ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト 作:hirotani
1
城南医大病院の手術室は、まだ執刀中のようでプレートランプが赤く点灯している。部屋の前に備え付けられた長椅子には患者の親族なのか母子が涙ながらに抱き合っていた。
木野薫は腕のある名医らしいのだが、手術がいつ終了するかは予想できず誠たちはただ待つことしかできなかった。
長く沈黙していた涼が口を開く。
「恐らく木野薫は、奴の助けを必要とする人たちを弟に重ね合わせているんだろう。患者に限らず、アンノウンに襲われる人々もな。奴は過去を償おうとしているんだ」
それが、過去に生きていることの意味か、と誠は嘆息する。
「過去を償うためには、自分の手で人々を救わなければならない。俺たちは邪魔者、てわけだ」
理由が悲しい過去によるものだとしても、人を救う事は称賛すべきではある。でも、木野は自らの使命感に囚われている。
全てを救う英雄は自分ひとりでいい。そんな独りよがりな正義で、彼は翔一と涼を襲った。世界で唯一無二のアギトになるために。
手術室のランプが消えた。鉄製の扉が開かれ、手術着の執刀医が口元のマスクを外し容貌が露になる。その顔を認めたとき、「木野さん」と誠は彼へと歩み寄り礼をする。木野は怪訝な目で誠を睨み、次に翔一と涼へその視線を移す。
「あれ、やだなあ。まさかあなたが木野さんだったなんて。津上翔一です。覚えてますよね?」
どうやら以前にも会ったことがあるらしく、翔一は人好しな挨拶をする。
「何の真似だ?」
木野から返ってきたのは、冷たい声での問いだった。
「あんたと少しばかり話がしたい。津上の奴がそう言うもんでな」
この前まで殺し合う仲だった涼と木野の間には、到底立ち入ることのできない緊張が漂っている。
「話すことは何も無い。失礼する」
それだけ吐き捨て、木野は廊下を早足気味に歩いて行く。
「ちょっと待ってください」
後を追う翔一に誠も着いて行こうとしたのだが、すぐ涼に止められ、
「ふたりにしてみよう。あの男を救えるとすれば津上だけだ。そんな気がする」
広い海を見渡せば、ひとりの人間の悩みなんてちっぽけに感じられる。
そう言ったのは誰なのだろう。親しんだ海原を眺めても、曜の懊悩は一向に晴れる気配がない。傍から見ればちっぽけかもしれないけれど、曜の、Aqoursの抱える空虚を、海は埋めてはくれない。
「綺麗ね」
曜の隣でジュースを飲みながら梨子が呟いて、「そうだね」と曜はがらんどうに応じる。ヘリコプターが着陸できそうなほどに広いコンビニの駐車場でのくつろぎ。こんな田舎で洒落たカフェなんて滅多に無いから、必然と地元の学生がお茶をする場は駐車場になってしまう。ある意味でラウンジカフェだ。テーブルも椅子もないから立つしかないけれど。
「浦の星、てね――」と曜は語る。この胸の裡にあるものが何なのか判然としないまま。
「結構歴史があって、内浦の女の人は皆あそこの出身なんだって。お母さんやお婆ちゃん世代も通ってたみたい」
「愛されていたのね、地元の人たちに」
「うん」
内浦地区の集落で唯一の高校だったから、地元民は自然と高校は浦の星という認識だった。でも年代を経るごとに創立・統合と学校と生徒は沼津市街に集中するようになり、周辺集落の学校は次々と吸収されている。浦の星女学院の統廃合とは、いたずらに増えてしまった学校施設の整理に過ぎない。
「前にダイヤさんが教えてくれたんだけど――」
今度は梨子が語った。
「廃校を止めるために結成されたスクールアイドルって、そんな珍しくないみたいなの。前からそういったグループは多かったけど、廃校が撤回された例は殆どなかった、て」
「そんなこと知ってるなんて、流石ダイヤさんだね」
「そうね」
先輩のフリークぶりに弱く笑い、ジュースをひと口すする。
「やっぱり、仕方ないのかな。学校が無くなるの、て」
「事情があるのは分かるけど………」
