ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト 作:hirotani
子供の願い事は未来の現実。
それを夢と
――仮面ライダーカブト
1
電車と新幹線は運休も遅延もなく、東京駅には滞りなく到着することができた。
「これからどうする?」
と曜が皆に訊く。「本番は明日だしね」と果南が迷いながら呟いた。大事を取って前日に現地入りすることにしたのだが、宿へのチェックイン時間にはまだ余裕がある。どうせなら観光したい、と欲が働くが、出来ることなら明日に備えて体力は温存しておきたい。
「リリーはブクロに行きたいのよね?」
善子が言うと「ど、どこそれ、て?」と梨子が何故か動揺している。「ブクロ?」と鞠莉が訊くと善子は何の気なしに、
「ブクロというのは――」
説明が中断された。何故かというと梨子が背後から善子を関節技で拘束したから。
「サイレントチェリーブロッサムナイトメア………!」
と技名をぼやく梨子に「どんどん善子ちゃん化しているずら……」と花丸が呆れの視線を送る。
特に寄りたいところが無いのなら、行っておきたい場所が千歌にはあった。
「じゃあ取り敢えず、挨拶に行こうか」
向かったのは神田明神だった。ラブライブに出るのなら、スクールアイドルの聖地であるこの神社に願掛けをするのが伝統のようなものになっている。皆で一気に男坂の急な階段を駆け上がり、朱色の社殿を拝む。
「急な階段だったずら」
「でも、前来たときに比べたら楽じゃなかった?」
「そういえば」
花丸とルビィの会話を聞いて確かに、と思った。思いの外、息があがっていない。何なら今ここで踊れそうなほどに。
「成長、て気付かない間にするもんだよ」
と果南が言った。あの頃に比べたら、自分たちは成長しているのだろう。少なくとも階段を難なく駆け上がれるくらいには。明日に向けての良いウォーミングアップになった気がする。
「よし、じゃあお祈りしようか」
そう告げた千歌から順に、皆で賽銭箱に小銭を投げ入れて手を合わせる。明日に向けての願い、というよりは決意表明みたいなもの。神頼みはしない。鞠莉曰く願いを叶えてくれない神様は勘当だから。
「会場の全員に、想いが届きますように」
これは曜の決意。
「全力を出し切れますように」
これは梨子の決意。
「緊張しませんように」
これはルビィの決意。
「ずら、て言いませんように」
これは花丸の決意。
「
これは善子の決意。
「浦の星の皆の想いを」
これはダイヤの決意。
「届けられるような歌が歌えますように」
これは果南の決意。
「明日のstageが、最高のものになりますように」
これは鞠莉の決意。
「ラブライブで、優勝できますように」
そしてこれは、千歌の決意だ。
気の済むまで長く手を合わせたら、「ずらあ」という花丸の歓声が聞こえた。ルビィと絵馬を見ていたらしい。近付いて「何?」と訊いてみると、ルビィが「これ」と掛けられた絵馬のひとつを指さした。
Aqoursが優勝しますように 浦の星女学院有志
絵馬にはそう書かれている。
「これって………」
「見て、こっちも」と曜が別の絵馬を指さす。その絵馬にもAqoursの優勝祈願が綴られていた。同じく浦の星女学院有志によって。
「皆来てくれてたのね」
梨子が感慨深そうに嘆息する。探してみれば、浦の星の生徒によるAqoursの優勝祈願がいくつもあった。絵馬には掛けられた月も書かれているのだが、どれも時期にばらつきがある。多くが昨年の11月から今年の1月あたりだ。
「こんなに、何回も」
旅行に来たついでだったのかもしれないし、このためにわざわざ神田明神まで足を運んでくれていたのかもしれない。確かなことは、皆がAqoursの事を想っていてくれていた。自分たちに託してくれた。この絵馬に記された浦の星女学院という名前が、いつまでも残ることを。
「わたし達にはひと言も言わないで………」
