ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト 作:hirotani
でもな、夢を守ることはできる。
――仮面ライダーファイズ
1
校門前は既に飾り付けが終わったらしく、曜以外はまったくの無人で静かなものだった。もう全体としても作業は終わっている頃だろう。
アーチを固定する杭を見ると、やはり少し打ちが浅い。立て直した時から気になっていた。持ってきた木槌で力いっぱい叩いて、更に深く打ち込んでいく。
「これでよし」
独りごちりながらふう、とひと息つく。これならまたしいたけが突進しても倒れることはないだろう。戻ろうと踵を返したとき、ふと視線が校門の傍に放置された段ボール箱に留まった。誰かが片付け忘れたものだろう。
何でもないただの段ボールは、もう1年が経とうとしているあの日を思い出させた。桜が咲く中、声を張り上げていた親友の姿を。箱に乗ってみると、視点が上乗せされ景色がよく視える。こんな景色を見てたんだ、と感慨を抱きしめながら、誰もいない校庭で声を張り上げる。
「スクールアイドル部でーす! よろしくお願いしまーす! あなたも、あなたも、スクールアイドルやってみませんか?」
新入生たちは、誰も見向きしていなかった。曜もチラシ配りを手伝って、受け取ってはくれたけど興味を持ってくれた手応えは全くと言って良いほどなかった。正直、曜もスクールアイドルに興味はなくて、当時は水泳部に専念していくものだと思っていた。
「はい!」
予想外の返事に驚きながら向くと、そこには曜が再現していた当人が立っている。
「スクールアイドルやります!」
恥ずかしいところ見られちゃったな、と思いながら段ボールから降りる。
「何か静かだね。学校はあんなに賑やかなのに」
まるであの頃のわたし達みたい、と思った。ふたりだけで始めたスクールアイドル。自分たちだけ盛り上がって、周りからは少し冷めた目で見られていて。
どこの教室もまだ照明が点いていて、窓から生徒たちの笑顔が覗き見える。どこの教室も楽しそうだった。
「うん、何か良いよね、そういうの」
千歌は言った。
「外は普通なのに、学校の中は皆の夢で、明日に向いてわくわくしてて。時が過ぎるのも忘れていて。好きだな、そういうの」
楽しさの渦中にいたいけど、こうして1歩引いて眺めてみるのも、案外良いものと思える。校舎には胸を躍らせるような、きらきらとした煌きが満ちている。
「ずっとこのままだったら良いのにね。明日も、明後日もずうっと。そしたら、そしたら………」
千歌の語る望みは、現実を意識させてしまう。ずっとなんてものは、呆気なく砕ける夢想だ。学校はなくなる。どれだけ今が賑やかでも、桜が咲く頃になると一切の静寂に包まれることになる。この校門も、生徒を迎えて見送る役目を終える。
寂しさを少しでも紛らわせようと催される閉校祭なのだが、やはり裡の奥底にあるものは誤魔化しようがない。この学校への情が強くなるほど、痛みも増していく。
「わたしね、千歌ちゃんに憧れてたんだ」
何の脈絡もなく、曜はその告白をする。ずっと抱いていた羨望だった。スクールアイドルを熱く語って、求めるものに向かって全速全身で突き進もうとする親友に、曜は確かな力を感じていた。曜や、他のメンバー達が持つアギトとは別の、千歌にしかない力。
「千歌ちゃんの視ているものが視たいんだ、て。ずっと同じ景色を視ていたいんだ、て。このまま、皆でお婆ちゃんになるまでやろっか」
いくらもがいても、時は進んでいく。なら、止めようなんて考えはやめよう。時の流れを怖れず、むしろ楽しんで日々を過ごしていけばいい。時間に身を任せているからこそ、どこまでも行くことができるのだから。
「うん」
頷いた千歌も、告白をしてくれた。
