民よりアンノウンらしき生物の目撃あり。
その通報を受け沼津港まで出動してきたのだが、港の倉庫区画で誠が目にしたのはアンノウンではなかった。
《認定 アギト》
AIの目にもそう映っているらしい。まさか、と標的にされた者たちへ目を向けると、暗視センサーははっきりと視界ディスプレイに顔をズームする。
鞠莉と果南と、確か黒澤ダイヤ。彼女たちに支えられているのは葦原涼。そうなればあのアギトは、木野薫と見て良いだろう。
彼女たちは埠頭の先端にまで追いやられていて、既に海以外に退路を断たれた状態にいた。アナザーアギトは獲物が網にかかったとみているのか、悠然と歩き獲物との距離を詰めている。
涼の肩から離れた鞠莉が、既に数メートルまで迫るアナザーアギトに掴みかかった。華奢な彼女の力で、異形の存在に敵うはずもない。胸倉を掴まれ、無造作に投げ捨てられてしまう。「鞠莉!」と果南とダイヤは地面を転がる友人へ目を向けているが、すぐにアナザーアギトへ険しい視線を向けた。助けに行きたいが、涼を見捨てられずにいる。
もう誠に迷いはなかった。木野薫がアギトであることは認める。でも、彼は今まで誠と共に戦ってきたアギトじゃない。同じ力を持ちながら、その力を邪悪な意志で振るう怪物だ。
GM-01を手に駆け出す。背中に数発銃弾を撃ち込んだが、強靭な筋肉に全て弾かれてしまう。あちらが振り返ったところで拳を振るうが、あっけなくいなされ腹に肘打ちを叩き込まれる。
「逃げて!」
すぐ近くにいる彼らに叫ぶと、腹に抱えた敵の腕を掴み埠頭の中腹へ追いやっていく。距離はそう大して離すことはできず、誠の体はアナザーアギトの剛腕でいとも簡単に振り払われた。咄嗟にGM-01を向けたが右手ごと掴み捻り上げられ、胸に膝蹴りを喰らい装甲が火花を散らした。続けざまに殴り飛ばされ、ほんの数舜の浮遊感を経て倉庫の壁に激突する。コンクリートの瓦礫を撒き散らしながら起き上がろうとしたところで、AIがマスクの中でアラートを鳴らした。
《GM-01 ロスト》
咄嗟に顔を上げて目に入ったのは、アナザーアギトが持つ武器の銃口。装備の中でも威力は低い方だが、いくらG3-Xでも装甲が脆弱な部位を狙われたら無事では済まない。
その時、バイクのエンジン音が埠頭に響いた。アナザーアギトの興味は音のほうに逸れ、目を向ける。視線を追うと、その先にはバイクに乗ったもうひとりのアギトがいた。いや、誠からすれば、あれこそが真のアギトと言うべきか。
「現れたか」
呟くと、アナザーアギトはGM-01の銃口をアギトへ向けトリガーを引く。アギトのバイクはGM-01の弾丸を弾くほどの強度があるようで、乗り手は直撃を避けようとカウルに頭を沈める。
『GM-01、トリガーカット』
スピーカーから小沢の声が聞こえる。運用にあたって、武装が敵の手に渡った際の対策も講じられている。管理官である小沢の指示で発砲が禁じられれば、遠隔操作でGM-01の引き金はロックされる。
『カットできません!』
尾室の情けない声が聞こえた。『何ですって?』という小沢の驚愕も。アナザーアギトは依然としてGM-01を発砲し続けている。引き金のロックよりもアナザーアギトの握力が上回っているということか。
バイクから跳び降りたアギトは、鎧を
武器の射程範囲に入り、アギトはハルバードを構え直す。切っ先を突き出そうとしたとき、アナザーアギトはGM-01の銃口を逸らした。その行動の意味を理解してか、アギトは動きを静止させる。GM-01の銃口の先。そこにいるのは、倉庫の壁に背を預けたまま動けずにいる涼と、彼の意識を保たせようと呼びかける果南とダイヤだった。
「動くな。少しでも抵抗すれば、奴らの命はない」
「薫、駄目!」
そう叫んだのは鞠莉だった。戦いの渦中へと駆け寄ろうとする彼女へと、アナザーアギトは銃口を移す。
「お前もすぐに後を追わせてやる」
