ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト   作:hirotani

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 今の自分が許せないなら、新しい自分に変わればいい。

――仮面ライダー鎧武(がいむ) 葛葉(かずらば)紘汰(こうた)




第4話

 

   1

 

 学校で家を出るとき、学校から家に帰るとき、視界に入って当然だった三津海水浴場の砂浜にわたしは腰掛けて、代わり映えのない海の景色を眺め続けていた。

 ずっと同じ景色だったこの浜辺には、沢山の思い出がある。幼い頃に曜ちゃんや果南ちゃんと遊んだ思い出。夏に海の家でお父さんにかき氷を買ってもらった思い出。そして、物語が始まったあの日の思い出も。

 いつもの砂浜に打ち揚げられていた、名前すら忘れてしまった記憶喪失の青年。彼の素性を知らないままだったら、わたしは彼をどこか別の世界からやって来た使者と思い込んでいたかもしれない。それ程に彼はどこか浮世離れしていたから。

 彼が倒れていた場所に、今は旗が立ててある。わたし達がアキバドームで勝ち取ったラブライブの優勝旗が、潮風を浴びて大きくはためいている。

「どうしてあそこなの?」

 後ろからそう訊いてきたのは、お母さんだった。

「皆から、よく見えるところが良かったから。いつ来ても、いつ戻っても、出迎えてくれるようにね」

 こうした記念品はちゃんとした場所に飾っておくべきだけど、飾る学校はもうない。次の学校に正式に編入するまでの間という期限付きで、優勝旗はわたしの家で預かることになっていた。こんなぞんざいな扱いしちゃって、皆に怒られちゃうかな。でも、押入れの奥底で眠らせておくよりも、もっと沢山の人の目に届くところに置いておきたかった。

 言ってみれば、目印だった。内浦のどこからでも見られるこの浜辺の旗を見つけられれば、わたし達のした事の結果がすぐに分かる。勝った、て実感できる。それにもしかしたら、彼からも視えるかもしれない。

「おーい千歌ー、来たよー!」

 家の方から美渡姉の声が届いてくる。続けて志満姉の声も。

「新しい学校の制服!」

 「はーい!」と返事をして、わたしは立ち上がる。ちゃんとサイズが合っているか、試着しないと。でも、わたしは立ったまま優勝旗から目を離すことができなくて、動く気になれなかった。

「春だねえ」

 なんてお母さんが言う。確かにすっかり春だ。風も温かくなってきている。少し走っただけでも汗が出そう。丁度1年前も、こんな温かさだったな。大声でスクールアイドルやりませんか、なんて新入生たちに言い続けて、誰から見向きもされなくても諦めなんて選択肢はなかった。同じ春なのに、あの頃みたいな希望や期待は、今のわたしにはない。もうすぐ新しい学校での生活が始まるのに、実感がまるで沸かなかった。

 全部、終わったんだ。やるだけの事はやって、望んだものは、ほんの一部ではあるけど叶えることはできたんだ。あの優勝旗を持ち帰ることができただけでも、十分満足なはず。

 なのに何で、わたしの裡は晴れないんだろう。この虚しさは一体、何なんだろう。

「ねえ、覚えてる?」

 そんなお母さんの声と共に、わたしのすぐ横を紙飛行機が駆けていく。紙飛行機はそう長くは飛ばなくて、緩やかに下降していくと砂の上にかさ、と軽い音を立てて落ちた。

「昔の千歌は、上手くいかないことがあると人の目を気にして、本当は悔しいのに誤魔化して、諦めたふりをしてた」

 全部を見透かされていて、わたしは思わず浮かべた照れ笑いを隠した。しばらく離れて暮らしていたけど、やっぱりお母さんには全部お見通しだったんだ。

 小さい頃に通っていた水泳教室は、曜ちゃんはすぐ上達していったのに、わたしは中々上手く泳げなくてすぐに辞めた。小学校の頃に所属していた地域のソフトボールクラブも、6年生最後の大会でレギュラーになれなくて、チームも負けちゃって中学でも続ける気になれずに辞めた。他にも、諦めていったことは沢山ある。卓球も鉄棒も習字も、どれも中途半端なまま、挫折を味わう前にわたしは全部投げ出していった。

