ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト   作:hirotani

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ダイ「鞠莉さん!」
草加「真理⁉ いま真理と言ったか? 真理がその学校にいるのか?」
鞠莉「鞠莉ならわたしだけど?」
草加「まりいいいいいいいいいいいい‼」

 ~~~

氷川「未成年に対する強制わいせつの疑いで現行犯逮捕します」
草加「違うんだ。真理は俺の母親になってくれるかもしれない女なんだ!」
北條「詳しくは署で聞きますので」
草加「琢磨⁉ 貴様ああ‼」
氷川「知り合いなんですか北條さん?」
北條「いえ知りません。琢磨? 誰ですかそれは?」

 先日こんな夢を見ました(笑)




第6章 PVを作ろう / 繋がる過去
第1話


 

   1

 

 メンバー全員が揃っているのに、千歌の部屋は一切の音が立たない。もし音があるのだとしたら、1年生の3人と梨子が翔一に向けるじい、という効果音だろうか。まあ、あんな光景を見てしまえば仕方ない。千歌と曜も初めて見たときは驚いたし逃げ出したほどだ。

 部屋の中心に有無を言わさずに座らされた翔一は、向けられた好奇と困惑の混ざった視線にどう対応すればいいか分からないようで苦笑を返している。

「ええと………、俺お茶淹れてこようかな」

 そう言って立ち上がろうとした翔一の肩を千歌は掴み「いいから」と再び座らせる。

「いやほら、せっかくの皆来たんだしゆっくり――」

「いいから座ってよ。皆にも説明しないといけないんだから」

 「そうです」と梨子が言う。

「訊きたいことたくさんあるんですから。そもそも千歌ちゃんと曜ちゃんは何で言ってくれなかったの?」

 「いやその……」と千歌は言葉を詰まらせる。翔一のことを秘密にしていたわけではないのだが、打ち明けるタイミングを計っていたというか何というか。

 千歌と同じように視線を泳がせた曜がおそるおそると、

「訊かれなかったから、かな?」

 「そう!」と千歌は便乗する。

「誰も翔一くん変身するの、って訊かなかったでしょ? だからだよ!」

「普通そんなピンポイントで訊かないでしょ!」

 即座に梨子が指摘する。「はい……」と千歌が縮こまると、曜が「でも」と

「梨子ちゃんには話したことあるし……」

「それは曜ちゃんが、津上さんが千歌ちゃんのおと――」

 「わー!」と曜は咄嗟に梨子の口を手で塞ぐ。「何のこと?」と千歌が訊いても「何でもない、何でもないから」と曜はもがく梨子を抑えながらはぐらかす。翔一に視線を向けても首を傾げられた。翔一が千歌に何かしただろうか。翔一が千歌の部屋に入って掃除したり服を洗濯したとしても、それはいつものことだから気にはしない。

 ようやく梨子と曜が落ち着くと、善子が口を開いた。

「ていうか、本人に訊いても分からないでしょ。その人記憶喪失なんだし」

 「え?」と千歌は驚きの目を善子へ向ける。善子と翔一を会わせるのは今日が初めてのはずなのに。

「善子ちゃん何で知ってるの?」

「何でって、前に会ったことあるから。その時も変身して戦ってたわよ、この人」

 そこで翔一は思い出したように「あー、あの時の」と、

「あれ、でも君ヨハネちゃんじゃなかったっけ?」

 翔一が訊くと、善子は表情を引きつらせて視線を逸らす。そんな彼女にルビィと花丸が冷ややかな視線をくべて、

「善子ちゃん………」

「外でも堕天使やってたずらか?」

 「そ、それは仕方ないというか……、ヨハネが出たというか………」と善子はしどろもどろに述べるも、弁明にはなっていない。

 「とにかく!」と千歌は半ば押し通すように強く告げた。

「翔一くんは記憶喪失だし変身もするけど、でも良い人だから、絶対! さっきだってわたし達を守ってくれたんだし」

 何とか言ってよ、と当人にも視線で訴えるが、翔一は皆に頼りなさげな苦笑を向けるだけだった。

「そういうわけで、皆よろしく」

 

 

   2

 

「鞠莉さん!」

 始業前に朝の紅茶を楽しんでいたところで、理事長室に声を荒げながらダイヤが入ってくる。大体の要件は察しがつくが、敢えて「どうしたのデスカ?」と迎える。

 ダイヤは理事長用のデスクを叩き、鋭く吊り上がった目を向けてくる。