所詮Aqoursのしてきたことは、先人と同じ偉業を成し遂げようとしてできなかった、その他大勢のグループと一括りにされてしまうのだろうか。
奇跡は奇跡でしかない。望んで努力して、手を伸ばしたところで届くものじゃない。
そう割り切れるものなら、どれほど楽だっただろう。本気で目指したものがもう届かないと突き付けられたとき、どうやって立ち上がれば良いのか。
「梨子ちゃんは、出たい?」
曜が訊くと、梨子は沈黙してしまう。代わりとして「曜ちゃんは?」と訊かれ、同じように曜も俯き沈黙する。
「今は分からないかな」
「わたしも………」
「やっぱり、千歌ちゃんがいないと」
「そうね、千歌ちゃんだからだもんね」
千歌は、皆がいたからやってこられた、と言ってくれた。それは曜も同じだ。千歌がいたから、千歌と一緒だからこそだった。千歌の想いを置き去りにしたまま、決勝には臨めない。
零れそうな溜め息をジュースと一緒に呑み込んでいると、曜たちの近くにクラウンが停まった。他にスペースはいくらでもあるのに、と思いながら何の気なしに眺めていると、運転席から出てきた若い男性が曜たちへ近付いてくる。
「渡辺曜さんと、桜内梨子さんですか?」
鋭い声色で訊かれ、少し慄きながらも「はい、そうですけど」と応える。男は高価そうなスーツの胸ポケットから手帳を取り出し、
「警視庁の北條です」
開いた手帳には確かに警察のエンブレムがあしらわれている。警視庁ということは、誠の同僚だろうか。
北條は鋭い眼差しを曜たちに向けながら、
「いきなりで申し訳ありませんが、署まで同行して頂けますか。おふたりに協力して頂きたい事があるのですが」
2
エレベーターの閉鎖的な空間は奇妙なもので、何度乗っても慣れない。こんな小さな箱が何人もの人間を乗せて上下するなんて、現代人として生きていてもあまり現実味がない。
「何か意味もなく緊張しません? エレベーターでふたりきり、て」
扉の近くに立っている木野の背中に言ってみるが、反応はない。
「あ、そうそう。俺実はアギトの会作ろう、て思ってるんですけど、木野さんも入りませんか? 皆で力を合わせてアンノウンと戦って、週に1度俺の手料理を食べるんです」
これから寒くなるし、皆で集まって食べるなら鍋かなあ、と考える。豪勢にすき焼きなんて良いかもしれない。
木野の顔が、僅かにこちらへ向いた。サングラスをかけているから、表情が分かり辛い。
「駄目、ですか?」
「相変わらずの性格だな、記憶喪失になっても」
「何ですかそれ? どういう意味です?」
目的の階に着いたエレベーターの扉が開く。足早に歩きだす木野を追いながら、
「もしかして木野さん、昔の俺のこと知ってるとか。まさか、そんなことありませんよね?」
木野は黙ったまま出口へと向かっていく。話題を変えよう、と思った。今は自分の過去は重要じゃない。
「聞きましたよ。木野さん雪山で遭難した、て」
そう切り出すと、木野の顔が微かに翔一へと振り向く。でも何も言わず、駐車場に出て真っ直ぐとバイクへと向かっていく。
「もの凄く寒いんでしょうねそういうの。俺菜園の野菜を育ててるんですけど、トマトもキュウリも太陽をいっぱい浴びないと駄目なんです。人間も同じじゃないんですか。温かい場所に戻りましょうよ」
無視を決め込む木野はバイクに跨りヘルメットを被る。
「木野さん、未だに冬山にいるんじゃないですか?」
そう訊くと、グローブをはめていた木野の手が止まった。ゆっくりとサングラス越しの視線を翔一に向けてくる。
「貴様に何が分かる」
吐き捨て、木野はバイクのエンジンを駆動させて走り去っていく。翔一はすぐ隣に停めておいた自分のバイクに乗って、急ぎヘルメットを被った。
どうしてエレベーターでふたりきりになると意味もなく緊張するのだろう。気を紛らわそうと壁に貼ってある献血ポスターに目をやるが、全く字が頭に入らず視線を右往左往させる。
「何だ、緊張してるのか?」
何の感情もない声で、扉の近くにいる涼に訊かれる。「いや、別に……」と返しながらネクタイを締め直した。