「紙飛行機の時だってそう」

 紙飛行機を拾い上げて、無造作に放る。上向きだった紙飛行機は急降下して、また砂の上に落ちる。我ながら下手だな。それもそうか。これだって途中で投げ出していった、努力とも言えないわたしのしてきた事の残骸のようなものなんだから。

 投げ出していったのは、挫折を味わうのが怖かったから。本気になって、必死にがむしゃらにやってきて、それで何の結果も出せず、何も残せなくなることへの躊躇だった。だからわたしは、自分を普通星に生まれた普通人間、果てには普通怪獣だから、なんて自分に言い聞かせてきた。

 悔しさはないけど楽しみもない。そんな日常を選んだのはわたし自身なのに、心のどこかでは窮屈に思っていて、でも無駄に培ってきた臆病さから何をするにも尻込みしていた。

 そんなわたしが、この1年間本気でやってきた事は何を残したんだろう。

「ねえ」

「何?」

「わたし、見つけたんだよね? わたし達だけの輝き。あそこにあったんだよね?」

 ずっと探し続けていた光。憧れていたグループでも、他の誰のものでもない、わたし達9人だけが放てる光。わたし達だからこそ往ける輝きの境地。

 あのステージから見た景色は、確かに全てが輝いていた。観客席も、ステージ上も、何もかもが。あそこに満ちていた光を放ったのがわたし達なら、一体わたし達の何があれだけの光をもたらしてくれたんだろう。わたし以外の、皆の裡に灯る力だろうか。それとも別の、もっと奥底にある何かだったのだろうか。

 分からない、わたしにはまだ。自分自身で分からないのだから、誰かに決めてもらうしかないじゃないか。

「本当にそう思ってる?」

 でもお母さんは、答えを提示してはくれなかった。

「相変わらずバカ千歌だね」

 意地悪な美渡姉の声が、さっきよりも近付いている。振り返ると、お姉ちゃん達としいたけ親子は、海岸の石段の辺りまで来ていた。

「何度でも飛ばせば良いのよ、千歌ちゃん」

 志満姉が言う。何度でも。上手くいくまで何度でもやればいい。それはこの1年、ずっとわたしの裡にあった、でも今となってはすっかり冷めてしまった熱。

「本気でぶつかって感じた気持ちの先に、答えはあったはずだよ」

 お母さんは言った。わたしの1年間の全てを、肯定してくれるように。

「諦めなかった千歌には、きっと何かが待ってるよ」

 スクールアイドル。わたしが諦めなかった、唯一のこと。あの秋葉原で出会った日に、わたしの裡に灯った輝きへの願い。

 わたしは再び紙飛行機を拾って、力いっぱい投げた。やっぱり、すぐに落ちてしまう。波打ち際にさえ届かない。小さい頃も、こんな風に飛ばしたな。あの時は曜ちゃんも一緒だった。何気ない記憶の一片のはずなのに、今でも覚えているのは、そこに曜ちゃん以外にもうひとりいたから。

 初めて会った、少しだけ年上の男の子だった。多分、観光に来ていたんだと思う。あの子に会ったのは、あの日が最初で最後だったから。どこの誰だったんだろう。思い出す度にそんな疑問が沸くけど、些細なことにそう長く想いを馳せることなんてしなかった。

 薄れつつあった、些細と思っていた記憶。それを今、わたしは鮮明に思い出す。そうだ、あの日も何度やっても、わたしは紙飛行機を上手く飛ばせなかった。力いっぱい投げても、紙飛行機はすぐに急降下して砂浜に落ちていく。そこで浜辺を訪れていた彼は、わたしと曜ちゃんに遠くまで飛ばせる形の折り方を教えてくれた。彼はすぐ一緒に来ていた家族に呼ばれて戻っていった。きっと、お姉さんだったと思う。お母さんにしては若すぎた。

 お姉さんのもとへ走っていく彼は、去り際に言ってくれた。

 今、わたしは懲りずに紙飛行機を空高く投げる。不安定に翼を漂わせる紙飛行機の機首が下を向こうとしたとき、わたしは叫んだ。

「行け!」

 同時に後方から吹いた一陣の風と共に、彼の言葉がわたしの頬を撫でていく。

 

