ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト   作:hirotani

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第3話

 

   1

 

 沼津署へ行った日の夕刻、曜たちは千歌抜きで弁天島神社に集まっていた。土地を見守ってきた神の前で告解でもするような気分にとらわれるけど、辛い現実を前にしては、神なんてものが酷く矮小な存在に思えてしまう。それとも、この現実も神の意志なのだろうか。

「じゃあ、千歌ちゃんはまだ知らないんだ」

 翔一の問いに、曜と梨子は揃って頷いた。あのUSBメモリの中身が何だったのか、沼津署からの帰路で千歌に訊かれたが真実は伝えずにいる。何も視えなかった。声しか聞こえなかった、と。

「翔一さん、違いますよね?」

 訊くというより、願いだった。勘違いであってほしい、と。梨子も「翔一さんのお姉さんが、まさか」と引きつった笑みを無理矢理作りながら訊く。

 でも、翔一はうん、とは言ってくれなかった。俯いたままかぶりを振って、

「俺の姉さん以外に、超能力者だった人がいたなんて聞かなかった。間違いないよ」

 提示された現実を飲み込むように、翔一は告げる。

「犯人は姉さんだったんだ」

 絶望なんて沸かなかった。淡い期待を抱いたところで、今までだってことごとく踏み潰されてきたのだから。それぞれの身内がゼミの教授と学生という間柄から、事件の被害者と加害者に変わっただけの話。

「これから、どうするんですか?」

 曜は訊いた。こればかりは、当事者が自ら決めなければならない気がした。他人でしかない曜と梨子が、ふたりには変わらないでいてほしい、なんて無責任に頼むことはできない。入り込む余地なんてないのだから。

「千歌ちゃんは知るべきだよ。お父さんのこと、大好きだったみたいだし」

 その選択は、部外者の曜たちは受け入れるしかない。全てを知った千歌が取るだろう選択も。

 「でも」と梨子が言った。

「せめて、もう少しだけ待ってください。ラブライブの決勝が終わるまで。今知っちゃったら、決勝どころじゃなくなると思うから………」

 問題の先送りにしかならないことは理解している。でも、それしか今は出来ることがなかった。

「ふたりはそれで大丈夫?」

 翔一は訊く。こんな時でも、彼は他人への優しさを忘れない。曜は梨子と顔を見合わせた。言葉はなくても、何となく互いの事が分かる。当事者じゃない故の余裕なのか、はっきりしないまま曜は答える。

「わたし達は大丈夫です。翔一さんこそ……」

「俺も大丈夫。きっと、1番辛くなるのは千歌ちゃんだから」

 とても重い足取りで、翔一は階段へと歩き出す。家に帰って千歌と顔を合わせても、翔一はいつもと変わらない笑顔で接しなければならない。今の生活の終わりを感じ取りながら。

 彼の姿が見えなくなると同時に、目から涙が溢れてきた。

「曜ちゃん?」

 梨子がハンカチを渡してくれる。いくら目元を拭っても、涙は止まってくれない。

「わたし、大変なことしちゃった……。翔一さんじゃない、て信じたかっただけなのに、こんな事になるなんて………」

 全部、曜の裡に留めておけばよかった。頭の隅にでも追いやって、時の流れに任せて忘れてしまえばよかった。そうすれば、こんな真実を知らずに済んだのに。何も知らないまま、翔一は十千万で千歌と暮らし続けることができるのに。

 嗚咽でしゃくり上げる曜を、梨子は優しく抱きしめてくれた。彼女の体温が心地よくて、でも痛みにもなる。こんな温もり、感じる資格なんてないのに。

「曜ちゃんのせいじゃないわ」

「でも――」

「誰も悪くないのよ。ただ偶然がいくつも重なっちゃっただけで」

 鼻をすする音が聞こえて、曜は梨子の顔を眺める。彼女も目に涙を浮かべていた。

「だから、千歌ちゃんには秘密にしよう。わたし達でさえ、こんなに辛いんだから」

 知らせるのは、ラブライブが終わってから。どのタイミングで明かしたとしても、最悪であることに変わりはない。たとえ優勝できたとしても、望みがあるようには思えなかった。

 輝きを見つけられたとしても、千歌はそれが霞んでしまう悲しみを知ることになる。

 

 

   2

 