「あのメールは何ですの?」

 やっぱり、最初に気付くのはダイヤだと思っていた。始業前に生徒会の職務をこなすダイヤなら、教員と生徒会のPCに送ったメールに目を通すだろう、と。

「何、って……書いてある通りよ。沼津の高校と統合して、浦の星女学院は廃校になる。分かっていたことでしょう?」

「それは、そうですけど………」

「まだ決定ではないの。まだ待って欲しい、とわたしが強く言ってるからね」

「鞠莉さんが?」

「何のためにわたしが理事長になったと思っているの?」

 理事長という立場にあるとはいえ、所詮は自分が一介の高校生でしかないことは理解している。鞠莉が理事長に就任できたのは小原グループのCEOである父の代理として、傀儡としての理事長だ。でも逆に言えば自分の言葉は父の言葉。父を説得できれば、真っ当な父からの指示として理事会の役員たちも文句は言えない。子供だ、お嬢様だ、と嘲笑われようが構わない。この立場は活用させてもらう。

「この学校はなくさない。わたしにとって、どこよりも大事な場所なの」

 その目的のために、自分を理事長として推薦するよう父に頼んだ。全てはこの浦の星女学院を守るため。自分がいて、ダイヤがいて、果南がいた居場所を。

「方法はあるんですの? 入学者はこの2年、どんどん減っているんですのよ? それに最近は何やら事件が頻繁に起こっているようですし、状況は悪くなる一方ですわ」

 ダイヤの言う通り、浦の星女学院の生徒数減少は深刻化している。だから理事会で統廃合が議論され、それを覆すために鞠莉が戻ってきた。

 かつて成せなかったことを果たすために。

「だからスクールアイドルが必要なの」

「鞠莉さん……」

 それは無理です、とでも言いそうなダイヤの言葉を遮るように、鞠莉は続ける。

「あのときも言ったでしょ。わたしは諦めない、と。今でも決して、終わったとは思っていない」

 鞠莉は手を差し伸べる。あの頃と同じように、また一緒に。ささやかな願いを込めても、それは相手には伝わらない。いや、ダイヤにはきっと伝わっているはず。それを分かった上で彼女は手を取らない、と痛いほど理解できた。

「わたくしは、わたくしのやり方で廃校を阻止しますわ」

 寂しそうな視線をくべて、ダイヤは理事長室を出ていく。追おうとは思わなかった。まだ時間はあるし、スクールアイドル部の誕生は果たされた。先日も新メンバーが参加したと聞いている。

 大丈夫、今度は上手くいく。自分に言い聞かせながら、鞠莉はダイヤの取ってくれなかった自分の手を見つめる。

「本当、ダイヤは好きなのね、果南が」

 

 

   3

 

 放課後になって教室から次々と生徒が出て行くなか、善子は机に突っ伏して盛大な溜め息をついた。

「疲れたあ………、普通って難しい」

 約2ヶ月遅れてようやく始まった高校生活は、何かと気苦労が絶えない。授業のほうはかねてから花丸が家にノートを届けてくれたお陰で何とか着いていけるが、問題は交友関係のほう。同級生とどういった会話をすれば良いのかさっぱり分からない。先ほども談笑の中でちぐはぐな受け答えしかできなかったが、それがかえって同級生たちには面白く感じられたらしい。尚更「普通」という感性が分からなくなった。

「無理に普通にならなくても良いと思うずら――」

 「よっ」と花丸がどこから出したのか黒羽を善子のシニヨンに挿したとき、「ぎらり!」と開眼する。

「深淵の深き闇から、ヨハネ堕天!」

 とポーズを決めてようやく我に返る。無意識にやってしまうこの癖も直さなければ。

「やっぱり善子ちゃんはそうじゃないと」

「これを止めてほしいのよ!」

 はあ、と二度目の溜め息をつきながら、シニヨンから羽を外す。

「てか、ずら丸は気にならないの?」

「何のことずら?」

「翔一のことよ」

 善子がその名前を告げると、花丸は明後日のほうを向き考えるように「うーん」と唸る。

「善子ちゃんも言ってたけど、翔一さんが何も覚えてないなら仕方ないずら」

「確かにそうだけど………」

 いくら考えを巡らせたところで、翔一と化け物の正体が分かるわけでもない。青の戦士を出動させた警察なら何か知っているかもしれないが、訊いたところで極秘事項だろう。何せ世間には、あの謎の生物について公表されていないのだから。あの生物は本当に悪魔か堕天使の類で、翔一は天からの遣いなのでは、と善子にとっては夢の広がる話だが、そういった話はフィクションだからこそ楽しめる。現実になってしまえば恐怖以外の何者でもない。