 ――飛べるよ。今は飛べなくても、きっといつか飛べるようになるからさ――

 

 風に翼を乗せた紙飛行機が、再び上を向いた。

「飛べえええええ‼」

 気流に乗って、両の翼をまるで鳥のようにはためかせた紙飛行機が、風の吹くまま空高く駆けていく。太陽に向かって、海を越えて行こうと、どこまでも遠くどこまでも高いところへ。

 わたしは紙飛行機を追いかけて駆け出した。内浦湾を挟んだ長井崎の岬、もう行くことのないはずの通学路を。

「行ってらっしゃい」

 お母さんの声を背に、わたしは紙飛行機を見逃すまいと空を見上げながら走り続ける。すぐにトンネルを挟んだからペースを上げて、抜けるとすぐにまた空を見て紙飛行機を探す。空の1点で小さく駆けている紙飛行機は、真っ直ぐわたしの目指すところと同じ方向へ機首を向けていた。

 海沿いの通学路を走りながら、空っぽだったわたしの裡に愛しさが込み上げてくるのを感じていた。あの時の少年に、わたしは数年越しの報告をする。

 わたし、飛べたよ。「いつか」は今だったんだよ。

 ――翔一くん

 声変わりする前の甲高い声。少年期特有の丸い顔立ち。でもひとつだけ、目を細めて歯を見せる笑顔だけは、成長しても変わらなかった。青年になって、いつも見せてくれた笑顔が、あの幼い日の瞬間と重なった。

 わたしと彼の物語は、彼が海岸で倒れていた3年前からだと思っていた。でも違ったんだね。あなたはあの日も、わたしを見守っていてくれたんだね。

 翔一くん、とわたしは裡で呼び続ける。本当の名前が沢木哲也だろうが関係ない。たった3年間でも家族だった。

 わたしのお兄ちゃんで、お父さんでもあった人。

 

 

   2

 

 長井崎の丘道を駆け上っている途中で、紙飛行機が校舎の陰に消えていくのが見えた。まだ閉校式からそう日は経っていないからか、植えられた桜は花弁を散らし続けている。でも、昼間なのに校舎は寂しい静寂に包まれていて、ただそこに鎮座するのみの建造物に成り果てている。

 校門の前で立ち止まって息を整えながら、門が微かに開いていることに気付いた。おかしいな。あの日、確かにしっかりと閉じたはずなのに。業者の人が備品を運び出す時に閉め忘れたのかな。理由は何にしても、開いている校門は何だか迎えてくれているような気がして、わたしは無人の校舎へと忍び込んだ。

「失礼しまーす。2年A組、高海千歌でーす」

 重い正面玄関の戸を開けながら、恐る恐る断りを入れる。上履きは最後の日に持ち帰っちゃったし、来客用のスリッパさえも撤去されているから、靴を脱いだわたしは靴下のまま校舎をまるで未練たらたらな幽霊みたいに彷徨う。

 何も貼られていない掲示板は、日焼けしたせいで掲示物の痕が残っている。1階は1年生、2階は2年生、3階は3年生と進学と共に階が上がっていく。わたし達の居た年度の時点で使われなくなった教室がいくつもあったけど、もう全部の机と椅子が撤去された今だとどこが最後まで使われた教室なのか見分けもつかなくなっている。

 それでも、毎日通っていたわたしには、校舎の中なんて庭みたいに鮮明に覚えている。

 

 ――ごめんなさい――

 

 梨子ちゃんを勧誘して断れた廊下。

 

 ――くんくん、制服う!――

 

 降ってきた衣装を掴もうと曜ちゃんが飛び出したベランダ。

 

 ――離して! 離せ、て言ってるの!――

 ――良い、と言うまで離さない!――

 ――ふたりともおやめなさい! 皆見てますわよ!――

 

 果南ちゃんと鞠莉ちゃんが取っ組み合いをして、それをダイヤちゃんが止めようとしていた3年生の教室。

 

 ――ルビィ、スクールアイドルがやりたい! 花丸ちゃんと!――

 ――……マルに、できるかな?――

 

 ルビィちゃんと花丸ちゃんがAqoursに入る決心をしてくれた図書室。

 