「心配するな。殴ったりはしない」
やはりあの時の乱戦を覚えているのか。まあ、翔一から聞く限り理由なしに暴力を振るう人間ではないようだが。
「僕は、あなたの事をまるで知らない。良かったら、教えてくれませんか。あなたはどんな人間なんです?」
涼の顔が、微かに誠へ向けられる。
「いつどこで、何をどうして変身できるようになったんですか? あなたの力の源は何なんです?」
「何故そんなことを訊く?」
「それは警察官として当然――」
言いかけたところで、誠は言葉を閉ざす。それは本心じゃなくて建前だ。
「いえ、多分……」
「多分、何だ?」
今度は、涼は真っ直ぐに誠へ顔を向けた。彼の鋭い顔つきに、誠は告げる。
「僕も、アギトになりたいのかもしれません………」
手に入るものなら、僕もその力が欲しい。もっと多くの市民を、アンノウンから護るために。
涼は眉間に深くしわを寄せたのだが、何も言わず誠に背を向ける。エレベーターが目的の階に着くと足早に出口に向かい、その間にひと言も発することがない。
「津上さんは記憶喪失で聞きようがありませんが、あなたなら変身のきっかけが分かるはずだ。思い出してください。いえ、一緒に思い出しましょう」
「もういい、お前に話すことは何もない」
吐き捨て、駐車場に出た涼はバイクへと真っ直ぐ向かっていく。
「お願いします。真実が分かれば、アンノウンと戦うための役に立つはずです。そうですね、まずは葦原さんの少年時代から始めましょうか」
無視を決め込み、涼はバイクに跨る。ヘルメットを取ろうとした彼の手を押さえつけ、
「お願いしますよ、葦原さん!」
直後、鉄拳が誠の頬を打った。突然のことに地面を転がる誠を涼は見下ろしながら、
「もういい、と言ったはずだ」
ヘルメットを被り、バイクのエンジンを駆動させて去って行く。急ぎ立ち上がって、誠は車へと走った。
沼津バイパスを走りながら、翔一は木野の横にバイクを並走させて大声で呼びかける。
「木野さん、そりゃ俺には木野さんの気持ちなんて分かりません。でも、過去にこだわって生きていてもしょうがないじゃないですか」
「良い気なもんだな。教えてやろう。記憶喪失になる前はな、お前も過去にこだわっていたんだ」
「何ですって?」
その時だった。バイクのミラーに人魂のような光が映ったのは。その青い光の球は翔一のすぐ脇を追い越し、数十メートルほどの距離を取った先で止まる。
翔一と木野はほぼ同時にバイクを停車させた。光は収束し、球は薄い膜を破ったかのようにして周辺に水を撒き散しながら弾ける。まるで卵が孵化したみたいだ。産まれたそれは人の姿をしているようで、人ではない。全身を水に濡らしたその異形は、産まれながらに身の丈程ある錫杖を携え翔一たちを見据えている。
「あいつは……!」
翔一はその姿を知っている。業炎の力で焼き尽くしたはずの、水のエル。
「待ってください葦原さん。まだ話は終わってません」
車内の拡声器を通した声で告げると、涼のバイクは更にスピードを上げて引き離そうとする。誠もアクセルペダルを踏み込み、距離を詰めようとスピードを上げる。
ここまで来ると意地だ。1度殴られたくらいで引き下がれるか。
どうしても知りたいんだ、アギトの秘密を。
涼のバイクが急停車した。慌てて誠もブレーキペダルを踏み、甲高い摩擦音を立てながら車を停める。小回りのきくバイクはUターンし、反対方向へと走っていく。
「葦原さん!」
窓から顔を出して叫んだが、当然無視された。同時にインカムから受信音が響き、車内通信機を受信モードに切り替える。すぐに小沢の声が飛んできた。
『氷川君、アンノウン出現。G3-X出動よ』
3
曜と梨子が通されたのは、沼津署の会議室だった。ふたりを通すには広すぎる部屋で、ドアから少し離れたところの長机に促される。警察官たちの身に纏う制服を眺めるほどの心的余裕なんてなく、曜は緊張しながらも梨子と並んでパイプ椅子に腰を落ち着けた。