アギトが武器を引くと、間髪入れずにアナザーアギトは裏拳を顔面に見舞った。重心を崩されよろけるアギトに、更に鳩尾へ蹴りを入れる。加勢しようと誠は駆け出すが、すかさずアナザーアギトの発砲したGM-01の弾丸によって胸部装甲が穿たれる。アナザーアギトは誠にはそれ以上の攻撃はせず、すぐにアギトへと向き直った。あくまで彼にとって敵はアギトで、ただの人間でしかない誠は脅威にはならないらしい。
ろくに反撃できないアギトはされるがまま殴打を喰らい蹴り飛ばされてしまう。地面を転がるその体が光を放ち、収束すると人間の姿になる。
初めて見るはずの、アギトの正体。だがその顔を見て誠は絶句のあまり、今がオペレーション中だということを忘れるほどだった。何故なら痛みに悶絶しているその顔は、
「津上さん⁉」
それは紛れもなく津上翔一だった。十千万を訪ねると朗らかな笑顔で出迎えお茶を出してくれた、エプロンを着慣れた青年。
起き上がろうとした翔一の胸を、アナザーアギトは踏み付ける。
「そんな……、何で………何で津上さんが………」
目の前で翔一が銃口を突き付けられているというのに、誠は動かず脳裏で疑問を渦巻かせているばかりだった。
「最後だ」
アナザーアギトがGM-01の引き金に指をかける。誠の目の前で、正しさの象徴とも言える力が越えてはならない一線を越えようとしている。
不意に、咆哮が港に響き渡る。
それは産声とも呼ぶべき声だったのかもしれない。この場にいるもうひとり、「アギト」に近い存在でありながら別物になってしまった者の。
深いまどろみの中で、涼は海面を目指して泳いでいる。確かに光は視えるのだが、それは遠くいくら水を掻いても届く気配がない。それでも確かに光はある。現に視えているのだから。懸命に手を伸ばし、水の抵抗を掻い潜りながら上へ上へと昇ろうとする。
激しい水流が、押し潰すように涼を下へと押し戻した。砂地に伏せられ、また浮かぼうと立ち上がったところで声をかけられる。
――今の君じゃ無理だよ――
あの子供だった。
「それは俺が決めることだ」
――どうして、抗おうとするの?――
無垢な声で訊かれ、涼は子供の前に立つ。
「お前は言ったな。意味なんて無い、と」
少年は無言で頷く。不幸が幸福を得るための試練だなんて、誰が言い出したことなのだろう。不幸に遭ったところで、幸福になれる保証なんてどこにもないのに。
そんなものは、惨めさに耐えられなかった先人たちが、神なんて無責任なものに縋り付いたまやかしでしかない。何か絶対的な力が、必ず救いをもたらしてくれる。そう思い込むことで、無意味さの空虚から逃れようとしただけだ。
この力が何らかの意志で与えられたものだとしても、本質は何の意味も持たない。
「それでも俺は意味を探す。俺が俺であるためにな」
所詮はまやかしでも、現実逃れでも言えばいい。意味なく生きることに耐えられないのが弱さなら、それも受け入れるさ。元々俺は弱かったからな。意地っ張りで弱虫だ。
――なら、僕も連れて行ってほしい。それで君が意味を見つけられることができるなら――
少年の姿がギルスへと変わっていく。アギトと同じ力のはずが、翔一のような光を持たない醜悪な生き物。ただ生きて死ぬだけなのは御免だ、と抗ってきたが、皮肉にもこいつは俺を助けたかったなんてな。
ギルスのほうから涼へは近付こうとはしない。向こうはとうに受け入れる準備が整っている。
――涼、海を受け入れろ。そうすれば海もお前を受け入れてくれる――
父の言葉を思い出す。ああ、受け入れてやるさ。こいつだって、俺の1部だからな。
涼はゆっくりとギルスへ近付く。涼が手を伸ばすと、ギルスのほうも手を伸ばす。指先同士が触れ合うとギルスの体が泡立ち、無数の気泡になって崩れていく。気泡は全て涼へ向かって漂い、鼻と口から体の中へと入っていく。まるで肺に空気をたっぷりと入れたように、体が浮いた。見上げれば海面から射し込む光が、次第に大きくなっていく。
光が全てを塗り潰し、まるで吸い込むように涼の体を引き寄せていく。
