ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト   作:hirotani

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 人を守るためにライダーになったんだから、ライダーを守ったっていい。

――仮面ライダー龍騎(りゅうき) 城戸(きど)真司(しんじ)




第2話

   1

 

 寒さのピークが過ぎて、徐々にだが空気も温かみを帯びつつある。まだ校庭に並ぶ桜木の枝は丸裸だけど、ひと月かふた月すれば蕾を付けて開花を迎えるだろう。満開になった時が、生徒たちが学校を去るまでに間に合えばいいのだけど。

 まだ内浦が凍えるほど寒い時期に、翔一は東京へ経った。十千万で過ごした最後の日にはAqoursメンバー全員を呼んで盛大なパーティを催して彼の門出を祝った。主役なのに、料理は全て翔一が作っていた。出来ることなら涼や誠も呼びたかったのだけど、その時には既にふたりも東京へ経った後だった。

 アンノウンが現れなくなって、戦士として戦ってきた3人は沼津から去って行った。それぞれが新しい、自分の人生を生きるために。それに伴って千歌たちの日々に変化があったかというと、実のところ特に変わりはない。Aqoursはラブライブ決勝に向けて練習の毎日。高海家では単身赴任を終えた母が翔一に代わって家事をしてくれている。何も不自由なことはない。家に帰っても翔一の「おかえり」が聞こえなくても、思ったよりも寂しくはなかった。

 会いたくなったら、会いに行けばいいじゃない。

 旅立つ日、翔一は笑顔でそう言っていたのだから。

 

「そうそう、そっち気を付けて」

 曜の指示に従い、柱を一寸も動かさないよう両腕で抱える。「千歌ちゃんも大丈夫?」と反対側を抱える梨子に「うん」と返しながら、括りつけておいた縄を固く縛り付けた。

「こっちはOK、固定して」

 梨子のほうも縛り終えたらしく、ゴーサインを受け取った曜は縄が伸びる杭を木槌で力いっぱい叩いて土に埋めていく。縄に弛みがないか確認すると、曜は額に浮かぶ汗を袖で拭った。

「できた!」

 校門にそびえ立ったアーチを見上げ、3人揃って嘆息した。ペンキの塗りむらが目立った手作り感満載の門だけど、悪くない出来だと思う。

「立派ね」

 梨子の呟きに「うん」と同意し、

「これまでの感謝を込めて、盛大に盛り上がろうよ」

 アーチに書かれた手書きの「閉校祭」という文字。学校が終わる前の最後の祭りだが、悲壮なんて感じさせない催しにするため、曜が意気込みを声に出した。

「ヨーソロー!」

 

 もう長いこと作業しているせいか、部室には奇妙な匂いが充満している。換気のために窓を開けているのだが、当日になって苦情が来やしないか心配でならない。

「遂にfinish!」

 寸胴鍋の中身を長尺お玉でかき回しながら、鞠莉は調味料を投入していく。瓶の中身全てだ。充満する匂いが更に怪しくなっていくのだが、一体何を入れたのか。

「ここに新たに誕生したのデース。シャイ煮premiumが!」

 当の本人はその出来栄えにご満悦らしい。見かけは夏に海の家で作ったものの売れなかったゲテモノのごった煮と似たようなものだ。当時と比べて具材が増えたから無秩序具合が倍増している。

