ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト   作:hirotani

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 通りすがりの仮面ライダーだ。
 覚えておけ。

――仮面ライダーディケイド 門矢(かどや)(つかさ)




第5話

 

   1

 

「絵馬に何て書いてきたの?」

 果南が訊くと、つい先ほどまで神田明神にいたダイヤは素っ気なく答える。

「それは内緒ですわ。でも、わたくしが書いたことは現実になるんですわよ」

 訊いておきながら、果南には分かり切っている。きっとラブライブ優勝、とでも書いたんだろう。

 「そういえば」と鞠莉が、

「わたしが転校する、て話が出た時も書いてたでしょ。ずっと一緒、て」

 「ほらご覧なさい」と当人は得意げだった。確かに願いは叶った。さっき願ったことも叶うだろう。でも、願いは永遠には続かないことも分かっている。

「そうかな。もうすぐバラバラになっちゃうのに………」

 果南もかつては願っていた。涼と一緒になれますように、と。現実が赦してくれなくても、願わずにはいられない。叶わない願いなんて虚しいだけ、と知っているはずなのに。

「一緒だよ」

 懊悩を吹き飛ばすように鞠莉は言う。

「だって、この空は繋がってるよ。どんなに遠くてもずっと、いつでも」

 見上げてみれば、たとえ離れていても大切な人は同じ空の下に居る。

「姿は視えなくても」

 とダイヤが付け足した。締めの部分を横取りした悪戯に、3人で吹き出す。

 空が繋がってるなら、海も繋がってるよね。潮の香りが違っていても、どこも同じ海なんだから。

 1番乗り、とばかりに鞠莉は走り出した。

「さあ、行きましょう!」

 

 花丸が会場までの道を歩いていると、彼女はどこぞの待ち人気取りで腕を組み電柱に背を預けていた。

「善子ちゃん?」

 「ヨハネ!」と訂正しつつ、いきなり乱されたペースを取り戻そうといつものポーズを決める。

「ちょっと話したいことがあるのよ。ルビィもよ」

 「ピギッ」と別の電柱から声が聞こえ、ルビィが顔を出した。ツインテールに結んだ髪がはみ出ていたから、全く隠れていなかったのだが。

「何ずら?」

「決まっています、契約です。ライブが終わり、学校が統廃合になっても、ヨハネとの契約――」

「心配しなくても、マルと善子ちゃんとルビィちゃんの契約は絶対ずら」

 何も今日で全てが終わるわけじゃない。花丸たちの日々は明日も続いていく。ただ居場所が変わるだけの話。

「新しい場所になっても」

 ルビィもそう言って微笑む。善子のことだから、新しい学校でも堕天使全開で行くのだろう。ならお目付け役として、花丸とルビィがいないと。

「ふん、何よ。人の台詞勝手に――」

 なんて善子が言っているが、ここで立ち話していたら遅れてしまうから、ルビィとふたりで善子を置いて駆け出す。

「ありがとう」

「感謝すルビィ」

 「もう!」と文句を垂れながら、善子も追いつこうと走り出した。格好つけさせはしない。まだ終わってはいないし、これからが本番なのだから。

 

 会場への道を走りながら、千歌の胸は際限なく高鳴っていた。この先にあるものが、どれくらい大きいのか全く想像がつかない。

 目指すべきアキバドーム。全国有数の規模を誇る、ラブライブ決勝の場。そこへ至るまで、どれくらい自分たちは走ってきたのだろう。どこまで来たのだろう。どこまで続くのだろう。

 分からないけど、あの時と今思っていること全てがあって、ここへ辿り着けたと確信できる。

 雲の上だって、空を飛んでいるみたいだって、思いきり楽しもう。弾けよう。そして、優勝しよう。

 わたし達の輝きと証を見つけに。

 ゼロから1へ。

 1から、その先へ――

 Aqours、サンシャイン!