か、と目を見開き、涼はゆっくりと立ち上がった。先程まで鞠莉たちの支えなしに立つことなんてできなかったのに、その脚は力強く涼の体を支えている。やった、と鞠莉は歓喜に裡を満たしながら涼へ駆け寄ろうとしたが、彼から滲み出る違和感に脚を止める。傍にいる果南とダイヤはそれを間近でひしひしと感じ取れるらしく、困惑を顔に貼りつけながら涼を見上げている。
「ううおおおおオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアッ‼」
大口を開けて咆哮しながら、涼はその肉体をギルスへと変貌させていく。緑色の筋肉を隆起させ、額から角を伸ばし目は赤く充血させる。それでも裡から止めどなく溢れるものを発散させるように、彼の咆哮は止まらない。
胸の中央が、まるで瞳を開くように割れた。皮膚を裂いて、中から黄色い玉がぎょろり、と輝きを放つ。踵の膨らみが伸びて鋭い尖刀になり、手首にある突起も鋭い刃になった。変化はそれだけに収まらない。肘や肩の関節からも、皮膚を突き破って血に塗れた刃が伸びた。動かなくても周囲を切り裂きそうなその姿に、果南とダイヤは腰を抜かし動けずにいる。
「
震える唇で鞠莉は呟いた。地獄から這い出て、地上を蹂躙すると伝えられている怪物。古代人たちが怖れた終末をもたらすようなあの姿が、
涼の変貌に、薫は驚愕のあまり翔一を踏んでいた脚をどかした。銃口から逃れた翔一も、叫び続ける涼に目を剥いている。
ひとしきり叫んだ涼は傍にいる果南とダイヤには目もくれず、近くに停めてあった車の窓に手を突っ込んだ。ガラス片を散らしながらフレームを掴み、片手で車体を動かす。あまりの怪力にサイドブレーキが破壊されたようで、制御を失った車は真っ直ぐ薫に向かって走り出す。
薫は逃げようとはせず、誠から奪った拳銃を向け発砲した。ボンネットに無数の穴が空き、散った火花がエンジンに循環していたガソリンに引火して爆発を起こし夜の闇を照らす。自ら起こして爆発で浮いた車体は轟音を上げて地面に衝突し、今度はタンク内の燃料を得て更に大きな爆発が起こる。周囲に吹く熱風と炎の眩しさに、鞠莉は一瞬だけ目を逸らす。
再び目を向けると、薫の背後に涼は立っていた。薫はすぐに気付いて銃を構えるも、涼の足は銃口が向くよりも速く薫の手から銃を蹴り払う。薫は腹に膝蹴りを受け、その体を僅かに浮かせた。その一瞬で、涼の蹴りが腹に沈み突き飛ばされる。あまりの重さに、地面に伏した薫はごほ、と咳き込んだ。
涼の背中から、太いムカデのような触手が伸びた。起き上がった薫の体に絡まり、動きを完全に封じてしまう。
「葦原さん!」
駆け出した翔一が、腹に渦巻く光を出現させる。再びアギトへ変身しようとする彼に、涼は僅かに顔を向け、
「手を出すな!」
言葉が発せられたことに、翔一は驚愕に足を止める。力を納めてか、腹の光も消滅した。
「こいつとのケリは、俺が付ける!」
涼は薫との距離を詰めていく。拘束から逃れようと薫はもがくが、動けば動くほど触手は彼の体をきつく締め上げていく。自分を殺そうとした男。その因果に報いようと、涼は手首から伸びた尖刀を突き付けようとする。その切っ先が薫に触れようとした寸前で、鞠莉は叫んだ。
「やめて!」
ぴた、と涼の動きが止まる。
「涼、殺さないで!」
涼の赤く染まった両眼が、鞠莉へと向けられる。その姿はやはり恐ろしく、体の震えが止まらなかった。でも彼は黙示録の獣なんかじゃない。いくら姿が変わっても、中身は葦原涼のままだ。
怪物でも、アギトでもない。全く新しい生命体になった涼は手を引っ込め、薫を締め上げていた触手も緩め背中に収める。
だからといって全てを赦せるほどの聖人君子でもない涼は、せめてもの応酬とばかりに重い蹴りを入れた。防御の姿勢を取れなかった薫の体は宙を浮き、背後に広がる海に飛沫をあげて落ちていく。
