ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト   作:hirotani

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ペース配分ミスったので今回は短めです。


第4話

   1

 

「あれ、ルビィは?」

 風呂上がりに洗面所から出てきたところで、善子は彼女がいないことに気付く。

「ちょっと行きたいところがある、て外に行ったずら」

「そう」

 見知らぬ土地でひとり出歩くなんて、と少し心配になる。ただでさえ誘拐しやすそうなほど幼く見えるというのに。まあ彼女も高校生なわけだし大丈夫、と思いたい。

 花丸のほうは心配など感じさせず、ラッキーピエロでテイクアウトしたTHE フトッチョバーガーを頬張っている。

「そのハンバーガー、ルビィに買ってきてあげたやつでしょ?」

「いらない、て」

 だからといって自分が食べるのもどうかと思うが。にしてもこの胃拡張娘は一体今日だけでどれだけ食べたことか。函館タワーではソフトクリームを食べ、鹿角姉妹の店ではぜんざいを2杯食べ、ラッキーピエロでは特大バーガー、さっき夕食も済ませたばかりだというのに。

フラグ(伏線)立ちまくりね」

「どういう意味ずら?」

「幸せな奴め」

 この後どんな展開が待ち受けているとも知らずに。

 不敵に笑いながら、善子もテイクアウトしてきたハンバーガーの包み紙を開いた。

 

 夜になると、函館の街はより一層冷え込む。というよりも凍てつくようだった。気温がマイナスにまで下がる地方の風は、吹くだけでも露になった顔の皮膚が痛い。

 クリスマスが近いからか、街路樹には落ちた葉の代わりとしてイルミネーションが光っている。雪化粧の夜の街を美しく照らすその姿は見惚れてしまいそうだが、ルビィの意識はそこに向けられてはいなかった。

 赤レンガ倉庫でのダイヤからの言葉が、今でも裡で反芻されている。

 

――ただ、あなたがわたくしにスクールアイドルになりたい、と言ってきた時。あの時、凄く嬉しかったのです。わたくしの知らないところで、ルビィはこんなにもひとりで一生懸命考えて、自分の足で答えに辿り着いたんだ、て――

 

 初めて聞いた姉の想い。本当にダイヤの言うように、自分は大きくなれたのだろうか。姉のように美人になれたのだろうか。

 自信はない。でも、姉が言うのならそうなのかもしれない。姉はいつも凛々しく美しく、ルビィの憧れだった。そんな大きな存在から認めてもらったことは、素直に嬉しい。

 なら理亜は、と思う。聖良が、これから自分がいなくなっても続けることを望んでくれたということは、理亜も姉から認められている、ということではないだろうか。ルビィから見て、理亜だって実力者のスクールアイドルであることは確かだ。数多くのグループを観てきたのだから、自分の観察眼だけには確信が持てる。

 理亜には続けて欲しい。まだ1年生の彼女が更に歌とダンスを高めたら、きっと凄いスクールアイドルになる。もしかしたら聖良を越えることだってできるかもしれない。彼女がどんな「輝き」に至るのか、ルビィも視てみたい。ライバルとか関係なく、スクールアイドルに熱中する者として。

 茶房菊泉(きくいずみ)は本日の営業を終え、店仕舞いをしている頃だった。喫茶店の他に酒店としても営業しているらしく、彼女は玄関へ大量の酒瓶を詰めたケースを運んでいた。

「あの」

 声をかけると、彼女はまなじりの吊り上がった目でルビィへと振り向く。険のこもった眼差しは他人の介在を許すまいと、明らかに拒絶の意が見て取れる。

「あなた……」

「ルビィ、黒澤ルビィです。お話が、お話があるの。少しだけ」

 

 

   2

 

 全ては終わったのか。

 あかつき号の元凶を討ってまだ日が経っていないからか、不安めいたものが涼の裡でずっと残っている。そのため父の墓参りに帰郷する気も起こらず、この日はただひたすらにバイクで市内を走り回っていた。