「部室で料理するのはやめて頂けません?」

 その忠告はもっと早い段階ですべきだったのだが、ダイヤが生徒会役員の生徒から報告を受け訪れたときには、既にこの状況が出来上がってしまっていた。

「だって、皆がまた食べてみたい、て言うから」

 当の本人は全く悪びれる様子もないから困ったものだ。調理するなら家庭科室とまず思うものだが、生憎他の学級が使用権を取ったから部室しか場所がなかったのだろう。

「普通の学校の理事長はそもそも学園祭でお店を開いたりしませんわ」

 何より悩みどころなのが、これでも浦の星の理事長であること。「No,No,Noダイヤ」と鞠莉はお玉を振り、

「学園祭ではなく閉校祭。最後のお祭りなんだから、理事長だって何かやりたいよ」

 幼い頃はまだ引っ込み思案な面もあったのに。このバイタリティを引き出したのが幼き日の自分と思うと深い溜め息が出てしまう。

「でも本当に良いんですの? 3学期のこんな大変な時期に」

 「当然」と鞠莉は即答する。

「だって、学校の皆が言ってくれたんだよ。閉校祭をやりたい、て」

 この閉校祭は、かねてから予定されていたものではなかった。3学期が始まってすぐ、理事長室へよしみ、いつき、むつの3人が要望書を手に提案してきたもの。卒業式は真面目に行うべきだけど、最後に卒業生や近隣住民も手放しで楽しめるイベントとして、閉校祭という名の学園祭を催したい、と。

 その要望に、鞠莉はその場で承認印を捺した。

「本当、この学校って良い生徒ばっかりだよね」

 生徒会に何の相談もなく即決したことについて小言が出そうになったが、それは野暮だから留めておく。話を聞いたら、ダイヤも賛成しただろうから。

「鞠莉ちゃーん!」

 元気な千歌の声と共に、2年生たちが部室に入ってくる。

「アーチ、設置完了であります」

 敬礼しながら曜が報告すると鞠莉は「ご苦労!」と応じ、

「じゃあ、それぞれ自分の部署に戻って準備進めて」

「全体的にかなり遅れてますわ。このままでは、夜までに終わりませんわよ」

 一応としてダイヤが忠告すると、千歌たちは「わっかりましたー!」と走り去って行く。せわしない、と呆れそうになるが、この落ち着きのない日々も残りひと月と思えば愛おしくなる。

「楽しそうですわね」

「チカっち達も嬉しんだよ。学校の皆が、この機会を作ってくれたことが」

 学校が無くなるとしても、最後だけは楽しい思い出を。未練なくこの学び舎から経てるように。生徒みんなで一丸となれるこの学校最後の卒業生になれることは、ダイヤも喜ばしい。

「分かりましたわ」

 なら、この機会に自分も存分に楽しませてもらおう。残りの高校生活も短いのだから、その間に出来ることは全てやりたい。

「この学校でやりたかったことを、皆思いっきり、このお祭りで発散させる。でしたわよね」

「Yes」

「そういうことであれば、わたくしも生徒会長という立場を忘れて、思いきりやらせて頂きますわ」

 

 同級生たちはそれぞれ部活や委員会での出し物があるから、クラスでの準備は最終的に花丸と善子だけになってしまった。人手がふたりだけというのに、善子のこだわりの強さで進捗は順調とは言えない。

「とても間に合わないじゃない」

 床にチョークで魔法陣を描きながら善子が文句を垂れている。内装にあれこれ注文を付けるから遅れているというのに。

「ルビィはどうしたの?」

「ルビィちゃんは人気があるから引っ張りだこずら。ここは人気のない者が頑張るずらよ」

「どういう意味――」

 言いかけて、善子は視線を廊下へと移した。釣られて花丸も見ると、教室の前を2体の着ぐるみが横切っていく。

「今の何?」

「どっかで見たことあるずらね」

 

 梨子とふたりで教室に戻ると、飾り付けは順調に進んでいるようだった。

「随分できてきたわね」

 学校周辺のミカン畑をイメージした壁紙を見て、梨子が頬を綻ばせる。手伝えることはないか、と戻ってきたが、残りの作業も少ないかもしれない。

「あ、お帰りなさい」

 そう千歌たちに声をかけたのは、テーブルで裁縫に勤しんでいるルビィだった。腕を見込まれて駆り出されたのだろう。

「ルビィちゃんもお手伝いしてくれてたんだ」

 言いながら彼女の成果物を視てみると、それもほぼ完成に近付いている。

「こういう衣装も作ってみたかったから」

 とルビィは衣装を広げて見せてくれる。函館の菊泉から着想を得たのだろう和装エプロンは、手作りとは思えないほど出来栄えがいい。

「可愛い!」

 期待以上の出来だった。テーブルの隅には既に完成品が何着も積み重なっている。Aqoursの衣装作りで手慣れているルビィにとって、これくらいの作業は簡単すぎるのかもしれない。

