ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト   作:hirotani

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 お待たせしました。しばらく風邪でダウンしてました。
 一応検査受けて陰性でした。めっちゃ安心しました。




第5話 目覚めろ、その魂! 3+3+3は9千兆パワー‼

 

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 銃声に悲鳴、そして血。

 わたし達が通り過ぎた後には必ずと言っていいほど血だまりができて、それらが醸し出す死の臭気がわたし達には染みついている。歴戦となると臭いはより強くなっていくのだけど、決してそれは不快なものではないみたいだ。その発する臭気は猛々しくもあり、爽やかでもあり、甘くもある。

 なぜそう感じられるのだろう。まだ臭いを身体に染み込ませていないわたしの疑問に、花丸ちゃんが言っていた。

「死というのは、常に傍にいる身近なものずら。きっとマル達は無意識に死というものを感じていたずらね」

 流石は実家がお寺なだけある。死を身近にしていた居場所で過ごしていたからこその感性かもしれない。

 なぜこんな事を考えていたのかというと、理由が欲しかったと自分では思っている。

 草加さんに連れられ故郷を追われたアギト達のコロニーに迎えられたわたし達は、保護と引き換えに協力を求められた。世界中に展開しているコロニーの目的とは、アギトを迫害から解放すること。それは即ちアギトを敵視する人間と戦うことだった。コロニーの住人達はアギト認定された人たちだけど、変身能力を得るほどにまで覚醒した人は極稀らしい。だからわたし達Aqoursは貴重な戦力になる。

 拒否権なんてなかった。アギトになった皆はコロニーの、ひいては種の悲願に同調するしかなかった。分かり合う事、共に生きる事。その選択肢は一線を越えてしまった皆の中にはとうに消えてしまったのかもしれない。

 迎えられたコロニーにはスクールアイドルを知る人たちも多くて、ラブライブで優勝を果たしたAqoursは住人たちから好意的に受け入れられたと思う。時には歌を披露したり、子供達にダンスを教えたりもした。その間だけ、コロニーの外で起こっている惨状を忘れることができた。

 Aqoursのお姉ちゃん。

 Aqoursのお嬢ちゃん。

 Aqoursちゃん。

 コロニーの皆が呼ぶわたし達の名は様々だ。親しみを込めて呼んでくれるそのグループ名、浦の星の皆の想いと共にラブライブの歴史に刻んだその名を、わたし達は戦場に持ち込みたくはなかった。だから、アギトとして戦場に立つわたし達は別の名前を名乗ることにした。

 新しいグループ名はシャゼリア☆キッス。

 名前の由来は至って単純なもので、前に沼津でのイベントで各地域にメンバーを分散してライブをした時のユニット名を繋げたものだ。

 わたしと曜ちゃんとルビィちゃんでCYaRon!(シャロン)

 果南ちゃんとダイヤちゃんと花丸ちゃんでAZALEA(アゼリア)

 鞠莉ちゃんと善子ちゃんと梨子ちゃんでGuilty Kiss(ギルティキス)

 名前を名乗ることでヒーローを気取ろうとしていたのかもしれない。でも戦いに、殺し合いにヒロイックめいた勇ましさなんて無かったことを思い知るのは瞬きするほど一瞬だった。それでも皆はアギトの自由のために、という題目を掲げ戦場へ向かっていった。

 本当は怖いはずなのに、逃げ出したいはずなのに、どうして皆は進んで戦いへと赴いていったのか。死の臭気というものはどこか芳香にも似ていて、皆はまるで花の蜜を嗅ぎ取った蜂みたいに戦場へと惹きこまれていったんじゃないだろうか、と。

 まともに戦っていなかったわたしが言う資格はないのだけど、何食わぬ顔で戦場へ行き帰る皆を見て、わたしはどこかで怖れを抱いていた。

 

 こちら側の戦闘員が放ったRPG7が、敵陣の一画を吹き飛ばす。開戦の狼煙とばかりに、ぞろぞろと箱型の建物から軍隊アリのような乱れの無い隊列を組んだG3-Mildたちが飛び出してくる。

