ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト 作:hirotani
色々と所感ありますが、それは全て本作に注ぎます。『アギト』と交わったこの作品のなかでAqoursが駆け抜けていく姿をどうか見守ってあげてください。
第1話
1
アンノウン排除活動手続書。
国家の治安を守る警察組織である以上、G3ユニットはその活動を報告する義務がある。戦闘オペレーションの時間、使用した武装、消費した弾薬数。例えG3を出動させなかったとしても、アンノウンに遭遇し何か対処したのなら、その時の状況と捜査員の行動も書面に記述しなければならない。誠の先日の行動も事細かく。
「で、北條透を殴ったわけだ」
誠の口頭での説明をもとに、小沢がPCで報告書をまとめていく。
「はい、つい………」
同僚に暴力を振るうなんて、警察官どころか社会人としてもあるまじき行為だ。その罪悪感は確かにある。
「でも、あの場合ああするほか無かったと思うんですが………」
「大体の事情は分かったけど、もう1度最初から話してごらんなさい」
そう言って小沢はPCに背を向けて誠と向き合う。そこで尾室が口を挟んだ。
「小沢さんこれで5度目じゃないですか。取調べじゃないんですから」
「何言ってんの大事なことでしょ。こういう些細な確執が大きな問題に発展するのはよくあることだし、同じユニットのメンバーとして事情をよく把握しておくべきだわ」
ここまで正論を並べられると、尾室も何も言えなくなる。
「さ、氷川君。もう1度話してごらんなさい」
「………はい」
もし僕のせいで、G3ユニットがまた活動停止にまで追い込まれたら。悪い方向にばかり想像が向くが、ここで黙秘したって仕方ない。上に報告して、然るべき処分が下れば従うしかない。たとえまたG3装着員から降ろされたとしても。
「北條さんがアギトに銃を向けて――」
「グーで殴ったの? パーで殴ったの? チョキで殴ったの?」
小沢の質問に答えられず、誠は拳を握った自身の右手に視線を向ける。「分かったわ、グーね」と小沢はPCに向かいキーを叩く。
「チョキで殴れるわけないじゃないですか」
ため息交じりに言った尾室に、小沢が無言のまま視線を向ける。その眼差しに射貫かれたのか、尾室はたじろぎ目を彼女から逸らす。
「目潰しってこともあり得るでしょ」
淡々と述べるところが、尚更恐怖を引き立てる。小沢なら本当にやりかねない。この才媛は冷静なんだか感情的なんだか時々わからなくなる。
「それで、何メートルくらい吹っ飛んだの?」
「………は?」
その質問に何の意味が。尾室に視線で尋ねると、彼はキーを叩く小沢に呆れの視線を注ぎ、それに気付かない小沢は更に質問を続けた。
「歯の1本くらい折れたのかしら、あの馬鹿男。ねえ、どうなの? はっきりさせなさい」
2
やっと夏服だ、と汗ばむ体を冷まそうと千歌はうちわを扇ぐ。衣替えの6月に近くなるにつれて気温も上がり続け、5月下旬にはまだかまだか、と冬服が暑苦しくなった。月が変わると一気に夏日和になって、早くもセミの鳴く声がどこもかしこも響いている。
「この前のPVが5万再生?」
皆が集まった部室で千歌は訊く。「本当に?」と曜が続けて訊くと、ノートPCに釘付けになっている1年生組の中から善子が説明してくれる。
「ランタンが綺麗だ、って評判になったみたい。ランキングも――」
画面の文字が小さいのか、善子は目を細めて黙ってしまう。待ちきれないのか、梨子が画面を覗き込むとその目を大きく見開いた。
「99位⁉」
その数字が何を意味するのか、驚愕のあまり千歌は理解するのに数舜を要した。
「………来た」
「来た来た!」と集まっている皆のもとへと駆け寄り、
「それって全国でってことでしょ? 5千以上いるスクールアイドルのなかで100位以内ってことでしょ?」
「一時的な盛り上がり、ってこともあるかもしれないけど、それでも凄いわね」
あくまで梨子は冷静に言うが、それでも嬉しさが顔に出ている。ルビィも興奮した様子で画面を見ながら、
