ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト   作:hirotani

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第4章 ふたりのキモチ / 記憶の一片
第1話


 

   1

 

 これは、ひとりの短い物語。

 

 小さい頃から隅っこで遊ぶ、目立たない子だった。運動も苦手で、学芸会の演劇で務めたのは樹の役。自己主張するのに消極的で、人の輪に入っても流されるまま。大きな流れの中にいては、「自分」という認識が薄れていく。自己を保つために国木田花丸(くにきだはなまる)が人の輪から外れ、孤独という自由を手にしたのは小学校にあがってすぐの頃だった。孤独であることに寂しさを感じなかったのは、図書室というひとりで過ごす絶好の場所を見つけられたからだろう。だから、花丸が読書に傾倒するのは必然的だったと言える。

 人生は物語に例えられる。でも多くの小説において、語られるのは主人公の人生のほんの一幕。幼少から晩年までを語ったのは、有名どころだとプルーストの『失われた時を求めて』くらいだろう。そうなると、まだ15年だけの花丸の物語は、全て事細かく語ったとしても1冊の本にはなれない。退屈で、平凡で、派手さのない。ただ淡々と日常が過ぎていくだけの、読み捨てられるだけの空虚な物語。花丸が本を読み漁っていたのは、そんな自分の空虚さを他者の物語で埋めようとしていたからかもしれない。

 ひとりで過ごしていては、登場人物は花丸ひとりの物語として完結する。他者の物語で埋めようとしても、結局のところ本は一方的に読者へ告げるだけ。キャッチボールに例えられる言葉の応酬なんてものはない。本と花丸の間に、物語は生まれない。

 そのことに気付いてしまったのは、すっかり文学少女に成長した中学生の頃だった。本を読み終わったときに覚えた達成感と、孤独。読了した本はもう花丸に語りかけてくれない。それでも、本は世の中にたくさんある。新しい本を探せばいい。自分の物語はそうやって語られる価値もなく淡々と変わらずに過ぎていく。そう思っていた。

 でも、人生という物語は予想外な章が展開される。花丸はその伏線にまったく気付いていなかった。

 図書室の隅でアイドル雑誌を読んでいた少女、黒澤(くろさわ)ルビィ。彼女との出会いが、花丸を大きな物語へ導くことになるなんて。

 

 

   2

 

 1歩ずつ脚を進める度に、体が重くなっていく。まるで体が磁石になって、道端の砂鉄や金属を吸い寄せているかのように。もはや真っ直ぐ進むことができず、酔っ払いのように千鳥足ながらも涼は懸命に夜道を歩き続けた。あと少しでアパートに着く。そうすれば思う存分、泥のように眠ろう。もしかしたら永遠の眠りにつくかもしれない。不謹慎な予想だが、それが冗談と言えないほどに涼の体は重い。いつもの発作の後に訪れる疲労とは比べようのない重さだった。原因として考えられるのは、長くあの姿でいたせいか。

 倒れそうになった体を傍の電柱に傾け、そのまま膝を折る。手に提げていたコンビニのビニール袋を落としてしまって、購入したミネラルウォーターや栄養剤が散乱する。拾おうと視線を下ろしたとき、手に留まった。自らの手を見て涼は驚愕のあまり粗い呼吸を一瞬だけ詰まらせる。

 涼はまだ20歳だ。肌も水分を十分に含んでいるはずが、涼の手はからからに干からびて皮膚が収縮している。まるで老人のようだ。指はいとも簡単に骨が折れてしまいそうなほどに細くなっている。

 ただでさえ汗だくなのに、更に冷や汗が溢れてくる。俺の体に何が起こっているんだ。ただ化け物になるだけじゃないのか。

 小刻みな足音が聞こえてくる。小走りのような、それかまだ脚が短い子供特有の歩き方のような。前方を見やると、低い背丈の人影がこちらへ歩いてくる。街灯の光が弱く、目も霞んでいるせいで顔がよく見えない。でもなぜだ。見るからに子供なのに、なぜ俺はこんなにも怯えている。なぜこの足音を怖れているんだ。