 ランニングを始めてまだそう時間は経っていないのだが、立ち寄った売店で休憩を取ることになった。理由はというと、練習に身が入らないメンバーを考慮して。

 気が弛んでいる、と真っ先に叱責しそうなダイヤが該当者だった。

「まだ帰ってこないの?」

 鞠莉が訊くと、ダイヤはスマートフォンの画面を見てがっくりと頭を垂れる。

「さっき連絡がありまして。もうしばらく、と………」

 いつもの元気な自分を演じるという奇妙な気分になりながら、曜はお調子者を装う。

「まさか、本当に新たにグループを結成して………」

 ダイヤは更に深く頭を垂れた。いつも凛と背筋を伸ばした彼女の曲がった背中は、そう拝めるものじゃない。

「思いつきそうなのはあの堕天使ね」

 目を細める梨子に「目がマジだけど……」と果南がやんわり指摘する。梨子もいつもの自分というものを演じているのだろうか。決勝に向けて突き進む、Aqoursのメンバーという自分自身を。

 せめて、他の皆には言うべきだろうか。そんな危うい誘惑が浮上してくる。千歌の父は翔一の姉に殺された。つい零してしまいそうな緩みを律するために、何も知らない風を装うのは重すぎる。

「大丈夫」

 商店から、購入したミカンを手に千歌が出てきた。

「大丈夫だよ」

「千歌ちゃん、この前何か知ってる感じだったけど」

 そう言いながら、曜は震えを抑えるのに必死だった。千歌は妙に鋭いところがある。リーダーとしてメンバーを見てくれている。だから、近いうちに勘付かれるのでは、と。

「何か聞いてるの?」

 果南が訊くと「聞いたわけじゃないよ」と千歌は答え、

「ただ、自分たちだけで何かやろうとしてるんじゃないかな?」

 そう穏やかに笑った。彼女の笑顔が消えてしまうことを想像するだけで、曜の裡での罪悪が膨らんでいった。

 

 時間の経過も忘れて、ルビィはノートにペンを走らせる。

「これでこう。どう?」

 思いついたフレーズを書き入れ、「こうして」と理亜が付け足す。

「だったら……」

 テーマが決まると、歌詞は面白いほどに次々と浮かんできた。姉に伝えたい言葉。自分たちの想い。言の葉を花丸の助言で詞に適したフレーズに修正し、並び替え、曲として組み立てていく。善子もアイディアを出してくれたが、堕天使全開だったから殆ど却下した。

「最後は――」

 末尾のフレーズを書き入れ、ルビィは出来上がった詞を眺める。初めて創りあげた、自分たちが創った、と胸を張って言えるもの。

「できた……!」

「うん、凄く良い」

 と理亜も満足そうに頷く。昂った気分のままにふたり揃って両腕を掲げ、

「やったー!」

 「うるさい!」と善子の声が飛んできた。寝言らしく、ベッドで花丸と並んで寝息を立てている。もう夜も更けたらしい。

「あ、そういえばタイトル決めてない」

 理亜が気付いた。そういえばすっかり忘れていた。でも、ルビィの中でタイトルはすぐに思いついた。曲のテーマと、歌詞に込めた想いから、自ずと出てくる。この曲がどんな歌かを表す言葉が。

「じゃあ――」

 ルビィは詞にタイトルを付け足す。

 Awaken the power(目覚めろ、その魂)と。

 

 

   3

 

 詞と曲、そして衣装が滞りなく完成し、残ったのはひとつになった。このひとつが最も重要になる。

 つまりは、歌を披露するステージ。ルビィが目星を付けていたのはクリスマスイベントの出演なのだが、アマチュア枠はエントリー数に限りがある。観光地の一大イベントだから、自治体の審査を受けなければならない。

 審査といっても厳しいものでもなく、希望者全てが簡単な面接を受け応募動機とパフォーマンスの内容を述べるというもの。イベントに出る基準を満たしているか、その場で合否判定を下される。理亜は去年のイベントで聖良とSaint_Snowとしての出演経験があるから心強いのだが、本人はそうでもない様子だった。面接官からの質問に全て答えたのは聖良のほうで、自分はただ横についていただけ、というのは本人の談。

 選考会場は、国の文化財にも指定されている旧函館区公会堂だった。大きな洋館の中は、踏み入れた自身をまるで上流階級の令嬢になった気分にさせてくれる。なんてことはなく、内装を楽しむ余裕は無かった。面接が行われるホールの前で設えたパイプ椅子で、緊張の震えが止まらない。