「流石ルビィちゃん」

 梨子がそう言ったところで、千歌たちは教室の前を横切る生き物たちに気付いた。目で追うと、三津シーパラダイスから借りてきたのか2体のうちっちーが廊下を走り去って行く。

「曜ちゃん、だよね?」

 戻る途中で別の準備があるから、と別れたのだが、あの着ぐるみで何の催しをするのだろうか。残る疑問を、梨子が口にする。

「あと1体は誰?」

 気になって仕方ないから3人で追いかけるが、うちっちー達はあの巨躯からは考えられないほど軽やかに廊下を駆け、階段もペースを落とさないまま降りていく。

「曜ちゃーん?」

 呼びかけてみても、返事はない。1階にまで降りたところで、完全に見失ってしまった。

「あれ、どこ行ったんだろ?」

 周辺を見渡しても、それらしき影は見当たらない。

「確かこっちに来たはずだけど」

 梨子も辺りに視線をくべている所で、「消えたずら?」と花丸の上ずった声が飛んできた。同じくうちっちーを追ってきたのか、善子とふたりで千歌たちのもとへ駆け寄ってくる。

 その時、布が擦れるような音が聞こえ、咄嗟に千歌は振り向いた。一瞬だが、白い布地が廊下の曲がり角に消えていくのが視えた。

「こ、今度は?」

 震える声を絞る善子とは対照的に花丸はさらりと、

「お化けずらか?」

 そんな事を言うものだから、梨子たちが怖がって千歌にしがみ付いてくる。宥めながら白布が消えた方向へ行くと、倉庫の引き戸が僅かに開いていた。真っ先に中へ入ると、長いこと使われていないのか埃が舞い上がる。初めて部室に入った日のことを思い出した。

「本当にここに入ったの?」

 千歌の背中にしがみ付いたままの梨子が恐る恐るといった声色で訊いてくる。「うん、多分」と応じながら奥へ入るにつれて、窓もないから昼間にも関わらず暗くて広さが掴み辛い。

「何なの、ここ?」

 梨子と同じように怖がっている梨子に、容赦なく花丸が茶々を入れた。

「堕天使が怖いずらか?」

「ま、まさか。むしろこの闇の波動が心地いい今日このごろ――」

 と強がってみせたところで、奥からがた、と何かがぶつかる音がした。反射的に「ひゃあっ」と奇声に似た悲鳴をあげた善子ルビィと一緒に倉庫を出て戸を閉めてしまう。

「わたしはここで結界を張って皆を守っています」

「ヘタレ堕天使」

「ヘタレ言うな!」

 何だか皆の恐怖が伝染してきた気がする。少しばかり寒気がしたところで、梨子が震えた手を千歌の肩に添えてきた。

「千歌ちゃん……」

「ん?」

「どうしよう………」

「何?」

 梨子の視線を追うと、部屋の隅で白布を被った何かがもぞもぞ動いている。

「でもやっぱりこれ、ただのシーツよね?」

 縋るように梨子は訊くのだが、動いている時点で「ただ」のシーツではないだろう。すきま風で揺れているにしても不自然だ。

「確かめてみるね」

 「気を付けてね」という梨子の声を背にして、千歌は布に手をかける。

「とりゃああああああああああっ!」

 雄叫びと共に引き剥がしたシーツの中にいた者の姿に、拍子抜けして千歌はしばし硬直してしまった。梨子と花丸も同じように、無言のまま。「大丈夫⁉」と入ってきた善子とルビィもシーツにくるまっていた者を目撃する。

 その正体は――

「なあんだ、しいたけちゃんか」

 一気に疲れたような声で、梨子が溜め息と共に漏らした。安堵して、そして遅れて気付く。

 何故ここにしいたけが?