 多汗で脱水症状を起こしたのか頭がぼんやりしてくる。重い頭を支えるだけの余力もなくなり、涼はアスファルトの地面に横たえる。ゆっくりと目蓋が閉じられるなか、涼は視界が暗闇になる直前に辛うじて自分を見下ろす存在の顔を見ることができた。

 それは少年の姿をしていた。

 

 

   3

 

「これは、馬券ですか?」

 競馬のチケットを映した写真をぱらぱらとめくりながら、尾室が尋ねる。現物は警視庁舎に保管されていて持ち出すことはできず、先方の捜査員に頼んで送ってもらった画像をプリントアウトしたものだ。

「ええ。先日の被害者、片平久雄の所持品のなかにあったものなんですが、これを見てください。当日のレース結果です」

 そう言って誠はレースの成績をまとめた紙片を手渡す。片平久雄の購入した馬券のレース番号には分かりやすくマーカーで線を引いておいた。

「何だ全部外れじゃないですか」

 うんざりした様子で尾室がひらひらと振る紙を指さし、

「馬券のレースナンバーをひとつずつ繰り上げてみてください」

 誠が告げると尾室は再び馬券と成績表に視線を交互に巡らせる。

 片平の予想では、レース4Rで勝つ馬の番号は4-9。レースの結果は4-12で外れたが、次のレース5Rの結果は4-9。片平の予想したレース5Rは1-2。これも外れだが、次のレース6Rの結果は1-2。レース番号ひとつ違いでの一致が、その後の購入した馬券で同様に続いていく。

「片平久雄はひとつ先のレースを全て的中させていたんです」

「偶然じゃないかな。それとも、氷川さんまだアンノウンの被害者が超能力者だっていう説を捨ててないんですか? 片平久雄は不完全ながら予知能力を使っていたとでも?」

「まだ、そこまで言い切れるような確信はないのですが………」

 そこへ、小沢がカーゴに戻ってきた。月に1度の定例会議は終わったらしい。もっとも、G3の設計や運用は開発者である小沢に一任されているから、これからのG3改修について彼女に意見できる者がいるとは思えない。

 小沢は尾室が持っているレースの成績表に気付くと眉を潜め、

「何、競馬? やめときなさい。あなた達どう見てもツキがありそうには見えないから」

 「いやそうじゃなくて――」と尾室が弁解しようとするが「それよりも」と小沢は遮り、

「オーパーツ研の三雲咲子さん。通り魔に殺害された、って上は処理するつもりよ」

 「そんな……」と誠は声を詰まらせ、端を切ったようにまくし立てる。

「小沢さんと尾室さんだってモニタリングしてたはずです。三雲さんはアンノウンに――」

「一応、主張はしておいたわ」

 小沢は至極冷静に、でもどこか苛立ちを含んだ声色で言った。

「でも死因は鋭利なもので腹部を刺されたことによる失血死。『不可能』ではないし、例によってアンノウンはカメラに映らない。証拠としては不十分なのよ」

 アンノウンが映らないG3の記録映像は、既に三雲が殺害された現場に誠が偶然通りすがったと捉えられても仕方ない。ならば誠は犯行を目撃せず、犯人は行方不明。

 現場にいた少年のことも気になる。映像には少年の姿も映っていなかった。G3のセンサーが暗視モードだったから誠には見えていたが、街灯の光量が不十分なあの場所ではカメラで捉えることはできなかったのだろうか。そもそも、何故少年は現場にいたのか。ただ散歩していたところを遭遇したとしても、あんな年端もいかない子供を親がひとり夜に出歩くのを許すとは到底思えない。

「有耶無耶にする、ってことですか」

 溜め息と共に尾室が漏らす。誠は拳をきつく握りしめた。真実を追うことが警察の職務じゃないのか。犯人が正体不明(アンノウン)な存在だからといって、自分たちでは手に負えない存在だからと匙を投げて何が法の番人だ。苦虫を噛み潰すのは遺族だというのに。でも、反感を抱くのは誠だけではないはず。小沢だって、会議の場で主張したのなら誠と同じ想いだったはずだ。でも、小沢の主張でも上層部の意向を覆すことができなかったのなら、刑事のなかで最下位の警部補である誠の言葉など聞き入れてもらえない。