「ルビィ、知らない人と話すの苦手………」

 弱音を抑えることができなかった。ステージに立つときは千歌たち上級生がいてくれて、皆の後ろに付いていれば良い身分に甘えてばかりだったから。

 隣の理亜はというと、いつもステージで見せていた堂々とした佇まいはどこへやら、ルビィと同じように肩を震わせている。

「わたしだって………」

 「そろそろずら」と花丸が心配げに告げた。震えを抑えようと拳を握るけど、まったく効果はない。

「姉様がいないのが、こんなにも不安だなんて………」

 ふわり、とルビィの冷えた拳に掌が重なった。見上げると善子が伸ばした手だった。隣を見やると、理亜の拳にも花丸の手が重ねられている。とても温かい。

「でもさ、自分たちで全部やらなきゃ」

「全て意味がなくなるずら」

 何だかライブの本番前みたい、と自然に笑みが零れた。決まって不安になるルビィに、花丸や善子が肩を抱いてくれたり、堕天使口上を喚いたりして緊張を解いてくれていた。

「ありがとう」

 危うく忘れてしまうところだった。姉がいなくたって、善子や花丸、そして理亜が傍にいてくれるじゃないか。ひとりじゃできなくても、この4人ならできる、必ず。

「次の方どうぞ」

 扉の奥から面接官の声が届く。震えが止まった足で立ち、並んで思い扉を開き、中へ入る。

 行こう、わたし達だけで。

 以前は社交界の場として使われていただろうホールには、9人のスーツを着込んだ面接官たちが厳かな目をルビィ達に向けている。果たしてこのイベントに相応しいかを見定める視線を前にして、先ほど治まったはずの震えが再発する。

「は、初めまして………」

 理亜も同じらしく、声が震えている。これじゃ駄目だ、とルビィも口を開くのだが、

「る、ルビィ達は――あ、いやルビィじゃなくて、あの………」

 自己紹介の文言は、事前にしっかりと考え暗器してきた。一字一句暗唱できるほど面接に備えてきたのに、緊張で脳裏が白紙になってしまう。

 自分たちの力でやり遂げる。そう決めたはずなのに、どうしようもなくなると姉に縋らずにいられなくなってしまう。

 ――お姉ちゃん………――

 裡で呟くと、白紙だった脳裏に昔の記憶が浮かんでくる。確か、まだ幼稚園の頃の記憶。春のよく晴れた日で、姉妹でかけっこをしていた。

 当時小学校に上がったダイヤは、当然ルビィよりも背が高く足も速かった。もっとお姉ちゃんのところへ、と速めようとした足をもつれさせ、ルビィは転んでしまった。擦り剥いた膝が痛くて大声で泣いた。思えば、あの頃から泣いてばかりだった。何かと辛い事があれば泣いて、お姉ちゃん、と姉に助けを求めていた。

 ――ルビィは泣き虫さんですわね――

 あの時、妹の泣き顔などすっかり見慣れたものだったダイヤは、またか、とばかりに優しく笑った。

 ――ルビィは強い子でしょ。ほら、勇気をお出しなさい――

 そう言って、ダイヤはしゃくりあげるルビィの額にキスをしてくれた。幼いルビィにとって、そのキスは魔法だった。弱虫なルビィに、姉から力を分け与えてくれるもの。

 そっか、とルビィは気付く。あの頃だけじゃない。いつだってダイヤはルビィに勇気を与えてくれたじゃないか。ルビィは強い子、と認めてくれていた。昔から、ずっと。

 ――大きくなりましたわね――

 赤レンガ倉庫の前で言ってくれた言葉が、温かく反芻される。あの時、ダイヤはルビィの往くべき先を提示したりはしなかった。突き放されたんじゃない。信じてくれていたんだ、と気付く。妹は自分の足で往ける、とルビィの裡にある力を見出してくれていた。

 きゅ、と拳を握り、俯きかけていた顔を上げ、しっかりと面接官たちを見据える。

「わたし達は、スクールアイドルをやっています。今回はこのクリスマスイベントで、遠くで暮らす別々のグループのふたりで手を取り合い、新たな歌を歌おうと思っています」

 隣の理亜も思考が安定したようで、用意した弁をすらすらと述べる。

「大切な人に贈る歌を」

 ダイヤだったら、こういった場で堂々とできただろうな、と思った。まだ姉には及ばないけど、他人とこうして話せたことで、姉から貰った勇気を大きく成長させることができたのだろうか。