 

 

   2

 

「すみません、通してください」

「え、お客様?」

 困惑していく駅員を無視し、誠は潜ったばかりの改札を引き返す。出口へと歩いてく彼女へと走り、「小沢さん!」と大声で呼び止める。

 振り向いた小沢は、ついさっき改札を通ったはずの誠を見て目を丸くしていた。

「氷川君、あなた………」

「小沢さん、やっぱり僕にはできません」

 誠は思い出した。警察官になったばかりの頃の自分が、どんな夢を抱いていたのか。

 巡査としての制服がまだぎこちなかった頃、誠は街を、国を、市民を護るために人生を捧げることを決めた。刑事になっても、力に弄ばれながらも懸命に生きようとする人々を見てきた。いくらアギトだから、と市民を見殺しにするなんて、自分にはできない。あの頃の自分に嘘をつきたくない。

 一介の警察官だからとか、元G3-X装着員だからとか関係ない。

 これは僕だけの意志だ。僕の意志で、市民を護りたい。

「このまま帰るなんて、僕には」

 

 地のエルが投げた砂塵が、翔一の足元で爆ぜる。目くらましに狼狽している内に後ろから首を掴まれ、すぐ傍にあるビルのコンクリート壁に打ち付けられる。翔一の石頭はコンクリートを砕き、その衝撃で意識が飛びかけた。力が抜けたところを見計らってか、地のエルはまるでゴミのように翔一を投げ飛ばす。

 立ち上がった翔一は全身を炎で包み、燃え盛る豪炎の戦士(バーニングフォーム)へと姿を変える。掌を燃え滾らせ、地のエルへ渾身のパンチを放った。胸に炎の打撃を受けた地のエルがたたらを踏む。翔一はこの勢いのまま、追撃に次々と拳を叩き込んでいく。

 更に拳を突き出そうとしたとき、目の前で熱砂が火花を散らし目が眩んだ。直後に胸を蹴飛ばされ、無様に地面を転がっていく。

 日陰から出た翔一の身体は、降り注ぐ日光を浴びて光輝への目覚め(シャイニングフォーム)の鎧をさらけ出す。白金の光を放つ翔一に、地のエルは狼狽した。

 ベルトから2振りの刀を引っ張り出す。素早く肉迫し、地のエルの胸を右の刀で上段から袈裟懸けに切り裂く。更に左の刀で下段から一閃。

 傷口から熱砂を血のように零した地のエルは、身を悶えさせながら全身を砂城のように崩していく。だが崩れた身体は壊れることなく、宙に渦を巻いて光の球を成した。かつて水のエルと戦ったときと同じだ。まだこいつは滅びてはいない。

 予想通り、地のエルだった球体は光の尾を引いて彼方へと飛んでいく。思念で呼び寄せたバイクに飛び乗り、翔一は昼の空を駆ける流星を追いかけた。

 

 深いまどろみの中で、涼は呼吸することすらも放棄して流れに身を委ねていた。この冷たさ。無限の奈落へと沈んでいく感覚は初めてじゃないから、恐怖はあまりない。

 むしろ、このたゆたう感覚が落ち着く。自分は海の一部で、ただ何もせず流れに身を任せていくうちに海に溶けて全体の中へ還っていくかのよう。

 海は、こんな俺でも受け入れてくれるのか。

 その絶対的な安寧には既視感があった。子供の頃に溺れたときとは決定的に違う、そう遠くない記憶だ。そう、同じ安寧をかつて体験したことがある。その時は、水面から微かな太陽の光が海に射し込んできたこと。そして、涼の隣には年下のインストラクターがいたことだ。

 そうだった。あの頃は毎週果南の店に行って、こうして海の中でぼう、としていたな。しばらく行っていなかったから忘れていた。あんな日常がずっと続くと思っていたのに、こんな事になるなんて誰が予想できるのか。

 傍にいてくれると思っていた彼女は、もう先に往ってしまった。それでいいさ、果南。お前は往け。俺の往けないところまで、真っ直ぐ。

 ――ぼう、としてたら、どんどん先に往っちゃうからね――

 彼女から告げられた言葉が、波間を縫って反響している。

 果南、お前は――

 別れと思っていた言葉の連なり。それが、涼の間の抜けた勘違いだったことに気付く。

 お前は、先で待っていてくれるんだな。

 お前の往く場所に、俺も往けると信じてくれたのか。

 まどろみの中に、水面から光が射してくる。とても高いところだ。果たして自分に辿り着けるだろうか。怖いが、それ以上に希望がある。

 水を掻いて、上へと昇っていく。いつか見た空へ向かって咲く花のように、光を目指し進んでいく。光が大きくなり、涼を深淵から照らし出した。

 目を開くと、そこはどこかの海岸だった。遠くで船の汽笛が聞こえてくる。海水を滴らせながら起き上がると、海岸に愛車が停まっているのを見つけた。来てくれたのか、と忠犬を撫でるようにカウルに手を添える。