 全ての真実は翔一の記憶が戻るまで分からない、ということ。

「翔一の記憶が戻ってくれれば、何か分かるかもしれないのに………」

「それは気長に待つしかないずら」

 それはいつになることやら。教室にはもう善子と花丸しかいない。わたし達も部活に行こう、と鞄を手に取ったとき、

「大変! 大変だよ!」

 ホームルームが終わってすぐに教室を出たルビィが戻ってきた。走ってきたのか息が上がっている。どうやら良くないことらしいのは、善子にも察しがついた。

 

「統廃合⁉」

 ルビィが持ってきた知らせを聞いて、部室に集まった全員が思わず声を揃えた。ルビィは続ける。

「そうみたいです。沼津の学校と合併して、浦の星女学院は無くなっちゃうかも、って………」

 「そんな!」と悲痛な声をあげる曜に続いて、梨子も「いつ⁉」と上ずった声で続く。梨子にとっては転校したばかりの居場所なのに、無くなってしまうなんて急すぎる。

 ルビィは気まずそうに答える。

「それは、まだ………。一応、来年の入学希望者の数を見てどうするか決めるらしいんですけど………」

 まだ決定したわけじゃない。でも、入学希望者の数次第では今年度で浦の星女学院は廃校になるということ。

 冷たい沈黙が部室を満たす。とても長く感じたその沈黙を破ったのは、梨子の隣で俯く千歌だった。

「………廃校」

 わたしより1年長く過ごしてきたんだからショックよね、と梨子が思っていると千歌は顔を上げて、

「来た、ついに来た! 統廃合ってつまり廃校ってことだよね? 学校のピンチってことだよね?」

 何故嬉しそうな顔をしているのか。曜が千歌の顔に手をかざしながら尋ねる。

「千歌ちゃん? 何か心なしか嬉しそうに見えるけど」

 ショックのあまりおかしくなったのか。そう思わずにいられないほど意気揚々と千歌は声を張り上げる。

「だって廃校だよ!」

 ええ、廃校ね。

「音ノ木坂と一緒だよ!」

 確かに廃校になりかけた時期がある、って転入前に聞いたことあるわ。

「これで舞台が整ったよ!」

 何の?

「わたし達が学校を救うんだよ!」

 何でそうなるの?

「そして輝くの! あのμ’sのように!」

 ああ、そういうことね。

 梨子は納得できてしまった。千歌から聞いたことがある。音ノ木坂学院で活動していたμ’sは学校の廃校を阻止するために発足し、活動を通じて学校の宣伝をしたことで入学希望者を大幅に増やし廃校阻止を成し遂げた。

 千歌の言いたいこととは、μ’sが在籍していた当時の音ノ木坂と現在の浦の星は状況が似ている。自分たちも廃校阻止というμ’sと同じ物語を紡ぎ伝説を再来させよう、ということ。

「そんな簡単にできると思ってるの?」

 冷めた梨子の言葉は当人に届いていないらしい。千歌の脳内には『Aqours μ’sに続き廃校阻止』なんて文言でスクールアイドル雑誌の一面を飾る自分たちを映しているのだろうか。

「花丸ちゃんはどう思う?」

 ルビィが訊いた。そういえば花丸は何も発言をしていない。彼女の意見も聞きたいところだ。そう思っていると振り返った花丸は目を輝かせて、

「統廃合!」

「こっちも⁉」

 呆れて溜め息しか出てこない。しっかりした後輩だと思っていたのに、何故彼女も千歌と同じ反応なのか。

 花丸はルビィへと迫り、

「合併ということは、沼津の高校になるずらね? あの街に通えるずらよね?」

「ま、まあ………」

 感嘆の声をあげる花丸を呆れ顔で眺めながら善子が呟く。

「相変わらずね。ずら丸、昔っからこんな感じだったし」

 善子によると、幼稚園の頃に園舎のセンサー式ライトを目の当たりにした花丸は当時上手く回らなかった舌でこう言ったらしい。

 

――未来じゅらー!――

 

 まるでずっと城の外を知らなかったお姫様みたいね、と梨子は思った。感動している千歌と花丸は取り敢えず放置し、ルビィは質問を善子へと向ける。

「善子ちゃんはどう思う?」

「そりゃ統合したほうが良いに決まってるわ」

 冷めたように聞こえるが、生徒数が少ないことを考えれば至極真っ当な意見だ。そう思っていたら、

「わたしみたいな流行に敏感な生徒も集まってるだろうし」