「是非あなた達に、見てもらいたいものがあるのです。できれば津上さんにも来て頂きたかったのですが」
言いながら、北條は曜たちの前に透明なビニールに入れられた紙を置く。捜査上の証拠品を汚さないためだろう。紙は1度濡れたのか染みが付いていたが、曜の意識は汚れじゃなく、書かれた文面に向いていた。
「これって………」
梨子も同じなのか、困惑の目を紙に落としている。手紙のようだが、書かれている文字が読めない。インクの滲みもなくはっきりと残されているのだが、明らかに書かれているのは日本語ではなかった。かといってアルファベットらしき記号もない。全く見たことのない、字なのか絵なのかも区別がつかない記号の羅列。
「何ですか、これ?」
曜が訊くと、北條は「分かりません」と、
「ここに書かれている雪菜なる人物が、津上翔一さんに宛てて出したものと思われます」
文面の1番下だけが日本語で書かれている。
よろしくお願いします。津上翔一様。
雪菜
「手紙?」
文面をよく見ようとビニール越しに触れる。その瞬間、曜の脳裏に何かが浮かび上がった。反射的に手を引っ込める。
「曜ちゃん?」
梨子も触れようとしたのだが、それは寸前で彼女の手を掴み阻止した。
「駄目、触ったら………」
浮かび上がったものは、脳裏から完全に消えている。あれは何なのか。思い出すだけでも恐怖が込み上げる。
双子のように瓜二つな、ふたりの幼い少年が向かい合っていた。異なるのは身に纏った服だけ。白と黒という、対称的な。
「渡辺さん。桜内さん」
見上げると、北條は得心したような表情を浮かべている。
「報告書によると、あなた達は以前アンノウンに襲われたことがあったはずだ。もしかしたらあなた達は、特殊能力の持ち主なのではありませんか?」
思考が凍り付く。背中に不快な汗が浮かぶのが分かった。梨子も同じなのか沈黙している。
「信じて下さい、秘密は守ります。それにご存知かもしれませんが、津上さんがアギトだとうことも、私は知っているんです」
俯かせていた視線を上げて、北條へ向ける。「そうだったんですか?」と梨子が訊くと北條は首肯し、
「あなた達には、普通の人間には視えないものが視える。違いますか?」
翔一がアギトと知っておきながら何もしないという事は、北條を信じても良いのかもしれない。曜は梨子と顔を見合わせる。互いに無言だが、梨子の目にも意を決したものを感じ、ふたり揃い首肯する。
「教えてください、何が視えるのか」
北條はビニールから手紙を出した。丸裸になった紙に、梨子と重ねた手を乗せる。
不安は脳裏に渦巻いていたが、曜は思考を全て停止させる。まっさらになった曜の脳裏を器とするように、情報という水が注がれていく。
高圧の水流でバイクごと吹き飛ばされた翔一と木野は、バイパス沿いに討ち捨てられていた廃工場へと駆け込んだ。結構な距離を取ったはずなのだが、風化した屋根を突き破ってきた水のエルはさも当然のように再び翔一たちの前に現れる。
奥の壁のほうから、甲高いバイクのエンジン音が聞こえた。音は近付き、脆くなった壁を突き破って赤いオフロードバイクが走ってくる。バイクはスピードを緩めることなく水のエルへ向かう。当の水のエルは防御の体勢を取ろうともせずバイクを一瞥し、再び翔一たちの方を向いた。バイクが肉迫した瞬間、その体は床から見えない土台で突き上げられように浮かび、空間をバイクは虚しく通り過ぎていく。
翔一たちの目の前でバイクを停めると、涼はヘルメットを脱ぎ捨て床に戻った水のエルを睨む。
「存在してはならない者ども。今ここで滅ぶがいい」
水のエルにとって、翔一たちを一網打尽にできる絶好の機会というわけか。
「変身!」
最初に向かっていったのは涼だった。駆け出したその姿をギルスへと変えていく。
「変身」
翔一の隣で、木野がアナザーアギトへと姿を変える。
「変身!」
翔一も光を纏い、アギトに変身した。
殴りかかった拳よりも速く、水のエルの錫杖が涼の顔面を突く。宙を舞い突き返された涼のもとへ走り、翔一はじ、と向こうの出方を窺った。