 建物を囲む森林の陰から姿を現した戦闘員たちはそれぞれの獲物を構え、弾丸に弾丸で応えていく。彼らはまだ変身はできなくても、戦うに十分な超能力を備えた精鋭たちだ。

「じゃあ、いくわよ」

 善子ちゃんの低い声に皆は無言で頷く。善子ちゃん、梨子ちゃん、鞠莉ちゃんの3人は深く息を吸い込み、歌い上げる。3人の声が波のようにうねりながら辺り一帯へと広がっていく。G3-Mildたちは戦場に似合わない歌声に戸惑い一瞬だけ動きを止めるけど、すぐに目の前に迫る駆逐対象へと意識を戻し引き金に指をかけていく。

 戦場に流れる歌なんて、誰も聴いてはくれない。でも、耳には目蓋がない。空気が伝達する3人の歌声は確かに兵士たちの耳に届き、マスクの収音センサーに響いたはず。

 まず、G3-Mildたちは手から銃器を取りこぼし、次に膝を折った。しばらくはしゃがんだ姿勢のまま持ち堪えていたのだけど、それも束の間。ほどなくして身を伏せて、痙攣したかのように身体を小刻みに震わせていく。

 これが、3人の歌。歌に特殊な波動を乗せて拡散し、機械の機能障害を起こす。敵味方の機器問わずに働きかけてしまうけど、アギト側の通信はテレパシーで行っているから機械は殆ど使われない。機械仕掛けのG3-Mild相手だから有効活用できる。

 完全に無防備になったG3-Mildたちに、同胞たちは容赦がない。戦車の装甲すら貫くほどのライフルで、身動きの取れない敵の頭を吹き飛ばしていく。各所でまるでスイカが破裂したかのような光景が繰り広げられていくなか、わたし達は敢えて目を逸らし本来の目的である建物に目を据える。

「変身」

 皆が一斉に呟いた瞬間、アギトの光を身に纏った姿へと変わった。初めて変身した時と変わらず、額から角こそ生えているけど顔はまだ皆のまま。草加さん曰く、まだアギトとしての覚醒が不完全なのだとか。それなら葦原さんと同じギルスになるんじゃないか、と思ったけど、進化は人それぞれに異なるから分からないらしい。葦原さんも翔一くんも、どうして自分にアギトの力が宿ったかなんて最初から知っているわけじゃなかった。ただ宿った、変身できるようになった。その事実だけを、あのふたりは受け入れるしかなかったのだ。

 阻む者たちが頭を爆ぜていくなか、わたし達はセキュリティが完全に潰された入口から堂々と中へ入った。既に先陣を切った同胞たちが中で待機していたであろうG3-Mildたちと戦いを繰り広げていて、奇襲には成功したけど中まで歌は届かなかったようで、結構な数のG3-Mildたちが応戦していた。

 戦況はとてもこちらが有利とは言えない。こっちもそれなりの人数を投入したけど、警察のほうも結構な数のG3-Mildを配備していたらしく拮抗している。ひとりひとりの戦力となれば敵のほうに分がある。わたし達のほうでアギトとして変身できるのは僅かで、後は補助的に超能力を扱えるくらいだ。わたしのように、携行している武器だけが頼りの人もいる。

「危ない!」

 ダイヤちゃんに咄嗟に突き飛ばされ、さっきまでわたしがいた場所でグレネードが炸裂して粉塵を撒き散らす。すぐさまダイヤちゃんが目で弾道を辿り、手をかざすとその先でランチャーを構えていたG3-Mildの鎧の継目から炎が噴き出した。文字通り火だるまになった彼は絶叫をあげていたけれど、声帯も焼けたのか声も出せないままその場でのたうち回り、ほどなくして動かなくなりされるがまま体内からの炎に焼かれていった。

 仲間の凄惨な最期に、他のG3-Mildたちは優先順位をわたし達へと定めたらしい。他の戦闘員たちを適当にあしらい、わたし達の周りへと集まってくる。その一画を黄色い光が一閃した。ざ、と3人のG3-Mildが身体を横に両断され、ずるりと上半身を地面に落としていく。わたし達の前に立った、黄色い光を放つ剣を構えたアギトが草加さんの声で告げた。

「行け、ここは俺がやっておく」

 草加さんの剣捌きには迷いがない。ショットガン程度では傷ひとつ付かないG3-Mildの鎧を剣で両断し、そのスーツの中に詰まった血と臓物を弾けさせていく。こんな光景は慣れたつもりだったけど、胃の奥から酸っぱいものが込み上げたわたしは思わず目を背けてしまった。