 こっちの後輩は何とも高飛車なものだ。流行に敏感というか、個性的な流行というか。すると花丸が「良かったずらねえ」と、

「中学の頃の友達に会えるずら」

 その言葉でようやく統廃合の意味を理解したのか、善子の顔が青ざめる。

「統廃合絶対反対!」

 家が沼津市街にあるのにわざわざ浦の星を受験した理由は何となく察していたが、やはり中学の知り合いから離れるためだったか。

 ようやく夢心地から意識が戻ってきたのか、千歌が告げた。

「とにかく廃校の危機が学校に迫っていると分かった以上、Aqoursは学校を救うため行動します!」

 

 

   4

 

 犯行現場に残されていた凶器、絞殺された被害者の死体、被害者の生前の証明写真、被害者の所有物の目録。もう何度も目を通した資料を、誠は穴が開くほど見つめる。もう犯人が逮捕された事件だが、まだ終わっていない気がしてならない。終わらせてはいけない、というべきか。

 何とも釈然としない事件だ。殺人事件という既に死者が発生したものは解決したところで清々しい気分にはならないが、今回はいつにも増して頭が重い気分になる。逮捕した青年があっさりと犯行を認めたことで捜査は終了。検察に引き渡したが、一言も口を利いていないらしい。所持品が何も無いことから身元の特定も難航している状態。容疑者として一時勾留されていた翔一に続き、彼もまた正体不明(アンノウン)だ。

 誠は写真のなかにある被害者の死に顔を見つめる。死体は不思議と皆どこか似ている、と河野は言っていた。病も老いもないのに、他者から強制的に命を奪われる者というのは、今際に皆同じ絶望の表情を固めるのだろうか。でも、誠がこの三浦智子から感じ取ったものは刑事としての経験則ではなくもっとシンプルな既視感だ。初めて見た気がしない。かといって知り合いと呼べるほどの仲だったわけでもない。

 経歴によると三浦智子は伊豆市出身で、同市の短期大学を卒業してからは清掃用具メーカーに入社、沼津の事業所に配属されていた。特に地元を離れていた期間が見当たらない。誠の静岡県警時代にもすれ違うほどの接点はない。

「おう氷川、面会だとよ」

 資料室に入ってきた河野が言った。「はい」と応えて立ち上がる。ひとまずこの資料は片付けなければ。そう思ったところで河野がデスクに広げた資料を覗き込み、

「三浦智子、この前の被害者か。何か気になることでもあるのか?」

「ええ、どこかで会ったような気がするんですが………」

 河野は資料の中から被害者の証明写真を拾い上げ、誠にずい、と見せつける。

「昔泣かした女じゃないか?」

「え、どういう意味ですか?」

 訊くと河野はつまらなそうに溜め息をつき、あごでドアの方向を指す。

「いいから早く行ってこい。資料は俺が片付けといてやるから」

 

 もう本日何度目かも分からない溜め息が無意識に漏れてしまう。先日訪ねた際と同じ応接室の空気が、梨子の溜め息で満たされてしまうのでは、という錯覚にとらわれた。

「やっぱり、警察署って緊張するよね」

 同行した千歌が梨子の隣でそわそわ、と体を小刻みに動かしている。

「そっちじゃないわ。あんなこと言っておいて何も考えてなかったなんて」

「これから考えるの。だから今日は解散にして、皆それぞれアイディアを――」

「丸投げじゃない」

 Aqoursは浦の星女学院統廃合を阻止するために活動する。今後の方針が固まったのは良いのだが、肝心な具体案を千歌は全く考えていなかった。人気グループとして大衆の目を集め学校を宣伝する。目的自体は簡潔なのだが、要は宣伝のために何をするかということ。ただ曲を作って動画サイトにアップロードするだけで、人気が右肩上がりになるなんて単純な話じゃない。だからこそμ’sは伝説のスクールアイドルになれたのだと思う。

 「でもさ」と千歌はたった今思いついたかのように、

「元々今日はここに来る予定だったんだし、どの道練習は――」

「それとこれとは話が別!」

 撥ねつけるように言うと、千歌は気まずそうに「はい……」と目を逸らした。

 そこで応接室のドアが開く。少し驚いた顔をするも、誠は微笑して会釈する。「こんにちは」と梨子と千歌は青年刑事に礼を返した。

「先日はありがとうございました。お陰様で真犯人を逮捕することができました」