 三津シーパラダイスに行って、港の新開水族館でシーラカンスの標本を見て、鮮魚市場を料理もしないのに見て回った。

 2年以上も暮らしておきながら、街のことを何も知らなかったな、と気付く。決して華やかとは言えない片田舎と言っても仕方のない街だが、素朴で不思議と温かい。この街があの少女たちを育てたのか、と不思議な感慨が沸いた。

 まるでパトロールだ。どこかにアンノウンの陰はないか、アギトの力を感じる人間はいないか。探し回ってはみたが、そんなものはどこにもない。狩人たちの眼差しも、同胞の気配も。でもこの街、ひいては世界のなかで自分と同じ力を秘めた人間がいることは確かだ。何もあかつき号に乗っていた父たちが、特別にアギトにされたわけじゃない。あの船での出来事は、いわば縮図だ。いつかの、人類にアギトの種が植えられた時代の。

 夕飯は港に構えた海鮮網焼きの店で摂ることにした。何となく、故郷と似た味のものが食べたくなったからだ。生のシラスと桜エビの乗った海鮮丼に、豪華に伊勢エビの網焼きを頼んだ。白米が見えず丼からはみ出しそうな具と網の上で殻を焦がしながら香ばしく焼き上がったエビは、父を思い出させる。

 父は料理があまり得意ではなかった。魚を捌く程度ならできたのだが、他はからっきし。食卓に並ぶ魚介は殆どが網で塩焼きにしたものばかりで、時折獲ってきた魚を刺身にしたが切り方が不揃いな上に身が分厚い。身の硬い魚は噛み切れず親子で奮闘したものだ。魚で出汁を取るなんて、そんな高度な技術は当然持っていない。

 ――母さんは料理上手だったんだがなあ。少しは教わるんだった――

 父の口からそんな言葉を何度聞いたことだろう。母の記憶は朧気ながら残っているのだが、手料理にまつわる記憶は父の豪快な漁師飯によって見事に塗り潰されている。

 海鮮丼をかき込みながら、涼はふ、と微笑を零した。断然、父の作ったものよりも美味い。

 追加で注文した生ガキにレモンを絞って食べて、涼は店を出た。

 帰路につこうとバイクに跨ったとき、あの戦慄が走った。

 驚きはなく、むしろやはりな、と思った。水のエルを倒して全て終わりじゃなかった。まだアンノウンは潜んでいる。この世界のアギトを滅ぼすために。

 

 

   3

 

 本当に少しだけ。その条件を提示した上で、理亜はルビィに付き合ってくれた。家には聖良がいるだろうから、街を歩きながら話をする。

 と言いたいところだが、中々ルビィから切り出すことができず、赤レンガ倉庫までは全くの無言だった。考えてみれば、ルビィは理亜に親近感を覚えながら会話をしたことがない。人前に立つことはスクールアイドル活動のお陰で怖くはなくなったけど、重度の人見知りはそのまま。

「ねえ、どこまで行くの? 話、て何?」

 沈黙に耐えかねたのか、ルビィの数歩後ろを歩く理亜のほうから切り出してくる。

「まだ仕事あるから、手短に済ませてほしいんだけど」

 険のある声に怖気づいてしまう。足を止めて深呼吸し、ルビィはようやく口を開く。

「あの、ルビィにも理亜ちゃ――理亜さんと同じでお姉ちゃんがいて――」

「黒澤ダイヤ」

「知ってるの?」

「一応調べたから。Aqoursの事はね」

 無感情に告げた理亜は続ける。

「でもわたしの姉様のほうが上。美人だし歌もダンスも一級品だし」

 むう、とルビィは唇を結んだ。確かに聖良は美人で、凄いスクールアイドルであることは認める。

「ルビィのお姉ちゃんも、負けてないと思うけど………」

 危うくむきになるところだった。ほぼ初対面のようなものなのに。でも理亜のほうは気遣いなんてまるでなく、

「バク転できないでしょ?」

「日本舞踊だったら、人に教えられるくらいだし、お琴もできるし」

「スクールアイドルに関係ない」

 ここまで姉を否定するような事を言われては、黙っているわけにもいかなかった。

「そんな事ないもん。必要な基礎は同じだ、て果南ちゃんも言ってたもん」

「でも、わたしの姉様のほうが上」

 まだ他にも、姉の自慢は挙げればきりがないほど沢山ある。ダイヤは茶道もできるし、華道だってできる。何よりスクールアイドルの造詣は、クイズ大会でも開けば優勝間違いないほど。