「わたしもね、ずっと曜ちゃんが羨ましかったんだ。何でも上手くできちゃうし、アギトなんて凄い力持ってるんだもん」
思わず苦笑してしまう。互いに無いものねだりをしていたということか。
「わたしも、視てみたいんだ。曜ちゃんや皆みたいな、凄い力がある人と同じ景色。そこにわたしも一緒に行けるかな、て」
そこに行くとしたら、きっと先頭を往くのは千歌と断言できる。力を持った曜たちは皆、千歌の背中に着いてきたのだから。
千歌は曜の両手を取る。
「わたし、曜ちゃんのこと怖くないよ。アギトになっても、曜ちゃんは絶対に曜ちゃんのままだもん」
温かさが裡に満ちていくようだった。やっぱり、千歌は曜よりもずっと強い。この親友だからこそ、一緒にスクールアイドルをやってこられた、と確信できる。
「うん」
曜自身も、自分の抱える力を怖れたりはしない。どんなに姿が変わろうとも、親友や学校が大好きなこの気持ちがあれば、渡辺曜のままでいられる。
2
「おやっさん、掃除終わったよ」
事務所に入りそう言うと、PCとにらめっこしていた店主は「おお」と老眼鏡を外し壁の時計へと目を向ける。
「もうこんな時間か。今日はもう上がっていいぞ、お疲れさん」
「ああ、また明日」
「おう、気をつけてな」
東京での勤め先として働き始めたバイク屋は、紹介してくれた沼津の方と大差ない小さな町工場だった。主な商売としては故障したバイクの修理と、下取りに出された廃車をまた走れるよう整備し売りに出す。
涼はまだ新入りだから店主の指導を受けながら整備作業をしているが、いずれひとりで仕事ができるようになれば腰を痛めた店主は顧客管理の事務仕事に専念するつもりでいるらしい。店主も店主でPCの扱い方に慣れず四苦八苦しているようだが。
それにしても、この店を紹介してくれた沼津のほうの店主も人が悪い。弟とは聞いていたが、まさか双子とは。顔が全く同じだから初めて顔を会わせたときはしばらく呆けてしまった。
バイクで帰路につきながら、夕飯をどうしようか、とぼんやり考えた。コンビニ弁当もそろそろ飽きてきたし、適当にどこかで外食でもしようか。
飲食店が多く建ち並ぶレストラン街に入ったところで、涼はふと気付いた。確かこの辺りに、翔一が働いている店があったはず。食べに来て下さい、なんてメッセージに店の外観写真も添えられていたから、そのレストランはすぐに見つけることができた。写真で見るよりも瀟洒な店だったから、懐事情を考えると入店はもっと余裕を持ってからにしたい。
店の傍でバイクを停めると、磨かれた窓ガラスから店内の様子が垣間見える。お客のグラスにワインを注ぐウェイターの笑顔が眩しく、それは紛れもなく翔一だった。ひと目見ただけで、不思議と安堵してしまう。
十千万という温かい居場所を離れるなんて勿体ないと思ったが、翔一にそんな心配は無用だったのかもしれない。どこへ行っても、翔一は翔一のままでいられるのだから。
頑張れ、津上。
裡で激励を飛ばし、涼はバイクを発進させる。翔一は自分の人生を生きている。なら、自分も一生懸命生きよう。自分の足で、自分の行きたいところへ。
結局のところ、夕飯は立ち寄ったコンビニの、食べ飽きた唐揚げ弁当になった。味にこだわるほどの贅沢はまだできないが、腹が満たされるだけでも十分だ。
「っ!」
久しい戦慄が、涼の脳裏によぎる。まだ終わっていなかったか、と裡で愚痴りながら帰路とは反対方向へバイクをUターンさせた。単なる気のせいでないことは確からしい。近付いている、という感覚があるのだから。
不意に、仕事帰りなのかスーツを着た中年の男が「わあああ!」と喚きながら道路を横切っていく。後を追うように飛ぶ一条の光が、矢のように男の背中に刺さった。「うっ」という呻き声をあげた男の顔が、水に浸した紙のように透けていく。顔が完全に宵闇と同化して見えなくなると同時、まだ残っていた服が衣擦れの音を出しながら地面に崩れ落ちた。