「ランキング上昇率では1位」
「すごいずら」と花丸も続いた。良いものができた、という手応えはあったが予想以上だ。自分たちはしっかりと階段を上っているんだ、と実感できる。その実感を千歌は告げる。
「何かさ、このままいったらラブライブ優勝できちゃうかも」
「優勝?」と曜が、「そんな簡単なわけないでしょ」と梨子が言う。それでも、何だかいけそうな気がする。勢いに乗っている気がしてならない。
「分かっているけど、でも可能性はゼロじゃない、ってことだよ」
事実、数字にもこうしてAqoursの人気ぶりが表れているのだから。
不意にPCから着信音が聞こえた。皆の視線が一斉に画面へと注がれる。ルビィがメールアプリを開き、その内容を読み上げる。
「Aqoursの皆さん、東京スクールアイドルワールド運営委員会………」
「東京?」と曜が反芻する。
「東京って、あの東にある京………」
思ったことをそのまま口に出してしまった千歌に梨子が呆れを告げる。
「何の説明にもなってないけど」
東京。確か日本の首都で国際的にも指折りの大都市と名高い――
数舜を経てその地名の纏う大きさに気付き、全員で声を揃えた。
「東京だ!」
部室にいる皆にとっての憧れの地。でも千歌にとって、東京はまた別の意味を持つ都市でもあった。
3
今度の土曜日と日曜日に東京へ行く。
ルビィからその話を聞かされたのは夕食後のことだった。座布団の上で行儀よく正座するルビィが恐る恐る言う。
「イベントで一緒に歌いませんか、って」
「東京……、スクールアイドルイベント………」
呟きながら、それが東京スクールアイドルワールドというイベントだとダイヤは気付いた。ラブライブ本戦前の前座のようなものだ。
「ちゃんとしたイベントで、去年優勝したスクールアイドルもたくさん出るみたいで………」
どうせ千歌は参加する気満々なのだろう。スクールアイドル・ソーシャルサイトのランキング100位圏内のグループのみが招待されるイベントだ。参加して観客からの支持を得れば箔がつく。
「駄目?」
弱々しい声でルビィが訊いた。すかさずダイヤは質問を返す。
「鞠莉さんは何て言ってるの?」
「皆が良ければ、理事長として許可を出す、って………」
鞠莉ならそう言うだろう。想像がつくと同時に、何故と思った。鞠莉はイベントのことをよく知っているはずだ。どれほどの規模で、どれほどの観客がいるのか。
立ち上がったルビィは尋ねる。
「お姉ちゃんはやっぱり嫌なの? ルビィがスクールアイドル続けること」
嫌じゃない。それどころか――
この想いは吐露すべきじゃない。自身を律したダイヤは「ルビィ」と優しい声音を意識して告げる。
「ルビィは自分の意思でスクールアイドルをすると決めたのですよね?」
「………うん」
「だったら、誰がどう思おうが関係ありません。でしょ?」
「でも――」
「ごめんなさい。混乱させてしまってますわね。あなたは気にしなくていいの」
そう、ダイヤの意思を挟む必要なんてない。ルビィのアイドルへの情熱が、姉であるダイヤの影響を大きく受けたことは自覚している。それでもルビィは、ダイヤがスクールアイドルへの嫌悪を露わにしても熱を捨てなかった。自分の意思をしっかりと貫き、望んでいたAqoursという居場所を見つけてくれた。それは姉として嬉しいことだ。嬉しさが大きい分、不安もある。
「わたくしは、ただ………」
「ただ?」
促された続きの言葉を紡ぐことなく、「いえ」とかぶりを振る。
「もう遅いから、今日は寝なさい」
ルビィを残して居間を出ると、ダイヤはスマートフォンをポケットから出した。
「来ると思った」
果南とは違って、ダイヤはしっかりとアポイントを取って正面玄関からホテルオハラの門を潜ってきた。面白みがない、と思いつつもダイヤらしい律儀さに笑ってしまう。大方の要件は見えている。部屋のテラスで外の景色を眺めていたダイヤは冷たく問う。
「どういうつもりですの? あの子たちを今、東京に行かせることがどういうことか分かっているのでしょう?」