梨子の言うように、お参りに言って来た、なんて1度も聞いていなかった。もしかしたらサプライズのつもりだったのだろうか。きっとAqoursの皆も神社に行くから驚かせよう、と。
「やっぱり、この学校の生徒は皆coolデース」
鞠莉が言った。本当、わたし達は素敵な学校や人々に囲まれていたんだな。
ふと目に留まった絵馬を眺めると、それも「ラブライブ優勝」と書かれている。ただ、追記された名前はアプリコット。つまりはスクールアイドル。
「千歌ちゃん、これって………」
曜に呼ばれ、彼女の眺める絵馬を見てみる。そこにも、別のスクールアイドルの名前で優勝祈願が綴られている。
「こっちにもあるよ」
果南の視線の先にも、また別のスクールアイドルの願いが。
「こんなにもスクールアイドルが、ここで祈願していったんだ………」
ルビィが恐る恐る言った。「沢山あるずら」と花丸が言うように、掛けられた絵馬の殆どが各スクールアイドル達の、たった1組しか得られない優勝への願いで埋め尽くされている。こんなに多いのも、大会前という盛り上がり故だろう。
「わたし達だけじゃない。皆勝ちたくて、ここに集まってる」
そう呟くと、少しだけ恐怖に似たものが込み上げた。考えてみれば当然だ。ラブライブに出るのはAqoursだけじゃない。全国数千ものスクールアイドル達の中で、決勝に進んだほんの僅かなグループの掲げた悲願だ。文字だけだと簡潔だが、そこに秘められた想いは想像しがたいほど膨大で、それぞれにここに至るまでの物語がある。
輝きを求める願いや物語は、決してAqoursだけのものじゃない。スクールアイドルの数だけ物語がある。こうしてここに語ることができるのは、語り部がいるから。見てもらえるのも、偶々目に入ったから。Aqoursの物語とは、そんな膨大な中で切り取られた1片でしかない。人々に全てを知ってもらう事なんて不可能だ。だからこそ、皆は物語のほんのひと欠片だけでも残そうとする。自分たちや、学校の名前を記すことで。
誰かの目に留まりますように、と。
長く語られますように、と。
「お久しぶりです」
不意にその声が聞こえた。向くと、そこには鹿角姉妹がいる。
「聖良さん」
「遂に、ここまで来ましたね」と言いながら、聖良たちはこちらへと歩み寄る。
「びびってたら負けちゃうわよ」
理亜が意地悪に言う。「分かってるわよ!」と善子が即答した。あくまで強気な彼女に対して、花丸はどこか不安げに、
「アキバドームは、今までの会場とは違うずら」
「どんな所か、想像できない………」
ルビィが言った。彼女の言う通り、千歌にもドームの光景がどんなものか何度も想像してはみたけど、イメージが未だに定まらずにいる。今までの会場よりも広く観客が多いだけだろうか。そこに立った時の重圧は、どんなものなのか。結局のところ、実際に立ってみなければ分からない、というのが結論だ。
「わたしも、あのステージで歌えたことが今でも信じられない」
まるで遠い過去のように理亜は言った。そういえば、Saint_Snowは前大会で決勝まで勝ち進んでいる。つまり、ふたりはあのドームの光景を知っている。聖良もまるで夢を視ていたかのよう、といった声音で語る。
「自分の視界、全てがきらきら光る。まるで、雲の上を漂っているようだった………」
「雲の上……」と千歌は反芻する。もっと詳しく聞きたいけど、それは意味を持たないだろう。聖良自身も、実のところあまり覚えていないのかもしれない。思い出深くても、実際にステージに立っているのはパフォーマンスの数分間のみ。その間の夢心地な、まさに雲の上の場をいくら聞いたところで、実感なんて沸きようがない。
それに聖良と理亜が感じたものは、Saint_Snowとして駆けてきたからこそだ。千歌たちはAqours。歩んできた別の物語を見聞きしたところで、どうして自分の事のように感じ取れるのか。