 誠は梨子と千歌にコーヒーとスティックの砂糖を差し出しながら、テーブルの向かいに腰掛ける。「いえ、そんな……」と相槌を打ちながら、梨子はコーヒーに砂糖を入れる。ちらり、と隣を見やると千歌はおそるおそるカップに口を付けて、一口すすると顔をしかめた。そういえば千歌はコーヒーが苦手だった。

「コーヒー、苦手でしたか?」

 気付いたのか、誠が尋ねる。

「すみません。お茶を淹れるので、少し待っていてください」

 立とうとした誠を「いえ、大丈夫です」と千歌は止めて、「それより」と切り出す。

「真犯人てどんな人なんですか? どうして三浦さんを………」

 殺したんですか、という言葉を告げることを恐怖しているように見えた。気持ちは分からなくもない。自分たちが住む街、千歌にとっては生まれ育った街で殺人事件が起こるなんて、考えたくもないだろう。

「それが、まだ何も聞き出せていないんです。今のところ通り魔的な犯行との見方が有力なんですが」

 「じゃあ」と今度は梨子から、

「三浦さんに殺される理由は何も無かった、ってことですか?」

「そう結論付けるのはまだ早いと思いますが………」

 「あの」と千歌が口を挟む。

「三浦さんの家族の連絡先、教えてもらえませんか?」

 「何故そんなことを?」と誠は眉を潜める。千歌は一旦コーヒーに目を落とし、ぽつりぽつり、と言う。

「三浦さんは翔一くんの過去を知ってる、って感じだったんです。だから三浦さんの家族とか友達とかに、翔一くんの過去を知ってる人がいるんじゃないかな、と思って」

「なるほど、津上さんの過去ですか………。桜内さんの力で透視することはできないんですか?」

 どう答えればいいか、梨子は言葉を探る。梨子自身にも分からないものを説明するのは難しい。だから、正直に答えるしかない。

「いつも使えるわけじゃないんです。あんな風にはっきりと視たのも、この前が初めてなので。そんな大したものじゃないんです」

「そんなことありませんよ、凄い才能です。いつから、力を使えるようになったんですか?」

「はっきりとは……。いつの間にか、たまに視えたり聞こえたりするようになって………」

 この力がいつ自分の身に現れたのか、梨子は明確に覚えていない。物心ついた頃から、ピアノに触れると以前の奏者の指使いが脳裏にふわり、と浮かんでくることがあった。楽譜を手に取ると、紡がれた音符を音として感じ取ることができた。この力があったから、梨子はピアノの上達が早かったのかもしれない。

 周囲の大人に相談したことはある。教室の講師に、母に、父に。わたし、弾いてもいないピアノから音が聞こえるの。楽譜から音が聞こえるの。梨子がそう言うと、講師と母はそれが梨子の音楽の才能だと喜んでいた。でも、父だけは違った。梨子は父から言い聞かされていた。

 

 ――梨子、お前の力は絶対に他の人に言っちゃいけないよ――

 

 それを告げるときの父の顔は真剣そのもので、梨子は素直にその言いつけを守り続けていた。父は梨子の力が何なのか知っているのだろうか。

 ふと、梨子は思い出す。翔一の過去が視えた、という曜を。曜は翔一の過去を視た。梨子は針金から三浦の殺害される場面という「過去」を視た。その共通点に気が付かなかったのは、梨子がこれまで感じ取ってきたものの大半が音だったから。像というものとは別の感覚。

 でも、もしかしたら曜は梨子と同じ力を持っているのかもしれない。機会があれば曜と話をしてみたい。できることなら、機会が訪れなければいいのだが。

「あの………」

 千歌がおそるおそると言う。

「良いですか? 三浦さんの連絡先」

 そうだ。署を訪ねた目的はそれだった。誠は罰が悪そうに苦笑し、

「すみませんが個人情報ですので、教えることはできません。なので僕の方から三浦さんのご家族に連絡を取ってみます」

「本当ですか?」

「ええ。身元不明者の捜査も、我々警察の仕事ですから」

 






 前作『feat.555』は「仮面ライダー」であることにこだわっていたのですが、本作では原作遵守に徹した結果「これ仮面ライダーかな?」と感じてしまいます。
 ただ『アギト』は昭和で培われた仮面ライダーの概念を覆そうと試みた頃の作品なので、ある意味仮面ライダーとして疑問な部分が『アギト』らしいのかな、と思います。
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