 でも、自分の姉のほうが、と断言できる理亜を見ると、競う気は失せた。何だかんだで、ルビィと理亜は似ている。

「やっぱり、聖良さんのこと大好きなんだね」

 「あ、当たり前でしょ」と強気な理亜は、照れ臭いのか頬を朱く染めている。

「あんたの方こそ何? 普段気弱そうな癖に」

「だって大好きだもん。お姉ちゃんのこと」

 少しだけ、理亜の眼差しが柔らかくなった気がした。互いに尊敬できる姉がいる。世界中の誰よりも凄くて、大好きと言える。他が正反対でも、それだけで確かな繋がりを感じられた。

「それでね、ルビィお姉ちゃんと話して分かったの。嬉しいんだ、て」

「何が?」

「お姉ちゃんがいなくても、別々でも、頑張ってお姉ちゃんの力なしで、ルビィが何かできたら嬉しいんだ、て」

 正直、姉の庇護を受けられないことに不安はある。姉ほど優れていない自分が、自分の力でどこまでやれるのか。それでもダイヤは、ルビィを認めてくれていた。スクールアイドルをやりたい、と1歩を踏み出せた、あの時から。

「きっと、聖良さんもそうなんじゃないかな?」

「そんなの分かってる」

 理亜の顔が曇った。鼻を朱くして、今にも泣き出しそう。

「だから、頑張ってきた。姉様がいなくてもひとりでできる、て。安心して、て。なのに………」

 理亜の目尻から涙が零れた。辛いことを思い出させてしまって、申し訳ないとは思う。

「最後の大会だったのに………」

 せっかく姉と立てた舞台が、今までの努力があんな思い出で終わってしまうのは辛すぎる。ならば――

「じゃあ、最後にしなければ良いんじゃないかな?」

 「え?」と呆けた顔をされる。構わず、ルビィは理亜の手を引いて目的地へと駆け出す。スクールアイドルの舞台がラブライブだけなんて、そんな決まりはどこにもない。ステージが無いのなら作ればいい。最後が辛いのなら、嬉しさと楽しさに満ち溢れたステージで上塗りすればいいだけの話。

 その目的地。倉庫群のある港の桟橋に設置されたクリスマスツリーの前で、ルビィと理亜は足を止めた。シーズン期間中だけ高く屹立するモミの木には、オーナメントとイルミネーションが色とりどりに飾られている。

 もうすぐクリスマスが訪れる。ホテルで聖夜イベントのチラシを見た時、これだ、と思った。

「歌いませんか? 一緒に曲を」

 大会じゃないから、勝ち負けなんて意識せず。ただ楽しむことを目的として。

 親愛なる姉たちへの、クリスマスプレゼントとして。

「お姉ちゃんに贈る曲を作って、この光の中でもう1度」

 

 

   4

 

 急ぎバイクのエンジンをかけ、力の告げる場所へと駆けていく。気配は港から北上した方角からだった。海岸沿いを走り、浜の手前に樹々が植えられた片浜公園に敵はいる。

 小さな森のなかで、先着していた木野がアナザーアギトに変身しフクロウのような顔をしたアンノウンと対峙していた。拳を構えた木野は、別の気配を感じ取ったのか後方を振り返る。その視線を追うと、森の陰から人影が出てくる。

 それは紛れもなく人間の姿をしていたが、すぐに涼は違うと悟った。何しろ見覚えがある。あの恐ろしいほどに整った容貌は、1度見たら忘れることはできない。

 木野も相手がただの人間でないことを悟ってか、牙を剥いて足元に紋章を出現させた。黒い青年はその場から逃げようとせず、ゆっくりと木野へ手をかざす。

 紋章が爆ぜた。地面から燃え上がる炎にいぶされた木野は咄嗟に抜け出し、火傷の痛みに悶えている。

 それを待っていたかのように、黒い青年は木野へ向かって掌を向けた。掌から風が槍のように鋭く伸びて、木野の腹にあるベルトを貫く。倒れた木野の腹から光の球が飛び出した。その瞬間、木野の体は閃光を放ち元の姿へ戻っていく。