きっと自分たちが明日視るものは、Saint_Snowとはよく似たものでも、全く違うもの。自分たちにしか、Aqoursにしか視られないものだ。
「だから」と理亜はルビィにずい、と顔を近付け、
「下手なパフォーマンスしたら許さないからね」
「当たり前だよ、頑張ルビィするよ」
この時のルビィは強気だった。本当に大きくなったなあ、と思う。初めて会ったときは千歌にも怯えるほどだったのに。
心配なんて杞憂と分かったのか、理亜は笑みを零す。
「また一緒に歌おうね」
「
また合同ライブする日も近いかな。そう思うと明日の、その先も少しばかり楽しみになる。離れていてもまた明日、と言えれば、未来もあまり怖くはない。
聖良は妹たちを微笑ましく眺めながら言った。
「素敵な笑顔ですね」
「はい」
「初めて会ったとき、何て弱々しいんだろう、て思ってました」
わたしはふたりを見て何て凄い人たちだろう、て思ってました、と千歌は微笑んだ。初めての東京のステージを前にして慄く千歌にとって、Saint_Snowとは世界の広さを象徴するかのようなグループだった。
「でも、今の皆さんを見て思います。何て頼もしいんだろう、て」
それは聖良が本当の意味で、Aqoursを認めた言葉だった。努力を積み重ね、挫折を経ても立ち上がり最高のステージに立つスクールアイドルとして。同じステージを目指してきた者同士としての、最大の賛辞だった。
だからこそ、聖良は訊くのだろう。
「勝ちたいですか?」
その質問に千歌は揺れた。聖良は続ける。
「千歌さんがいつか、わたしに訊きましたよね。ラブライブ、勝ちたいですか?」
それは、かつて千歌が向けた問いだった。勝ちたくなければ何故ラブライブに出る、と返されたのも覚えている。スクールアイドルならば愚問かもしれない。ここまで駆け上がって来ておいて、今更思い出作りに、なんて言ったら鹿角姉妹のみならず全てのスクールアイドルの怒りを買いそうだ。
答えあぐねる千歌に、聖良は更に質問を重ねる。
「それと、誰のためのラブライブですか?」
2
ランチタイムもピークを過ぎて、厨房もようやく落ち着いてきた。遅れた昼食に来店してくれたお客たちを長く待たせることもなさそうだ。
「ありがとうございました」
笑顔でお客を見送り、テーブルを片付けようとしたときにその声は聞こえた。
「理亜、これ凄く美味しいですよ」
「ちょ、姉様……」
小さなテーブル席にいる、高校生らしき制服を着た少女たちだった。年上らしき方の少女がラザニアを相手に食べさせようとフォークを差し出している。相手の方は恥ずかしいのか顔が朱い。
テーブルに近付いてみると、ふたりも翔一に気付いたのかこちらを向いた。
「聖良ちゃんに理亜ちゃん」
「津上さん?」と聖良が目を丸くした。
「もしかして、明日のラブライブのために来たの?」
「ええ。決勝ですから、Aqoursの皆さんの応援に」
「そっかあ。でもまさかこんな所で会うなんて奇遇だよね」
「ていうか」と理亜が細めた目を向ける。
「何であなたはここに?」
「ああ、先月からこのお店で働き始めたんだよね。どうようちの料理」
「美味しいです、とても」
「だろ? そこらの店とは違うんだ。何てったって素材に拘ってるからね」
そこでぽん、と後ろから肩を叩かれる。振り向くといつも厨房にいる倉本がいて、翔一は罰が悪くなって苦笑を返した。
「何だ自分の店みたいに。まだお前はホールだろ」
「ああ、すいません先生」
「ここではシェフだ」
ミネラルウォーターの瓶を持った倉本は「お冷を」と聖良の空になったグラスに水を注いだ。
「長話も程ほどにな」
そう忠告し、倉本は厨房へ戻っていく。恥ずかしいところを見られてしまい、照れ隠しに翔一は頬をかいた。聖良は優しく微笑し、注がれた水を飲んで深く嘆息する。
「姉様、大丈夫?」
と理亜が心配そうに聖良の顔を覗き込む。「ええ」と聖良は少しか細い声で応じ、
「ごめんなさい。長旅で少し疲れているみたいです」