 脳裏の疼きは、敵の出現を知らせている。涼はヘルメットを被り、愛車に跨った。

 俺も往く。果南と同じ光に向かって。

 いつまでも待たせるわけにはいかないからな。

 

 

   2

 

 アギトは現在奥多摩へ向かって移動中らしい。ドローン空撮による追跡でルートを先回りした誠たちがGとレーラーを見つけることは、そう難しいことでもなかった。市街を大型トレーラーがサイレンを鳴らして走るのだから、当然のごとく目立つ。

 本庁から持ち出した白バイで随伴する車と共にトレーラーへ真正面へと向かい、通せんぼのようにバイクを停車させる。急いで停車したGトレーラーのフロントガラスの奥で、運転手が困惑の表情を浮かべているのが見えた。

 シートから降りて、トレーラーの車内カメラに映る位置へと移動し声を掛ける。

「本部からの緊急命令です。ハッチを開けてください」

 交通機動隊の制服にサングラスを掛けただけの安い変装で、北條を騙せるだろうか。そんな危惧があったが、杞憂だったらしくすぐにカーゴのハッチが開け放たれる。もしかしたら、尾室が制止を振り切ってシステム操作してくれたのかもしれない。

 ハッチが閉められる前に、随伴する車から降りた小沢と一緒に中へと踏み込む。「あなた達は――」と北條は声を上げた。ここまで来たら、もう変装する意味もない。小沢に至っては素顔のままだ。ヘルメットとサングラスを脱いで、誠は北條を睨む。

「小沢さん、氷川さん」

 北條とは対照的に、尾室は嬉しそうな顔を誠たちに向けた。元部下に一瞥すらせず小沢は北條へ拳銃を向け、

「たった今から、G3ユニットの指揮は私が執ります。良いわね」

 弾は入っていない、と高を括っているのか、北條はこの期に及んでも涼しい顔を崩さない。

「何を考えているんです。こんな事をして、ただで済むと思っているのですか?」

「どうかしら。ま、なるようになるわよ」

 きっと懲戒で済むことじゃないことは重々承知だ。だからといって、自分の身可愛さに目の前の事件から逃げられるほど、誠も小沢も出来た人間じゃない。

 何て愚かな人たちだ。そんな北條の内心が聞こえてきそうだったが、彼の反応は予想外のものだった。

「きっと、来ると思っていましたよ」

 そう告げる北條の顔はとても晴れやかだった。

『G3ユニット、応答願います』

 スピーカーから通信部の声が飛んでくる。急に停止したから不審に思ったのだろう。

『G3ユニット、どうかしましたか? 応答願います。G3ユニット、応答願いま――』

 無言のまま北條は通信のスイッチを切った。そのままひと言も告げることなく、誠たちを一瞥してハッチから出ていく。

「す、すいません小沢さん、氷川さん」

 ひとまず去った嵐に安堵したのか、尾室が口を開いた。

「僕、僕ずっと悩んでたんです。本当にこれで良いのかな、て」

 拳銃を降ろした小沢はかつてのように柔らかな笑みを浮かべる。

「分かった分かった。もういいから早く席に着きなさい」

「は、はい!」

 言われた通り、尾室は席に戻りヘッドセットを頭に付けてPCのキーを叩く。G3-Xの装着員リストに、誠の名前とIDを付け加えてくれていた。

 かつて在った、G3ユニットの景色。懐かしさに感慨を覚える間もなく、小沢からの指示が飛んでくる。

「氷川君、行くわよ。G3-X出動!」

「はい!」

 急ぎ、誠は前室で衣服を全て脱ぎ去り、インナースーツで首から下を覆う。カーゴの棚に並べられた装甲を次々と装着していき、残ったマスクを小沢によって顔面に当てられる。

《認証 氷川誠警部補》

 マスクのディスプレイにロゴが表示されると、後頭部がカバーで覆われた。最後の仕上げとして、オートフィット機能で装甲ユニットが誠の体形に合わせて引き絞られる。

 ガードチェイサーに跨りエンジンを駆動させると、ハンガーごと車体がスロープへと後退する。

「2123、G3-Xシステム戦闘オペレーション開始」

 小沢が告げ、尾室がオペレートする。

「ガードチェイサー、離脱します」

 ハンガーのロックが外され、ガードチェイサーがカーゴから吐き出される。路面で車体バランスを落ち着かせながらアクセルを捻り、マスクのディスプレイに表示されたルートの方向へとマシンを走らせた。