咄嗟に涼は光が飛んだ方向を見やる。そこには鳥人と呼ぶべき異形が弓を構えていた。背中から翼を生やし、猛禽類のような目を光らせている。
「変身!」
ギルスに変身し、涼はアンノウンへと跳びかかる。突き出した拳は弓で受け止められ、追撃の蹴りを入れようとしたがそれも跳躍で避けられる。人間離れした脚力で、アンノウンはマンションの屋上へと逃れた。
涼も跳躍し、屋上へ着地を決める。直後、強烈な突風が屋上を吹き抜け、危うく縁から落ちてしまいそうになる。風に乗るように、アンノウンが組みついてきた。すかさず肘打ちで突き放し、蹴りを入れるも足を掴まれて投げられてしまう。
仰向けに倒れた首に手がかけられた。引き剥がそうとしても、首に込められた力は緩む気配がない。油断していたわけじゃないが、こいつは並の敵とは違う。あの水のエルと近いものを感じられた。
あれが水を司る者だとしたら、こいつは風を司るエルというべきか。
裡の力を更に顕現させ、涼は全身から尖刀を伸ばした。エクシードギルスへと変わり、手首から伸びる刃を振る。でも、手応えは感じられなかった。容易に避けられたばかりか、反撃の拳を数発腹に食らってしまう。
跳躍して踵を振り上げた瞬間、また突風が吹いて涼の身体を屋上の外縁へと追いやった。宙では自由がきかず、成す術もないまま真っ逆さまに落ちていく。
いざ地面に衝突しようとしたとき、寸でのところで身体は止まった。反動で僅かに浮かび、そのままぶらぶらと宙に揺れる。背中から伸ばした触手が、どうやらマンションの柵に無事引っ掛かってくれたらしい。
仕留めたと思ったのか、風のエルは追ってはこなかった。もしかしたら、また来ても返り討ちにできる、という確信があったのか。
3
交通機動隊、即ち白バイ隊のフロアの休憩室を尋ねると、その懐かしい顔は浮かない表情でパンを齧っていた。
「尾室さん」
誠が声をかけると、尾室は驚いたのかむせ返りながら振り向く。
「あ、氷川さん」
「ここにいると聞いたもので」
喉に詰りかけたパンを缶コーヒーで流すと、尾室は苦笑気味に言った。
「何か、随分と久しぶりな気がしますね」
かつての同僚と顔を会わせると、自然と安堵できる。上からは新しい部署で、と通達を受けたが、誠は捜査一課で尾室は交通機動隊と、古巣に戻った形になる。
「調子はどうです?」
誠が訊くと尾室は少しばかり肩を落とし、
「ええ、ぼちぼちやってます。ちょっと退屈ですけどね。街中走って職質ばかりで。元居た部署ですけど、何か張り合いがない、ていうか………」
「そうですか……」
「あ、氷川さんの方はどうですか?」
「妙な事件を担当することになりまして。上からはアンノウンの事件に比べたら余裕だなんて変な期待をかけられてますが、面倒事を押し付けられた気がして」
「そりゃ期待もされますよ。何たってG3-X装着員なんですから」
ふたり揃って笑うが、どこか乾いたものだった。しばし沈黙し、この場にいない上司の名を尾室が呟く。
「小沢さんはどうしてるんでしょうね。氷川さんの方に、連絡とか来てますか?」
「ええ、毎日会議ばかりみたいです。北條さんの愚痴ばかり聞かされましたよ」
小沢だけは未だG3ユニットからの異動がない。今後のユニット活動の方針について、日々上層部と会議という名の舌戦を繰り広げているらしい。ユニット解散を掲げる上層部と、継続を掲げる小沢という構図で。
アンノウンは本当に滅びたのか、という論点から滅びたとしても次に現れるかもしれない未知の敵に備えるべき、というのが小沢の主張なのだが、まだ存在しない敵に準備が必要か、と眉を潜める上層部に歯噛みしているらしい。