確かに、見ると心なしか顔色があまり良くない。
「少し、外の空気を吸ってきますね」
そう言って聖良は席を立った。慌てて理亜も立ち上がり、
「ならわたしも――」
「理亜はここにいて下さい。すぐ戻りますから」
どこか拒絶しているようにも聞こえる言葉に、理亜は戸惑ったままゆっくりと椅子に腰を戻す。
「姉様、何か最近変………」
ぼそり、と理亜は呟いた。「俺、行ってくるよ」と翔一は告げた。
「先生すいません、俺ちょっと」
「え、おい」
厨房にいる倉本に断りを入れて、既に店を出た聖良を追いかける。店のすぐ傍には広範囲の公園が広がっていて、春になると植えられた桜が満開になる。花見シーズンになると店も花見用にとテイクアウトのサービスを行う予定だ。来月はもっと忙しくなるぞ、と倉本に釘を刺された。翔一にとっては、シーズン中は調理補助として厨房に立たせてもらえるから楽しみなのだが。
まだ枝が裸の並木道に、聖良は重そうな足取りで歩いていた。
「聖良ちゃん」
声をかけると、聖良は「津上さん……」と足を止める。
「理亜ちゃんが心配してたからさ」
「すみません、お仕事中なのに」
「大丈夫だいじょうぶ。聖良ちゃんはうちのお客さんだからさ」
そう言うと、聖良は嘆息しながらも笑ってくれた。並んでゆっくりと並木道を歩く。吹く風が梅の香りを運んでいた。これから暖かくなるな、とまだ蕾の小さな桜の樹を見上げていると、聖良の方から話を持ち掛けてくれる。
「さっき、Aqoursの皆さんに会って来ました」
「本当? もうこっちに着いてたんだ」
「津上さんは、会いに行かないんですか?」
「会いたいけど、俺も明日は応援に行くからさ。どうせなら、ステージにいる皆を先に観たいかな、て」
「きっと、素晴らしいステージになりますよ。さっき千歌さんと話して、そう思いました」
「そっか」と応じながら、翔一は安堵していた。俺がいなくなった後も変わらず頑張ってたんだな、と。
「聖良ちゃんが言うなら間違いなしだね」
「買い被り過ぎですよ。わたしなんて地区予選で負けて、あと少しで卒業して、そうしたらわたしの夢も終わりですから」
「終わり、て?」
「Saint_Snowはもう終わりにする、て理亜が言ったんです。わたしは続けて欲しかったんですけど、あの子が譲らなくて」
気を持ち直すように、聖良は俯かせた顔を上げた。
「でも、理亜は新しいグループを作る、て張り切ってますから心配はしてません。あの子なら、わたしよりもっと凄いスクールアイドルになれる、て信じてますから。わたしはもう引退ですから、すぐに追い抜かれますね」
「聖良ちゃんは、もう歌わないの?」
「ええ。もうわたしは、来月にはスクールアイドルじゃなくなるんですよ。終わった身なんです」
「そんなことないよ。聖良ちゃんが理亜ちゃんと頑張ってこられたのは、歌とダンスが大好きだからじゃない。大好きなままならここで終わりになんかしないで、また続けてみようよ。きっと理亜ちゃんだって、それを望んでるはずだよ」
スクールアイドルじゃなくなるから、て辞めるだなんて寂しすぎる。まだ翔一よりも若い聖良がまるで諦めみたいな事を言っていることは、どうしても見過ごせなかった。
聖良は翔一をまじまじと見上げ、
「やっぱり、津上さんは温かい人ですね。津上さんみたいな人に見守られて、千歌さんが羨ましいです」
「え、そうかなあ?」
年下におだてられて、満更でもなしにだらしなく笑ってしまう。こんなんだから、千歌から「翔一くん」呼びされてしまうのだろう。
「正直、悔いが無いわけじゃないんです。あの子がわたしのためにライブをしてくれた時、また一緒に歌いたいな、て思って。でも、もう良いんです。優勝はできなかったけどアキバドームのステージには立てましたし、何より理亜と一緒にスクールアイドルができただけで、わたしは満足です」
「諦めるのはまだ早い、て」と翔一は聖良の肩に手を添えた。