 

 

   3

 

 奥多摩の山中へとバイクを走らせ、翔一は力の導くままにそこへ向かう。地のエルに加え、更に強大な力を感じた。

 山林の中の、誰の手も入っていないにも関わらず開けた場所がある。そこに、地のエルはいた。バイクを停めた翔一が視た光景は、まるでシャワーのように光の粒子を浴びて、崩れかけていた砂の肉体が形を留めていくものだった。

「あいつは……!」

 地のエルに光を浴びせたのは、黒い青年だった。彼はまるで水中にいるかのように瞳を閉じて宙をたゆたっている。その姿はまるで神へ捧げられる生贄のよう。いや、黒い青年自身が神か。神が自身を捧げ、一体何をしようというのか。

 疑問を振り捨て、翔一はベルトから刀を抜く。目的なんてどうでもいい。ここで倒すだけだ。

 二刀を構え、翔一は地のエルに斬りかかった。確かな手応えだが、地のエルは全く意に介した素振りを見せない。追撃の刃を一閃するが、それは敵が光輪から抜いた剣によって阻まれ、振り払われる。

 地のエルが振り降ろしてくる剣を左の刀で受け止めたが、あまりの力に刀ごと腕を持っていかれそうになった。見れば、受け止めた刀が中腹から折れている。使い物にならなくなった剣を投げつけながらバックステップを踏んで間合いを取ったところで、樹の陰からもう1体の敵が現れる。

「ここは聖地。悪しき者は踏み入ってはならない」

 風のエルは告げる。にじり寄ってくる地のエルが横薙ぎに振るう剣を刀で受け止めたが、それも容易く折られてしまった。再び間合いを取ろうとした先では風のエルが待ち受けていて、翔一の顔面を殴り、首を掴むとまるでパスでもするように地のエルへと放る。

 首筋目掛けて迫ってきた剣は手甲で防ぐことができたが強靭な力で亀裂が入り、血が滴り落ちる。一度離れた剣はすぐに胸の鎧を切りつける。1度目は耐えたが、2度目の斬撃で割れた鎧からも鮮血が垂れた。

 風のエルが手をかざす。強烈な突風が駆け抜けた。翔一の体はいとも容易く吹き飛ばされ、地面に落ちると同時に変身が解ける。

 力が長く続かない。痛みで意識が朦朧とし、全ての音が遠ざかろうとしているなかで地のエルの冷たい声が聞こえる。

「塵に還る時だ」

 刹那、凄まじい銃声が耳をついた。意識が僅かに押し戻され、硝煙の臭いを嗅ぎ取る。

「津上さん、しっかりしてください!」

 その声を聞き、翔一は重い目蓋を開いた。G3-Xのオレンジ色の両眼が目の前にある。北條ではない。この青く、そして勇敢で真っ直ぐな声は聞き間違えようがない。

「その声、氷川さん………」

 

 翔一の瞳に力が戻っていくのを感じる。いくらアギトの力を持たない誠でも、彼の裡から沸き出ようとしている気迫は感じ取ることができた。

「はい、また戦いましょう。一緒に」

 

 ――無駄なことを――

 

 その冷たく、同時に甘美でもある声は空気を媒介とせず、直接誠に語り掛けるように頭蓋に響いた。

 

 ――貴方はただの人間だ。人の力では、何もすることは出来ません――

 

 辺りに視線を巡らせ、宙に浮いたまま眠るようにしている黒い青年で留まる。

 

 ――人間の運命は、全て私の手の中にあります――

 

「何?」

 

 ――もうすぐ、人類は全て自らの手で命を絶つことになるでしょう――

 

「お前が? まさか、自殺者たちはお前のせいで………」

 黒い青年は答えない。代わりとして、配下であるアンノウン達へ告げる。

 