 まだ自信は持てないけれど、裡で抱きしめた姉から貰った勇気は信じられる。

 そんなルビィを窓の外から覗いていた花丸と善子が感動して泣いていたそうなのだが、それはまた別の話。

 

 旧函館区公会堂から少し歩いたところにある公園は、足を休めるルビィ達以外は誰もいなかった。昼食時だから、子供たちも家に帰ったらしい。降り積もった雪は遊んでいた小さな足跡を明確に残していて、広場の中心には大きく丸まった雪だるまが鎮座していた。

「ふたりとも、選考会は頑張ったずらね」

 と花丸が労ってくれる。

「貴様にリトルデーモン10号の称号を授けよう」

 もう善子の言動に慣れたのか、訳の分からない10号になった理亜は「ありがと」とがらんどうに応じた。

「でも、本当に大丈夫かな? あんなこと言っちゃって」

 ルビィが漏らす不安を「仕方ないでしょ」と理亜が撥ねつける。

「絶対満員になる、て言わなきゃ合格できそうになかったし」

 まあ、場の勢いに任せて便乗したルビィも人のことは言えないけど。

 「しょうがないわね」と善子が溜め息と共に、

「いざとなったらリトルデーモンを召喚――」

「どこにいるずら?」

 と買ってきた肉まんを食べながら言う花丸に「うるさい!」とすかさず噛みつく。

「てかずら丸てばまた?」

「美味しいずら」

 函館に滞在して数日経つけど、流石は観光都市なだけあって名産の食べ物が多い。それらを制覇するつもりなのか、花丸は外出すれば必ず何かしらを胃袋に詰めていた。せっかく来たのだから、とルビィも一緒に買い食いしたけど。

「フラグが完全に立ってるわね」

 と善子は不敵に笑む。「善子ちゃん」と花丸が呼びかけるが、善子は気付かず続ける。

「言っとくけど、スクールアイドルに体重管理は大切だから。泣き言いっても――」

「善子ちゃん」

「うるさい! てかヨハネ!」

 ようやく気付いた。確かに体重管理は大切だ。だからルビィもカロリー計算はそれなりに考えながら食べていたし、現に体形に変化はない。花丸も量こそルビィの倍近くは食べたが、あまり体形に出ない体質らしい。

 元々細身だったこともあってか、変化が分かりやすい善子に花丸は告げる。

「既にフラグは立っていたずらよ」

「むしろ、見てて気付いたんだけど………」

 と理亜が前よりも膨らんだ善子の頬を指でつつく。善子もよく買い食いしていたのだが、自分より多く食べる花丸を見て安心していたのだろう。

「何でえええええええええ‼」

 なんて善子の叫びが、晴れた空にこだまする。これは本番までダイエットさせなくてはなるまい。じゃないと衣装が入らない。

 心底呆れた顔をした花丸は、口の中の肉まんを飲み込むとルビィに訊いた。

「そういえば、鞠莉ちゃんたちに連絡はしたずら?」

「うん、さっきメール来たよ。そういう事なら、是非協力させて、て」

 

 

   4

 

 函館の地元ラジオへの出演依頼はすぐに届いた。市をあげての一大イベントに、敗退したとはいえラブライブ優勝候補と目されたSaint_Snow、決勝大会へ出場するAqoursのメンバーが出るという話題性から食いついたらしい。ラジオでの出演だから人前に出ることはないが、声だけでも多くの人々に聞かれること、しかも生放送という撮り直し不可ということが、ルビィ達の緊張を掻き立てた。

「さあ今日は、クリスマスフェスティバル出演者の、えっと………」

 いざ収録が始まったところで、マイクを前にした司会者が言い淀んだ。どう紹介したら良いか悩みどころらしい。ひとりずつ紹介する、というのも少しまどろっこしい。

「Saint Aqours Snowです」

 と理亜が咄嗟に名乗った。「が、お越しくださいました」と司会者は進行を続ける。まさかグループ名がこんな形で決まってしまうとは。

「ド直球な名前ずらね」

 マイクから口を離した花丸が囁く。「北の大地、結界と共に亡者の蘇りし――」なんて善子の口上を無視し、「ちゃんと告知するずら」と耳打ちされ、ルビィは深呼吸し目の前のマイクへ口を近付ける。