そこで第3の意見を投じたのが北條だったらしい。アギトをどう捉えるべきか。このままアギトを放置して良いものか、と。
彼の意見も全否定できるものではない。恐らく高海伸幸事件の犯人がアギトという事実からの危惧だろう。もっとも、小沢はバカ男の戯言なんて一蹴していたが。ともあれ、まだユニットの今後について結論は出そうにない。このまま現職の部署に居続けるのも、いよいよ現実味を帯びてきた。
「また皆で働けるといいですね」
何気なしに誠が呟くと、尾室が鼻声で「氷川さん」と呼んでくる。向くと、何故か目を赤く腫らしていた。
「どうしたんですか?」
「僕……、嬉しいです!」
と尾室は端を切ったように泣き出す。何ともまあ、男泣きと言うには程遠い情けない涙と嗚咽だった。もっとも、これが彼らしいのだけど。
「氷川さんに、そんな風に言ってもらえて………」
「泣かないでください」
とハンカチを手渡す。
「また焼肉食べに行きましょう。次は僕がご馳走します」
「はい……、ありがとうございます」
尾室はそう言いながら、誠のハンカチで涙だけでなく鼻水まで拭った。
4
そろそろ帰ろうと思った矢先に通報を受けて向かった現場は、またしても自殺だった。1日のうちに2度も自殺現場を捜査することになるとは。しかも、また不可思議なものを。
現場となった駅の出入口には、夜にも関わらず立ち入り禁止のテープ前で野次馬が集まっている。多くの者が仕事帰りのようで、帰路を妨害されたことに苛立っているように見えた。見知らぬ者の死より自分の都合。これでも警察が護る市民なのだからやるせない気分になる。
「全く信じられんよ」
現場に先着していた河野が、シートを被せられた死体を前にして嘆息する。
「目撃者の証言によると突然走り出して、自分から壁に激突したらしい」
考えられる死因としては、頭を強く打ったことで脳内出血を起こした、といったところか。自殺者の女性がぶつかったとされるコンクリートの壁面には、まだ新しい血痕が残っている。彼女もまた、自分から危険行為に走り命を落とした。
何とも異様だ。自殺は大抵、跳び下りや首吊り、また薬物摂取という自力では脱出できない状況に追い込んで行われるのが大半だ。昼間の青年といいこの女性といい、途中で恐怖を覚えて踏み留まるのは容易だったはず。死に対しての執着が狂的と言わざるを得ない。
「一体どうなってるんだ。動機のない奇妙な自殺が、都内だけでも30件を超えている。しかもここ3週間でだ」
そう、何より奇妙なのが、自殺件数が昼間とこれの2件だけじゃないということ。お陰で捜査一課の刑事たちは毎日ほぼ全員出払っている。更に今のところ、自殺者たちの自宅から遺書らしきものは発見されていない。中には友人に恋人の自慢をしていた途中、いきなり舌を噛み切って死亡した者も報告されている。
これだけの数が自ら命を絶っているのに、動機が見つからずにいる。
「河野さん、ちょっとこれを見てください」
と誠は開いた手帳のページを見せた。庁舎で自殺者たちのプロファイルを整理していた際に気付いた事がある。
「何だいこりゃ?」
書き留めてあるのは、自殺者たちの名前と生年月日。
「自殺者たちの名前と生年月日なんですが、奇妙だと思いませんか?」
「何が言いたい?」
「全てが、10月23日から11月22日の間に集中してます。つまり、自殺した全員がさそり座の生まれなんです」
「しかしお前、どういう事なんだ一体?」
「分かりません、まだ」
法則を見つけたからといって、それが何に結びつくのかは見出せていない。またアンノウンの仕業だとしたら、何故今になって超能力者ではなくさそり座の人間へと標的を変えたのか。
人を自殺へと導く力がある敵だとしたら、それはアンノウン以上の脅威と言えるだろう。
「でも何か、途方もない事が起こっている気がします。人類全体に、我々ではどうする事もできない何かが」