 ――変なこと言うわよ。時々、儀式とかするかも。リトルデーモンになれ、て言うかも――

 

 そういえば善子ちゃん、入学してすぐに学校来られなくなっちゃったんだっけ。

 閉校祭のとき、志満姉が言ってたな。ここだけの匂いがある、て。うん、今なら分かる気がする。生徒がいなくても、机もなくなっても、わたし達が居た頃の匂いが確かに残っている。

 屋上に出ると、日光を浴びた床の暖かさが靴下越しに足裏で感じ取れる。そういえば、夏場の練習で休憩中に手を着いたとき、熱すぎて火傷したな。

 誰もいなくても、ここにもあの頃の残り香がある。皆で流した汗臭さに、練習終わりはお互い悶絶してたな。

 匂いもあれば、そう遠くない過去も鮮明に思い出せる。今ここで、皆があの頃と変わらず練習している風景が視えてくる。果南ちゃんの手拍子に合わせてステップを踏んでいる皆の様子が。

 

 ――ワン、トゥー、スリー、フォー、ワン、トゥー、スリー、フォー。今のところの移動は、もう少し早く――

 ――はい――

 ――善子ちゃんは――

 ――ヨハネ!――

 ――更に気持ち急いで――

 ――承知、空間移動使います――

 

 でもその姿も声も、わたしの未練が見せる幻。近付けば蜃気楼みたいに跡形もなく消えて、その場にはここまで辿り着いたわたしの紙飛行機のみが落ちている。紙飛行機を拾おうと手を伸ばしたとき、コンクリートの床に滴が落ちて、わたしは自分が泣いていることに気付いた。

 紙飛行機を胸に抱いて、わたしは空を見上げて込み上げる涙を必死に抑えようとする。

「わたしは嘘つきだ。泣かない、て決めたよね、千歌」

 この学校での思い出は笑顔で締め括る。楽しいことばかりだった。最後まで楽しかった。門を閉めたとき、わたしは歯を食いしばって耐えることができた。

 でも、今この瞬間は無理だった。抑えきれない涙が溢れて頬を伝い続けていく。膝から崩れるように、わたしはべそをかいた子供みたいにうずくまった。

「どうして、思い出しちゃうの……? どうして聞こえてくるの………? どうして……、どうして――」

 楽しかったことに嘘偽りはない。だからこその涙だった。明日もある、と信じ繋げるために駆け抜けた記憶。昨日は未来と思っていた日々が今は過去になって吹きすさんでいく。

 不意に、遠くから声が響く。立ち上がって無人のはずの校舎を見下ろすと、中庭の通路の陰に人影が消えていくのが見えた。

 方向から、きっと行き先は体育館だ。あれもまた、わたしの未練が視せる幻なのかもしれない。全部まやかしで、手を伸ばしたら消えてしまうのかもしれない。それでもわたしは、そこへ向かわずにはいられなかった。

 それが無意味だと嘲笑われても。だって、ここに在ったもの全部が、わたしにとっては特別だったのだから。

 普通なわたしの日常に、突然舞い降りた奇跡。

 何かに夢中になりたくて、

 何かに全力になりたくて、

 脇目もふらずに走りたくて、

 でも何をやっていいか分からなくて、燻っていたわたしの全てを吹き飛ばし、舞い降りた。

 それは、その輝きは――

 飛び込んだ体育館。窓から射し込む陽光が木目張りの床を照らして、斜めに下る柱のような陽光の中で光る塵がどこか水族館の水槽にいる小魚の群れのように漂っている。

 誰もいない。そう、閉じられたこの学校には、誰もいないはずだった。

 そのはずなのに、目の前に広がっている光景は、わたしを笑顔で迎え入れてくれた、浦の星の制服を着た生徒たちだった。

「千歌」

 とわたしを呼ぶむっちゃんの声と姿が、はっきりと視える。「遅いじゃん」というよしみちゃんに、「また遅刻だよ」といういつきちゃんの声も。楽しそうな、他の生徒たちの笑い声も全部。