「クリスマスイブにライブを行います」

 ひと言だけだけど、噛まずに言うことができた。次は花丸の番。ただ花丸もこういった場は緊張してしまうようで、

「よろしくず――じゃなくて、よろしくお願いするず――じゃなくて、お願いしますずら!」

 収録時間は短かったけど、終わってから一気に疲労が押し寄せてきた。特に花丸は方言が出てしまったことが未だに悔やまれるらしく、収録ブースから出ると肩を落として深く溜め息をついた。

「失敗したずら………」

「大丈夫だよ花丸ちゃん」

 ロビーに出たところで、出入口の自動ドア前でふたりの少女が立っていた。こちらに向けられた視線から、明らかにルビィたちを待っていた、と分かる。ふたりが着ている制服は理亜と同じデザインで、知り合いらしく理亜は目を丸くして立ち止まる。

「あのふたりは?」

 ルビィが訊くと、理亜は弱く「クラスメイト」とだけ答え、ルビィの背中に隠れる。

「どうして隠れるの?」

「だって、殆ど話したことないし………」

 ならどうして、彼女たちはここへ来たのだろう。疑問に思いながら彼女たちをちらりと見やるが、あまり和やかな顔をしていない。どこか緊迫に似たものを感じてしまう。

 背中にいる理亜は、まるで自分自身のように感じた。何かに遭遇するとすぐ姉の後ろに隠れて、事が過ぎるのを待つ。姉ならこうするだろうな、と思いながら、ルビィは理亜のクラスメイト達にはっきりとした口調で告げる。

「Saint_Snowのライブです。理亜ちゃん出ます」

 「なっ」と後ろで理亜が小さく声をあげた。クラスメイト達の表情が少しだけ柔らかくなり、

「理亜ちゃん、わたし達も行って良いの?」

 そう訊かれ、おずおずとルビィの背から出た理亜は「え……、うん」と拙く答え、

「それと今更だけど、ラブライブ予選は……、ごめんなさい………」

 「良いんだよ」と優しく言いながら、ふたりは理亜へ歩み寄る。

「わたし達の方こそ、嫌われてるのかな、て。会場にも行けずに、ごめん」

「理亜ちゃんや聖良先輩が、皆のために頑張ってたのは知ってるよ」

「Saint_Snowは学校の、わたし達の誇りだよ」

「クリスマスフェスティバルには出るんでしょ? 皆も来たい、て。良い?」

 向けられた言葉の数々に、理亜は驚いたような顔をした。まともに会話したことのない人物から向けられる好意に、どう応じたらいいのか分からないように困惑気味ながら「うん」と答え、その目に涙が浮かぶ。

 張り詰めていた糸が緩んだように、理亜は涙を止めずに流し続ける。そんな彼女を「泣かないで理亜ちゃん」とクラスメイト達はハンカチを差し出してくれた。

 ルビィと理亜はとても似ている立場だけど、ひとつだけ違っていたことがある。姉がいなくても、一緒に居てくれる存在。ルビィにとってそれは花丸と善子だけど、理亜にはそれがなかった。聖良とふたりだけのSaint_Snowにこだわるあまり、クラスメイト達との交流も上手くいっていなかったのかもしれない。

 ルビィ達が沼津に帰れば、理亜は孤独に戻ってしまう。でも、そんな心配は無用だった。理亜にだって、こうして歩み寄ってくれる存在がいる。根はルビィと同じ怖がりだけど、世界は思っているよりも怖いものじゃない。辛い現実こそあっても、どこかに温もりが確かにあって、そこが居場所になる。

 そんな温もりを太陽のように熱くさせられるのが、スクールアイドルの輝きなのかもしれない。

 泣きじゃくる理亜を見て、ルビィも貰い泣きしていた。嬉しいはずなのに、この涙の理由はよく分からなかった。明日には、鞠莉の手配でダイヤが来てくれる。

 お姉ちゃんに早く会いたい、と思った。寂しさじゃない。こうして自分たちだけで切磋琢磨して、成し遂げた姿を見てもらいたい。

 再会した時、自分の姿はダイヤにどう映るのだろう。少しは成長できたのか、それとも変わっていないのか。ちょっとだけ怖いけど、それ以上に楽しみだった。

 

 

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