信じたくはないが、もはや神の所業としか思えない。
4
まだ新入りの翔一に割り当てられた仕事は、食材の下処理にホールとなっている。普段から料理をしているからといって、お客から代金を取れるほどの腕ではないから調理はまださせてもらえない。
でも倉本は、営業後に厨房を貸して料理の試作に付き合ってくれていた。実際に作ってみなければ修行の意味がない。それが倉本の方針だった。調理師学校の頃も、授業は座学よりも実習に重点を置いていた彼らしい。
「先生、お願いします」
出来上がった品を盛りつけた皿を差し出す。
「ここではシェフと呼べ、て言ってるだろ」
そう言いながら満更でもなさそうに、倉本は出来栄えを確認するようにアジのムニエルのオリーブソースがけを注視する。フォークでアジの身をほぐし口に運ぶと、慎重に噛みながら舌に転がしてようやく飲み込む。
「うん、悪くないな。素材の味もしっかり活きてる」
「ありがとうございます!」
「ただし」と倉本はオリーブソースを舐めて、
「もう少しソースの味を濃くした方がいいな。素材の味を信用するのも良いが、魚の癖が苦手なお客もいる」
「はい」
急ぎメモにペンを走らせる。そんな翔一を見て倉本は笑みを浮かべ、
「そう焦ることもない。腕は確かなんだ。お前に調理を任せられるのも、そう遠くはないぞ」
そう言われると、自信も沸いてくる。確かに焦っていたのかもしれない。早く一人前になって、千歌たちをご馳走でもてなしたい、と。
「なに、ひとつずつやっていけばいいさ。それに、お前は放っておいたらすぐ奇抜なものを作りそうだからな」
そう言って倉本は大声で笑った。
片付けを終えて帰路についた頃には、既に深夜になっていた。東京でも夜になれば車も少なくなる。今度の休日は何を作ろうか頭の中でレシピを組み立てていたとき、戦慄が思考を中断させる。
久々な気もするが、それは紛れもなく敵の出現だと分かった。力の導くままにバイクを走らせ、街中に開かれた広場に入ったところで空間の異様さに気付き停まる。
空気が異様に熱く感じられた。まるで真夏だ。ヘルメットを脱いでシートから降りると、広場の隅で衣服が放置されている。ここの暑さに耐えかねた誰かが脱ぎ捨てたものだろうか。だとしても、何故こんなにも砂に塗れているのか。
「アギト……」
地の底から這い出たような重い声が耳朶を打ち、咄嗟に振り向く。視線の先に立っているのは、ライオンのような鬣を振り乱した人型の生命体。
「変身!」
アギトに変身した翔一は、逡巡もなくアンノウンへ拳を突き出した。拳が胸を打つ寸前、アンノウンは手で受け止めて捻り上げる。めきめき、と強靭になったはずの筋肉と骨が軋みをあげたところで、翔一の体は投げ飛ばされた。
アンノウンの右手から砂が零れている。翳した右手から砂が撒かれた。ただの砂じゃないと直感で悟り避けると、傍に停まっていた車にかかり窓ガラスが破裂したように砕け散る。
こいつ、強い。
翔一は敵の力を察した。恐らくこれでも手加減している方だろう。あの水のエルに匹敵する強さかもしれない。こいつは土や砂を司る、地のエルというべき存在だ。
裡から灼熱を解放し、
炎を帯びた渾身の拳を突き出したが、またしても掌に納められた。熱で焼こうと更に炎を燃え盛らせるが、敵は意に介していない。
空いていた地のエルの左拳が、翔一の胸を打った。圧倒的なパワーに身体が吹き飛び、地面に倒れると同時に力が抜けて変身が解ける。打ち所が悪かったのか、視界が霞んだ。意識を飛ばすまいと粗い呼吸を繰り返していく内に、景色が明瞭になっていく。広場にあるのは窓が割れた車と、エンジンを掛けたままの自分のバイクだけ。
ひゅう、と広場に冷たい風が吹いた。あれほど熱かった空気が、一気に冷やされていった。