「まだやりたい事があるなら、満足いくまでやった方がいいよ。そうだ、明日一緒に応援に行こうよ。千歌ちゃん達のステージを観て、聖良ちゃんの心にまだ歌が大好き、て気持ちがあれば、きっと続けたくなるからさ」
余計なお世話かもしれないけど、これが最善と思った。千歌が凄い、と言ったスクールアイドルなのだから、これからも彼女たちと一緒に頑張ってもらいたい。時間が過ぎたからといって、夢を諦める理由になんてならないのだから。
「ありがとうございます」
聖良はそう言って笑った。その笑顔は今にも消えてしまうそうなほどに儚く見えた。
3
聞いた店名を見つけたとき、丁度彼はふたり組の女性客を見送っているところだった。
「じゃあ、また明日!」
そう言って手を振る彼の傍に車を停めて、すっかり懐かしさを覚える名前を呼ぶ。
「津上さん」
誠に気付くと、振り向いた彼はどこか安堵したかのように嘆息した。誠と同じように懐かしさを覚えていてくれたら、とても嬉しいことだ。
「氷川さん」
「すいません、突然お邪魔しちゃって。今はこちらで働いていると志満さんから聞いたもので」
「ええ、いつまでもお世話になってるわけにもいかないかな、て。まあ、結構楽しくやってます」
沼津にいた時はいつもエプロン姿だったのに、今の翔一は真っ白なコック服を着こなしている。でも、彼の向ける笑顔は全く変わっていない。その事に心底安堵する。
「楽しいですか。津上さんらしいですね」
皮肉に聞こえてしまうかもしれないが、最上の褒め言葉として向けたものだ。思えば彼との関係は奇妙なものだったな、と不思議な感慨を覚える。捜査協力に訪ねた家の住人だったのが、知らずのうちに共に戦う仲間だった。出来ることならこれからも共に戦っていければ、と思っていたが、それはもう叶わない夢だ。翔一は戦い続けても、誠は前線から引く。G3ユニットにしがみつこうとすれば、それは翔一を討つという事になるのだから。
「僕たちの間も色々ありましたが、いつまでも津上さんは津上さんのままでいて欲しい。今ではそう思ってます」
「何ですか氷川さん。何か、しんみりしてません?」
そりゃあ、しんみりもする。仕事の引継ぎも済んで、部屋の荷物も全て静岡の実家に送った。明日の新幹線で経たなければならない。
「ええ。実は静岡県警に帰ることになりまして」
「帰る、てどういう事です? G3-Xはどうするんですか?」
「それは――」と言い淀んでしまう。せめて翔一には伝えたい、と会いに来たのだが、言う事が怖かった。警察がアギトを絶滅させようとしている、なんて知って翔一はどんな反応をするか。生きることは美味しい、とかつて言ってのけた彼が、これから対アギトへと動く世界で人生を無条件に素晴らしい、と笑っていけるだろうか。
「津上さん、詳しい事は言えませんが、これからはアギトとして生きていくのが辛い時代になるかもしれませんよ」
「アギトが辛い? どうしてです?」
「世の中には、アギトを怖れる人もいる、という事ですよ。いや、むしろそういう人間の方が多いかもしれない」
「まさかそんな」と翔一は笑ってのけたけど、すぐ真顔に戻る。G3-Xとして出動した北條に妨害されたことを思い出しているのだろうか。
「とにかく、色々とお世話になりました。君には何度お礼を言っても言い足りないくらいだ」
「何を言ってるんです。同じアギトの会のメンバーじゃないですか」
「補欠ですけどね、僕は」
「この際、正会員にしてあげます」
正会員になったところで、僕はもう東京にいなくなるんですよ。そんな皮肉が沸いたけど、喉元に留めた。翔一も、分かった上で言ってくれている。
これからの警察は、もう誠にはどうしようもない。アギトへの恐れは世間へ広がり、アンノウンによるものだったアギト根絶は人間によるものへと移っていく。
そんな時代が来ても、せめて翔一や涼、それに力を持ったAqoursの皆には逃げ延びてほしい。力を持たない人間を憎まないで欲しい、と都合よく願うばかりだった。