「ならば止めればいいのに。ダイヤが本気で止めれば、あの子たち諦めるかもしれないよ」
もっとも、その程度の熱意なら鞠莉が部設立の許可など出さなかったが。
「ダイヤも期待してるんじゃない? わたし達が乗り越えられなかった壁を乗り越えてくれることを」
「もし越えられなかったらどうなるか、十分知っているでしょう? 取返しのつかないことになるかもしれないのですよ」
「だからといって避けるわけにはいかないの。本気でSchool Idolとして、学校を救おうと考えているなら」
鞠莉たちの代ではまだ猶予があった。でも今年度こそは、何か一手を打たなければならないほど追い詰められている状況だ。鞠莉にとっても、今のAqoursに託すのは博打に近い。それでも後輩たちにやってもらうしかない。失敗したときのリスクを最も重く被るのが、彼女たち自身だとしても。
笑みを崩さない鞠莉にダイヤは視線をくべる。怒りと、呆れと、切なさと。その全てがない交ぜになって元が分からなくなるほどの想いが、鞠莉には分かった。
「変わっていませんわね。あの頃と」
4
結局、北條を殴ったことについて誠への処罰は下されなかった。アンノウンと交戦し市民を守ったアギトに敵性は認められず、アギトへの発砲を止めた誠の行動は適切な処置とされた。北條のほうからも、特に異議はないという。とはいえ、何のお咎めもないというのも誠の気が晴れない。上の判断なら従うしかないが、今度北條に会うことがあったら謝罪しなければ。
そんなことを思っていた休憩の時間に、コーヒーを奢ってくれた河野が尋ねてきた。
「そういや氷川、お前北條のこと何か聞いてないか?」
「北條さんの?」
「ああ、どうも様子がおかしくてな」
紙コップのコーヒーを自販機から出しながら、河野は何の気なしに言う。
「お前、あいつを殴ったって噂本当か?」
「すみません。僕が軽率でした」
「別に責めてるわけじゃないさ」
のほほん、といった声音で言い、河野は休憩所の椅子に腰を預ける。誠も空いている椅子に座った。
「これであいつも少しは大人になってくれると良いんだがなあ。何しろ親にも殴られたことがないってタイプだからな」
優秀な北條のことだ。殴られるほどの失態とは無縁な人生を送ってきたのだろう。ともすれば誠の拳は北條にとっては大きな汚点となってしまっただろうか。大人になってくれれば、と河野は言うが、一体誠が北條の成長を促すきっかけになれるだろうか。
「あ、そうだ」
河野は話題を変える。
「例の三浦智子殺害の容疑者のことだが、不起訴処分で措置入院になったらしい」
「どういうことですか?」
「まあ精神鑑定の結果問題あり、ってことだろうな。犯行を自供してから一切口をきかず、名前すら分かっていない。勿論犯行の動機も分からない。今のところ通り魔的な殺人って見方が有力なようだが」
結局、あの青年の素性については何も分からなかったということか。精神鑑定で問題が見られたということは、青年は錯乱状態で三浦を殺害してしまった、と検察は判断したことになる。でもその判断が、どうしても誠には妥当と思えない。
「本当にそうでしょうか? これは僕の勘なんですが、あの犯行が通り魔的なものとはどうしても思えないんです」
ふーむ、と河野は溜め息をつく。この事件はまだ終わらせるべきじゃない、と誠は考えているが、河野はどうだろうか。ベテラン刑事の意見を聞きたかったが、河野の端末が着信音を鳴らしたためそれはお預けになる。「はい河野ですが」と彼が電話応対している横で、誠はようやくコーヒーを啜った。
「ああ、分かりました。すぐ行きます」
そう言って通話を切ると、河野は「これからだ」とひょうきんに笑いながら右手の小指を立てる。東京に置いてきたという妻だろうか。挨拶したいところだが、遠路はるばる来てくれたのだから夫婦水入らず世間話に華を咲かせてもらおう。
「じゃあ、僕はこれで」
会釈して立ち上がる誠を河野は「おお、ちょっと待て」と制し、
「まあそう言うな。紹介するよ。俺の自慢のガールフレンドだ」