「ねえ、ちょっと気になるんだけど」

 小沢がそう切り出してくれなかったら、誠は行き場のない怒りを八つ当たり同然に発散させていたかもしれない。

「例のオーパーツのコードを基にした遺伝子実験。あれ本当に失敗だったのかしら?」

 それが単純な質問でないことが理解できる。誠も違和感を覚えていた。研究所が撤去されるなか、打ち捨てられたように佇んでいたオーパーツを見つめる三雲の顔。彼女はやはり、あのオーパーツから何かを見つけたのでは。それ故にアンノウンに殺害されたのなら、オーパーツとアンノウンに繋がりがある気がする。思えば、オーパーツの研究が始まると同時期にアンノウンが現れた。無関係とは思えないが、結び付ける材料が足りない。あと少し、あと少し何かあれば真実へ辿りつけそうなのに。

 調べ直そうにも、オーパーツがどこの博物館へ引き取られたのか分からない。ただ遠い昔に製造され、難解なパズルが組み込まれた「だけ」のオブジェを誰が引き取るのだろうか。

 まともな回答を得られないと悟ったのか、小沢はデスクに向いてPCを起動させた。

「何か嫌な感じね。今以上に厄介なことが起こらなきゃいいけど」

 

 

   4

 

「そうそう、ふたりとも土曜日は空けておいてね」

 夕食後にリビングでくつろいでいるなか、志満が何気なしに告げてきた。

 「え?」と美渡がスナック菓子を咥えながら、「何かあったっけ?」と千歌も翔一の淹れたお茶の湯呑を受け取りながら訊く。「もう」と志満は溜め息をついて、

「その日はお父さんの命日でしょ」

 「ああ」と美渡と千歌は声を揃えた。

「お父さんに報告しなきゃいけないこと、たくさんあるんだから。美渡の就職とか、千歌ちゃんの進学とか」

 「あとスクールアイドルもね」と千歌が補足する。これは必ず報告せねばならない。やりたいことが見つかったよ、と。

「じゃあこれ持っていく? ほら、お供え物にさ」

 そう言って翔一がお茶請けに用意した大根の一夜漬けの小鉢を手に取る。「ううん、いらない」と断りながら、千歌は翔一のことも報告しよう、と思った。兄のような存在ができた。記憶喪失で戦士に変身する不思議な人だけど良い人だよ、と。

「お父さんが死んで3年か………。早いもんだね」

 美渡がしみじみと言う。「そうね」と志満が応じ、湯呑のお茶を啜った。

「どういう人だったんですか? 3人のお父さんて」

 翔一が訊くと、志満は湯呑をテーブルに置いてどこか遠くへと視線を向けながら答える。

「大学の教授をしていてね、神話や伝説を研究していたの」

 続いて美渡が、

「たまにしか帰ってこなかったけど。結構忙しかったみたいで大学の近くで家買って住んでたんだよね」

 千歌もふたりの姉と同じように遠くを見やり、父の記憶を土から掘り起こすように回顧した。千歌の父にまつわる最も古い記憶は手だった。とても大きく、幼い千歌の頭を包むように撫でてくれた父の手。

「優しい人だったな。手が大きいの、風呂敷みたいに」

 「風呂敷⁉」と翔一は自分の両手をまじまじと見つめる。実際、そんなに手の大きい人間はいないだろう。父の手が風呂敷のように大きかったのは、千歌が幼かった故の錯覚だ。実際は翔一と同じくらいかもしれない。

 一旦思い出すと、千歌の意識はそのまま海底へ潜るように過去へと遡っていく。父の手がとても大きく見えた頃、千歌が物心のついたばかりの頃の記憶は、今でも鮮明に思い出せる。

 父は仕事が休みの日は必ず十千万へ帰宅し、天気が良ければ千歌と曜、たまに果南も一緒に海釣りへ連れて行った。釣りを趣味としていた父の腕前は確かなもので、毎回アジやサビキをクーラーボックスいっぱいになるまで釣り上げた。幼い千歌たちも子供用の竿を垂らして待っていたが、なかなか釣れずに曜と果南が別の遊びを始めていた。