「千歌ちゃん?」

 ルビィちゃんが肩を貸してくれたけど、敵が近付いてきたのかすぐさま接近してきたG3-Mildへと向かっていく。分厚い金属の胸板に小さな拳を当てて、それでも意に介さないG3-Mildに拘束の拳と蹴りを浴びせていく。力が足りないのなら手数で。どうしても筋力に難があったルビィちゃんの編み出した戦い方で、G3-Mildの装甲が剥がされていく。ルビィちゃんの渾身の拳がG3-Mildの腹に食い込み、そのまま骨が砕ける音と共に背中を突き破った。

 あのルビィちゃんが、躊躇うことなく人を殺めている。引き抜いた右腕が真っ赤に染まっていても恐れることなく、淡々と自身の力を自覚して他の敵へと意識を移している。ルビィちゃんだけじゃない。曜ちゃんは敵の武器を暴発させて自爆させているし、善子ちゃんは背中から出した黒い翼で毒を含んだ鱗粉を撒き散らしている。空気中に飛散した毒で弱った敵を、梨子ちゃんが手から伸ばした光の手刀で切り裂いていく。

 花丸ちゃんの口ずさんだ歌が、敵に搭載された機器系統を狂わせて次々と爆発を連鎖させていく。果南ちゃんの剛腕を前に金属製のマスクなんて役に立たず潰されていき、鞠莉ちゃんの指から放たれた弾丸のような光の球が敵の胸にぽっかりと風穴を開けてしまう。

 これを野蛮だ、と思えるのは、わたしだけまだ敵の命を奪った事がないから言えること。戦うと言って戦場に立ちながら未だに腰に据えた銃でひとりも仕留められない偽善者の戯言でしかない。

 これが本来の戦いなんだ。善悪とか、正義なんてものを容易く超越したもの。ただ生きるか死ぬかしかない。純粋な生への執着のみが渦巻き絶えず死の臭気が醸し出される。

 気付けばわたしは走っていた。建物の奥へ、次々と倒れるG3-Mildの死体を跨ぎながら。裡で叫びながら。

 正義なんて嘘だ。そんなものは命の重圧に耐え切れなかった者の逃避か、事実を知らない善人気取りの創り出した紛い物だ。戦わなければ死ぬ。生物として当然の恐れが、人を戦士にする。いや、戦士なんて言葉も紛い物。血生臭い獣という事実を覆い隠す虚言だ。

 目尻に浮かびかけたものを乱暴に拭い、今自分がいる場所を確認するために足を止めた。まだG3-Mildは出入口に展開しているらしく、不気味なほど静かだった。作戦前に頭に叩き込んでおいた建物の間取り――事前に超能力で内部をスキャンしたもの――を思い出す。記憶が正しければ、丁度下の階に通路があるはず。ベストから出したC4爆薬を床に置いて、通路の角で身を屈めると耳に栓を詰めて起爆スイッチを押した。

 栓をしても耳鳴りがするほどの爆音に顔をしかめながら身を起こす。撒き散らされた粉塵に口を押さえて確認すると、爆薬はしっかりと役目を果たしてくれたようだった。床に空いた穴から鉄筋が少し飛び出しているけど問題なく潜れそうだ。顔だけ穴から出して誰もいない事を確認できると、わたしは穴から地下へと降り立った。普通に階段から降りることができたら良いのだけど、自動筆記で書き起こされた間取り図の中で地下に通じる階段は存在しなかった。エレベーターなら行けるのかもしれないが、そんなものは自分から敵の罠にはまりにいくようなもの。

 という訳で作戦通りの段取りで目標地点に辿り着けそうなのだけど、問題なのはそこに何があるのかまだ分からない、という事だ。この施設を見つけた能力者はどれだけ千里眼を酷使しても、この先にある空間だけは視る事ができなかったらしい。警察が開発した対アギト兵器が保管されているのでは、という懸念からこの破壊作戦が発案されたのだが、まさか目標へ辿り着いたのが最も無力なわたしひとりとは皮肉なものだ。