 ――やれ――

 

 主の命を承った2体のアンノウンが向かってくる。突き出される拳を避けつつも、掠めただけでG3-Xの装甲が火花を散らす。アギトを退けるほどの力だ。AIと誠の経験値を総動員してどこまで立ち回れるか。

 左腕に携行したGK-06を抜き、納められていたナイフの刃を伸長させる。風のエルに何度も刃を振るうが、敵に触れることなく避けられてしまう。背後から地のエルの剣を受け、バッテリーユニットが損傷を受けた。微々なロスだ。まだ戦える。

 風のエルに組み付かれたところを、地のエルの剣が迫ってくる。GK-06で防ごうとしたが刃を折られた。咄嗟に蹴りを入れて突き放し、しつこい風のエルを投げ飛ばして拘束を解く。

 アンノウンたちは当惑している様子だった。形勢は決して誠には傾いていない。にも関わらず、自分たちと対等に渡り合う人間に大きな目を剥いている。地のエルは戸惑いを口にする。

「お前はアギトではない。何故これ程の力を……、何者なんだお前は?」

 向けられた問いは愚問と言ってもいい。何故これほどの力を持つことができたか。一体僕が何者なのか。

 その身を以って教えてやる。僕は氷川誠。警視庁の刑事で、G3-Xの装着員だ。アギトの力なんて持たないくせに立ち向かい、お前たちが格下と蔑む――

「ただの、人間だ!」

 間合いを詰めようとしたとき、誠の身体に視えない波動が襲い掛かった。装甲が火花を散らし、翔一のすぐ傍へ吹き飛ばされる。マスク内ではアラートが鳴り響き、AIが撤退を推奨している。

 バイクの音が近付いてきた。そのオフロードバイクは誠たちへにじり寄ってくるアンノウン達の前に割って入り、運転手はヘルメットを脱ぐとこちらへ声を飛ばした。

「しっかりしろ、津上、氷川!」

 

 シートから降りると、涼はアンノウン達と対峙する。

「お前は……」

 風のエルが言葉を詰まらせた。何故生きているのか、とでも言いたげだな。

 その答えは、俺が葦原涼だからだ。俺がギルスだからだ。

 来るなら来い。たとえお前たちが地の果てまで追いかけてこようが、俺は逃げも隠れもしない。お前たちの戯れに付き合ってやるさ。ただし覚悟はしておけ。お前らが俺にどんな過酷な運命を敷こうが、俺は負けない。勝って、生きて、俺が生きるべき「居場所」を見つけるその時まで――

「俺は、不死身だ!」

 過酷な運命から逃れるのではなく、勝つために。明日を手にするための力として、涼は裡からの疼きに身を委ねる。

「変身!」

 全身から尖刀を伸ばし、エクシードギルスへと姿を変えた。

 

 全身の鎧から煙を上げながらも、誠は足を踏ん張り立ち上がる。翔一も軋む身体を持ち上げ、戦いを静観している黒い青年へと目を向けた。

 そうか、全てはお前の手の中か。確かにお前なら、人間なんてものは手の中に収まってしまうほどちっぽけなものかもしれない。

 でも人の想いは、輝きは、お前の掌なんかでは抱えきれないほど大きく膨らんでいく。お前にそれを受け止めることができるか。簡単にねじ伏せることができるか。そんなことはさせない。

 人の――あの子たちの太陽よりも大きな輝きは、絶対に消させはしない。

「人の運命がお前の手の中にあるなら、俺が……俺が奪い返す!」

 翔一はベルトを出現させた。体の奥底から、さっき消えようとしていた力が止めどなく溢れようとしている。雲間から太陽が顔を出し、陽光を受けたベルトが強いうねりを発している。力が臨界へと達したとき、翔一は吼えた。

「変身!」

 白金の光が視界を覆い尽くし、翔一は光輝への目覚め(シャイニングフォーム)のアギトに変身した。

 溢れる力のままに、翔一は誠、涼と共に敵へと向かっていく。地のエルに組み付き、振るわれた剣を避けつつ腹に拳を突き入れる。先程は平然としていた地のエルが、ごほ、と咳き込みながら翔一を睨んだ。間合いを保ちながら出方を窺う。先手を打ったのは地のエルの方だったが、剣を構える手を蹴り上げ武器を払い落とす。身を翻し繰り出した回し蹴りは相手の顔面を打ち、たたらを踏ませた。