 その疑問へと思考が移ったところで、

「ピギャアアアアアアアアアアアアア‼」

「んにゃあああああああああああああ‼」

 というルビィと善子の悲鳴が耳をついた。いつの間にか背後に2体のうちっちーがいたのだが、うちっちー達も悲鳴に驚いて尻もちをついている。

 しかも悲鳴で興奮したのか、しいたけが「ワン!」と吼えて倉庫から飛び出していた。

「待てしいたけ!」

 追いかけると廊下から生徒たちの悲鳴が響き渡っている。しかもしいたけはまたシーツを頭から被っていて何も視えずパニックになっているようだった。暴走犬になったしいたけは1階の廊下を駆けまわった末に勝手口から外に出て校門へ向かう。前なんてろくに視えていないから、アーチを固定していた縄に足を引っかけて盛大に地面を転げまわった。

 縄の接触でバランスを崩したアーチがぐらつき、土ぼこりを巻き上げながら倒れる。

 あまりの状況の目まぐるしさに、もはや千歌は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

   2

 

 不可能犯罪が止まったから本庁に戻ったというのに、捜査一課に配属された誠に割り振られた事件――と捉えていいものか――はまたしても不可思議なものだった。沼津でこの手の事件を担当していたのだから、と適性を認められての配属かもしれないが、喜んでいいのか悩みどころだ。

 コンビニ弁当にカップ麺に宅配ピザの空き容器が、部屋中に散らかっている。まだ放置されてそう日も経っていないゴミの中心で、その男性の死体は自らの出したゴミに埋もれるようにして、まだスープが残ったラーメン容器に顔を突っ込んでいた。

 同居人の証言によると、朝早くから大量に食料を買い込んでそれらを食べ始めた。まるで何かに憑りつかれたように。同居人は仕事のため外出し、帰宅してきたらこのような状況になっていたという。つまりこの仏は、絶命するまで買ってきた食料を食べ続けていたことになる。

「自殺にも色々あるが、こんなのは初めてだ」

 仏を見下ろしながら、河野が溜め息交じりに呟く。事件性も考慮し毒物がないか検死に回す予定だが、自殺とみてあながち間違いは無いかもしれない。死因も、食べ物を詰め込み過ぎたことによる窒息だろう。大食い大会で参加者がパンを喉に詰らせ死亡する事故が極稀に起こってしまうものだ。

 でもこの男性はフードファイターじゃないし、同居人によると大食漢というわけでもなかったらしい。ましてや意図して許容量を超えた食事をするなんて、正気の沙汰じゃない。

「どうした、何か気になることでもあるのか?」

 誠の裡を察してか、河野が訊く。

「まさか、これもアンノウンの仕業だとでも言いたいのか?」

「いえ、ただ随分と奇妙な死に方だ、と思いまして」

 死体の状況が奇妙だから、とアンノウンに結び付けてしまうのも短絡的だとは思うが、どうにもただの自殺とは思えない。違法薬物の摂取で極度の興奮状態での行為ならまだ説明はつくが、部屋からそれらしきものが見つからない以上は何とも言えない。

「全くな、訳が分からんよ」

 深く嘆息して河野は言った。

 