 通路を歩き出そうとしたとき、久しい声がわたしの耳に届いた。

「千歌さん」

 振り返ると、そこには数年前にAqours――もといシャゼリア☆キッスを助けてくれた青年刑事がG3-Xの鎧を身に纏い立っていた。小脇に抱えたマスクが何とも所在なさげだ。

「やはりあなた達も来ていましたか。聞いていますよ、あなた達の活躍は」

 そう告げる氷川さんはとても悲しそうだった。分かっている。氷川さんや小沢さんは、こんな再会をするために助けてくれたわけじゃない。でもあの日に氷川さんが言ってくれたように、どんな形でも生きるためにはこうするしかなかった。

「投降してください、千歌さん」

 すがるような声で氷川さんは言った。

「悪いようにはしないと約束します。あなた達とは戦いたくない」

「………わたし達じゃなかったら、戦えるんですか?」

 情けない彼の物言いに耐えられなくなったわたしの声が険を帯びる。

「わたしはもう、氷川さんと戦う覚悟はできています」

 そう告げてわたしは腰のホルスターから抜いた拳銃を構える。

「どんな形でも生きるために」

 その言葉に氷川さんは息を呑んだ。今にも泣きそうに、声をわなわな、と震わせる。

「違う……、僕はこんな事のためにああ言ったんじゃ………」

 どこまでも優しい人だ。その優しさはアンノウンと戦うのにとても頼もしい武器だったのかもしれないけど、人の形をした存在を相手にするには枷にしかならない。

 氷川さんはまだ夢見ているのだろうか。アギトと人が共に生きていくことを。これだけの戦いの末に、ふたつの種が手を取り合い肩を並べて歩いて行けるだなんて、そんなものは儚い夢想に過ぎない。分かり合うのに、わたし達は互いを傷付け殺し過ぎた。表面上赦したとしても、必ず双方に消えない傷と憎しみを持ち続ける人が存在する。傷を癒すには、もうどちらかが滅びるしかないのだ。

 銃口を向けるわたしはどんな顔をしていたのだろう。氷川さんはもう、かつてとは違う視線をわたしに向けていた。無力な高校生の女の子じゃなく、人でない何か。倒すべき敵と対峙してしまった絶望の色を帯び、その顔をG3-Xのマスクで覆い隠す。

「この先に行っても、あなたにとっては絶望しかありません」

「絶望なんて、とっくにしてます」

 そんなもの今更だ。もう、何を希望とするべきかも分からないのだから。歩き出す氷川さんに、わたしは銃のトリガーを引く。当然のごとく、弾丸はG3-Xの青い装甲に火花を散らすだけで容易に弾かれてしまう。G3-Mildでさえ対人兵器が殆ど役に立たないのだ。まだ余裕のあるC4爆薬なら多少のダメージを負わせられるか。

 ベストのポケットをまさぐった時、氷川さんは重厚な鎧に不相応な速さで接近してきた。不意打ちにわたしは対処できず足を払われ、崩された体勢のままに床に押し付けられ、重さに身動きが取れなくなる。氷川さんは太腿のホルスターにあった銃を取って銃口をわたしの額に向けた。直後、赤い光が目を突き視界が潰される。レーザーポインターの光と気付きながら目を瞬き、戻っていく視界の中で氷川さんの途切れ途切れの声が耳朶に入り込む。

「千歌さん……君は………」

 咄嗟にわたしは氷川さんの顔面に銃を発砲した。弾丸のフラッシュに狼狽えた隙に拘束から抜け出せたけど、生憎ながらG3-Xのマスクにも傷ひとつ付けるには至っていない。それでも氷川さんは頭を抱えながら「そんな……」とがらんどうに繰り返している。

 どうやら彼の銃には、アギト判別のための測定器が搭載されていたみたいだ。という事は、彼はわたしの真実を知ってしまったということ。

「何故、何故君は………」

「アギトじゃないから、て味方しちゃいけないんですか?」

 わたしの問いに、氷川さんは答えなかった。答えられなかった、と言うべきかもしれないが。

「アギトになっても心は人間のままだ、て氷川さんも知ってるじゃないですか! 皆も必死に生きてるんです。望んでアギトになったわけじゃないのに、化け物だなんて決めつけられて理不尽に殺されて!」