 

 組み付いてきた涼を樹へ叩きつけた風のエルに、誠は拳を振るう。いとも容易く受け止められたところで、雄叫びをあげた涼の尖刀が風のエルの翼を切り裂いた。

 誠は急ぎGX-05を拾い上げ、銃口にグレネードを装着し照準を合わせる。誠の構えを見た涼が、風のエルから離れた。同時にトリガーを引き、グレネードを発射する。寸分違わず命中した砲弾が炸裂し、風のエルの胸を穿った。

「ウオオアアアアアアアアアアッ‼」

 吼えた涼が、跳躍し両足のヒールクロウを風のエルの肩口に突き刺す。凄まじい切れ味を持った尖刀は肩から敵の両腕を切り落とした。鮮血を散らしながら呻く風のエルの身体が、体内からの爆風で吹き飛んでいく。

 風に運ばれていく爆炎に安堵してすぐ、翔一の加勢に向かおうと目を向ける。でも、それは必要なさそうだった。既にあちらも終わろうとしている。

 翔一の拳を浴びた地のエルが、山林の丘陵を転げ落ちていく。深く腰を落とした翔一の前に、白金の炎がアギトの紋章を象って燃え上がっている。それもふたつ。

 跳躍した翔一の突き出した右足が、ふたつの紋章を潜ると共に炎を纏っていく。そのキックを受けて吹き飛ばされた風のエルの身体は、地面に到達する前に爆散し、塵に還っていった。

 残る敵はひとり。人の姿をした、黒い青年のみ。

 配下を失った黒い青年は狼狽えることなく、宙に浮き続けている。その肉体が高度を上げ始めた。誠も涼も、そして翔一も、その様子をただ見上げている。

 黒い青年の身体が光を纏った。周囲に光が糸のように織られ、まるで繭のように彼の身体を包み込みながら更に高度を上げていく。まるで小さな太陽のようだ。まさか、自らを地上にぶつけるつもりか。

 誠の背に悪寒が走る。そんなもの、一体どうやって対抗すればいい。G3-Xの装備で、隕石を破壊するほどのものなんて無いのに。自衛隊に応援を要請するにも、どれほど時間が掛かるか。

「何をするつもりだ、津上!」

 涼が言った。誠が地上に視線を戻すと、翔一は深く腰を落としている。その足元にはアギトの紋章が浮かんでいて、渦を巻き翔一の両足に集束していく。光は足元に留まらず、翔一の全身を白金の光が包み込んでいた。

 まさか――

 そのまさかだった。翔一は高く跳躍し、天に向かって右足を突き出した。

「はああああああああああああっ‼」

 光の尾を引き、流星のように高く跳んでいく翔一の雄叫びが遠くなっていく。どれ程の高度へ至ったのか、彼の姿が小さくなってやがて見えなくなる。その数舜後、地鳴りのような轟音が響いた。

 次に耳朶を打ったのは、叫び。あの黒い青年の声だろうか。無数にも重なった悲鳴はまるで地獄の悪魔たちが一斉にあげているようにも聞こえるし、天界の天使たちの嘆きにも聞こえてくる。

「一体……一体何が起こってるんだ」

 誠はただ、その疑問を口走ることしかできない。あの渦中に飛び込んでいった翔一は。あの中で何が繰り広げられているのか。

 小太陽の輝きが際限なく増していく。臨界に達し、膨圧に耐え切れなくなったガスやエネルギーが全方向へ放射され、轟音と共に散った。

「津上いいいいい‼」

「津上さあああん‼」

 誠たちの叫びは、虚しく空へ撹拌していく。空に舞う爆炎の中に、翔一は見当たらない。いや、あれを爆発と呼ぶべきかすら迷った。散りゆく小太陽の破片は、まるでガラス片のようにちらつき本物の太陽が注ぐ日光をプリズムのように分けて虹を幾重にも織り込んでいく。

 まるでオーロラだ。ひらり、と翼のようにはためいた虹の束が爆炎に触れると、空の炎は瞬時に消滅していく。

 この現象をどう捉えたら良いのだろう。世界の終わりなのか。それとも、福音なのか。

 

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