 光の球は、吸い込まれるように黒い青年の腹へ収まった。美しいその唇が、甘美な声で告げる。

「貰いましたよ、アギトの力を」

 そこでようやく、涼は動くことができた。まるで止まっていた時間が動き出したように。地面にうずくまる木野のもとへ走り、

「おい、しっかりしろ!」

 息をあえがせる木野に触れて、違和感に気付く。彼から力を感じない。振り向くと、黒い青年は無表情のまま涼へ眼差しを向けている。あの光は、アギトの力そのもの。となれば、あの青年は力を喰ったのか。

「よせ」

 立ち上がろうとした涼の腕を木野は掴み、

「奴とは、戦ってはならない………」

 ああ、分かっているさ。でも人間の姿をしていても、奴が俺たちにとっての敵だとも分かってしまう。

 木野の手をそ、と退けて、涼は黒い青年と対峙する。黒い青年の目からは敵意など感じなかった。それどころか、慈しみすら感じられる。

「そう、以前君を助けたことがありますね。君はその力のせいで苦しんだ。だが、もう終わりです。君の力を、私にください」

 ああ、覚えてるさ。あの頃の俺だったら、喜んでくれてやっただろうな。

 でも今の俺は違う。この力を怖れたりはしない。俺が俺であるために。

「変身!」

 ギルスに変身した涼に、黒い青年は先ほどとは打って変わった憎しみに満ちた眼差しを向ける。まさに汚物を見るような眼だ。

 目の前にいるのは、無防備な美しい人間の形をしている。だが涼の裡では、こいつは敵だ、と告げているように恐怖が膨れ上がっていた。

 拳を突き出した。確かに間合いには入っているはずなのだが、拳が虚しく宙を切る。目の前にいたはずの姿はなく、辺りを見回すと後ろ手に回られている。咄嗟に後ろへ蹴りを入れるが、それも宙を蹴るばかりで手応えがない。

 勢いのあまりつんのめると、また後ろから気配がした。「ウオオオッ」と吼えながら拳を振るったとき、黒い青年は手をかざす。瞬間、とてつもない力で突き飛ばされる。まるで見えない巨人の手が、張り手でも繰り出したように。

 すぐさま立ち上がり、涼は跳躍した。尖刀を伸ばした踵を、黒い青年の脳天へと振り降ろす。あの時のように受けるつもりか、黒い青年は微動だにしていない。その美しい顔に尖刀が触れようとした瞬間、堅い感触が踵から全身へ伝播する。

 気付けば弾き飛ばされていた。自分が叩き込もうとした力がそのまま返され、痺れに似た感覚が全身に走っていく。地面に伏した涼を、黒い青年はただ無表情に見下ろしている。

 その顔が苦悶に歪んだ。黒い青年は胸を押さえつけ、立つのもままならないのか近くの樹に手をつく。

「今だ、逃げろ!」

 木野の声が飛んできた。「逃げろお!」と大声をあげた木野は、傷に響いたのか腹を押さえて苦しく咳き込んでいる。

 変身を解いた涼は木野のもとへ走り、肩を貸して傍に停めたバイクのリアシートに乗せた。すぐにエンジンを掛け、跨ると同時にアクセルをフルスロットルで捻り急発進させる。

 スピードを上げていきながら、涼はミラーを一瞥した。黒い青年は追ってこない。いつの間にか姿を消していたアンノウンも。

 あの青年は、人の姿をしたアンノウンなのか。いや、あれからアンノウンの気配は感じられなかった。

 別のもの。もしくはアンノウン以上に強大なものだった。対峙しただけで足がすくみそうな、絶対的な恐怖と呼ぶべき――

 

 






次章 Awaken the power / 父と姉と…
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