「器物破損、被害甚大。アーチの修復だけで10人がかりで4時間のロス」

 もう空が茜色になる頃、作業を終えた千歌と梨子と花丸は生徒会室で罰が悪そうに佇んでいた。

「何か、美渡姉散歩してたらリードを放しちゃったらしくて………」

 しいたけは美渡に連絡して連れ帰ってもらった。教員と生徒たちに謝罪して回った彼女も手伝うと申し出てくれたのだが、それは流石にダイヤが丁重に断った。

 しいたけは賢いから自分で家に帰るらしいのだが、もしかしたら楽し気な学校の雰囲気が醸し出す匂いに釣られてきたのかもしれない。でもそれとこれとは話が別。

「言い訳は結構です」

 ダイヤはぴしゃりと撥ねつけ、

「とにかくこの遅れをどうするか。閉校祭は明日なんですのよ」

「頑張ります………」

「それで済む話ですの? もう下校時間まで僅かしかありませんわ」

 「そろそろ終バスの時間ずら」と花丸が呟いた。曜や善子のように沼津市街から通っている生徒は帰さなければならない。そうなれば人手は更に減る。

「間に合うかな?」

 千歌の問いには、梨子の「だよね」という弱い声しか返ってこない。そこで、ただ傍観していた鞠莉が口を開いた。

「OK、そういう事であれば、小原家が責任を持って送るわ、全員」

 その提案に「本当ずら?」と花丸が目を丸くする。

「準備で学校に残る生徒全員。勿論、ちゃんと家には連絡するようにね」

 そう鞠莉が続けると、沈んでいた千歌たちの表情が明らんだ。

「ありがとう、皆に伝えてくる」

 とまた落ち着きなく、千歌たちは生徒会室を出て行く。さらりと安請け合いしてしまった鞠莉に、ダイヤは訊く。

「本気ですの?」

「最後なんだもん、許してよ」

 何かにつけて理由は「最後だから」だ。もっとも、我儘を突き通したいのは鞠莉だけじゃないのだが。

「誰も許さないなんて言ってませんわ。最初からそのつもりでしたから」

 元々ダイヤが提案するつもりでいたのに。美味しいところを持っていかれてしまった。鞠莉は意外そうにダイヤを見つめ、すぐに悪戯っぽく笑ってみせた。

 

 

   3

 

 残るのは希望者だけと生徒たちに伝えたのだが、結局は全校生徒が居残りで作業することになった。帰りが遅くなったわけだけど、こういったアクシデントも醍醐味のようなものと文句も言わず生徒たちは作業している。

 皆、この準備の時間すらも楽しんでいるのだろう。一緒に何かを作っていくこの時間をもっと続けたい、終わらせたくない、と。

 作業も残り僅か。明日に向けて精を付けるため、教室でしばし休憩ということで夕食を摂ることになった。

「はい、お待たせ! 翔一くん直伝ミカン鍋!」

 土鍋の中で煮込まれた具は白菜に豆腐にエノキ、そこにミカンを丸ごと投入したもの。翔一が高海家を経つ前に残していったレシピのひとつだ。

「美渡姉がお詫びに、て」

 具材は全て、先ほど改めて謝罪に来た美渡が持ってきてくれた。しめにうどんも用意してある。一見すれば奇天烈な鍋に苦笑しながら梨子が言う。

「翔一さん、東京でもおかしなもの作ってないといいけど………」

 「連絡はしてるずら?」と鍋を食べながら花丸が訊いた。

「うん、たまにね。毎日忙しいけど楽しい、て」

 週に1度来る程度だが、翔一からは家で作った創作料理の写真が送られてくる。この前も店で覚えたというラザニアの写真が送られてきて、深夜に空腹を誘われた。

「元気にしてるのね」

 穏やかに微笑んだ梨子は、うちっちーの頭を脱いだ果南へと目を移し、

「それで結局、その恰好は一体――」

「ああ、閉校祭は曜とふたりで教室に海を再現してみよう、てこの恰好にしてみたんだけど」

 「てことは――」と花丸は善子の隣で佇んでいるもう1体のうちっちーへ目を向ける。

「これは曜?」

 善子が呼びかけるも、これといった反応がない。愛くるしい姿も不動だと不気味だ。因みに果南のうちっちーは現役を退いた初代の着ぐるみで、曜のは現職の2代目らしい。曜が三津シーパラダイスでアルバイトしていたよしみで借りることができたのだろう。

「何か喋りなさいよ!」

 と善子が強く言っても反応がない。着たまま眠っているのだろうか。

「人騒がせずら」

 とスープを飲み干した花丸は「おかわりずら」と空になった器を差し出す。

「もう本番まではそれを着て外に出ないでくださいね」

 梨子の小言を果南は「はいはい」と適当にあしらい、千歌のよそった鍋の器を手に取って食事を始める。

「だから喋りなさいよ!」

 じれったくなったのか、善子がうちっちーの頭に手をかけた。ごと、と頭が落ちた着ぐるみの中には、誰も入ってなく胴体部分もバランスを崩して床に倒れる。

「首が取れたずら」

 花丸がさらりと言うと、善子は「んにゃあああああ!」と悲鳴をあげた。

 

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