肩で息をする涼の筋肉が、縮むように細身になっていく。緑色だった体は以前と同じ人間としての姿を取り戻す。しばしの逡巡を挟んで、涼は薫の後を追うように整ったフォームで海へと飛び込んだ。
3
誠がひとり呆然としている間に、騒動は収束していたらしい。気付いた頃には木野薫も葦原涼たちも、そして翔一も姿を消していて、ひとり取り残された誠は現場に放置されていたGM-01を回収しGトレーラーに帰還した。
戻って何の気なしに「お疲れ様」と労いの言葉をかけてくれる上司と顔を合わせると、怒りが突沸してくる。誠はマスクを脱ぎ捨て、
「どういう事なんですか小沢さん!」
「な、何よ……」
「何で言ってくれなかったんです津上さんがアギトだって! どうして‼」
「そんなこと言っても――」
「やめてください氷川さん!」と尾室が割って入り、
「殴るなら、僕を殴ってください!」
ならお望み通りに、と鋼の拳を握りしめる。岩も打ち砕くほどの強度なのだから、人間の頭なんてシュークリームのように潰せる。啖呵を切っておきながら怖気づいた尾室は「う、嘘です。すいません」と薄笑いしながら小沢を盾にするように突き出す。「ちょ、ちょっとあんた――」と小沢は文句を言おうとしたが、誠が「小沢さん」と再び詰め寄ったことで遮られる。
「落ち着きなさいよ。大体、津上翔一がアギトだから、て私のせいじゃないんだから」
「それは、そうですが………」
正論を並べられると、急速に頭が冷えていく。確かにこればかりは小沢に非は無い。それでも、と誠は未だに納得できずにいた。今まで誠の窮地に颯爽と現れ助けてくれたアギトが、戦いとは無縁そうな津上翔一と同一人物だなんて。混乱が収まらない脳裏には、馬鹿げた予想、もとい妄想ばかりが膨らんでいく。
そもそも、あの時誠が見た青年は本当に翔一だっただろうか。他人の空似というのも有り得る。いや、翔一が本当にアギトだったとしても、彼は言うなれば3人目のアギトで今まで目撃した第1の個体とは別人かもしれない。
「はい。出場グループの中では、生徒数が1番少ない」
『確かに不利ですね』と、電話の奥で聖良は嘆息気味に、
『圧倒的なパフォーマンスを見せて、生徒数のハンデを逆転するしかない』
「ですよね………」
Aqoursならきっとできます、と言わないのが聖良らしい。こうして相談する間柄ではあるけど、友人以前に自分たちはラブライブで競う仲。今回がラストチャンスの聖良にとってはAqoursが潰れてくれたら競争相手が減って好都合なはずだが、律儀に千歌の相談に乗ってくれるのは感謝しかない。
もしかしたら、小細工なしにSaint_Snowが勝つ、という自信の下なのかもしれないが。
「でも圧倒的、て………」
言葉を詰まらせていたところで、バイクの音が聞こえた。障子を開けて廊下の窓から見下ろすと、翔一が帰ってきたところだった。果南から連絡を受けてすぐに飛ぶように出て行ったが、またアンノウンが出たのだろうか。
考えているうちに聖良の声が聞こえ、千歌は耳元に意識を戻す。
『それは、上手さだけではないと思います。むしろ今の出場者の多くは、先輩たちに引けを取らない歌とダンスのレベルにある』
そういえば、以前にもダイヤが言っていた。スクールアイドルの人気はラブライブが始まってから爆発的に高まった。それに伴いスクールアイドルの数も膨らみ続け、業界全体のレベルを向上させている。
『ですが、肩を並べたとは誰も思っていません。ラブライブが始まって、その人気を形作った先駆者たちの輝き。決して、手の届かない光』
スクールアイドルというコンテンツを普及させ、ひとつの時代の始まりになった先駆者たち。実力が彼女たちに届いたとしても、それでもまた同じ境地には至れない。
あの人たちの輝きが、時代を創った。その時代の中にいる千歌では、創造主を越えることはできないのだろうか。
「手の届かない光………」
今回の車炎上シーンは原作の中で最も好きな戦闘シーンです。
爆発大好きっ子です。爆発はCGより火薬派です。