 千歌は竿を握る父の姿を常に眺めていた。竿を両手でしっかりと持つ父は、竿を通じて魚の泳ぎを読み取っているように見えた。「それ」と父が竿を揚げると必ず魚が食いついていて、父は大きな手ですっぽりと釣れた獲物を千歌に見せてくれた。

 ――お父さんすごーい!――

 千歌が感嘆の声をあげると、父も嬉しそうに娘と一緒になってはしゃいだ。

 ――凄いだろう。お父さんは凄いんだぞ!――

 

 

   5

 

「これでよし!」

 引き戸の真上にある枠にすっぽりと収まったスクールアイドル部の札――「部」が「陪」と間違っているから訂正した――を、千歌はまじまじと見上げる。

「それにしても、まさか本当に承認されるなんて」

 未だに信じられない、でも嬉しそうに梨子が言った。「部員足りないのにねえ」と曜も続く。でも、これは現実だ。先ほど頬をつねってみたところ痛かったから間違いない。

「理事長が良い、って言うんだから良いんじゃないの」

「良い、ていうかノリノリだったけどね………」

 先の理事長室で揚々と紙面に承認の判を押した鞠莉を思い出したのか、曜が戸惑い気味に言う。

「どうして理事長はわたし達の肩を持ってくれるのかしら?」

 と梨子が尋ねた。千歌はさほど深く考えず「スクールアイドルが好きなんじゃない?」と返す。「それだけじゃないと思うけど………」と梨子は腑に落ちないようで顎に手を添える。自分たちの熱意が伝わった、ということで良いや、と千歌は思った。わたし達は条件通りにライブを満員にさせた。だから鞠莉は約束通り承認してくれた。それだけのこと。

「とにかく入ろうよ」

 そう言って千歌は鞠莉から預かった鍵で開錠し、戸を開けて中へ入る。

 部室として割り振られた部屋は随分と物が散乱している。バレーボールにバスケットボールにバドミントンのシャトル、何が入っているのか分からない段ボールの山。使われなくなって久しいらしく、まだ戸の近くまでしか踏み込んでいないというのに3人が中に入ると積もっていた埃が一気に舞い上がった。

「片付けて使え、って言ってたけど………」

 言葉を詰まらせた梨子の続きを千歌が大声で引き継いだ。

「これ全部う⁉」

 せっかく部として本格的な活動ができると思ったのに、出鼻をくじかれた。片付けが終わる頃にはまだ練習する時間が残っているだろうか。練習だけでなく次の曲の制作にも取り掛かりたいというのに。

「文句言っても誰もやってくれないわよ」

 淡々と言いながら梨子は制服の袖をまくる。無言で頷く曜も同じように。仕方ないかあ、と思いながら千歌も袖に手をやったとき、何気なく視界に入ったホワイトボードの文字に気付いた。インクが酷くかすれていて、近くで凝視しなければ見えない。

「何か書いてある」

 「歌詞、かな?」と梨子が言うと、確かに歌詞のフレーズに見えてくる。「どうしてここに?」という曜の質問には「分からない」と答えるしかない。前に使っていた生徒が書いたものだろうか。まあ、今はそんなことはどうでもいい。

 「それにしても」と千歌は備え付けのテーブルや床に散らばっている本に目を向け、

「こんなにたくさんの本、どこに置こうかな?」

 棚は一応あるのだが、殆ど埋まっている。もっとも、整理すれば不要なものが出てスペースは確保できるかもしれないが。

「図書室のものかもしれないし、返しに行こっか」

 と曜は埃まみれの本を集め始めた。

 

 放課後の図書室はとても静かだ。昼休みには少ないながらも利用する生徒はいるのだが、放課後となると多くが部活か帰宅する。勉強するのも、読書をするのもリラックスできる自宅のほうが捗るだろう。だから図書当番でありながら暇を持て余す花丸は、入学間もないながらも読書で下校時間が来るのを待つという業務スタイルを既に確立させていた。