丁度その時、サイレンの音が聞こえてくる。ちらりと視線を転じると、ガードチェイサーに乗ったG3-Xが到着していた。
水のエルが翔一たちへ掌をかざす。また水流か、と防御姿勢を取ったが、掌から強烈な衝撃はやってこない。ぼんやりと足元が光った。何だ、と思った瞬間、コンクリートの床が赤熱し始める。
「危ない!」
咄嗟に脇へ飛んだ一瞬後、さっきまでいた床が弾け飛ぶ。直撃こそ免れたが、至近距離からの爆風で体が持ち上げられ、散った瓦礫が礫となって翔一の体に撃ち込まれる。
金属の靴音を鳴らしながら、GX-05を抱えた誠が爆炎の散る構内へ入り込んでくる。誠はバルカン砲の銃口にグレネードを装着し、水のエルに向けて腰だめに発射させた。緩やかな放物線を描くグレネードは水のエルへと向かっていくのだが、まるで蜘蛛の巣に引っ掛けられたように目の前で静止する。水のエルが手をかざすと、グレネードはぐるん、と向きを変えて加速する。
その先にいたのは涼だった。不意打ちに対処できず、グレネードが胸に接触した瞬間に炸裂し吹き飛ばされる。
油断を突き、木野が飛び蹴りを繰り出した。突き出した右足が触れようとした瞬間、水のエルの目の前で空間が渦巻き、木野の体は自ら飛び込んだ渦の中へと消えていく。
一瞬の間を開けて、木野が全く同じキック姿勢のまま空間の渦から飛び出してきた。その足が向けられたのは、翔一。
気付いたとき、翔一はキックの直撃を喰らい突き飛ばされていた。工場に散らばっていた資材を薙ぎ倒しながら床を転がる。キックを受けた胸が酷く痛み、体から力が抜けていく。視界が一瞬だけ光に塗り潰され、晴れると変身が解けていた。
視界が霞んでいく。胸の痛みが全身へと伝播し感覚が失われていく。
駄目だ、ここで倒れたら。
俺は行かなくちゃならないんだ。
あの船に――
「どうしたんですの、急に呼び出して」
少し疲れたようにダイヤは言った。果南も紅茶に手をつけることなく、
「期限の引き延ばしなら、わたしは反対だよ。もう決まったことなんだし」
「違うわ」と鞠莉は即答した。そんなことしても手遅れだ。手続きは既に済ませているし、後は統合先の高校と諸々の調整をするだけにまで話は進んでいる。
前振りなんてまどろっこしいものは省き、鞠莉は尋ねる。
「ふたりは知りたい? あかつき号のこと」
ダイヤと果南は、ほぼ同時と言っていいタイミングで息を呑んだ。半開きにした口からすぐに言葉が出ることはなく、見開いた目を揃って鞠莉に向けている。
「知りたい?」
重ねて尋ねると、膠着が解けたように果南が先に答える。
「わたしは、知りたい」
ダイヤも「わたくしも」と続く。
やっぱり、と鞠莉は思った。予想していたからこそ、言って良いものか迷ってしまう。言えば、ふたりに後悔させてしまうのでは。不要な恐怖に怯えさせるだけになってしまうのでは、と。
「知らないほうが良かった、て思うかもしれないよ」
「構いません」とダイヤが即答した。その迷いの無さに、隣で果南も驚いている。紅茶をひと啜りしたダイヤは告げる。
「ずっと抱え込んだままの鞠莉さんを見ているほうが、よほど辛いですわ」
「そうだよ」と果南も、
「鞠莉はひとりで抱え過ぎ。わたし達がいるのに、全部ひとりで」
面と向かって告げられて鞠莉の裡に生じたのは、どうしようもないほどの愛しさだった。自分が沈黙を貫いておけば、全ては丸く収まる。そう思っていたけど、何て独りよがりだったのだろう。
涼の言った通りだ。同時に自嘲してしまう。自分よりも、涼の方がふたりを理解しているなんて。
「Sorry, もう隠し事はしない、て約束したのにね」
弱く謝罪すると、果南はいたずらっぽく笑った。
「本当、趣味の悪いジョークだよね」
「大概にして頂かないと、本当にブッブー、ですわ」
自然と鞠莉の口端からも笑みが零れた。3人では到底乗り越えられない、と思っていた。でも今なら信じられる。
わたし達なら大丈夫、と無条件に。
深呼吸し、鞠莉は記憶の紐を解きにかかる。