そう言って軽い足取りで応接室への廊下を歩く河野のあとを着いていく。ガールフレンドとはどういうことか、と気にはなるが会えば分かるだろう。
警察官たちが行き交う廊下の奥から、瀟洒なスーツの北條が歩いてくるのが見える。
「北條さん」
誠と河野が足を止めると、北條も同様にして向かい合う。
「先日は、すみませんでした」
頭を下げた誠の耳に届いた北條の声は、予想よりも明るい声音だった。
「あなたが謝ることはありませんよ」
いささか驚いて顔を上げると、北條の笑顔が視界に入り込む。
「間違っていたのは私のほうだ。今ではそう思っています。そんなことより、期待してますよ。G3装着員としての活躍を。私にできなかったことを、あなたがやってください」
動揺のあまり、誠は上手く言葉を紡ぐことができずにいた。自分を殴った相手にこんなにも懐の大きな対応をしてみせるなんて。この同僚が本庁きってのエリートと評される理由が分かる。
「そんな……、僕にどれほどのことができるか、自信は無いんですが………」
「大丈夫、あなたならね」
そう告げて北條は誠の肩に手を置き、河野に会釈すると颯爽と歩き去っていく。
ドアが開かれた応接室で、彼女は数度目の訪問でも落ち着かないのかせわしなく辺りに視線を向けていた。河野がドアをノックすると、学校帰りなのかセーラー服姿の彼女は大きな瞳をこちらに向けて「こんにちは」とあどけない笑顔を見せる。
「高海さん」
誠が驚きの声をあげると河野はしたり顔で、
「どうだ、驚いたか?」
確かに自慢のガールフレンドだ。河野の年齢を考えると少し怪しげな雰囲気になってしまうが。
「ふたりとも、知り合いだったんですか?」
「翔一くんが連れていかれるときにもしかして、って思ったんですけど。こっちに来てるなんて思わなくて」
千歌がそう言うと、河野も朗らかに笑う。
「こっちも気付きませんでしたよ。あのお嬢さんがすっかり大きくなったもんだ」
「えへへ」と千歌は嬉しそうに笑った。一体どういうことか。お茶を用意しながら、誠は事情を聞いた。
「3年前、よく聴取に彼女の家に行っていたんだ」
「じゃあ高海さんのお父さんが殺された事件、あれの担当が河野さんだったんですか?」
「ああ、現場が都内で
誠がテーブルにお茶を置くと、河野は対面に座る千歌に尋ねる。
「で、今日はどうしました?」
「何か新しい手掛かりとか掴めたかな、って」
「それが相変わらずでねえ、申し訳ない」
「いえ、わたしのほうこそ急に押しかけちゃって………」
苦笑を浮かべる千歌を見て、誠はやるせない気分が胸に溜まっていく感覚を覚える。まだ高校生なのに、家族を失った悲しみを背負わされるなんて。犯人が捕まっていないせいで、憎むべき者の顔すら分からない。
「しかし、まだ時効までにはたっぷり時間がある。ホシは必ず挙げてみせますよ」
河野は断言した。いや、断言せざるを得ない、というべきか。被害者遺族に向かって、事件の進展はないから解決は望めない、だなんて無責任なことは言うべきじゃない。3年前の事件だ。今や捜査本部も縮小されて真面目に捜査している刑事も河野くらいしかいないのかもしれない。その河野も不可能犯罪発生に伴い本庁を離れ沼津に滞在する始末。警視庁としても、時効までずるずると捜査を引き延ばして迷宮入りさせようとしているのか。
事件のことについて何も話すことがなくなってしまうと、話題は自然と千歌の身の上話になっていった。何でも千歌は学校の部活動でアイドルをしているらしく、最近インターネットにアップロードしたPVが好調なんだとか。東京で開催されるアイドルイベントにも招待され、近々上京するといった話を千歌は嬉しそうにしていた。悲しみはまだ癒えなくても、彼女は懸命に日々を過ごし青春を謳歌している。そのことは誠にとっても慰めになった。
署の玄関で千歌を見送ると、彼女の小さな背中を眺めながら河野が言った。
「父親が殺されてよっぽど悔しかったんだろうなあ。3年前も熱心に事件のこと訊いてたんだよ。まだ子供なのに………」