 無駄なのに、叫ばずにいられなかった。どんなに声高に叫んだところで、世界は少数の声なんて簡単に握り潰す。滅ぼすのではなく対話を図るべきだ。力を制御する術を見出すべきだ。そう謳う派閥も人間側とアギト側双方に存在していたけれど、内側から瓦解させられた。所詮は安全圏にいる者の理想論、前線を知らない者の楽観論だ、と。

 この時わたしの叫びは、氷川さんではなく別の人に届いていた。わたしが先ほど開けた天井の穴から、淡々とした声が響く。

「確かに、アギトの精神は人間のまま。それは我々も認めているところです」

 遅れて、穴から鋼鉄の鎧を纏った人影が飛び降りた。重量のあまり着地した床が足の形に陥没したけど、当人はよろめくことなく立っている。

 現れたその黒いG3をわたしは知っている。かつて自衛隊が運用して、わたしを繋げた悪魔のシステムを。

「北條さん、それは――」

 氷川さんの困惑に、黒いG3はわたしも知っている冷たい声で応える。

「安心してください。G3-Xと同じように、AIのレベルを落とし調整されたG4ですよ」

 そう言ってマスクを外せば、数年前と変わらない冷たい眼差しの刑事が顔を露にする。

「お久しぶりです、高海千歌さん。こんな再会になるとは残念です」

 心にもないことを。苛立ったわたしと北條さんの間に、氷川さんは割って入る。

「待ってください北條さん、彼女は――」

「彼女がアギトでないことは関係ありません。アギトの側として我々に銃を向けたのです」

 そう言い放った北條さんはマスクを付け直す。わたしは肩に掛けたグレネードランチャーを構えた。これならば有効打を与えられるかもしれない。

「訊いても、良いですか?」

「何でしょう?」

「さっき言ってましたよね。アギトの精神は人間のまま、て。それを知っているならどうして?」

「人間のままだからこそ、危険なのです」

 言葉通りに受け取るには、わたしにはまだ分からない事が多すぎた。北條さんは続ける。

「精神が不完全で未熟な人間が強大な力を持つようになる。それは幼い子供が核のボタンを持つのと同じなのですよ」

「だから、滅ぼすんですか?」

「その通りです。現にアギトの存在が今の世界に起こる混乱を招いたのです。我々の弾圧行為も認めざるを得ませんが、それもアギトなる存在がいなければ起こらなかったこと」

 「そうですか」とわたしはため息交じりに応えた。ここで討論する気はない。最初から分かり合うことなんて無理だったのだ。北條さんひとり説得できたところで無駄。彼の言葉は、いうなれば世界の人々の大多数の意見なのだから。

 アギトは人の形をした化け物。野放しにしけおけば人はいずれアギトに滅ぼされる。そんな恐怖を凶器とした世界では、アギトに情を持つ氷川さんやわたしのような人間のほうが異端だ。

「北條さん!」

 叫んだ氷川さんが、折り畳まれていたランチャーのバレルを展開した。北條さんは溜め息をつき、

「まさか裏切るつもりですか?」

「違います。彼女は人間です。僕は人間を護るために戦います!」

 氷川さんが北條さんに組み付いた。邪魔な虫を払わんばかりに北條さんが背中に肘打ちを見舞うけど、氷川さんの身体はしつこく離れようとはしない。青と黒の鎧をぶつけ合うふたりの仲間割れを好機として、わたしは通路を駆けていく。

 通路の奥には銀色の鉄製扉があって、小さなセキュリティパネルが設置されている。パスワードなんて分からないから、わたしはC4爆薬を扉に貼り付け急ぎ離れ起爆させた。戦車すら破壊させる威力だけど、扉は大きくひしゃげただけで持ち堪えてみせた。でも無駄な抵抗でしかなく、わたしは追撃のグレネードランチャーを構える。

「駄目です千歌さん!」

 後ろから氷川さんの声が聞こえたけど無視して、ランチャーのトリガーを引いた。目標へ衝突と同時にグレネードが炸裂して、歪んだ扉を吹き飛ばす。粉塵で視えない奥の空間へ、わたしは躊躇することなく飛び込んでいった。

 

 






 次回予告

 迷いを振り切ったかG3-X!
 生を背負った男の魂が、鋼鉄を砕くうう‼

 次回 シャゼリア☆キッス 24.7
 何者なんだお前は! ただの人間だ‼

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