「皆……、でもどうして?」

 混乱してばかりなわたしは、その問いを向けるのに精いっぱいだった。

「じゃーん!」

 と皆がわたしの前に道を空けて、その先にある幕が下りたステージを手で指し示す。

 ステージの幕が上がる。そこに並んでいたのは、皆だった。その姿を認めても未だに事が呑み込めないわたしに「夢じゃないよ」と曜ちゃんが言ってくれる。

「千歌と皆で歌いたい、て」

 果南ちゃんが言った。

「最後に」

 と鞠莉ちゃんが付け加える。

「この場所で」

 ダイヤちゃんが優しく言う。

「約束の地で」

 そんな約束、と善子ちゃんに言おうとしたところで花丸ちゃんが、

「待ってたずら」

 皆はわたしが来る、て分かっていたのかな。

「千歌ちゃん」

 ルビィちゃんが呼びかける。そうだ、皆はわたしには無い、アギトとしての力があるんだ。それが皆を導いて、わたしを呼んでくれたんだ。あの紙飛行機を通じて。

「歌おう」

 梨子ちゃんが言うと、皆がわたしへ手を差し伸べてくれる。

「一緒に!」

 そこに、わたしみたいな普通怪獣が入り込む余地なんて無いのかもしれない。わたしが居なくても、他の8人であのステージに往けたのかもしれない。でも、皆はわたしも一緒に、と言ってくれた。今こうして、わたしを迎え入れてくれた。

「うん!」

 さっきとは別の熱を裡に抱きしめて、わたしは皆のもとへと駆け出す。

 わたし達は歌い、踊った。音響も何も無い。観客は生徒たちのこぢんまりとした、でも楽しさとこれまでの想い全てが詰まったステージで。決勝で披露する候補のひとつだった、『WONDERFUL STORIES』を。振り付けも歌詞も全部、わたしはしっかりと覚えている。意識なんてしなくても、詞を口ずさめば体が勝手に動き出すほどに。

 わたし達9人の紡いでいくメロディーに乗って、色々なことが思い出されていく。閉校式の日みたいな、寂しさなんて感情は伴わない。この時のわたしを満たしていたのは、歌になって溢れ出すほどの思慕だった。

 曜ちゃんと梨子ちゃんと3人で初めて歌ったライブ。1年生が加わった屋上でのPV撮影。東京のイベントで突き付けられた重圧と得票数ゼロという結果。3年生が戻ってきた夏祭りイベントでの花火大会。突破できなかった前大会の地区予選。

 次の1歩を踏み出すと決めた大会の予備予選に、並行して達成した説明会でのライブ。限界突破を決めた地区予選。函館でのSaint_Snowとの合同ライブ。そして決勝大会。

 駆け抜けた記憶は、決して楽しいことばかりじゃなかった。悔しいことも悲しいこともいっぱいあったし、結果として浦の星は無くなってしまった。でも今はその全てがきらきらとしていて、愛おしい。

 分かった。

 わたしが探していた輝き。わたし達の輝き。

 足掻いて足掻いて足掻きまくって、やっと分かった。

 最初からあったんだ。初めて視たあの時から。わたしがスクールアイドルを知った秋葉原で視た、あの瞬間から。

 何もかも、1歩1歩、わたし達の過ごした時間の全てが――

 それが輝きだったんだ。

 探していたわたし達の、輝きだったんだ。

 これが、わたしの答え。本気で気持ちをぶつけながら、走り続けてきたわたしの辿り着いた答えだ。

 最初から持っていた、わたし達の裡に眠っていた力。それを解き放とうと、羽ばたこうと踏み出した瞬間から、もう奇跡は起こっていたんだ。

 この気付きに至るまで、長い長い物語を積み重ねてきた。答えはそこに在ったのに、随分と遠回りをしてきた気がする。でも、わたし達はようやく見つけることができたんだ。

 こんなところで、終わらせたくなんかない。やっと見つけたものを、この瞬間だけ灯すなんてわたしは嫌だ。これからもずっとこの熱を、輝きを抱き続けたい。

 そのためには、わたし達9人だけじゃ足りないんだ。わたし達の傍に居てくれた、もうひとりの大きな輝きを取り戻したい。彼ともっと響き合って、その熱を抱き合いたい。

 だからわたしは、この想いを高らかに告げる。

 

「もう1度、翔一くんに会いに行こう!」

 

 






次章 最終章 Over the Rainbow
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