「河野さん。良かったら詳しく聞かせてもらえませんか。事件について」
誠が沼津にいるのは、G3装着員としてアンノウンから市民を守るため。だがそれ以前に刑事であり、河野の部下だ。上司の追っている事件を追ったって良い。事件の真相を明らかにすることで、千歌がしっかりと父の死にけじめをつけられるように。
5
沼津から東京までは電車で1時間半あれば着くのだが、万事に備えて、ついでに東京観光も兼ねて――後者が理由の大半だ――Aqoursはイベント前日のうちに上京することになった。千歌は東京という行き先にかなり浮かれていたが、大事なイベントを控えているということを忘れてはいけない。一応保護者として翔一も同行するらしいのだが、どうしても不安は拭えない。東京にある程度慣れている自分がしっかりしなければ。そう思いながら梨子は身支度を整えて十千万へ行ったのだが、玄関先に出てきた千歌はやはり梨子の不安を的中させた。予想の遥か上を行って。
「東京トップス!」
赤い生地に金のボーダー柄が入ったジャケット。
「東京スカート!」
フリルが何重にも編み込まれたティアードスカート。
「東京シューズ!」
片方がピンクでもう片方がオレンジ。更に猫か犬らしき動物のマスコット付きの靴。
「そして、東京バッグ!」
オレンジの生地にパンダと星のワッペンやらミカンのストラップが付けられたショルダーバッグ。
更に述べれば脚に纏う赤とピンクに黄色の星がプリントされたタイツ。両手の指には明らか邪魔になりそうな飾りの大きな指輪。首元にはこの時期暑苦しそうなファー。耳には動く度にジャラジャラ音を立てる大きな金色のイヤリング。目元には恐らく伊達のピンク縁の眼鏡。追い打ちとばかり頭にはこれまた大きな黄色のリボン。
どこから指摘すればいいのやら。ようやく絞り出せた梨子の第一声はこれだ。
「一体何がどうしたの?」
「可愛いでしょ!」
「東京行くからってそんなに構えなくても………」
「梨子ちゃんはいいよ。内浦から東京行くなんて一大イベントなんだよ!」
暖簾の陰で美渡が笑いを堪えているのが見える。きっと彼女が犯人だ。
「いやーお待たせ。準備に時間かかっちゃってさ」
何で千歌の暴走を止めなかったのか。そう文句を言おうとしたのだが、それも暖簾を潜って出てきた翔一の出で立ちを見て梨子は口をあんぐりと開けた。
「おお、良いね翔一くん!」
「そうかな? 東京なんて初めてだからさ、お洒落とかしたことないから落ち着かなくて」
上下白で統一されたスーツ。下に着ている金色のシャツはラメが散りばめられているのかキラキラ光を反射していて、襟元も白の蝶ネクタイで飾られている。因みに足元も白の革靴。
いつの時代の演歌歌手か。
ステージ衣装よりも派手なふたりを見るのに疲れ始めた頃、「おはようございまーす」というルビィと花丸の声が聞こえてきた。ふたりからも何か言ってもらおう。そう思ったが後輩たちを見た梨子はまたしても絶句することになる。
「どうでしょう? ちゃんとしてますか?」
そう尋ねるルビィは千歌に劣らず。脚を覆うカボチャのように膨らんだドロワーズパンツ。水玉模様のスカート。お気に入りなのかクマのようなキャラクターのプリントがでかでかと入ったシャツとバッグ。指には千歌と同じようにリボンやら星やらの飾りが付いた指輪。何より最も目を引くのが大きなキャンディ形の髪飾り。
「これで渋谷の険しい谷も大丈夫ずらか?」
そう尋ねる花丸も説明するのが億劫になるほど面倒な出で立ちだが、一応説明しておく。ボーイスカウトさながらのネズミ色探検服にヘッドライト付きの作業用ヘルメット。背中にはアウトドア用ザックに丸めたテントを背負い、手には本来雪山で使うはずのピッケルが握られている。
「何その仰々しい恰好は………。それに渋谷は険しくない」
梨子が疲れ気味に言うと、ふたりは「がーん!」と驚愕する。ぷくく、と隣で翔一と一緒になって笑いながら千歌が言った。
「ふたりとも地方感丸出しだよ」
「あなた達もよ」
「えええええええ⁉」