 図書室を漂っていた静寂が、戸を開けると同時に発せられるルビィの声で破られる。

「やっぱり部室できてた!」

 図書室ではお静かに。カウンターの前で子供のようにはしゃぐルビィにそう言うべきなのだが、今は迷惑を被る人は文字通り誰もいないのだから注意するほどのことでもない。

「スクールアイドル部、承認されたんだよ!」

 「良かったねえ」と花丸は笑みを浮かべた。ルビィはとても嬉しそうだった。勧誘してきた千歌に怯えながらも、Aqoursのライブに行くと真っ先に言ったのはルビィだった。普段は人見知りが激しく口数も少ないが、スクールアイドルのことになると途端に饒舌になり、花丸にμ’sなるグループがどれほど凄いのかを教えてくれる。それほどルビィはスクールアイドルが好きということ。

「またライブ観られるんだあ」

 うっとりと両手を合わせたと同時に戸が開く。ほぼ反射的にルビィはカウンターの陰に隠れた。まだ花丸以外とは上手く会話ができない。クラスでもルビィが花丸以外の生徒と話すのところは見たことがなかった。

「こんにちはー!」

 意気揚々と挨拶して図書室に訪れた先輩だったら、隠れても仕方がないかもしれない。そう思いながら、花丸は「こんにちは」と挨拶を返す。千歌と曜と梨子。Aqoursの3人はそれぞれ山積みの本を抱えている。

「花丸ちゃん」

 とカウンターの前に立った千歌は次いで人差し指をカウンターの陰に向け、

「と、ルビィちゃん!」

 「ピギャあ!」とルビィは声をあげた。観念したのか立ち上がり、おそるおそる「こ、こんにちは……」と挨拶する。

「可愛い!」

 そう言って千歌はまじまじとルビィを眺める。向けられる視線にルビィはたじろぎ、どう返していいか分からないようで視線を右往左往させる。それを見かねてか、「千歌ちゃん」と曜が制した。

「もう、勧誘に来たんじゃないでしょ」

 梨子も呆れを口にしながら、カウンターに抱えている本を置く。

「これ部室にあったんだけど、図書室の本じゃないかな?」

 花丸は山の1番上を手に取り裏表紙を開く。頁に図書室の蔵書を示す判が押されている。

「多分そうです。ありがとうございま――」

 最後まで言い切る前に、花丸の手が取られた。傍に立つルビィの手も。千歌はふたりの手を離すまいと強く握り、

「スクールアイドル部へようこそ!」

 「千歌ちゃん……」と梨子が口で制止を試みるも全く効いてなく、千歌は続ける。

「結成したし、部にもなったし、絶対悪いようにはしませんよお」

 鼻息を粗くした千歌の出で立ちは完全に変質者だ。同性でなかったら通報されているかもしれない。いや、同性でもなかなか危うい境界線か。

「ふたりが歌ったら絶対キラキラする。間違いない!」

 容貌がアイドルとして成立すると見初められるのは嬉しいのだが、だからといってふたつ返事で容認できることじゃない。アイドルになるということは、この先輩たちのようにステージで、大勢の人の前で歌って踊るということ。

「おら……」

 「おら?」と千歌が反芻したところで、無意識に祖父母譲りの方言が出てしまったことに気付く。

「ああ、いえ……。マル、そういうの苦手っていうか………」

「ル、ルビィも………」

 しどろもどろに言うルビィに花丸は視線をくべる。違うでしょ、ルビィちゃん。アイドルのライブを観たいんじゃなくて、本当はアイドルになってライブに出たいんでしょ。そう告げたとしても、ルビィの後押しになれる自信がなく口を結ぶ。そこでようやく曜と梨子が助け舟を出してくれた。

「千歌ちゃん、強引に迫ったらかわいそうだよ」

「そうよ、まだ入学したばかりの1年生なんだし」

 「そうだよね」と笑いながら千歌は手を離した。

「可愛いから、つい」

 「千歌ちゃん、そろそろ練習」と曜が促し、「じゃあね」と千歌は手を振ってふたりと共に図書室から出ていく。戸が閉められると、ルビィがぽつりと呟いた。

「スクールアイドルか……」

「やりたいんじゃないの?」

「でも………」

 

 






 本作で千歌ちゃんのお父さんは故人としていますが、原作では健在です。一瞬しか登場しませんが。
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